
・買収後に簿外債務や不正会計が発覚しないか不安
・デューデリジェンスで本当に資金流出リスクを見抜けるのか知りたい
・M&A取引で損失を避けるために、どこを重点的に確認すべきかわからない
このようなお悩みをお持ちではないでしょうか。
M&A・デューデリジェンスの実務では、表面上は順調に見える取引ほど、買収後に想定外の資金流出が顕在化するケースが少なくありません。
本記事では、M&A・デューデリジェンスのプロの視点から、資金流出や不正会計を防ぐための実務ポイントをわかりやすく解説します。
この記事を読むことで、M&Aに潜むリスクへの不安を解消でき、買収後のトラブルを未然に防ぐ判断に役立つでしょう。
1. M&Aの裏側で起きている資金流出の巧妙な手口
M&Aでは、表面上は健全に見える企業であっても、水面下で資金流出や不正会計が行われていることがあります。
特に、中小企業やオーナー経営企業では、オーナー個人と会社のお金の境界があいまいになりやすく、買収後に想定外のキャッシュアウトが発覚するケースがあります。ここでは、M&Aの裏側で起きている資金流出の巧妙な以下の手口について解説します。
・1-1. 簿外債務がM&A後に発覚した際の資金流出リスク
・1-2. 役員報酬の水増し・関係会社への不透明な資金移動
・1-3. 買収直前に行われる資金引き出し(ディッピング)
・1-4. 循環取引・架空売上で利益を“演出”する不正会計
1-1. 簿外債務がM&A後に発覚した際の資金流出リスク
M&Aで最も典型的な資金流出トラブルの一つが、買収後に簿外債務が発覚し、多額の支払いを迫られるケースです。
簿外債務とは、本来であれば負債として計上すべき義務が、財務諸表に反映されていない状態を指します。代表的な例としては、未払残業代、未払社会保険料、退職給付引当金、訴訟関連の支払いなどが挙げられます。
これらは買収時では見えにくく、企業価値評価や買収価格に織り込まれていないことがほとんどです。そのため、発覚した時点で一気にキャッシュフローを圧迫することにつながります。
結果として、当初想定していたリターンが大きく損なわれるだけでなく、金融機関との関係悪化や追加の資金調達負担に直結するおそれがあります。
こうした簿外債務は、税務会計をベースにしている中小企業で生じやすいと言われています。税金を抑える目的で賞与引当金や退職給付引当金をあえて計上しないケースや、残業代や社会保険料の未払いをそのままにしているケースが考えられます。
また、訴訟リスクや保証債務など「将来発生する可能性のある負債」が、経営者の判断で決算書にほとんど反映されていない場合もあります。
このような負債は、表面上の貸借対照表からは読み取りにくく、短期間の書面チェックだけでは見落としやすい点が特徴です。
例えば、買収後に過去数年分の未払残業代請求が従業員からまとめて請求され、数千万円規模の支払いが必要になるケースが想定されます。
このような事態を防ぐためには、デューデリジェンスの段階で、決算書だけでなく総勘定元帳、給与台帳、就業規則、社内の苦情・労使紛争の履歴などを総合的に確認し、簿外債務となりやすい項目を丁寧に洗い出すことが重要です。
1-2. 役員報酬の水増し・関係会社への不透明な資金移動
M&A 資金流出トラブルでは、役員報酬やオーナー関連会社への支払いが実質的な「抜け道」として使われているケースも少なくありません。
買収前後のタイミングで役員報酬や賞与が急増している場合、経済合理性に乏しい支給が行われている可能性があります。また、オーナー個人やその親族が実質的に支配する関係会社に対して、高額なコンサルティング料や賃料が支払われている場合には注意が必要です。
このような資金移動が問題となる背景は、形式上は通常の取引や役員報酬として処理されている点です。帳簿や契約書を見ただけでは、業務の対価として妥当なのか、それともオーナーへの利益移転なのか判断しづらい場合があります。
