
外国債券投資は、高利回りや通貨分散の効果が期待できる一方で、国内債券にはないコストが必要になります。
本記事では、外国債券投資におけるコストや手数料の仕組みをわかりやすく解説します。
1.外国債券投資にかかる手数料等一覧
外国債券への投資は、日本国内の低金利環境において魅力的な選択肢となりますが、国内債券とは異なる特有のコストが発生します。
この章では、外国債券投資に際して投資家が実際に負担することになる各種手数料やコストについて解説します。
これらを正確に理解することは、投資判断や期待リターンの計算において非常に重要です。
1-1. 為替手数料
外国債券への投資では、外貨が必要になります。投資対象の外貨をすでに保有している場合を除き、日本円から投資対象通貨への両替が必要となります。この際に発生するのが為替手数料です。
主要通貨である米ドルやユーロの場合、1通貨単位あたりの手数料は約25銭〜1円が一般的です。一方で、新興国通貨の場合、相対的に高い為替手数料が設定されていることも珍しくなく、100万円を両替すると数万円の為替手数料が発生することになります。
外貨建て商品を選ぶ際は、利回りの高さだけでなく、為替手数料を事前に確認し、実質的な運用成績にどの程度影響するかを見極めるようにしましょう。
1-2. 外国証券管理料(カストディフィー)
外国債券を保有する際には、「外国証券管理料(カストディフィー)」という保有コストが発生する場合があります。これは、債券を保管・管理するために、海外の保管機関(カストディアン)や国際的な証券決済機関に対して支払う費用で、証券会社が投資家に転嫁する形で徴収されます。具体的には、債券の名義管理、利金・償還金の受け渡し、コーポレートアクションの処理などの業務の対価として、保有期間中に継続して発生するもので、長期保有する場合は特に無視できないコストとなります。
手数料の水準は証券会社ごとに異なり、無料の場合もありますが、たとえば年間3,300円〜11,000円程度の定額制を採用しているケースもあるため、事前の確認が大切です。
1-3. スプレッド(売買価格差)
債券の取引では、購入時の価格(オファー価格)と売却時の価格(ビッド価格)の間にスプレッドが存在し、これが実質的な取引コストとなります。
債券のスプレッドは、マーケットメーカーや証券会社が担うリスクや取引コストをカバーするために設定され、主に以下の要素によって影響を受けます。
- 流動性 取引量が少ない債券ほどスプレッドは拡大する
- 信用力 発行体の信用力が低いほどスプレッドは拡大する
- 残存期間 長期債ほどスプレッドが拡大する傾向がある
- 市場環境 市場の不安定性が高まるとスプレッドは拡大する
米国債や欧州の主要国国債など流動性の高い債券では、スプレッドは比較的小さく設定されています。一方、社債や新興国債券、流動性の低い債券では、スプレッドが大きくなるのが一般的であり、市場環境の悪化時にはさらに拡大することがあります。
このようなスプレッドの存在は、短期売買を繰り返す投資戦略には大きなコスト負担となるため、外国債券投資では中長期的な保有を前提とした戦略が有効となるでしょう。
1-4. 利益への課税
外国債券から得られる収益は、国内の税制に基づいて課税されます。
外国債券投資における課税対象は主に以下の2つです。
- 利子(利子所得):定期的に支払われる利子
- 譲渡益・償還差益(上場株式等の譲渡所得等):債券の売却や償還による日本円換算での差益
これらの所得に対しては、一律20.315%(所得税15%、復興特別所得税0.315%、住民税5%)の税率で課税されます。
外国債券への投資を検討する際には、これらの税金や手数料などのコストを総合的に考慮し、実質的な期待リターンを慎重に見積もることが重要です。また、外国証券管理料は長期保有を前提とした投資でも継続的に発生するため、投資期間全体での影響を考慮する必要があります。
2.外国債券にかかる税金について
投資によって得られる利益には、税金が課されます。ここでは、税金の仕組みについて解説します。
2-1. 利子にかかる税金
日本国内の金融機関で得られる利子(定期預金や公社債など)には、20.315%(所得税15%、住民税5%、復興特別所得税0.315%)の源泉分離課税が適用され、これは外国債券の利息に対しても同様です。
源泉分離課税とは、利子が支払われる時点で金融機関が自動的に税金を差し引く(源泉徴収される)仕組みです。このため、通常は確定申告を行う必要がありません。(ただし、必要に応じて申告分離課税での確定申告も可能です)
例えば、年間1万円の利子を得た場合、実際に受け取れる金額は7,969円(1万円−2,031円)となります。
2-2.譲渡益・償還差益にかかる税金
外国債券を売却した際に発生する利益(譲渡益)や、償還された際に得られる利益(償還差益)は、「上場株式等の譲渡所得等」として税率20.315%の申告分離課税となります。
ただし、特定口座(源泉徴収あり)を選択している場合、株式や投資信託などの売却時と同様に、証券会社が自動的に税金を計算・徴収するため、原則として確定申告は必要ありません。
2-3.損益通算について
