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医療法人M&Aのメリット・デメリットを徹底解説!失敗しないために準備しておくべき方法

医療法人M&Aは、経営効率の向上や医療サービスの質の改善など、多くのメリットがあります。

一方、組織文化の衝突や法的規制への対応など、慎重に検討すべき課題もあるのが現状です。本記事では、医療法人M&Aの特徴や流れ、メリットとデメリットを解説します。 

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1.医療法人のM&Aの特徴

医療法人M&Aは、一般企業のM&Aとは異なります。

医療法人の理事長は、原則、医師または歯科医師でなければなりません。医療サービスの提供に直接関与する立場であるためです。

また、医療法人は非営利性が求められるため、M&Aの際には行政の承認が必要となります。

持分の定めがあることから、社員が退社する際に出資持分に応じた払戻しを請求できるなど、一般企業とは異なる所有権構造となっています。

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2.医療法人の価値算定方法

医療法人の価値算定は、主に3つの方法があります。

a.資産基準+営業権方式

基本的には資産の再取得価格を基準に、現在の法人純資産の時価を推定する(ストック)考え方に法人の将来の収益価値を推定する(フロー)考え方を考慮して法人の現在価値を算定する方法です。営業権には患者からの信頼やブランド力も評価に含めます。

b.買収事例比較方式

過去の買収事例における買収価格を参考に価格を算定する方法です。

過去の買収案件における法人の財務指標と買収価格の倍率を基準として、該当法人の財務指標から買収価格を算定します。

c.ディスカウント・キャッシュフロー(DCF)方式

資産から得られる将来の一定期間の予想利益とその後の余剰価格をベースとして評価します。この評価方法は、どちらかというと動態的な考え方であり、買手候補の事業計画に基づく予測損益計算書が基礎となります。

これらの方法を組み合わせて、適切な価値算定を行いましょう。

3.医療法人M&Aのメリット

医療法人M&Aには、後継者問題の解決や経営の安定化、地域医療の存続など、多くのメリットがあります。

高齢化が進む中で後継者不足に悩む医療法人にとって、M&Aは有効な選択肢のひとつです。

3-1.コスト削減

複数の医療機関が統合することで、管理部門の集約や共同購買によるスケールメリットが生まれ、経費の削減につながります。

また、医療機器や設備の共同利用により、投資効率が高まり、最新の医療技術を導入することも可能です。

3-2.医療サービスの質の向上

M&Aを通じて医療法人の規模が拡大することで、医療サービスの質の向上が期待できます。より多くの経営資源を活用することで、最新の医療機器の導入や専門医の確保が容易になります。

また、複数の医療機関が連携することで、患者に対してより包括的な医療サービス提供が実現できます。異なる専門分野を持つ医療機関が統合することで、診療科目の拡充や新たな治療法の開発など、医療の幅を広げられます。

3-3.経営資源の最適化

人材、設備、資金などの経営資源を効果的に配分し、各医療機関の強みを生かした運営が行えるのもM&Aのメリットです。専門性の高い医師を複数の医療機関で共有したり、高度な医療機器を効率的に活用したりすることができます。

3-4.市場競争力の強化

医療法人のM&Aは、市場競争力の強化につながります。規模の拡大により、地域内でのプレゼンスが高まり、患者からの信頼性も向上します。多様な医療サービスを提供でき、患者のニーズにより幅広く対応することが可能になります。

経営基盤の強化により、新たな医療技術への投資や施設の拡充など、将来を見据えた戦略的な取り組みも実現しやすくなるでしょう。競争が激化する医療業界において、M&Aを通じて市場競争力を強化することは、長期的な成長と安定した経営を実現するための重要な戦略となります。

4.医療法人M&Aのデメリット

組織文化の衝突や統合の難しさ、従業員の不安やモチベーション低下、法的規制とコンプライアンスへの対応、経営リスクの増加など課題は多く残ります。

4-1.組織文化の衝突と統合の難しさ

医療法人のM&Aにおいて、組織文化の衝突と統合の難しさは大きな課題のひとつとなります。異なる組織文化を持つ医療機関が統合する際には、価値観や業務プロセス、意思決定方法などの違いが顕在化します。

患者対応の方針や医療サービスの提供方法、経営スタイルなどが大きく異なる場合にはスムーズな統合が困難になることもあります。

また、長年培ってきた組織の伝統や慣習を変更することへの抵抗も生じやすく、新しい体制への適応に時間がかかる場合があります。組織文化の衝突を乗り越え、両者の強みを活かした新たな組織文化を構築するためには、慎重かつ丁寧なコミュニケーションと調整が不可欠となります。

4-2.従業員の不安とモチベーション低下

医療現場では患者との信頼関係や長年のチームワークが重要であることから、人事異動や業務内容の変更に対する抵抗が強くなる傾向があります。そのため、組織の変更や新しい経営陣の配置により、自身の雇用の安定性や将来のキャリアパスに不安を感じる従業員が多く出てくることがあります。

また、新しい組織体制や業務プロセスへの適応に戸惑いを感じ、業務効率が一時的に低下するリスクも避けられません。

4-3.法的規制とコンプライアンスの対応

医療業界は厳格な規制下にあり、M&Aを実施する際には多くの法的手続きや許認可の取得が必要です。医療法人の合併や事業譲渡には都道府県知事の認可が必要であり、手続きに時間がかかることがあります。

また、医療法人の非営利性の維持や、医療サービスの継続性の確保など、法令遵守の観点から制約が多いのが現状です。コンプライアンス体制の構築や統合にも多大な労力がかかり、場合によっては既存の業務フローの大幅な見直しが必要となるケースもあります。