例えば、オーナーの親族が代表を務める不動産会社に対して、相場より明らかに高い賃料を支払い続けているケースや、実態が不明確なコンサルティング会社に毎月顧問料を払いながら、具体的な業務成果物やレポートがほとんど存在しない事例も考えられます。
したがって、デューデリジェンスの段階では、役員報酬・賞与の推移や、関係会社一覧とその取引条件を詳細に確認することが不可欠です。
報酬水準が急に上がっていないか、特定の関係会社との取引が異常に高額・偏在していないかをデータで検証し、必要に応じて契約条件の見直しや清算をM&Aの前提条件とすることが望ましいです。
1-3. 買収直前に行われる資金引き出し(ディッピング)
買収直前に売り手側が会社のキャッシュを引き出す行為は「ディッピング」と呼ばれ、M&A 資金流出トラブルとして要注意の手口です。
ディッピングは、買収価格が株式価値ベースで決まることを利用し、取引直前に配当や社長貸付金の返済、特別賞与などの名目で会社から資金を引き出す行為を指します。
表面的には合法的な取引に見えますが、実態としては会社価値を目減りさせ、買い手の期待を損ねる結果になりかねません。
ディッピングが厄介なのは、契約締結とクロージングの間のタイムラグで起きやすい点です。この期間に、売り手が新たな借入を行い、その資金を配当として引き出したり、取引先や関係会社に前倒しで支払いを行ったりするケースが考えられます。
例えば、株式譲渡契約を締結した数週間後、クロージング前の期末に多額の配当を実行し、結果として買収時点の現預金残高が急減しているケースが想定されます。
このような動きを見逃すと、買い手は想定より資金が減った会社を引き継ぐことになり、運転資金の追加投入が必要になるでしょう。
そのため、契約書には「クロージングまでの通常営業維持条項」や「期中の配当・賞与・資本取引に関する制限条項」を盛り込むことが重要です。
1-4. 循環取引・架空売上で利益を“演出”する不正会計
循環取引や架空売上によって利益を「演出」する不正会計も、M&Aで警戒すべきリスクです。
これらの不正会計が問題となるのは、買収前の段階では売上や利益が好調に見える一方、買収後に売掛金の回収不能や返品増加として一気に表面化する点です。
循環取引では、実質的に資金の出入りがほとんどないにもかかわらず売上だけが積み上がり、結果として在庫や売掛金が膨張します。
不適切な会計処理が長期間続くと、貸借対照表の実態と大きく乖離し、買い手は過大評価された企業価値で買収してしまうことになります。
したがって、デューデリジェンスでは売上・売掛金・在庫の動きを期間別・取引先別に分析し、異常な増加や循環のパターンがないかを丁寧に検証することが重要です。
加えて、主要取引先へのヒアリングや、取引実態を裏づける契約書・納品書・検収書・入金記録を突き合わせ、不自然な点がないか多角的にチェックする必要があります。
2. デューデリジェンス(DD)で見抜ける危険サイン
第1章で述べた資金流出や不正会計のリスクを抑えるうえで、デューデリジェンス(DD)はM&Aにおいて最も重要なプロセスの一つです。
DDとは、対象企業の財務・法務・ビジネス・ITなどを多面的に調査し、表面上は見えにくいリスクを洗い出す作業を指します。
M&A後のトラブルの多くは、「本来DDで気づけたはずの兆候」を見逃した結果として起きています。
ここでは、DDを通じて事前に察知できる代表的な危険サインについて、以下4つの観点から解説します。
・2-1. 財務DDー不正な取引や簿外債務の発見
・2-2. 法務DDー契約・訴訟リスクの洗い出し
・2-3. ビジネスDDー事業の実態と収益性の過大評価リスク
・2-4. IT・システムDDーシステムリスクとセキュリティ体制の確認
2-1. 財務DDー不正な取引や簿外債務の発見
財務デューデリジェンスは、対象企業の決算書や帳簿等を詳細に分析し、収益力・資産負債の実態・キャッシュフローの健全性を把握する作業です。
ここでの目的は、M&A後の利益やキャッシュフローをどの程度期待できるかを見極めると同時に、不正な取引や簿外債務が潜んでいないかをチェックすることにあります。
