
「動かす経営、人と人をつなぐ戦略」——熱い現場で経営をリードする二人が語る、リアルとデジタルの最前線とは。
今回は、FC東京 社長・川岸 滋也氏と、同クラブのオフィシャルスポンサーである株式会社ファーストパートナーズ 代表取締役・中尾 剛による特別対談をお届けします。
対談のテーマは「動かす経営と、人と人をつなぐ戦略」。スポーツビジネスの最前線を担うFC東京と、金融・投資の視点から企業価値を見つめるファーストパートナーズ。それぞれ異なるフィールドで活躍する二人が、いま考える「経営の本質」や「人と組織のつなぎ方」について語ります。
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1. 実行型リーダーとしての意思決定
━━川岸社長の異業種への挑戦において、意思決定のプロセスやスピード感について、どのようなギャップや新たな発見がありましたか?
川岸社長:
私は、MIXIに限らず長年インターネットに関わる仕事をしてきたのですが、その中でスポーツ業界との大きな違いとして感じたギャップは大きく2つあります。
1つ目は、やはり「スピード感」です。ネット業界は非常に変化が激しく、「ドッグイヤー」と言われるほど、数ヶ月で大きな動きが起こります。一方で、スポーツ業界はシーズン制という特性上、1年単位でのサイクルになります。もちろん遅いというわけではないのですが、「やってみて、検証して、改善する」というプロセスを1年間かけて行う必要があるため、自分の中では戸惑いもありました。
2つ目は、「圧倒的なリアル」です。ネットの世界ではユーザーとの接点が画面越しになりがちですが、スポーツクラブでは、ファン・サポーターの皆さんとスタジアムで直接顔を合わせることができます。中尾さんのようなパートナー企業の方々とも、リアルに会って対話を重ねることができます。
スタジアムで勝てば、ファン・サポーターと喜びをリアルに共有できる。この「リアル感」が想像以上に強くて、頭では理解していたつもりでも、実際に体感してみて初めて得られた発見でした。
━━ちなみに、川岸社長はサッカーのご経験は?
川岸社長:
したことはないんです。観る専門です(笑)。
━━中尾社長はスポーツ経験が豊富と伺いましたが?
中尾:
私は前職で大手証券会社に勤務しながら、同時にアメリカンフットボールのXリーグで選手としても活動しておりました。
金融業界は数字と向き合い、資本市場という抽象的な世界と対話する時間が長い一方で、スポーツはまさに「リアル」。観客がいて、テレビ中継もある。日々その温度差を実感していました。
━━投資判断においても、その「リアル」と「数字」の両面は意識されるのでしょうか?
中尾:
はい。大企業だと数字やビジネスモデルで判断することが多いですが、ベンチャー企業や直近上場してきた企業を見るときは、「経営者の志向」や「人間性」「突破力」などを投資の判断材料の一つにするようにしています。
川岸社長:
私は金融に詳しくないので「数字ばかり見る世界なのかな」と思っていましたが、意外と人間的な面も重視されているんだなと驚きました。
━━スポーツの現場でも「リアル」と「数字」のバランスは大切ですか?
川岸社長:
そうですね。数字は経営にとって必要不可欠ですが、チームでは、選手をはじめとして人が動いています。その「人」が起点になっているので、「リアルと数字がどう連動しているのか」というところを考えています。
━━意思決定点では多様な要素が関わっていて、お二人に共有点がありますね
中尾:
はい。スポーツの現場でも、フィールド上での瞬時の判断が次のプレイにつながる。それは企業経営においても同じです。まさにその場の選択と戦略が鍵になると思いますし、それが非常に刺激的で面白いですね。

