建設業界では、事業拡大や技術革新を目指して、M&Aを積極的に活用する企業が増えています。
本記事では、建設業でM&Aが活発化している理由に触れながら、合併・買収を行うメリット&デメリットについて解説します。
1.建設業界でM&Aが活発な理由

建設業界でM&Aが活発化している主な理由として、人材確保が挙げられます。
M&Aを活用することで、経験豊富な技術者や技能者を一括で獲得することができます。高齢化が進む建設業界では、若手人材を確保する動きが高まっています。
商圏拡大の観点から、地方の優良企業を買収することで新たな市場への参入も可能です。建築・土木などの得意分野や、民間・公共工事のバランスを補完し合うことで、事業ポートフォリオの最適化を図れます。
さらに、経営規模が拡大することで、資材の一括購入によるコスト削減などのスケールメリットを享受できることもM&Aを後押ししています。
2.建設業のM&Aを実施するメリット

譲渡企業にとっては後継者不足の解消、譲受企業にとってはシナジー効果による業務拡大やコスト削減など様々なメリットがあります。
2-1.M&Aによるシナジー効果と業務拡大
建設業のM&Aを実施するメリットは、事業・業務拡大が見込める点です。
買収側の企業は、優秀な技術者や技能者、有資格者を一括で確保でき、人材不足の解消につながります。
また、商圏の拡大や、得意分野(建築/土木、民間/公共など)を活かした事業補完が可能です。
合併や事業譲渡により、経営事項審査での評価項目である経営規模や業歴を獲得でき、工事実績も引き継ぐことができます。
売却側にとっても、従業員の雇用維持や後継者問題の解決、創業者利益の獲得などのメリットがあります。
買収側からの資金援助により運転資金を確保できたり、資本を増強することで建設業許可要件である財産的基礎の要件を満たしたり、経営基盤の強化にもつながります。
2-2.コスト効率の向上
M&Aによって管理部門や調達部門などを集約することにより、重複していた間接業務やシステムを統合できます。
その結果、管理コストや購買コストを削減でき、収益改善が期待できます。
2-3.ブランド力と信用力の強化
買収・売却企業の組み合わせによっては、これまで獲得できなかった大手顧客や公共工事などの受注可能性が高まるケースがあります。
両社の得意分野が合わさることでブランド力や信用力の向上を図ることができ、さらなる受注拡大が見込めます。
3.建設業のM&Aを実施するデメリット
M&Aにはメリットだけではなくデメリットもあります。事前に把握することでデメリットを回避できるようにしましょう。
3-1:企業文化の違いそれぞれの企業に企業文化や経営方針の違いがあるため、統合には注意が必要です。
地域密着型の中小建設会社では、独自の企業文化や理念に共感して働いている従業員も多く、買収後の統合に時間がかかる可能性があります。
3-2.従業員のモチベーション低下
M&A後に待遇や役職などの変化が生じると、従業員の間で不安が高まり、モチベーションの低下を招く恐れがあります。お互いの企業文化の違いを受け入れ、徐々に統合していくことで譲渡後のモチベーション低下や離職を防ぐことができます。
3-3.買収価格・譲渡条件の折り合いリスク
M&Aにおいては、双方の企業価値や将来性をどのように評価するかが問題となります。
買収価格や譲渡条件に折り合いがつかず、交渉が長引いた結果、取引が流れてしまうリスクもあります。
また、価格が折り合っても、被買収企業の負債や不採算工事の存在、適切な原価管理ができていないなどの問題により、追加で想定外の費用が発生して負担が増大することもあるため、慎重な検討が必要です。
4.建設業のM&Aで失敗しないためのポイント
建設業界におけるM&Aは近年増加傾向にあり、商圏拡大や人材不足解消、業界の枠を超えた再編など、さまざまな目的で行われています。M&Aを行う上で失敗しないためのポイントを紹介します。
4-1.適切な買い手を選ぶ
自社の事業戦略や目的を明確にし、それに合致する企業を探すことが重要です。
具体的には、民間・公共工事の割合、建築・土木工事の割合、得意分野、展開エリアなどを考慮します。
また、難易度の高い工事実績や定期的な受注先の有無も重要な判断基準となります。
人材面では、有資格者の数や経験豊富な技術者の存在、従業員の年齢構成なども確認するべきポイントです。
財務面では、元請比率や原価管理の適切性、借入状況などを精査します。これらの要素を総合的に評価し、自社との相乗効果が期待できる企業を選定することが、M&Aを成功させるポイントです。
4-2.建設業界に詳しい専門家に依頼する
M&Aは複雑なプロセスが多く、法務、財務、税務など多岐にわたる専門知識が必要です。
また、建設業特有の許認可や技術的な側面も考慮しなければなりません。建設業M&Aに詳しい専門家に依頼することで、円滑にM&Aを進められます。
【M&Aアドバイザーの選び方】
業界が抱える課題や規制など建設業界に精通している専門家に依頼しましょう。過去の取引実績や、ネットワークの広さも選択の基準となります。 M&Aアドバイザーは、買い手と売り手の間に立ち、双方の利益を最大化しつつ、公平な取引を実現するために必要な存在です。建設業M&Aでは特に、許認可の引継ぎや技術者の確保など、業界特有の課題に対するアドバイスが役立ちます。 |
4-3.デューデリジェンスの実施
デューデリジェンスは、M&Aにおいて買収対象企業の実態を把握し、リスクを洗い出すための重要なプロセスです。
建設業の場合、財務法務、税務、労務面だけではなく技術面など多角的な調査が必要です。
特に注意すべき点は、工事毎の適切な原価管理の状況、赤字受注の有無、建設機械・資材・車両の保有状況などです。
デューデリジェンスの実施にあたっては、専門家のサポートを受けることが一般的です。綿密な調査を行うことで、買収後のリスクを最小限に抑え、スムーズな統合を実現できます。
4-4.法令遵守・コンプライアンス確保
建設業は多くの法規制の対象となっており、これらを遵守することが事業継続の大前提となります。
特に注意すべき点は、建設業許可の要件維持です。M&A後も継続して許可要件を満たすことができるか、事前に十分な確認が必要です。
また、下請法や建設業法令遵守ガイドラインなど、取引先との関係性に関する法令も重要です。これらの遵守状況を精査し、問題がある場合は速やかに是正することが求められます。
M&A後の統合プロセスにおいても、法令遵守とコンプライアンスを最優先事項として位置づけ、組織全体に浸透させることが必須です。
5.今後の展望

