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長谷川唯インタビュー 前編「サッカーが楽しいから、ここまで続けてこられた」長谷川唯が語る成長の軌跡

©松岡健三郎

幼い頃に抱いたそんな想いは、長谷川唯の中でずっと静かに灯っていた。男子サッカーを夢中で観て、「自分もボールを蹴りたい」と願った少女。だが当時、女子プロリーグはまだ存在していなかった。

日テレ・東京ヴェルディメニーナへの入団、身近にいた“本物のトップ選手たち”との出会い。そして、世界一になったなでしこジャパンへの憧れ。小柄な身体で挑み続けるその歩みは、常に「自分の可能性を信じること」と「サッカーを楽しむこと」に満ちていた。

中学生で始まった挑戦は、今やイングランド・マンチェスター・シティでの戦いへと続く。

変わっていく時代の中で、彼女は何を見つめ、どこへ向かおうとしているのか。

本インタビューでは、過去の葛藤、海外での挑戦、そして日本代表としての責任感に迫った。


[サッカーについて]

━━プロになる!な-りたい!と思ったのはいつ頃でしたか

小学生の頃から男子のサッカーを観ていたので、「自分もサッカーをやりたい」という気持ちはずっとありました。

ただ、当時はまだ女子のプロリーグがなかったので、あくまで“思っていただけ”という感じでした。
中学生のときに日テレ・東京ヴェルディメニーナ(以下メニーナ)に入団してから、トップチーム(日テレ・東京ヴェルディベレーザ、以下ベレーザ)の選手たちが仕事と両立しながらサッカーをしている姿を見て、「自分もサッカーを続けたい」と思うようになりました。

今こうしてプロ選手としてサッカーだけで生活できているのはとても幸せなことだと思います。当時は、今のような環境を想像することもできませんでしたから、今の環境には感謝しています。

━━女子サッカーの認知度の変化は感じますか

はい。なでしこジャパンが2011年のW杯で優勝したのが中学2年生の頃だったと記憶しています。

それをきっかけに、多くの人が女子サッカーを観に来てくれるようになった印象があります。
私は中学1年生の頃からベレーザの運営補助をしていたので、お客さんが少なかった時代もよく覚えています。

だからこそ、W杯優勝の影響の大きさを実感しています。

━━なでしこジャパンのW杯優勝は、ご自身にはどのような影響がありましたか

W杯で優勝したいという夢は、男子も女子も持っていると思いますが、2011年の優勝で「本当にできるんだ」と現実的に感じるようになりました。

ベレーザで身近だった選手が代表に選ばれていたこともあり、「自分もこうなりたい」と強く思いました。近くに目標となる存在がいたことが、自分の成長につながったと思います。

━━メニーナ入団時、手応えはありましたか

当時のメニーナは中学1年生から高校3年生までひとつのチームとして活動していました。私は背が低かったこともあり、高校2年生や3年生とプレーをする中で、「自分にはまだ足りない部分があるな」と感じることもありました。

でも、当時は負けず嫌いな性格だったので、「自分はできる」と信じてプレーしていましたし、実力のある選手たちに食らいついて、毎日レベルの高い環境で練習できたことはすごく貴重な経験で、とても楽しかったですね。

━━小中学生時代に意識して取り組んだことは

ドリブルや技術面では、男子と一緒にプレーしても通用していました。

ただ、メニーナに入団する際、背が小さかった分「何か武器がないと」と思って、小学生時代のコーチとキックの練習に力を入れました。

当時はボールを蹴っても遠くまで飛ばすことができなかったので、小学5年生くらいからメニーナのセレクションに向けて、しっかりとボールを蹴る練習を始めましたね。

すぐに飛ばせるようにはならなかったですが、「力がつけば飛ぶようになるから」と指導を受けて、まずは綺麗な回転のボールを蹴ることを意識して練習しました。セレクションでも、いいボールが蹴れた記憶があります。

━━両足のキックはどのように練習しましたか

インサイドキック自体は蹴ることができていたのですが、遠くに飛ばせず力任せになってしまうことがありました。

そこで、ボールへの足の当て方から丁寧に指導してもらい、まずは弾道が低くても、綺麗な回転のボールを蹴ることを目指しました。

中学に入ってからは左足の練習にも取り組んだので、今は左足でも右足でも同じように蹴ることができます。

©日刊スポーツ


[夢を追い続けて]

━━学校生活とクラブチームの両立は大変ではありませんでしたか

中学時代は埼玉に住んでいて、練習は午後5時30分から。学校のホームルームが終わるのが午後4時だったので、ギリギリ間に合うかどうかの毎日でした。母に車でサッカーの荷物を持って迎えに来てもらい、車の中で着替えて、午後4時5分発の電車に飛び乗る生活でした。

