
・お金はあるのに、心から満足できる消費ができていない
・高級品を買っても、どこか空虚さを感じる
・社会や環境に配慮した生き方に共感する一方で、何を選べばよいか迷ってしまう
そんな声が、富裕層の間で少しずつ広がっています。
かつては、「より良いもの」「人より優れたもの」を所有することが満足感の中心でした。しかし今は、「自分が何を選ぶか」の理由や背景が重視される時代に移りつつあります。
今、富裕層の間では「浪費」から「メリハリ消費」へとシフトが進んでいます。
この記事を読むことで、この変化の背景や、社会性を重視した購買行動の背景が理解でき、自身の資産活用やブランド戦略にも役立つでしょう。
1. なぜ富裕層の価値観は変わったのか?
富裕層の価値観の変化について、以下で解説します。
・1-1. コロナ禍で可視化された「持続可能性」への関心
・1-2. 世界的インフレと経済不確実性による消費行動の見直し
・1-3. Z世代・ミレニアル富裕層の台頭と多様な価値観
1-1. コロナ禍で可視化された「持続可能性」への関心
パンデミック以降、富裕層の関心は単なる所有から「持続可能な選択」へ広がりました。市場データでも、モノより体験型サービスの需要が伸びていることが示され、環境配慮や社会的意義を備えた提供価値が選好されやすくなっています。
背景には、グローバル・ラグジュアリー市場が伸び悩む中でも、高級ホスピタリティや体験型が成長した構造変化があります。ベインのレポートでは、2024年の市場は概ね横ばいながら、体験や体験型商品に成長が集中したと整理されています。
例えば、ファッション・ビューティ領域では、循環モデルや新素材の実装が企業間連携で進み始めています。資生堂とシャネルが関わる使用済み容器からのリサイクル・ケミカル循環の実証などは、消費者に「持続可能性を選べる消費」の象徴的な事例といえるでしょう。
こうした具体事例が可視化されるほど、富裕層の選択基準は「ブランドの思想や取り組み」にまで広がるでしょう。
1-2. 世界的インフレと経済不確実性による消費行動の見直し
インフレと不確実性の長期化は、富裕層にも「本当に価値がある対象」に支出を絞る流れを促しています。エコノミストの見立てでも、物価圧力が続く前提下で家計と企業が選別的に支出する局面が語られており、値上げ定着のなかでの見直しが進みました。
この選別は、ラグジュアリー市場でも若年層の支持低下や値上げによる基盤縮小として表れています。結果として、「量より質」「購入頻度は抑えつつも納得度の高い支出」にシフトしやすい環境が整いました。
例えば、百貨店市場はコロナ前の規模を回復しつつも、売上の中身が変化しています。高付加価値の体験・サービスや限定性の高い商材、説明可能なストーリーを伴うカテゴリーが伸びる事例が挙げられます。
つまり、“量ではなく意味”を求める支出へと変化しているのです。
1-3. Z世代・ミレニアル富裕層の台頭と多様な価値観
若年富裕層は、職人性・ストーリー・サステナビリティなど、価格以外の価値を重視します。従来の「ロゴ中心」から離れ、体験や共感できる理念に支出する傾向が強まっています。
ベインが指摘する若年層のブランド支持低下は、本物志向への選別が進む兆候とも読めます。加えて、Z世代では「物より体験」「安心・安全の充足」「自分の価値観と整合する消費」のウェイトが高いと報じられています。
例えば、中国の裕福なZ世代では、クラフトやブランドの物語に惹かれ、スローで持続可能なライフスタイルに価値を見出す動きが示されています。この潮流は越境的で、日本の若年富裕層にも共通する事例が想定されます。
この価値観は今後のラグジュアリー市場において、新たな標準となる可能性が高いと言えます。
2. 「浪費」から「メリハリ消費」へ
「メリハリ消費」の具体像について、以下に沿って解説します。
・2-1. 価格ではなく”体験”や”品質”に価値を見出す
・2-2. 節約意識と高付加価値消費の両立
・2-3. 「SNS映え」から「内面的満足」を追求する消費へ
2-1. 価格ではなく”体験”や”品質”に価値を見出す
富裕層の選好は「多く浅く」から「少なく深く」へ移っています。ベインの整理でも体験型の伸びが明確で、旅行・ホスピタリティ・外食の高品質領域に支出が向かいやすい状況です。
この背景には、パンデミック後に「かけがえのない時間」の希少性が再認識されたことがあります。単位時間あたりの満足度が高いサービスには、価格が高くても受け入れられやすい傾向があります。
例えば、ラグジュアリー旅行は、独自性の高い体験の需要が強いという見通しが出ています。秘境でのサステナ・ツーリズムや、地域コミュニティと接続する滞在型プログラムなどは、支出の納得度を高める事例が想定されます。
2-2. 節約意識と高付加価値消費の両立
インフレ環境下では、富裕層も日常の支出を引き締めつつ、価値ある領域にしっかり投資する行動が広がっています。市場の横ばいと値上げに直面するなか、購入頻度や点数を抑え、一点の満足度を上げる選び方が広がりました。
日本の小売でも、百貨店がコロナ前の水準を回復しつつ、その中身は高単価×納得性のあるカテゴリーへと比重が移行しています。
例えば、高品質な中古やリセールの活用、メンテナンス・修理まで含めたトータル価値の最大化などが考えられます。新品だけに偏らず、循環を取り込むことで、支出効率と満足の両立がしやすくなる事例が想定されます。
2-3. 「SNS映え」から「内面的満足」を追求する消費へ
近年は、可視的ステータスより、自分の価値観に合致した満足を求める傾向が強まっています。若年富裕層を中心に、職人性やストーリーへの共感が購買動機になりやすくなりました。