建設業界におけるM&Aは、近年活発化しており、今後もその傾向は続くと予想されます。市場規模の縮小や人材不足、技術革新の必要性など、業界が直面する課題に対応するため、M&Aは有効な戦略になります。
5-1.新技術導入による業界変革の可能性
建設業界におけるM&Aは、新技術の導入と業界変革を加速させる可能性を秘めています。
IoTやAI、ドローンなどの先端技術を持つ企業との統合や買収により、従来の建設プロセスを大きく変えられるかもしれません。
例えば、BIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)技術を持つIT企業との連携により、設計から施工、維持管理までの一貫したデジタル化が可能になります。
自動化技術を持つ企業との統合により、労働力不足の解消や作業効率の向上が期待できます。
これらの新技術導入を通じて、建設業界全体の生産性向上や安全性の改善、環境負荷の低減などが実現される可能性が高まっています。
5-2.グローバル化
建設業界のM&Aは、グローバル化と海外市場への進出を促進する手段にもなります。
国内市場の成熟化や人口減少を背景に、多くの建設企業が成長機会を海外に求めています。特に、急速な経済成長や都市化が進むアジア諸国の新興国市場への進出において、市場参入のスピードアップ、リスク低減、競争優位性の確立に大きく貢献するでしょう。
5-3.サステナビリティとESG要素の影響
環境負荷の低減や社会的責任の遂行、透明性の高い経営が求められる中、これらの要素を考慮したM&Aが増加しています。
環境技術を持つ企業との統合により、省エネルギー建築やグリーンインフラの開発能力を強化する動きが見られます。
今後は、ESG評価の高い企業同士のM&Aや、サステナビリティ戦略の一環としてのM&Aが増加し、業界全体のサステナブルな成長につながることが期待されています。
6.まとめ

建設業界のM&Aは、人材不足や後継者問題の解決、商圏拡大、技術力向上などを実現する一手となるでしょう。M&Aを成功させるためには、相手企業の財務状況や技術力、人材の質などを慎重に見極めることが大切です。今後も建設業界の再編は進むと予想され、M&Aのノウハウ蓄積が業界全体で求められています。