売上や利益が短期間で急激に伸びている場合や、利益率が同業他社と比べて極端に高い場合は、まず財務DDでその裏付けを丁寧に検証する必要があります。
例えば、売掛金の一部が数年にわたり未回収のまま残っているケースが考えられます。このような債権は、実質的には回収不能であり、帳簿上の売上・利益が実態より課題に形状されている可能性があります。
また、在庫の中に長期間動きのない商品が多く含まれている場合、評価損計上が不十分で、利益が過大計上されている事例が想定されます。
数字の異常値や不自然な推移を手掛かりに、不正会計や簿外債務の存在を早期に見抜くことで、M&A後の資金流出トラブルを大幅に抑えられるでしょう。
2-2. 法務DDー契約・訴訟リスクの洗い出し
法務デューデリジェンスは、対象企業が抱える契約・訴訟・規制対応などの法的リスクを把握するために実施されます。
M&A後になってから重大な契約違反や行政処分、損害賠償リスクが判明した場合、多額の支払い義務が発生したり、最悪の場合は事業停止といった深刻な影響が出る可能性もあります。
具体的には、取引基本契約や長期供給契約、金融機関との融資契約、リース契約、フランチャイズ契約、ライセンス契約などを対象に、重要条項を一件ずつ確認します。
特に、M&Aによる「支配権の移転」をきっかけに契約が解除されたり、条件が悪化したりするチェンジ・オブ・コントロール条項の有無は、特に重要なチェックポイントです。
そのほか、反社会的勢力排除条項や独占禁止法・下請法などの法令違反リスクについても検証が必要です。
法務DDを通じて、契約や訴訟に関するリスクを事前に把握できれば、契約条件の修正や補償条項の追加、場合によっては取引スキームの変更など、さまざまな対策を検討しやすくなります。
予期せぬ損害賠償や紛争対応コストを抑え、M&A後の資金流出トラブルを軽減できるでしょう。
2-3. ビジネスDDー事業の実態と収益性の過大評価リスク
ビジネスデューデリジェンスは、対象企業のビジネスモデルや市場環境、顧客基盤などを検証し、事業の実態と将来の収益性を評価するプロセスです。
ここでのポイントは、売り手の説明や事業計画をそのまま受け取るのではなく、「本当にその利益水準は持続可能か」を冷静に見極めることです。
楽観的な成長ストーリーを前提に買収価格を決めてしまうと、計画どおりに収益が上がらず、結果として投下資金を回収できないリスクが高まります。
例えば、売上の大半が一社の大口顧客に依存しているケースが考えられます。この場合、その顧客との契約条件や満足度、競合他社の動き次第で、売上が大きく変動する可能性があります。
こうした状況を見抜けないままM&Aを実行すると、想定していたシナジーが得られず、結果として投下資金を回収しづらくなります。
事業の実力と市場環境を丁寧に評価することで、適切な買収価格や契約条件を設定でき、収益ギャップによるM&A後の資金流出リスクを抑えられるでしょう。
2-4. IT・システムDDーシステムリスクとセキュリティ体制の確認
IT・システムDDでは、基幹システムの構成や運用体制、ベンダーとの契約状況を把握し、どの程度のコストで維持・更新できるのかを確認するものです。
近年、IT・システムに関するデューデリジェンスの重要性が高まっています。なぜなら、基幹システムや業務システムが老朽化している場合、M&A後に多額の更新費用や保守費用が発生し、想定以上の資金負担となるリスクがあるためです。
また、サイバーセキュリティや個人情報保護への対応が不十分だと、情報漏洩やシステム停止による損害賠償・信用失墜につながるおそれがあります。
特に、特定の担当者や外注先に過度に依存している場合、その人材が離職・契約終了したときの継続リスクが高くなります。
また、セキュリティポリシーやアクセス管理、ログ管理、バックアップ体制などを確認し、重大な脆弱性がないかをチェックすることも重要です。
例えば、基幹システムがサポートの終了した古いOSやミドルウェア上で稼働している場合、脆弱性リスクが高くなります。
