
株式の発注方法には「指値注文(さしねちゅうもん)」と「成行注文(なりゆきちゅうもん)」がありますが、初心者の方にとってはその使い分けが難しく感じられるかもしれません。
本記事では、それぞれの注文方法の特徴やメリット・デメリット、初心者におすすめの使い方、よくある失敗例と対策までを丁寧に解説しています。
自分に合った注文方法を理解することで、より計画的な取引を行うことができるようになるでしょう。
1. 指値注文と成行注文の解説
比較項目 | 指値注文(さしねちゅうもん) | 成行注文(なりゆきちゅうもん) |
価格の指定 | あり(自分で価格を指定) | なし(市場価格で約定しやすい) |
約定の確実性 | 指定価格に届かないと約定しない | 高い(ほぼ確実に約定) |
スピード | 時間がかかることもある(条件次第) | 速い |
メリット | ・希望価格で取引できる・リスク管理しやすい | ・約定までのスピードが速い・指値注文よりも優先される |
デメリット | ・約定しないことがある・機会損失の可能性 | ・想定価格より高く(低く)買付(売却)となる可能性・スリッページの恐れ |
向いている人 | ・計画的に取引したい人・価格にこだわりたい人 | ・今すぐ売買したい人・スピード重視の人 |
注意点 | ・無理しすぎない価格設定が重要 | ・流動性の低い銘柄にはあまり向かない |
株式の取引をする際に、重要となるのが「注文方法」です。中でも基本となるのが「指値注文」と「成行注文」です。ここでは、それぞれの注文方法の特徴と違いをわかりやすく解説していきます。
1-1. 指値注文とは|自分で価格を指定する方法
指値注文は、売買したい価格を自分で指定し、買い注文は、指定した値段以下の売り注文が出れば約定でき、売り注文は、指定した値段以上の買い注文が出れば約定できます。
例えば現在の株価が1,000円だとして、「950円まで下がったら買いたい」場合、「950円で指値買い注文」を出すことで、価格が950円以下になったときにだけ買い注文が成立します。売却時も同様で、「1,050円以上で売りたい」場合、1,050円で指値売り注文を出せばその価格以上になったときだけ売却されます。
このように、指値注文は「希望する価格」でのみ取引を行うため、希望価格に到達しない限りは約定しません。そのため、「安く買いたい」「高く売りたい」といった希望を優先したい場合に有効な注文方法です。
しかし、希望価格に到達しなかった場合は取引が成立せず、機会を逃すこともあるため、注意しましょう。例えば、950円まで下がらずに株価が上昇してしまえば、その銘柄を買い逃してしまうことになります。
また、指値注文は「板(いた)」と呼ばれる売買注文の一覧に表示されます。どの価格帯に注文が集中しているかが見えるため、需給バランスを読み取る際の参考にするとよいでしょう。
1-2. 成行注文とは|自分で価格を指定せず、市場の価格にあわせる方法
成行注文は、売買価格を指定せずに注文を出す方式です。「この銘柄を今すぐ買いたい」「すぐに売りたい」という時の注文方法になります。
成行売り注文をした場合は、一番高く買い注文していた人と売買が成立し、成行買い注文をした場合は一番安く売り注文していた人と売買が成立します。
この方法の最大の特徴は「スピード(即時性)」です。特に、重要な経済指標の発表直後やその企業の決算発表など、市場が大きく動くタイミングでいち早く取引を成立させたい場合に有効です。
ただし、対象の銘柄を売却(購入)しようとする人がいなければ、成行注文でも約定しません。また「特別気配」が出ているときにも、約定しないことがありますので確認が必要です。
成行注文は価格を指定しないため、注文が成立したときの価格が想定よりも不利になるというリスクもあります。特に、相場が急変している状況や流動性が低い銘柄では、希望とかけ離れた価格で取引が成立してしまう「スリッページ」が起こる可能性があります。
2. 指値・成行注文のメリットとデメリット
株式の取引において、注文方法の選び方が利益や損失に大きく影響することもあります。ここでは、「指値注文」と「成行注文」のそれぞれのメリット・デメリットを詳しく整理し、実際の場面でどちらを選択すべきかを解説します。
2-1. 指値注文のメリット・デメリット
指値注文は、買い注文の場合は指値以下の株価、売り注文の場合は指値以上の株価にならない限り、注文が成立しない注文方法です。価格をコントロールして取引を進めたい方に向いています。
【メリット】
- 希望する価格で取引できる
指値注文のメリットは、指値以下での買付、指値以上での売却となるため、タイミングによっては有利な条件で売買できる可能性があります。狙った価格での取引を重視する投資スタイルと相性が良いでしょう。
