M&A(企業の合併・買収)は、企業の成長戦略として非常に重要な選択肢です。しかし、適切な専門家の支援がなければ、失敗に終わる可能性も出てきます。。
この記事では、M&Aが企業成長に与える影響や、失敗を避けるための事前準備を解説したうえで、相談先としての仲介会社やファイナンシャル・アドバイザー、公的機関の役割を比較します。
1.M&Aの相談先
M&Aの主な相談先としては、①公認会計士や税理士、②M&A仲介会社、③銀行や証券会社などの金融機関、④商工会議所などの公的機関が挙げられます。
それぞれ異なる強みがあり、目的や条件に応じて正しい選択をすることが重要です。
1-1.公認会計士や税理士
公認会計士や税理士は、取引先の場合には自社の税務や会計のことを理解しており、一番相談しやすい相手であると言えます。
特にM&Aにおいては、財務状況の評価、税務上のリスク分析、契約内容の確認など、専門的な知識が必要となる場面で頼れる存在となります。
M&Aを専門とする会計士や税理士に依頼すれば、デューデリジェンス(買収監査)や契約書の作成、税務スキームの構築など、手続きにおいて適切なサポートを受けられます。
ただしM&Aの専門知識や経験が少ない場合もあるので注意が必要です。
1-2.M&A仲介会社
M&A仲介会社は、依頼者の希望に沿った相手企業を見つけ出すこと、M&A成功に向けた包括的なサポートを行う点が強みです。
豊富な候補企業情報をもとに、売り手と買い手のマッチングを効率的に行います。法務・税務・財務の専門知識を持ち、必要に応じて外部専門家との連携も可能です。
ただし、仲介会社は数多くあるため、依頼先の選定は慎重に行う必要があります。
高額な手数料が発生することや、売り手と買い手双方をサポートする立場から、必ずしも依頼者の利益のみを優先するとは限らない点にも注意が必要です。
1-3.銀行や証券会社などの金融機関
銀行や証券会社などの金融機関の強みは、会計・財務の専門知識と、幅広い取引先ネットワークです。
特に取引銀行は、日常的に企業の財務状況を把握しているため、スムーズな相談が期待できます。
また、金融機関にはM&Aの専門部署が設置されている場合があり、専門的なサポートを受けることもできます。。
注意点は、金融機関が主に対象とするのは一定規模以上の企業の場合が多く、中小企業への対応は難しいこともある点です。
手数料が高く、コスト負担が大きくなる傾向があります。加えて、組織規模が大きいことから、対応に時間がかかる場合もあるため、迅速なM&Aを希望する場合には注意が必要です。
またM&Aの相手先の候補として融資先が優先される傾向があり、地場の企業が多くなるためマッチング数の少なさや、情報漏洩のリスクが高くなることも把握する必要があります。
1-4.商工会議所などの公的機関
商工会議所などの公的機関も、M&Aの相談先としておすすめです。
商工会議所は、地域企業の支援を目的とする準公的団体であり、企業の規模に関わらず相談可能です。
特に「事業承継・引継ぎ支援センター」が設置されている地域では、M&Aを含む事業承継に関する専門的な相談を受けられるのも魅力です。
国や自治体の助成金・補助金情報も提供してくれるため、手数料や専門家費用の負担を抑えられる可能性があります。
ただし、M&Aプロセス全体を専門的に支援するわけではなく、マッチングや契約手続きの進行については、他の専門家への依頼が必要となることもあります。
また、助成金・補助金の申請には期限があるため、事前に確認しておきましょう。
2.相談先の探し方
M&Aでは、自社のニーズに合致した最適な専門家を見つけることが不可欠です。専門家選びの初期段階で、いくつかの重要な点を押さえる必要があります。
2-1.専門性と実績を確認する
M&Aでは、専門性と実績を慎重に見極めることが重要です。
専門性とは、M&Aに関する法律、財務、税務など、幅広い知識と経験を指します。これらの専門性が不足していると、的確なアドバイスを得ることが難しく、M&Aの成否にも影響します。
実績については、過去にどのようなM&A案件を手がけたか、成功事例をどの程度有しているかを確認することで、専門家の信頼性を判断できます。また、所属する組織や会社の評判も重要な判断材料となります。
これらの情報を総合的に考慮し、候補となる専門家をリストアップした上で、実際に面談を行い、最終的な相談先を決定しましょう。
2-2.無料相談を利用する候補となる相談先をリストアップしたら、無料相談を積極的に活用しましょう。
ホームページやサービス資料だけでは判断できないことが多くあるため、実際に面談を実施するのがお勧めです。
無料相談では、専門家の知識や経験だけでなく、コミュニケーション能力や対応力も確認できます。