ベインの分析でも、若年層のブランド支持がやや弱まり、「理由ある選択」傾向が強まる動きが示唆されています。これは単なる節約ではなく、支出の納得度を高める合理化です。
例えば、地域の手仕事や限定生産への投資、アフターケアや長期使用を前提に設計されたプロダクトの選好が考えられます。所有体験そのものの質が上がるほど、SNS映えの有無に左右されにくい満足へ移行する事例が想定されます。
満足の源泉が「他者の評価」ではなく、「自分がどう感じるか」へと軸足が移っていると言えるでしょう。
3. 社会性・環境配慮を重視する新しい購買行動
近年の富裕層は、単に「良いものを持つ」だけではなく、社会・環境・文化に与える影響まで含めた価値を重視しながら購買行動を選択しています。
ここでは、その重視される購買行動について、以下に沿って解説します。
・3-1. サステナブル素材・循環型商品の選択肢拡大
・3-2. 地域社会・伝統への投資や支援
・3-3. 社会的意義あるブランドへの共感消費
3-1. サステナブル素材・循環型商品の選択肢拡大
供給サイドでは、循環や新素材の実装が着実に加速しています。2024年以降、素材開発の“出そろい”から「実際に使う・スケールする」段階へ進み、消費者が選べる商品ラインナップが拡大しました。
この供給の変化は、富裕層の選別消費と相性が良いです。高品質と環境配慮を両立する設計は、長期的満足と説明可能性を同時に高めます。
例えば、資生堂×シャネルの容器循環や、国内ブランドの新素材量産化は、選択肢の具体化として有効です。店舗での素材・循環情報の可視化は、納得度の高い購入を後押しする事例が想定されます。
3-2. 地域社会・伝統への投資や支援
富裕層の支出は、地域性や文化的価値のある領域に向かいやすくなっています。
百貨店市場でも、単なる物販から地域×体験の編集に軸足を移す動きが見られます。
この動向は、デロイトのCxO調査が示す「サステナを事業の中核に置く」経営潮流とも一致します。供給側が地域起点で価値を磨けば、長期的な共感消費につながりやすいです。
例えば、地域工房の限定企画、地産素材のコラボ、文化継承プログラム付きの購買体験などが考えられます。支出が地域への投資として説明でき、購入後の満足が持続する事例が想定されます。
3-3. 社会的意義あるブランドへの共感消費
消費者は企業の姿勢と透明性・持続的取り組みの実効性をより厳しく見ています。温室効果ガス対策、循環、サプライチェーン公正など、行動と透明性が支持の前提になりました。
ラグジュアリー市場の基盤が若干縮小する中、理念の明確さと一貫した実装を示せるブランドが支持されやすい状況です。メディア発信だけでなく、測定と開示まで行うことが信頼の鍵になります。
さらに、購入後も「このブランドを選び続けたい」と思わせる要因があることが重視されます。例えば、リペア保証やトレーサビリティの可視化、循環プログラムの成果公開などが考えられます。
4. ラグジュアリビジネスへの示唆
実務的な示唆について、以下に沿って解説します。
・4-1. ストーリー性と社会的意義を組み込んだ商品開発
・4-2. 高品質と環境配慮を両立させたブランド戦略
・4-3. デジタル発信における“誠実さ”と“透明性”の重要性
4-1. ストーリー性と社会的意義を組み込んだ商品開発
需要が「所有」から体験・物語・納得へ移るなか、商品は「語れる価値」を持つことが重要になっています。市場の伸び悩み局面でも、一貫した世界観とクラフトは相対的に強い支持を得やすいです。
ベインの報告や各社動向からも、ホスピタリティ連動や地域文化との接続が有効であることが読み取れます。製品単体で完結させず、購入前後の体験まで含めて設計すると、価格以上の満足が生まれやすくなります。
例えば、限定素材の起源や作り手の哲学を一体化した“語れる企画”、購入者向けのアトリエ体験やメンテナンス講座などが考えられます。
こうした買って終わらない仕組みは、リピートと推奨につながりやすいです。
4-2. 高品質と環境配慮を両立させたブランド戦略
今後は、品質×サステナビリティは差別化要素ではなく、標準装備になります。供給サイドの循環・新素材活用が前進するほど、「選べる持続可能性」が当たり前となります。
デロイトの調査でも、企業はサステナを経営の中核戦略として位置づけ始めています。高品質・長寿命設計に、修理・下取り・再販を組み合わせる全ライフサイクル設計が効果的です。
例えば、容器循環や素材のトレーサビリティを開示し、使い続ける快適さを高める仕組みが考えられます。こうした設計により、価格の妥当性と長期満足を説明しやすくなります。
4-3. デジタル発信における“誠実さ”と“透明性”の重要性
若年富裕層は発信内容の一貫性と検証可能性を重視します。SNS映え偏重から離れ、実装の裏づけが鍵になります。
そのため、KPIもフォロワーやリーチだけでなく、到達・共感・実装証跡までを含めた評価が求められます。施策ごとに成果を可視化し、失敗も含めて学習過程を共有する姿勢が信頼を生みます。
例えば、環境指標の年次レポート、第三者検証の導入、リペア実績・二次流通率の開示などが考えられます。重要なのは、“語る以上に見せる”発信です。
5. まとめ
富裕層の消費は、量より質、モノより体験、社会性との両立へ進んでいます。
インフレ環境では「日常は引き締め、価値ある領域に厚く」が合理的で、特に若年富裕層ほど職人性・物語・循環を重視します。
企業は、商品単体ではなく体験と循環を含む統合設計、そして誠実な透明性で支持を獲得しやすくなるでしょう。データが示す通り、体験型・環境配慮・共感起点の取り組みが選ばれやすい時代です。
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