- リスク管理がしやすい
あらかじめ価格を設定しておけるため、相場が予想外の方向に動いても、希望する価格以外で取引が成立することはありません。
- 感情に左右されにくい
事前に価格を設定することで、相場の一時的な動きに左右されずに取引を行うことができます。
【デメリット】
- 約定しない可能性がある
指定した価格に相場が届かなければ、取引は成立しません。注文約定の機会を逃す可能性があります。
- 取引成立までに時間がかかる場合がある
注文の状況によるため注文が成立するまで時間がかかることもあります。取引が成立しないこともあります。
- 一部約定の可能性
注文数量の一部だけ約定するケースもあります。特に株数の多い注文を出すときは、注意が必要です。
このように、指値注文は希望価格での売買を重視したい方に向いています。反対に、すぐに売買したい時や急変相場では不向きな場面もあるため、取引を行う目的や状況を見極めることが大切です。
2-2. 成行注文のメリット・デメリット
成行注文は「価格を指定せず、今すぐ売買を成立させたい」というときに使われる注文方法です。スピードを重視するときに選ばれる手法です。
【メリット】
- 注文がすぐに成立しやすい
価格を指定しないため、発注後すぐに約定しやすい点が特徴です。
- チャンスを逃さない
相場が急上昇・急落しているときは、指値を入れていると間に合わないことがあります。成行注文であれば、その時点で取引が成立する可能性が高いため、取引機会を逃しにくくなります。
【デメリット】
- 想定外の価格で取引が成立する可能性
特に流動性が低い銘柄では、希望から大きく離れた価格で約定する可能性があります。
- 損失が大きくなる可能性
相場が急変しているときに成行注文で売買すると、不利な価格での約定となり、損失が拡大することもあります。
- 事前に価格を把握できない
注文を出す段階でどの価格で成立するかわからないため、心理的な不安が残ります。特に初心者の方には不安材料となりやすいです。
成行注文は「とにかく早く取引したい」「急ぎでポジションを取りたい・手仕舞いたい」というときに向いていますが、想定外の価格になってしまう可能性があるということも受け入れる必要があります。
3. 投資初心者はどちらを指定するべき?
株式投資を始めたばかりの方にとって、最初に悩むのが「指値注文」と「成行注文」のどちらを使えばいいのかということです。ここでは、初心者が最初に意識すべきポイントや心構えを、解説していきます。
3-1. 投資初心者におすすめなのは“指値注文”の理由
投資を始めたばかりの方は「指値注文」から試してみるとよいでしょう。あらかじめ価格を自分で決められるので、冷静に取引できるからです。
株式投資では、たとえわずかな価格差であっても、長期的には運用成績に影響を与えることがあります。特に初心者の場合は、相場のスピードや「板情報(注文状況)」の見方に慣れておらず、思わぬ価格で取引をしてしまうケースが少なくありません。
例えば、ある銘柄を1,000円以下で買いたいと思っていたにもかかわらず、成行注文を出したことで1,005円や1,010円といった高値で買ってしまうことがあります。
その点、指値注文なら「この価格までなら買う」「この価格になったら売る」といった取引ルールを決めておけるため、自分の許容範囲外での取引を避けられます。これは、感情に左右されやすい初心者にとって、冷静な取引がしやすいという点で有効といえるでしょう。
株価が急騰したときに「今買わないと乗り遅れる」と焦って高値で買ってしまったり、逆に下がってくると「これ以上損したくない」と底値で売ってしまったりという感情的な取引を防ぐには、事前に価格を決めておくことが大切です。
3-2. 成行注文が有効なケースもある
「指値注文」が初心者に向いている一方で、すべての場面で指値注文が最適とは限りません状況によっては成行注文を使う方が賢明なケースもあります。
例えば、出来高が非常に多い大型株は、取引が頻繁に成立する傾向があります。こういった銘柄であれば、成行注文を出してもスリッページ(希望から大きく外れた価格での約定)のリスクが少なく、即時に注文が成立します。短時間で売買を成立させたい場合には、スピード重視の成行注文が有効に機能します。
また、相場が大きく動くニュースが出た直後など、「このタイミングを逃したくない」という場面でも、スピードを優先して成行注文を選ぶのが効果的です。
例えば、好決算の発表直後や、新製品の発表、為替や金利に関する重大なニュースなど、市場参加者の反応が一気に集まるタイミングでは、数秒の判断の遅れが大きな価格差につながることもあります。こうした局面では、成行注文によって即時にポジションを取ることが、チャンスを逃しにくくなります。