3.M&A専門家に相談する際の注意点
「しつこい営業に注意する」「契約条件を確認しておく」など、M&A専門家に相談する際の注意点を見ていきましょう。
3-1.しつこい営業に注意する
M&A専門家のなかには、契約を急かしたり、過剰に成功事例を強調するなど、強引な営業を行うケースも見られます。
このような状況に遭遇した場合は、別の専門家に依頼しましょう。
3-2.契約条件をよく理解する
契約書には、料金体系、サービス内容、成功報酬の条件、免責事項など、重要な情報が細かく記載されています。
契約締結前に、これらの項目を一つ一つ丁寧に確認し、不明な点があれば必ず質問するようにしましょう。安易な契約は、後々のトラブルにつながる可能性があります。
3-3.受けるサービスの内容を確認する
専門家を選ぶ際には、どのようなサポートを受けられるのかを具体的に確認しましょう。
例えば、デューデリジェンス、交渉、契約締結、M&A後の統合支援など、提供されるサービス内容は様々です。
自社のニーズに合ったサービスを提供してくれる専門家を選びましょう。
4.M&Aの流れと手続き
M&Aには様々な手法とプロセスがあります。M&Aを成功させるためには、適切な手法を選択し、綿密な計画に基づいてプロセスを進めることが重要です。
M&Aの手順は、大きく分けて以下のようになります。
- 準備段階:M&Aの目的や戦略を明確化します。
- 交渉段階:ターゲット企業と交渉を行い、基本合意書の締結を行います。
- デューデリジェンス段階:ターゲット企業の財務状況や事業内容を調査します。
- 最終契約締結段階:最終契約書を締結し、M&Aを完了させます。
- 統合段階:買い手と売り手、双方の企業統合のプロセスです。
以下、1つずつ解説していきます。
4-1.準備段階
M&Aの初期準備段階では、M&Aの目的、戦略を明確にします。
特に目的、動機の整理は重要になります。M&Aの成約には1年以上かかることも多くあります。その間に多くの意思決定を行うことになります。
判断に迷う場面や状況の変化があった場合に、譲渡を決意した理由を明確にしておくことで正しい意思決定を行うことができます。
4-2:交渉段階
まずは明確化した譲渡目的、条件に優先順位をつけましょう。一般的には「売却益」「従業員の雇用」「既存取引先との取引継続」などが考えられます。
買い手も同じように複数の条件を希望するため、すべての条件を通すことは簡単ではありません。
そのため優先順位をつけ、絶対に譲ることのできない条件ではない場合には譲歩することもM&Aを成功させるためには必要になります。
4-3.デューデリジェンス段階
基本合意書が締結できたら、デューデリジェンス(Due Diligence)と呼ばれる詳細な評価・分析を行います。この工程は頭文字をとって「DD」と呼ばれることもあります。
デューデリジェンスはさまざまな角度から行います。
事業性を評価する「ビジネスデューデリジェンス」や財務分析を行う「財務デューデリジェンス」が一般的ですが、適法に事業が運営されているのかの法務や税務などの観点でも精査が行われます。
売り手は資料の不備や質問への虚偽の回答が無いようにすることが大切です。資料の不備や質問への回答の不足があると、デューデリジェンスの期間が伸びてしまったり、買い手からの信用を失い破談になってしまうこともあります。積極的に情報を開示して協力しましょう。
しかし要求される情報は膨大になることも多く、売り手の大きな負担になります。経営者だけでは対応できない場合もあるため、専門家によるサポートが必要になることもあります。
4-4.最終契約段階
デューデリジェンスが終わったら、最終的なM&Aの条件提示を行い、合意が得られれば最終契約の締結に入ります。
M&Aの手法によって契約内容が異なります。
株式譲渡の場合と事業譲渡の場合では契約内容も異なるので、弁護士などの専門家の力も借りて契約書の作成、締結を進めましょう。
4-5.統合段階
M&Aが完了したからと言って成功が約束されるわけではありません。
M&A後の事業戦略・業務プロセス・文化統合も非常に重要なプロセスです。
統合がうまくいかないと、事前に想定していたシナジーが生まれずにM&Aの効果が低くなる可能性があります。
専門家を交えて、企業統合を円滑に行うことも有効です。
5.まとめ
公認会計士や税理士、M&A仲介会社、銀行や証券会社などの金融機関、商工会議所などの公的機関への相談にはそれぞれメリット、デメリットがあります。目的に合わせた専門家選びをすることから始めましょう。
M&Aのプロセスを理解し、専門家と協力しながら各ステップを丁寧に実行していくことが重要です。