
はじめに
なぜ「今から」ビットコインなのか
ビットコインが誕生してから15年以上が経ち、人類史上まれに見る価格急騰を経験しました。
しかし、この歴史を持つビットコインが、なぜ「今から」でも魅力的な投資対象なのか。第1回となる今回は、この根本的な問いに答え、読者の皆様に学習のモチベーションを持っていただくことを目的としています。
必要なのは「腹落ち感」
技術的な詳細や値動きの記事はインターネット上に溢れています。
しかし多くの方が最初に求めているのは、ブロックチェーンの仕組みではなく、「まだ乗り遅れていない」「腰を据えて取り組む価値がある」という腹落ち感です。
この確信なしに次の段階へ進むことは難しいと、私たちは考えています。
もちろん、万人が投資する必要はありません。しかし、この巨大市場のグローバルな潮流を理解しておくことは、他の投資を考えるうえでも決して無駄になりません。
仮想通貨市場の動向は、今や金融の世界全体に無視できない影響力を持つからです。
成功者に共通する「理論武装」
私たちはこれまで、数百人以上の仮想通貨で財をなした方々とお話をしてきました。
仮想通貨長者というと世間一般的には「宝くじが当たった幸運な人たち」と思われがちですが、実際には例外なく、皆さん驚くほど熱心に勉強されています。
ビットコインも1日で100倍になったわけではありません。凄まじいボラティリティの中、当時は怪しいと言われていたコインに資金を投じ続けるには、中長期的に価格が上がるという信念と理論武装が不可欠です。
多くの人は、宝くじがゆっくりと当選している最中に、そのくじを手放してしまいます。本連載では、ビットコインを長期保有できるための考え方と理論武装の一助となる情報を提供していきます。
タイムマシン経営:アメリカを見れば未来が見える
ソフトバンクの孫正義氏が名付け親とされる「タイムマシン経営」という言葉があります。
インターネットビジネスの発達した米国での成功事例という未来の出来事を日本市場に持ち込むことで、普及の時間差を利用して先行者利益を得る経営手法です。
この概念が提唱されてから30年が経ちましたが、米国は依然として世界経済の4分の1強、世界株式時価総額の半分を占める超経済大国です。米国の動向を見極めることは、投資において決定的に重要であり続けています。
そして実は、その米国で2024年、ビットコインの未来を決定的に変えたかもしれない重要イベントが2つ起きていました。
2024年、2つの重要イベントがビットコインの歴史を変えた
重要イベント①ビットコイン現物ETF承認(2024年1月):史上最速で15兆円を集めた衝撃
2024年1月、米国でビットコイン現物ETFが承認されました。これはSEC(米証券取引委員会)による「怪しい資産ではない」というお墨付きを意味します。
何より、既存の証券インフラで気軽に投資できるようになったことで、機関投資家の資金が殺到しました。
シークレットフレーズや公開鍵といったブロックチェーン知識は不要で、ハッキングの心配もありません。
既存の証券口座の中でAAPLやAMZNの代わりにIBITを選択すれば良いだけです。個人投資家にとっても非常に気軽で安心な選択肢となりました。
記録ずくめの商業的成功
· 全ETF史上ぶっちぎり最速(従来最速のVOOの約5倍)で運用資産100億ドル(約15兆円)に到達
· 運用資産残高が全ETF中TOP20入り
· BlackRock社の全ETF中で最大の収益を稼ぎ出す(旗艦商品S&P500 ETFのIVVをも上回る)
Blackrock社のビットコイン現物ETFであるIBITは歴代の伝説的ETFの約5倍のスピードで運用資産100億ドルを達成

出所:https://x.com/EricBalchunas/status/1975239555826803039?s=20
大手金融機関が推奨を開始
ETFだけで毎年数百億円の収益が見込めるとわかれば、大手金融機関が黙っているはずがありません。これまで否定的だった金融業界全体が、ETF販売競争に参入しています。
伝統的な金融機関が、正式なポートフォリオ戦略の一部としてビットコインを位置付け始めたのです。
· モルガン・スタンレー: グローバル投資委員会が暗号資産への最大4%の配分を推奨(2025年10月)
· BlackRock: 投資研究所が1〜2%の配分を推奨(2024年)
· Fidelity: 公式ブログにて2〜5%が適切、若い投資家は最大7.5%まで可能と示唆
重要イベント② トランプ政権によるビットコイン国家戦略化(2024年11月~)
2024年11月、トランプ大統領が再選を果たし、アメリカのビットコイン政策が一変しました。