4-4.経営リスクの増加

統合後の組織規模の拡大や事業領域の拡大に伴い、経営の複雑性が増すことで、意思決定の遅延や経営効率の低下が生じることもあるでしょう。統合後の経営戦略の不一致や、シナジー効果の実現の遅れなどにより、期待した経営改善や収益向上が達成できないリスクがあることも念頭に置いておきましょう。

5.医療法人M&Aの流れ

医療法人のM&Aは、6ヶ月から1年程度かかることが多く、スムーズに進めるためには早めの準備が重要です。

5-1.M&Aの準備段階と戦略立案

後継者問題の解決なのか、経営の安定化を図るためなのか、地域医療の存続のためなのかなど、目的により戦略は変わります。そのため、自社の価値を適切に評価することが必要です。

医療法人の価値算定には、資産基準+営業権方式、買収事例比較方式、DCF方式などがありますが、それぞれの特徴を理解し、自社に適した方法を選択することが大切です。

また、医療法人の類型(社団医療法人か財団医療法人か、持分ありか持分なしか)によって手続きが異なるため、自社の形態を正確に把握しておきましょう。

5-2.買収候補の選定とデューデリジェンス

医療法人を引き継ぐことができる法人は限定されており、一般企業のように幅広く買手を探すことは困難です。そのため、医療業界に精通したM&A仲介会社を通じて、適切な買収候補を見つけることが重要となります。

買収候補が見つかったら、デューデリジェンスを実施。財務状況だけではなく、医療の質、患者数の推移、スタッフの状況、設備の状態、地域での評判など、医療法人特有の要素も詳細に調査します。

5-3.契約交渉と合意プロセス

医療法人の場合、単純な価格交渉だけでなく、医療の継続性や地域への貢献、スタッフの処遇など、多角的な視点での交渉が求められます。

また、医療法人特有の規制や制約(例えば、理事長は原則として医師でなければならないなど)を踏まえた契約内容の調整も必要です。合意に至ったら、最終契約書の作成と締結を行います。

この段階で、行政への各種申請や届出の準備も並行して進めます。医療法人のM&Aでは、保健所や医務課など、行政との連携が不可欠であり、地域ごとの特性も考慮しながら、正確かつ迅速な手続きを進めましょう。

5-4.統合後の管理とフォローアップ

統合後は、スタッフの引継ぎと雇用の継続を確保するのが先決です。医療サービスの質を維持するためには、既存スタッフの心理的安全性を高めましょう。

その後、診療体制や経営方針の調整を行います。患者への影響を最小限に抑えるため、サービスの継続性と質の維持を念頭に置いて進めましょう。医療の質と経営の安定性の両立を図りながら、地域医療への貢献を継続することが、医療法人M&Aの成功の鍵となります。

6.医療法人M&A成功のポイント

ここでは医療法人のM&Aを成功させるためのポイントを紹介します。

6-1.適切な専門家の起用

医療業界に精通したM&Aアドバイザーや弁護士、会計士などの専門家を選ぶことで、複雑な法的手続きや財務面での課題に適切に対応できます。

医療法人の規制や制度を熟知した専門家に依頼しましょう。医療法人の価値評価やデューデリジェンスの実施、契約書の作成など、M&Aプロセス全体におけるサポートを受けられます。

6-2.明確なビジョンと目標設定

規模を拡大するだけではなく、どのような医療サービスを提供し、地域にどのような貢献をしていくのかを明確にしておきましょう。財務面での目標や人材育成の計画なども含めた総合的なビジョンを描くことも大切です。明確なビジョンと目標があることで、M&A後の統合プロセスがスムーズに進み、新しい組織としての一体感を醸成できるでしょう。

6-3.効果的なコミュニケーション戦略

M&Aのプロセスや目的について、関係者全員に共有しましょう。医師や看護師などの医療スタッフ、事務職員、そして患者さんに対して、丁寧な説明と情報共有を行うことが求められます。M&Aによる変更点や今後の方針について、オープンで透明性のあるコミュニケーションを心がけましょう。

6-4.統合後のモニタリングと改善

M&A完了後も、定期的に経営状況や運営体制をチェックし、改善を行う必要があります。財務指標の監視、患者満足度調査、スタッフの意見聴取などを通じて、統合の効果を測定します。当初の目標に対する進捗状況を確認し、必要に応じて戦略の見直しを行います。

また、医療の質の向上や効率化に向けた取り組みを継続的に行うことも重要となります。このような継続的なモニタリングと改善により、M&Aの効果を最大限に引き出し、長期的な成功に繋げることができます。

7.まとめ

医療法人のM&A成功のためには、医療法人の類型や持分の有無による違いを理解し、適切な価値算定方法を選択することが欠かせません。診療内容やスタッフの引継ぎなど医療業界特有の留意点にも注意が必要です。専門家の適切なサポートを受けることで、円滑な事業承継と医療サービスの継続を実現できるでしょう。

長竹 祐樹

大学卒業後、新卒で銀行へ入行。支店業務(担当地域の個人・法人のお客様へ資産運用や融資の提案を主に実施)を経験後、本部へ異動し富裕層や相続・事業承継業務及び支店管理、提携先との連携や折衝を経験。頭取表彰や本部長表彰等受賞。銀行の求めるものとお客様の求めるものとのずれを感じ、株式会社ファーストパートナーズへ転職。現在は幅広いサービスや金融商品をお客様に案内できる環境にあり、お客様のニーズから真に求めるものを提案できるよう日々行動している。

保有資格:証券外務員一種、内部管理責任者、生命保険協会認定保険募集人、FP二級技能検定資格