また、自社開発システムのソースコードが十分にドキュメント化されておらず、特定の担当者しか保守できない状態にある事例も想定されます。
そのような状況では、M&A後にシステム移行や再構築に多額の投資が必要になり、計画していた投資回収に影響が出るでしょう。
IT・システムDDを通じて、システム面の課題と必要な投資額を事前に把握しておけば、買収価格やPMI(統合プロセス)の計画に反映でき、システム起因のトラブルや予期せぬ追加投資による資金流出リスクを抑え、より現実的なM&A戦略を描くことが可能になります。
3. 典型的なリスクの高い取引や潜在的な資金流出の兆候
M&Aにおける資金流出や不正会計は、突発的に起きるというよりも、買収前から一定の兆候が現れているケースが大半です。
ここでは、デューデリジェンスの過程で特に注意すべき「典型的なリスクの高い取引」や「潜在的な資金流出の兆候」について、以下の4つの観点から解説します。
・3-1. オーナーや社長と関係の深い取引先や個人への高額な支払い
・3-2. 売上・在庫・仕掛品異常な動きに潜むリスク
・3-3. 内部統制体制のほころびと、監査役・顧問会計士が発する違和感
・3-4. 水面下で進訴訟・クレームが示す潜在リスク存在するか
3-1. オーナーや社長と関係の深い取引先や個人への高額な支払い
オーナーや社長と関係の深い取引先、あるいは個人に対する高額な支払いは、資金流出の温床になりやすいポイントです。
特に、コンサルティング料・賃料・役員報酬などの対価は金額の妥当性を判断しづらく、実態以上の支払いが行われていても外部からは分かりにくい傾向があります。
例えば、オーナーの親族が経営する不動産会社に対して、周辺相場よりかなり高い賃料を支払っているケースが考えられます。
また、オーナーの知人が代表を務めるコンサル会社に毎月一定額を払い続けているにもかかわらず、具体的な成果物や業務内容が確認できない事例も想定されます。
このような支払いは、M&A後も契約を継続してしまうと、買い手企業のキャッシュフローを慢性的に圧迫します。
不自然な取引が確認された場合には、M&Aの前提条件として契約の見直しや解消を求めることで、将来の資金流出リスクを大きく軽減できるでしょう。
3-2. 売上・在庫・仕掛品異常な動きに潜むリスク
売上や在庫、仕掛品の推移に不自然な動きがある場合、不正会計や事業悪化が隠れている可能性があります。
売上が期末だけ急に伸びている、在庫が継続的に積み上がっている、仕掛品が長期間解消されていないといった状況は、循環取引や架空売上、過剰生産などの兆候になり得ます。
こうした異常を見逃したまま買収を進めると、買収後に在庫評価損や売掛金の貸倒損失が発生し、資金流出につながるおそれがあります。
例えば、期末直前に大量の出荷が行われ、その多くが翌期に返品されているケースが考えられます。これは、売上目標を達成するために販売店へ商品を押し込む「押し込み販売」に近い動きであり、売上の質が低下しているサインといえます。
また、建設業や製造業で仕掛品が数年にわたり減少しない場合、実際には採算が厳しい案件が放置されている事例が想定されます。こうした案件は、将来的に評価損や追加費用としてキャッシュアウトを生む可能性があります。
このように、売上や在庫の「量」だけでなく、「動き方」や「質」に注目することで、潜在的な資金流出リスクを早期に発見できます。財務DDの段階で、売上・在庫・仕掛品の異常な動きを丁寧に分析しておくことが、M&Aの失敗を防ぐ重要なポイントです。
3-3. 内部統制体制のほころびと、監査役・顧問会計士が発する違和感
内部統制の弱さや形骸化は、不正会計や資金流出が起こりやすい土壌となります。経理部門と営業部門の牽制機能が働いていない、承認プロセスが形式的になっている、権限が特定の人物に集中しているといった状況では、不正が長期間見逃される可能性があります。
また、監査役や顧問会計士が違和感を示しているにもかかわらず、経営陣が十分な是正対応を行っていない場合も要警戒です。