2. FC東京の成長戦略
━━FC東京というクラブを、単なるスポーツチームではなく、ビジネスとしてどのように成長させようとお考えですか?
川岸社長:
私は「スポーツだから」「ビジネスだから」と区別していません。FC東京は、日本の首都“東京”に拠点を置いています。その土地にしっかり根付き、地域の皆さんに応援される存在になることが、ビジネス戦略そのものだと思っています。
その中で様々な関わり方がありますが、例えば自治体の方々、中尾さんのようなパートナー企業、そして多くのファン・サポーターなどの地域の方々と一緒に活動・成長していく姿勢が大切だと思っています。
中尾:
IT・デジタルの世界だと全世界に発信ができるのに対して、特定のエリアでの勝負となるとゲームの仕方が全く違うと思うので、 そこをうまく柔軟性持って経営されているので素晴らしいなと思います。
川岸社長:
確かにネットの世界はボーダーレスですが、スポーツの世界はものすごく“ボーダー”があります(笑)。もちろん東京という場所柄、世界から知られている町なので、FC東京そのものがグローバルに届いてる部分も一定はありますが、やはり地に足を着いていないと進められません。そこはしっかりと一歩一歩やるしかないというのは改めて感じています。
━━いろいろな活動をされていますが、FC東京を基盤にしたコミュニティ作りという狙いもあるのでしょうか?
川岸社長:
そうですね。私たちは社会の一員として、どのような役割を果たせるかを常に考えています。幸いにもファン・サポーター、パートナー、自治体などの多くの人が、FC東京を1つの「ハブ」「メディア」として集まってくださいますので、私たちがその人々をつなぐ役割をしていかないといけないなと思います。
パートナーの方々とも交流を図ったり、ファン・サポーターの方もFC東京を軸に仲間を作っていただいています。また、自治体同士の交流などもやらせていただいてます。
そういう意味で、私たちFC東京が“人々をつなぐ役割”というのができているんじゃないかなと思います。
━━中尾社長から見て、パートナーとしてFC東京に感じる魅力は?
中尾:
当時、知名度のない私たちがどのようにして社会貢献をしていくか考える中で、自身のバックグラウンドがスポーツであることもあり、スポーツを通して社会貢献がしたいと思いました。中でも、FC東京さんは本体がMIXIなので、デジタルとリアルの融合などのあらゆる側面で経営としても学ぶところがあるなと思っていました。
そして、発信力の部分においても高い期待があったので、スポンサードしました。約2年半が経ちましたが、スポンサーになって本当によかったと思っています。遠征を含めるとあらゆるところで試合がありますので、各地で弊社の知名度が上がり、期待以上の効果がありました。
3. 組織の構築とファン・サポーターとの関係
━━FC東京という組織をどう構築し、ファン・サポーターとどう関係を築いているのでしょうか?
川岸社長:
FC東京は社会の一員であると同時に、やはりファン・サポーターの存在がクラブの基盤です。いかにコミュニケーションを取り、一緒に盛り上げていけるかが非常に重要です。
パートナーとの関係、自治体との連携、全ては「人」が起点です。その「人」の中心がファン・サポーターなので、そこがないと全てつながらないと思います。時代の流れに適応し、新たに仲間に加わる方も含めて、良好な関係づくりを常に模索しています。
中尾:
やはりFC東京は“見られる会社”であるからこそ、透明性や誠実さが重要視されているように感じ、経営の方にいかされているんだろうなと思いました。
川岸社長:
本当に見られています。発信に対して様々な反応があります。ポジティブな声もあれば、そうではない声もあります。それらを真摯に受け止めながら、改善・変化を加えていくというのが必要だなと思っています。
━━そうした経営方針は選手にも共有されているのでしょうか?
川岸社長:
はい。私としては伝えているつもりですし、選手からも反応が返ってきます。ただ、彼らのミッションはピッチでのパフォーマンスを出すこと。これをやってファン・サポーターの期待に応えていく。それを全力で果たしてくれていると感じています。

4. お互いに聞いてみたいこと
━━中尾社長から、川岸社長への質問は?
中尾:
FC東京として「新たなチャレンジ」があれば教えてください。
川岸社長:
2つあります。1つはJ1リーグでの優勝です。そこに対して日々努力していますし、クラブの目標としても掲げています。いつまでにできるか約束できるものではないんですが、やはりそこを目指していくクラブでないといけないし、常にそういうステージで戦っているクラブになりたいというのがあります。
もう1つは、いろいろな地域の皆様やファン・サポーターの方々の「コミュニティのハブ」になることです。実は今年チャレンジを始めていて、ゴールデンウィークにランニングイベントや味の素スタジアム横でのBBQなど、新しい取り組みを始めました。サッカー以外でも人と人をつなぐ場をもっと増やしていきたいと思っています。
中尾:
ぜひそのBBQ、参加したいです!(笑)。
━━では逆に、川岸社長から中尾社長へ質問は?
川岸社長:
以前、ファーストパートナーズさんには若手選手向けに金融リテラシーのセミナーを開催していただきましたが、今年もお願いできますか? また、どんな内容をお伝えいただけますか?
中尾:
もちろん、今年も開催させてください!
日本のスポーツ界ではまだまだ金融リテラシーが低いのが現状です。欧米の選手やメジャーに挑戦した選手と会話をする機会があった際に、選手同士で投資の話をよくすると聞きました。また、欧米ではスポーツだけではなく、セカンドキャリアを考えているなという印象も受けました。
その啓蒙活動の一環として、セミナーを開催することで、スポーツ選手たちの金融リテラシーをあげてセカンドキャリアの準備をしていただければと思っています。そしてこれが日本のスポーツ市場の拡大にもつながると信じています。
〈プロフィール〉

川岸 滋也(KAWAGISHI SHIGEYA)
株式会社ミクシィ(現・MIXI)にて複数の新規事業立ち上げを主導し、2021年からはスポーツ領域の新規事業を担当。2023年より株式会社東京フットボールクラブ(FC東京)代表取締役社長に就任。
インターネット業界で培ったスピード感と事業開発力を武器に、FC東京においても観戦体験の向上やファンエンゲージメント強化など、多角的な施策を推進。2024年には国立競技場でのホームゲーム開催やスタジアム演出の刷新など、“リアルな体験”を重視した戦略を実現。
ビジネスとスポーツを横断的に捉える視座で、都市型クラブとしての新しい可能性を拓くFC東京の未来を牽引する。