2016年1月以降、特定公社債(国債・地方債・外国国債・外国地方債・社債等)の利子、譲渡損益、償還差損益は、上場株式等として申告分離課税の対象となりました。これにより、上場株式などの配当金・譲渡損益との損益通算や、3年間の繰越控除が可能になりました。
また、前述の通り、特定口座(源泉徴収あり)を活用することで、外貨での取引であっても同年の譲渡損益や配当所得と自動的に相殺することができます。ただし、外貨建て債券にかかる所得は、受け取った日本円で計算された差損益に課税されます。
現地通貨で受け取った場合でも、税務上一定のルールに基づいて円換算され、日本円で差損益を計算しますので注意しましょう。
このように源泉徴収ができる一方で、必要に応じて確定申告をすることも可能です。
例えば、特定口座(源泉徴収あり)を選択していても、複数の金融機関を跨いでの損益通算はできません。この場合は、それぞれの金融機関で発行される特定口座年間取引報告書を用いて確定申告が必要です。
また、当年に損益通算をしても控除しきれない金額については、その翌年以降3年間にわたり繰越控除することができますが、これにも確定申告が必要です。
3.手数料等を抑えるために
手数料を抑えるための方法について詳細に解説します。
3-1. 外貨決済の活用
外貨建て商品を購入する際、該当通貨を保有している場合を除き、日本円から外貨に換金して購入することになります。
仮に額面1万ドル(約150万円)の米ドル建て債券を購入する場合、米ドルの為替スプレッドが25銭だとすると、2,500円必要になります。さらに、この債券1万ドルを売却する場合に円貨決済をすると、同様に2,500円かかります。ただし、外貨決済(米ドル決済)で売却する場合は、片道分の為替スプレッドは不要となります。
外貨決済(米ドル決済)で売却するということは、売却代金を米ドルで受け取るということであり、結果として米ドルを保有することになります。具体的な米ドルの保有方法としては、まず外貨預金や外貨MMF(マネー・マーケット・ファンド)が挙げられます。
例えば、米ドル建てMMFは、米ドルの短期金融市場に投資するファンドで、比較的安全性が高く、金利収入も期待できます。もちろん、その米ドルを活用して他の米ドル建債券を購入することも可能です。
その場合、同じく外貨決済で購入できるため、為替スプレッドが不要となります。
また、外貨決済の利点として、為替のタイミングを自分で選べる点も挙げられます。例えば、米ドル建て債券を外貨決済で売却し、米ドルを保有している場合、円安が進んでいるタイミングで円に戻すことが可能です。その逆で、円高が進んでいる時に米ドルを購入しておき、好きなタイミングで外貨決済(為替スプレッド不要)で米ドル建て債券を購入することも可能です。
3-2. 外国証券管理料の確認
外国債券を保有する際に見落としがちなのが、外国証券管理料(カストディフィー)です。金融商品を長期保有する場合、この管理料が年々蓄積されていくため、事前の確認が重要です。
一部の証券会社では取引頻度や預かり資産額に応じて免除される場合もあるので、あわせて確認するといいでしょう。
基本となる管理料だけでなく免除条件や割引制度も証券会社によって違うので、自分の取引パターンに照らし合わせて証券会社を選択することをおすすめします。
すでに数社で外国証券管理料を支払っている場合、保管手数料が無料の証券会社に資産を移管(取扱い債券によっては移管できない場合もあるため、該当債券の移管可否については確認が必要)するなど、1社にまとめることで、コストを削減できる場合もあります。
3-3.ETFや投資信託の活用
個別の外国債券に直接投資する代わりに、ETF(上場投資信託)や投資信託を活用し、間接的に外国債券に投資することもできます。
ETFや投資信託は、多数の銘柄に一度に分散投資できる金融商品です。外国債券に特化したETFや投資信託であれば、米国や欧州、新興国など、さまざまな国の国債や社債にまとめて投資することが可能です。個別に外国債券を購入する場合と比べて、通貨分散や信用リスクの分散がしやすく、管理の手間も抑えられる点が魅力です。
また、ETFや投資信託の多くは保管手数料が無料です。これは運営会社が信託財産を一括管理することで、個別銘柄保有時よりも管理コストを抑えられるためです。複数の外国債券を少額ずつ保有する場合の保管手数料の非効率性を回避できます。
ただし、ETFや投資信託には売買手数料や信託報酬がかかります。信託報酬は年率(0.5%~2.5%が一般的)で表示され、日々資産から差し引かれる実質的なコストです。同じような債券型の投資信託でも運用会社によって信託報酬が異なるため、比較検討が大切です。
4.まとめ
外国債券への投資は、金利差や通貨分散といった魅力がある反面、国内債券の場合とは違ったコストがかかります。
コストを抑える方法としては、事前に取引証券会社の為替スプレッドや外国証券管理料を確認すること、外貨決済の活用などが有効です。さらに、ETFや投資信託を使えば、国際分散投資が可能になります。コストも確認したうえで、中長期的な目線で取引することが堅実な資産運用の土台となるでしょう。