例えば、売上計上や費用計上に関する重要な仕訳を、担当者一人の判断で処理できる状態になっているケースが考えられます。この場合、意図的な粉飾や誤謬が発生しても、適切に発見されにくくなります。
また、顧問会計士が「在庫の評価方法に改善余地がある」「売掛金の回収状況について慎重な検討が必要」といったコメントを繰り返し行っているにもかかわらず、具体的な是正が行われていない事例も想定されます。
ガバナンス面の課題が大きい場合には、価格交渉や契約条件の見直しだけでなく、M&A自体の是非も含めて慎重に判断する必要があります。
3-4. 水面下で進訴訟・クレームが示す潜在リスク存在するか
表面上は平穏に見える企業でも、水面下で訴訟やクレームが増えている場合、潜在的な資金流出リスクを抱えている可能性があります。
製品事故やサービス品質をめぐるトラブル、労務問題、知的財産権の紛争などがこじれると、多額の賠償金や和解金の支払いにつながりかねません。また、訴訟に至っていない段階のクレームや行政からの指導も、将来のリスクの「予兆」として捉えるべきです。
例えば、特定の製品に関する不具合がSNSや口コミサイトで繰り返し指摘されているにもかかわらず、企業として十分な改善策を打てていないケースが考えられます。このような場合、将来的に集団訴訟やリコール対応が必要になる事例が想定されます。
また、残業代未払いをめぐる労働審判が増えている企業では、同様の請求が相次ぎ、多額の支払いが必要になる可能性があります。
訴訟やクレームは、「今見えているコスト」だけでなく、「将来発生しうる負担」のサインとして捉えることが重要です。
デューデリジェンスの段階でこうした情報を丁寧に集め、必要に応じて表明保証や補償条項でリスク分担を明確にしておくことで、M&A後の想定外の資金流出を抑えられます。
4. 資金流出トラブル発生時の対処法と法的手段
どれだけデューデリジェンスを徹底しても、M&A後に簿外債務や不正会計が発覚する可能性を完全にゼロにすることはできません。
そのため、万が一資金流出トラブルが起きた場合の対処法や法的手段を理解しておくことも、M&A戦略の重要な一部です。適切な契約条項と証拠収集、専門家の活用が揃っていれば、損失の一部を回収できる可能性があります。
ここでは、資金流出トラブル発生時の対処法と法的手段について、以下に沿って解説します。
・4-1. 表明保証違反による損害賠償──請求手続きと立証ポイント
・4-2. エスクロー勘定(第三者預託)で買収対価を保全する仕組み
・4-3. アーンアウト条項でリスクを分担する契約設計
・4-4. 売主への法的責任追及と、専門家(弁護士・会計士)への迅速な相談
4-1. 表明保証違反による損害賠償──請求手続きと立証ポイント
M&A後に簿外債務や不正会計が発覚した場合、まず検討されるのが「表明保証違反」に基づく損害賠償請求です。
表明保証とは、売り手が財務・法務・税務などに関して一定の事実を保証する条項であり、その内容が真実でなかった場合には、買い手が損害賠償や価格調整を求められる仕組みです。
M&A 資金流出トラブルに備えるうえで、表明保証条項をどこまで詳細に定めるかは重要なポイントになります。
表明保証違反を主張するには、まず契約書にどのような表明保証が盛り込まれているかを確認します。そのうえで、実際に発覚した事実がその表明保証とどのように矛盾しているかを整理し、損害の内容と金額を具体的に算定します。
さらに、発覚時期や認識経緯を踏まえ、通知期限や時効などの契約条件を満たしているかも検討する必要があります。
表明保証違反を巡る交渉や紛争は専門性が高く、証拠の整理や損害算定が複雑になりがちです。早い段階で弁護士や公認会計士などの専門家と連携し、契約書・会計資料・社内メールなどの証拠を保全しておくことで、適切な対応が取りやすくなるでしょう。
4-2. エスクロー勘定(第三者預託)で買収対価を保全する仕組み
資金流出トラブルのリスクをあらかじめ織り込む手段として、エスクロー勘定(第三者預託)を利用する方法があります。
