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インド工科大学(IIT)はなぜ優秀なスタートアップ企業を多く輩出するのか?—ENRISSION INDIA CAPITALが解説

インド工科大学(IIT)はなぜ優秀なスタートアップ企業を多く輩出するのか?

インド工科大学(Indian Institutes of Technology(以下「IIT」))は、インドで最も権威のある理工系大学の一つであり、世界でもトップレベルの教育機関として知られています。

Google CEOのスンダー・ピチャイ氏、Flipkart創業者のサチン・バンサル氏とビニー・バンサル氏など、多くの成功した起業家がIIT出身です。では、なぜIITはこれほど多くの優秀なスタートアップ企業を輩出しているのでしょうか?この記事では、その理由を解説していきます。

1. 世界屈指の難関試験を突破し、問題解決能力を鍛える

世界屈指の難関試験を突破し、問題解決能力を鍛える

IITに入学するためには、JEE(Joint Entrance Examination)という試験を突破しなければなりません。

この試験は、世界でも最も難易度が高い大学入試の一つとされています。JEEは、インドの理工系最高峰であるIITなどへの入学を目指す全国共通の選抜試験であり、一次試験の「JEE Main」と二次試験の「JEE Advanced」に分かれています。

「JEE Main」は基礎から応用力までを問う試験で、上位約2%のみが「JEE Advanced」の受験資格を得ることができます。二次選考にあたる「JEE Advanced」は世界屈指の難易度を誇り、多くの受験生は数年にわたって専門予備校で徹底的に準備を重ねます。

それでも、IITへの最終合格率は全体のわずか1〜2%です。このことから、IITは世界最難関と言われています。

この厳しい選抜を突破して入学する学生は、数学・物理・化学などの理数系科目に優れた才能を持ち、問題解決能力や論理的思考力を鍛えています。こうした優秀な人材が集まる環境は、自然と起業文化を育む土壌となっています。

さらに、IITのカリキュラムでは、研究プロジェクトやケーススタディ、ハッカソンなどを通じて、学生は「現実的な課題を解決する力」を養います。これは、スタートアップの創業者にとって極めて重要なスキルです。

2. 充実した起業支援プログラムとインキュベーション施設

IITには、学生や卒業生が起業しやすい環境が整っています。多くのキャンパスに起業を支援する機関(インキュベーター)が設置されており、資金調達、メンターシップ、オフィススペースの提供などを行っています。

たとえば、以下のようなインキュベーターがIITには存在します。

インド工科大学が運営するスタートアップ支援機関
  • IIT Delhi Technology Business IncubatorTBI
    • IITデリー校のTechnology Business Incubator(TBI)は、FITT(Foundation for Innovation and Technology Transfer)*のもとで運営される起業支援拠点で、技術系スタートアップに対して設備、資金、メンタリングなどを提供し、研究成果の事業化を支援しています。

※FITT(Foundation for Innovation and Technology Transfer)はIIT Delhiの技術移転・産学連携を担う中核組織で、企業・政府との連携や知的財産の活用を通じてイノベーションを推進する機関です。

  • SINESociety for Innovation and Entrepreneurship, IIT Bombay
    • IITボンベイ校が運営するインキュベーションセンターで、フィンテック、AI、ヘルステックなどの分野のスタートアップを支援。
  • IIT Madras Incubation CellIITMIC
    • IITマドラス校の中核インキュベーターとして知られるIITMICは、ディープテック分野を中心に学生の起業活動や研究成果の事業化支援など、「構想から事業拡大まで」を包括的に支えるエコシステムを提供。

これらのインキュベーション施設が、IIT出身の学生がスタートアップを立ち上げる際の大きな後押しとなっています。

また、IITでは、起業を目指す学生に対し、資金援助の仕組みも整っています。たとえば、IIT出身の成功した起業家が母校に寄付し、学生向けのスタートアップファンドを設立するケースが増えています。

  • IIT Delhi Endowment Fund:卒業生ネットワークを活用し、初期投資資金を提供。
  • IIT Madras Research Park:企業との連携により、研究開発型スタートアップの支援を行う。

これにより、資金不足でアイデアを実現できないという課題が軽減され、より多くの学生が起業に挑戦できる環境が整っています。

3. 世界中に広がるIITの卒業生ネットワークと起業家コミュニティ

IITの卒業生は、世界中のトップ企業で活躍しており、Google、Microsoft、Amazonなどの幹部や、数多くのスタートアップ創業者を輩出しています。この強固なネットワークが、新しい起業家たちをサポートする基盤となっています。

たとえば、IIT出身の成功した起業家が、新しいスタートアップに投資したり、メンターとしてアドバイスを提供したりすることが一般的です。こうしたネットワークの存在が、IIT出身の起業家が成功しやすい要因の一つとなっています。

また、IITの各キャンパスでは、学生向けにアイデアの共有会やビジネスプランの提案会、ピッチコンテストなどが定期的に開催されています。こうした活動を通じて、学生は幅広いネットワークを活用して起業家精神を養い、実践的なスキルを学ぶことができます。

4. インド発ユニコーン起業家に見るシリコンバレーとの強い結びつき

IIT卒業生の多くは、米国のスタンフォード大学、MIT、ハーバード大学などの大学院に進学し、シリコンバレーでのキャリアを積むケースが多く見られます。

IIT出身の起業家は、シリコンバレーの投資家と密接な関係を築いていることが多く、資金調達の面でも有利です。実際に、多くのインド発スタートアップは、シリコンバレーのベンチャーキャピタル(VC)から資金を得て急成長しています。

たとえば、米国のVCから出資を受け、ユニコーン企業へと成長したIIT出身の起業家の例としてこのような方々が挙げられます。

  • InMobi(創業者:ナヴィーン・テワリ氏|出身校:IITカンプール)
    • InMobiは2011年にモバイル広告サービスでインド初のユニコーン企業となりました。創業者ナヴィーン・テワリ氏はIIT Kanpurを経て、ハーバード大学でMBAを取得。米国市場への進出も早く、立ち上げの2年後である2009年には米国に拠点を開設し、2011年には米国のモバイル広告企業Sproutを買収しています。
  • Flipkart(創業者: サチン・バンサル氏、ビニー・バンサル氏|出身校:IITデリー)
    • 創業初期からAccel IndiaやTiger Globalなどの米国VCから出資を受け、インド最大のeコマース企業に成長したのち、2018年に米国の小売大手Walmartに買収され、グローバル展開を加速させました。

  • Moglix(創業者:ラフル・ガルグ氏|出身校:IITカンプール)
    • Moglixは、製造業向けのB2B(企業間取引)eコマースプラットフォームを提供する企業で、インド、米国、英国、ヨーロッパなどで事業を展開しています。 Accel Partnersなど米国投資家からの出資を受け、2022年に米国子会社「Zoglix」を設立しました。

5. まとめ

IITが優秀なスタートアップ企業を多く輩出する理由は、厳格な入試による優秀な学生の確保、起業支援インフラの充実、卒業生ネットワークの強さ、シリコンバレーとの結びつきにあります。こうした要因が相互に作用し、IITは今後も世界トップクラスの起業家を輩出し続けるでしょう。

ENRISSION INDIA CAPITAL

インド工科大学と連携し厳選したインドスタートアップ企業への投資事業などを行う会社。スタートアップ支援にも注力しており、創業資金、メンタリングなど若手起業家への支援を提供する大規模なインキュベーションプログラムを運営しています。

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