選挙期間中から「アメリカをビットコイン超大国(Bitcoin Superpower)」「世界の暗号資産の首都(Crypto Capital of the World)」にすると公言していた彼は、当選後、バイデン政権の方針を180度転換させる驚異的なスピードで政策を実行に移します。
「敵対」から「国家戦略」へ――バイデン政権との決定的な違い
バイデン政権下で業界が最も苦しんだのは、SEC委員長ゲーリー・ゲンスラー氏による規制でした。
彼は「ビットコイン以外のほとんどの暗号資産は未登録証券である」という立場で、BinanceやCoinbaseといった大手取引所を次々と訴訟。明確なルールを示さず訴訟だけで規制する手法に、業界は強く反発していました。
同時に、多くの銀行が「レピュテーションリスク」を理由に暗号資産関連企業への口座開設を拒否。
これは「オペレーション・チョークポイント2.0」と呼ばれ、実質的に業界への資金の流れを絞る効果がありました。バイデン政権は、法律で禁止せずとも、実務レベルで暗号資産産業を締め付けていたのです。
トランプ政権は、この構造を根本から変えました。
就任直後の電撃的シグナル
トランプ氏は就任直後から、明確なメッセージを発しました。
就任1日目:
ゲーリー・ゲンスラーSEC委員長が辞任。トランプ氏は選挙中から「初日に解任する」と公言しており、ゲンスラー氏は解任を避ける形で自ら退任を選んだと見られています。長年続いたSECによる厳格な規制姿勢に終止符が打たれ、市場では「転換点」として受け止められました。
就任2日目:
ダークウェブ市場「Silk Road」の創設者ロス・ウルブリヒト氏(終身刑)に対し、完全かつ無条件の恩赦を発表。暗号資産コミュニティでは「象徴的な和解の第一歩」として歓迎されました。
2025年春:
長年続いたSEC対Ripple Labs(XRP)訴訟が共同申立により正式終結。暗号資産を「未登録証券」と見なす従来の立場が事実上修正され、金融界にとっても大きな安心材料となりました。
2025年秋:
Binance創設者チャンポン・ジャオ(CZ)氏に対して大統領恩赦を発表。世界最大の取引所創業者の恩赦は、国際的にも「米国が暗号資産産業の敵ではない」という明確なシグナルとして報じられました。
国家レベルでの推進体制
方針転換は、人事と組織全体に及びました。
· Strategy社・Tether社と関係の深いCantor Fitzgerald前CEOハワード・ラトニック氏を商務長官に任命
· 暗号資産推進派のスコット・ベンセント氏を財務長官に任命
· イーロン・マスク氏を政府効率化省の共同責任者に任命
· 大統領自らが先頭に立ったPR活動を展開
ビットコインを国家資産へ
トランプ政権は、ビットコインを単なる投機ではなく、国家戦略資産として位置付けました。
· 犯罪者から押収した約20万ビットコインの売却を停止
· 「戦略的ビットコイン準備」創設の大統領令に署名(2025年3月)
· テキサス、ニューハンプシャー、アリゾナで州予算によるビットコイン備蓄を承認
資金流入の「障壁」を取り除く――3つのインフラ整備
さらにビットコイン市場への資金流入を阻んでいた実務的な障壁を、次々と取り除きました。
1. オペレーション・チョークポイント2.0の禁止
銀行による暗号資産関連企業へのサービス拒否を禁止。企業は通常の銀行サービスを受けられるようになり、資金調達、給与支払い、取引決済が円滑になります。
2. 銀行のカストディ参入容易化
会計基準を明確化し、銀行が顧客のビットコインを預かる(カストディ)サービスを提供しやすくしました。
これにより、JPモルガンやバンク・オブ・アメリカといった大手銀行が、顧客に対してビットコイン保管サービスを提供できるようになります。「暗号資産取引所に口座を開くのは面倒」と感じていた富裕層の資金が、一気に流入する可能性があります。
3. ステーブルコイン法整備
ステーブルコイン(米ドルと1:1で連動する暗号資産)の法整備により、銀行や大手金融機関が安心して事業に参入できるようになります。
ステーブルコインは暗号資産市場への入口です。投資家はまず米ドルをステーブルコインに変換し、それを使ってビットコインを購入します。
このインフラが整備されるほど、ビットコイン市場への資金流入が容易になるのです。
官民一体となった国策的推進
この流れを象徴する人物が、商務長官に就任したハワード・ラトニック氏です。
ハワード・ラトニック氏

ソース:https://en.wikipedia.org/wiki/Howard_Lutnick
ラトニック氏はトランプ大統領と数十年来の友人であり、2021年の連邦議会襲撃事件後も変わらずゴルフを共にした数少ない盟友です。