エスクローは、買収対価の一部を一定期間、第三者(信託銀行やエスクロー会社など)に預けておき、簿外債務や不正会計が後から発覚した場合に、その預託金から補填できるようにする仕組みです。
これにより、買い手は将来のリスクに備えつつ取引を進めやすくなります。
エスクローを設計する際は、「預託する金額」「預託期間」「支払い条件」を明確に決めることが重要です。預託金額は、想定されるリスクの大きさやデューデリジェンスで把握した懸念事項に応じて設定します。
また、どのような事象が発生した場合にエスクローから支払いを行うのか、具体的なトリガーや手続きも契約書に規定しておく必要があります。
エスクロー勘定は、M&A後に発覚するリスクを完全に防ぐものではありませんが、少なくとも金銭的なダメージを一定範囲で吸収するクッションとして機能します。
資金流出トラブルへの備えを強化したい場合には、デューデリジェンスの結果を踏まえつつ、エスクローの導入を検討するとよいでしょう。
4-3. アーンアウト条項でリスクを分担する契約設計
将来の業績が読みにくい案件や、ビジネスDDで不確定要素が多いと判断される案件では、アーンアウト条項を利用してリスクを分担する方法があります。
アーンアウトとは、買収対価の一部を対象企業の将来業績に連動させ、一定の売上や利益目標を達成した場合に追加で支払う仕組みです。これにより、買い手は過大な先払いを避けつつ、売り手は業績向上へのインセンティブを保てます。
アーンアウトを設計する際には、「指標」「期間」「計算方法」「調整ルール」を明確にしておくことが重要です。指標としては、売上高や営業利益、EBITDAなどがよく用いられますが、過度に複雑な条件を設定すると後の紛争の原因になります。
また、売り手が引き続き経営に関与する場合には、買い手側の経営判断がアーンアウト達成にどのように影響するかを巡って対立が起こりやすく、事前のルール作りが欠かせません。
アーンアウト条項は、M&A後の業績ギャップによる不満や紛争を完全に解消するものではありませんが、「最初からすべてを払い切る」よりも柔軟なリスク分担が可能です。
不確実性の高い業種や成長企業の買収では、アーンアウトの活用を視野に入れて契約設計を検討するとよいでしょう。
4-4. 売主への法的責任追及と、専門家(弁護士・会計士)への迅速な相談
M&A後に資金流出トラブルや不正会計が発覚した場合、すぐに売主の法的責任追及を検討する前に、まず行うべきなのは事実関係の整理と証拠保全です。
感情的に対応してしまうと、重要な証拠が失われたり、社内外に不要な混乱が広がったりして、問題解決がかえって難しくなるおそれがあります。
落ち着いて状況を把握し、どのような契約・法令違反が考えられるのかを整理したうえで、適切な方針を検討する必要があります。
このプロセスでは、弁護士や公認会計士、不正調査の専門家など外部のプロフェッショナルを早期に巻き込むことが有効です。
会計面の不正が疑われる場合には、第三者委員会の設置やフォレンジック調査を通じて、取引の全体像と関係者の関与度合いを明らかにしていきます。
同時に、社内外への情報開示のタイミングや内容についても慎重に検討し、取引先・従業員・金融機関との信頼関係に配慮した対応が求められます。
資金流出トラブルへの対応は、短期的な損害回収だけでなく、中長期的な事業継続性やレピュテーションの保全も視野に入れて判断する必要があります。
専門家の知見を活用しながら、法的手段・交渉・事業再建策を組み合わせることで、ダメージを最小限に抑えられる可能性が高まるでしょう。
ファーストパートナーズ・グループでは、お客様の状況や目的に寄り添ったM&Aデューデリジェンスのご提案を行っております。
買収前のリスク精査から、資金流出を防止するための契約設計・実務対応まで、専門家の視点で的確にアドバイスいたします。
M&Aをご検討中の方、「この取引は本当に安全か」と少しでも不安を感じている方は、ぜひ一度ご相談ください。
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