さらに、損切り(ロスカット)を確実にしたい場合にも、成行注文は選択肢のひとつです。できるだけ早く手放したいという状況では、成行注文で確実に売却してしまうほうが、損失の拡大を防げるケースが多いからです。特に、相場が急落している局面では、迷っているうちにさらに価格が下がってしまうリスクがありますので、スピードが求められる場面では成行注文が有効に働くこともあります。
つまり、「すぐに取引を成立させたい」「相場の流れに乗り遅れたくない」「損失を最小限に抑えたい」といった目的が明確で、かつ流動性が高い銘柄を扱っているときには、成行注文が有利に働く場面もあるため、適切な場面で適切な注文方法を選ぶことが、投資の精度を高めるポイントとなります。
3-3. 「買いたい(売りたい)気持ち」が先走らない心構え
投資において重要なのは「感情との向き合い方」だということを念頭に置いておきましょう。
投資を始めたばかりの頃は、株価がちょっと上がると「早く買わなきゃ」と焦り、逆に少しでも下がると「損しそう」とパニックになります。この“気持ちのブレ”こそが、多くの初心者が失敗する原因です。
買いたい気持ち、売りたい気持ちが強すぎると、本来の計画や戦略を無視してしまいます。そうならないためにも、まず「ルールを決める」ことが大切です。
たとえば以下のように、あらかじめ考えておきましょう。
「○○円まで下がったら買う」
「○○円まで上がったら利益確定する」
「△△%下がったら損切りする」
こうした自分のルールを決めておくことで、自分の感情ではなく「計画」に基づいて取引ができるようになります。
逆に、ルールがない状態で成行注文を多用すると、相場の動きに感情が引っ張られて、損失が積み重なりやすくなります。感情を完全に排除するのは難しいかもしれませんが、「数字やルールで判断する」ことを意識するだけでも、落ち着いた投資判断がしやすくなるでしょう。
4. よくある失敗例と対策
株式投資をする際に、「注文の出し方」は想像以上に重要です。機会を逃すだけでなく、思わぬ損失に直結することもあるため、失敗事例を知っておくようにしましょう。
ここでは、実際によくある注文ミスとその対策を紹介していきます。
4-1. 成行注文で予想外の高値買い・安値売り
成行注文による想定外価格での約定は、投資初心者が陥りやすい失敗の一つです。
成行注文はすぐに約定させたい場合には便利ですが、その反面「いくらで約定するか分からない」というリスクを常に伴います。特に、相場が大きく動いているときや、出来高が少ない銘柄を対象とした場合、思っていたよりもかなり高い価格で買ってしまったり、非常に安い価格で売却されてしまうケースが珍しくありません。
例えば、現在の株価が1,000円前後で推移している銘柄に対して、急騰のニュースを見て「今すぐ買わなければ」と成行で注文を入れたとします。このとき、他の投資家も同じニュースを見て一斉に買い注文を出していた場合、市場に出ている売り注文(売り板)が急激に減少します。すると、最も低い売り注文の価格(気配値)がすぐに消化され、株価が高騰し、最終的に1,050円、あるいは1,100円といった“飛び値”で約定してしまうことがあるのです。
例えば100円程度の違いであっても、100株購入した場合、数千円~1万円の差がでます。さらに、その後すぐに反落してしまった場合、購入直後に含み損を抱えてしまうことになります。こうした経験は初心者にとって心理的な負担となりやすく、冷静な判断力を奪う要因にもなりかねません。
また、成行での売却にも注意が必要です。急落局面で「とにかく早く売りたい」と思って成行売り注文を出した場合、買い注文が少ないと、想定よりもかなり安い価格で約定してしまうことがあります。これも、必要以上の損失を生む原因となるため、慎重に判断する必要があります。
【対策】
- 出来高が少ない銘柄や急騰・急落中の銘柄は慎重に見極める
流動性の低い銘柄や価格が急変している局面では価格のブレが大きくなりやすいため、成行注文では思わぬ価格で約定してしまうリスクが高まります。
- 板情報(気配値)の確認を習慣にする
事前に「価格帯ごとの注文数(板の厚み)」をチェックすることで、注文がどの価格で約定しそうかをある程度見極めることができます。特に、売買の板が薄い場合は成行注文を避けるかどうかの判断材料になります。
- スリッページ対策には逆指値注文も有効
成行注文の代わりに、逆指値注文を使うことで、想定外の価格で約定するリスクを抑えることが可能です。買いの場合は「指定した価格以上になったら(指値、または成行で)買い」、売りの場合は「指定した価格以下になったら(指値、または成行で)売り」という設定ができるため、リスク管理に有効です。