練習場はよみうりランドで、駅からも遠く、駅から練習場までのバスは午後5時15分に出てしまうので、間に合わないときは、グラウンドまで徒歩20分~25分の道のりを、荷物を背負ってダッシュしていました(笑)。

今思えばハードでしたが、当時は「好きなことをやっている」という気持ちが強くて、苦しいとは思いませんでした。監督やコーチも理解してくれていたので、無理にダッシュしなくても本当は良かったのですが、当時は毎日必死でしたね。

━━高校時代はどうでしたか

高校は都内だったので、中学時代に比べてすごく時間に余裕ができました。練習前にはボールの空気を入れたり、水を準備したりしてから、壁に向かってボールを蹴るなど自主練習の時間も確保できていました。

━━高校選びはサッカーを前提に決めたのでしょうか

そうです。埼玉県内の公立高校も検討していましたが、中学時代と同じような生活になると思って、通いやすさなども考慮して都内の高校を選びました。

帰宅は遅くなってしまいましたが、クラブで夕食をとれたので、帰宅後はシャワーを浴びてすぐ寝るという生活でした。今振り返ると、よく頑張っていたなと思いますね。

━━「プロ」を意識し始めたのはいつ頃ですか

中学時代からベレーザを目指しましたし、トップチームや代表でプレーしたいという気持ちはありました。

実際に高校時代の先輩で何人かプロ選手が身近にいたことで、現実的に意識したのは中学3年生から高校1年生くらいだったと思います。

━━これまでで最も苦しかった時期はいつ頃でしょうか

うーん、当時は苦しいとは感じていませんでしたが、中学1年生の頃ですかね。試合になかなか出ることができない時期でした。小学校6年生の時点で身長が135センチほどで、本当に小柄で、まだまだ戦える体ではありませんでした。

小学生の頃は同年代なら絶対に負けない自信がありましたが、中学では練習試合の終盤や、公式戦も途中出場が多かったんです。それでも練習が嫌になることはなく、レベルの高い環境でプレーできることが楽しかったですね。

なので、今思えば厳しい状況でしたが、当時はただがむしゃらにサッカーをしていた印象です。

©松岡健三郎

━━海外クラブでの経験を通じて継続的に練習や試合にでることで見えてきた課題はありますか

海外に渡った当初はスピード感や相手のタックルの深さなど、日本との違いに慣れるまでに時間がかかりました。

でも、続けるうちに慣れてきて、今は自分の感覚でプレーできるようになり、適応能力はついたと思います。

ただ、課題としてはポジションにもよりますが、重要な試合や拮抗した場面で決定的な大きな仕事がまだできていないということです。得点やアシストなど、目に見える結果をもっと出していきたいです。


[世界で戦う、小さな体の大きな挑戦]

━━体格差のある中で小柄な日本人が通用する面はありますか

男子より女子のほうがスピードの差を感じます。「よーいドン」で単純にスピード勝負をしたら勝てないと思います。だからこそ、それをカバーするにはプレーを予測する力や賢さが必要になります。

私は小柄な分、日本にいた時からその部分を意識してプレーしていました。今はその経験が生きていて、予測力を高く評価してもらえるので、手応えはあります。体格差は技術で補えるということを、自分のプレーで証明していきたいですね。

━━日本でも世界でも女子サッカーのレベルアップを感じることはありますか

はい。私がなでしこジャパンに入った頃と比べて、各国の代表チームのサッカーがより戦術的になっていると強く感じます。

以前はフィジカルで勝負するチームが多かったのですが、今はそれに加えて、どこでボールを奪いに来るのか分からないような、組織的な守備をするチームも増えています。

特にヨーロッパでは、男子サッカーが文化として根付いている分、女子にも本格的に力を入れ始めると、その成長が本当に早いなと、ここ数年での進化は目を見張るものがあります。


〈プロフィール〉

©UDNSPORTS

長谷川 唯(はせがわ ゆい)

1997年1月29日生まれ。日本のサッカー選手で、ポジションはミッドフィールダー(MF)。

埼玉県出身で、日テレ・東京ヴェルディメニーナを経て、日テレ・東京ヴェルディベレーザに昇格。2021年にはACミラン(イタリア)に移籍し、翌年からはイングランドのマンチェスター・シティへ加入。なでしこジャパン(日本女子代表)では2017年にデビューし、FIFA女子ワールドカップや東京オリンピックなど世界の舞台でも活躍。巧みなボールコントロールと予測力を武器に、日本代表の中盤を支える存在として知られる。

FPメディア編集部

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