2024年の大統領選では約20億円を調達し、政権移行チームの共同議長として閣僚人事を主導しました。
彼が商務長官就任前にCEOを務めていた投資銀行Cantor Fitzgerald社は、ビットコイン経済圏で二つの重要な役割を担っています。
一つは、約10兆円分のビットコインを保有するStrategy社の資金調達支援。もう一つは、世界最大のステーブルコインUSDTの裏付資産である25兆円の米国債の保管です。
つまり、ビットコインの「蓄積側」と「資金流入の入口」という両側を掌握する人物が、今、政権中枢でビットコイン政策を推進しているのです。
金融が本気になり、政治が制度を変え、トランプ大統領自らが広告塔となる。アメリカは官民一体でビットコインを推進する体制を完成させました。
石油やゴールドと並ぶ戦略資産として、ビットコインが国家に管理される時代が始まった。2024年は、その転換点でした。
なぜ「今から」でも遅くないのか
「それなら、もう価格も上がり切ってしまったのでは?」と思われるかもしれません。しかし、実はここからが本番とも考えられるのです。
理由① アメリカで国策化されたのはごく最近
・ETF承認:2024年1月(約2年前)
・トランプ大統領再選:2024年11月(約1年前)
・戦略的ビットコイン準備創設:2025年3月(約8カ月前)
世界最大の経済大国が、政財界一体でビットコインを国家戦略資産として推進し始めたのは、つい昨年からです。歴史的な転換が起きてから、まだ1〜2年しか経っていません。
米国でインターネットが普及し始めた時、初代iPhoneが発売された時、翌年には日本で使い始めていたでしょうか。ほとんどの方は、その存在すら知らなかったはずです。
理由② 機関投資家の保有割合はまだ低い
ビットコインの発行上限2,100万枚のうち、現在、機関投資家や国、企業が保有しているのは下図の色付き部分で示される約400万枚(約19%)にすぎません。
BlackRockのビットコインETFが15兆円を集めたとはいえ、世界の機関投資家が運用する約2京円(=20,000兆円)規模の資金から見れば、ほんの一部に過ぎません。
もし彼らが運用資産のわずか1%をビットコインに振り向けるだけで、200兆円規模の新たな需要が生まれる計算になります。
今後、下図の色付き部分、すなわち機関投資家や公的機関の保有割合が拡大していくにつれ、価格がどう動くかは想像に難くありません。

出所:https://bitcointreasuries.net/
理由③ 世界への波及はこれから
アメリカでビットコイン現物ETFが承認されると、香港とオーストラリアが追随しました。日本や韓国、シンガポールでも議論は始まっていますが、まだ実現には至っていません。
企業による備蓄戦略においても、状況は似ています。日本のメタプラネット社は先進的な取り組みで注目を集め、東京証券取引所の出来高1位を記録するほど話題となりました。
しかし、その保有ビットコインは約3万枚。これは米国の本家Strategy社の64万枚と比較すると、わずか5%程度に過ぎません。
これは日本の遅れを示すというより、むしろアメリカで始まった構造転換が世界中に波及するまでには相応の時間がかかることを物語っていると思います。
まとめ:15年目にしてやっとスタート地点に立った
2024年は、ビットコインにとって歴史的な転換点でした。
1月のETF承認と11月のトランプ政権誕生により、ビットコインは怪しい投機対象から世界最大の経済大国が政財界一体で推進する金融資産へと生まれ変わったのです。
しかし重要なのは、この転換が始まってから、まだ2年弱しか経っていないという事実です。
タイムマシン経営の視点からアメリカで起きていることを見れば、ビットコインは今からでも遅くないどころか、15年の歴史の中でようやく金融資産として認められ始めたスタート地点に立ったと考えることができると思います。
次回以降は、また違った視点から学習を続け、価格の短期変動に一喜一憂せず、冷静に市場と向き合うために必要な視点を、ともに学んでいきましょう。
〈執筆者プロフィール〉

Sho Setoguchi
共同創業者・投資責任者
東京大学経済学部卒
2008年よりバークレイズ証券・銀行で為替仕組商品トレーダー(PRDC、TARN等)。
シンガポールでは、2014年よりマクロヘッジファンドや多国籍企業向けにグローバル通貨ソリューションを提供。2020年より香港の仮想通貨ヘッジファンドにて裁定・マーケットメイク・イベント戦略を担当。
現在は、Penguin Securitiesにて、伝統金融と暗号資産の融合を目指し、分散投資・資産保全に関する知見を企業・富裕層向けに発信中。