成行注文はスピード重視の場面では有効ですが、常に「どんな価格でも約定してしまう」リスクを内包しています。状況に応じて、冷静に注文方法を選ぶことが、安定した資産運用につながります。
4-2. 指値注文の場合、約定しないまま株価と乖離していくことも
成行注文には「想定外の価格で約定してしまう」可能性がありますが、指値注文には「注文が成立しないまま株価が上昇、または下落してしまう」という可能性があります。
例えば、ある銘柄が現在980円で推移していたとします。投資家が「もう少し下がったら買いたい」と考え、950円に指値注文を設定したとします。ところが、実際の値動きでは951円で下げ止まり、そこから急反発して1,000円、1,050円と上昇していった場合、950円の買い注文は“刺さらず”、買い場を逃してしまう結果になります。
このようなケースは、特に短期売買やイベントドリブン(企業や市場で起こる特定のイベントを起点にして投資判断を行う戦略)のトレードでよく見られます。企業の決算発表や経済指標など、何らかの“材料”で一時的に株価が急に動いたとき、「あと少しで買えたのに」という機会損失を招くのです。損失は出していなくても、本来得られたかもしれない利益を逃しているという点で、心理的に大きなストレスとなることもあります。
この“機会損失”は、焦りや後悔といった感情を生みやすく、次の取引で冷静さを欠いた判断を誘発する原因にもなりかねません。
【対策】
- 「欲張りすぎない価格設定」を意識する
数円でも安く買いたいという気持ちが強すぎると、結果的に約定の機会を逃すこともあります。特に人気銘柄や好材料が出た直後などは、「この価格ならまず約定するだろう」という現実的な水準に指値を置くことが大切です。
- どうしても買いたい銘柄には、指値と逆指値の併用も有効
例えば、「950円で買いたいけれど、逃したくない」場合には、「950円で指値」「970円を超えたら成行で買う」というように、複数の注文を組み合わせる方法もあります。
- 冷静に価格をシミュレーションする
過去の値動きや出来高、サポートライン・レジスタンスラインなどのテクニカル指標を活用し、「本当にそこまで下がる余地があるのか」を一度立ち止まって確認しましょう。
指値注文は「取引価格をコントロールできる」という点で便利な手法ですが、慎重になりすぎて機会を逃してしまっては本来の目的を果たせなくなってしまいます。
状況によっては、成行注文を使ってでも参加すべき局面もあることを頭に入れておくと、投資チャンスを広く捉えられるようになります。指値・成行のいずれも一長一短があることを理解し、柔軟な姿勢で臨むことが成功の鍵といえるでしょう。
4-3. 発注時の注意点と確認ポイント
注文ミスの多くは、「確認不足」や「焦り」によって発生します。注文ボタンを押す前に、最低限以下のポイントをチェックする習慣を持ちましょう。
【チェックリスト】
- 注文タイプの確認(成行or指値)
- 売買の方向(買いor売り)
- 株数・ロット数の設定ミスがないか
- 注文価格の桁数にミスがないか
- 現在の板状況や出来高を確認したか
- 指値の場合は“いつまで有効”か確認したか
また、注文後すぐに相場が大きく動くこともあるので、「約定後の対応」も頭に入れておくことが大切です。例えば、約定後に逆指値注文で損切りラインをセットするなど、次のアクションを準備しておくことで、想定外の下落があった場合にも損失を限定しやすくなります。
焦らず、欲張らず、慣れるまでは慎重に確認する。これが、初心者のうちに覚えておきたい最大の防衛策です。
5. まとめ
株式投資を始めるにあたって、注文方法の選び方は非常に重要です。「指値注文」と「成行注文」にはそれぞれのメリットとデメリットが存在し、状況に応じた使い分けが投資の成功に直結します。
初心者の方には、価格を自分で決めて取引できる「指値注文」がおすすめです。冷静な判断をしやすく、感情に左右されずに取引をコントロールできる点が大きな魅力だからです。一方で、急激な値動きやタイミングが重要な局面では、スピード重視の「成行注文」が有効になる場面もあります。特に出来高が多い大型株や、損切りを早急に行いたい場合などには、成行注文をうまく活用することで、機会を逃さずリスクを最小限に抑えられます。
ただし、どちらの注文方法にも必ず失敗はつきものです。成行では価格の乖離に、指値では注文が刺さらないまま株価が離れていく“機会損失”に注意が必要です。そのため、感情に流されずに事前にルールを設定し、注文前にはしっかりと内容を確認する習慣を持つようにしてください。
注文方法を正しく理解し、相場に応じて柔軟に使い分ける力を身につけることで、初心者でも着実に投資のスキルを高めることができます。焦らず、一歩ずつ経験を積みながら、自分に合ったスタイルを築いていきましょう。