M&Aを検討しているものの、何から準備を始めれば良いのか分からずに悩んでいる経営者の方も多いのではないでしょうか。
M&A(合併・買収)は企業成長の大きな転換点となる一方で、綿密な準備なく進めてしまうと、大きなリスクを伴います。
本記事では、M&Aの準備段階における重要なポイントや流れを買い手側・売り手側両方の視点も交えて解説しますので、ぜひ参考にしてください。
M&Aの準備とは
M&A(企業の合併・買収)の準備は、M&Aの成功を左右する非常に重要なステップです。
準備段階では、目的や戦略の策定、自社の分析、必要書類の作成、相手企業の選定など、トップ面談までに必要な業務が多くあります。
〈M&A全体の流れ〉
- M&Aの目的と戦略の策定
- 自社の現状分析と価値の把握
- 対象企業の選定と絞り込み
- トップ面談
- 交渉と意向表明書(LOI)の作成
- 基本条件の合意
- デューデリジェンス(買収監査)
- 最終契約書の締結
- クロージングと統合プロセス(PMI)
これらを着実に進めることで、M&A後の統合もスムーズに進むでしょう。
M&Aの準備の流れ
M&Aの準備は、主に以下の5つのフェーズに分かれます。
- M&Aの目的や戦略の策定
- 自社の現状分析
- M&Aに必要な資料の作成
- スケジュールの策定
- 相手企業探し・絞り込み
M&Aの目的や戦略の策定
M&Aの最初のステップは、目的や戦略を明確にすることです。
M&Aを行う理由を定義することで、どのような企業をターゲットとするべきか、またどのような取引条件が適切かを見極めやすくなります。
例えば、市場拡大を目的とする場合、ターゲット企業が新たな市場に進出しているか、シナジー効果を発揮できるか、事業規模の拡大により利益率の向上などを考慮します。
戦略が明確になることで、M&Aが単なる規模拡大にとどまらず、新規ビジネスの開拓や企業価値を最大化する手段となります。
自社の現状分析
M&Aを進める前に、自社の現状を正確に把握することが重要です。これには、財務状況や経営資源、人員構成、市場調査さらには企業文化までの多角的な分析が含まれます。
自社分析をすることで、どの分野で強みを持っていて、どの分野の補完が必要かが明確になり、その洗い出しによって方向性を決定しやすくなります。
〈自社分析フレームワークの一例〉
・SWOT分析(スウォット分析) 自社の状況を「Strength=強み」「Weakness=弱み」「Opportunity=機会」「Threat=脅威」の4つに分けて分析する手法。自社の状況を全体的に把握し、今後の戦略を計画するための基盤作りのフレームワーク。 ・PPM分析(プロダクト・ポートフォリオ・マネジメント分析) 市場成長率と市場占有率(マーケットシェア)を計算し、経営資源の投資配分を判断するための手法。自社や競合他社の立ち位置が明確になり、投資配分の優先順位がつけやすくなるためのフレームワークで、迅速な経営判断ができるようになります。「市場成長率」と「市場占有率」の高低の組み合わせにより、事業活動を以下の4つのフェーズに分類します。 ・問題児 :市場成長率は高いが。市場占有率は低い ・スター(花形):市場成長率、市場占有率のどちらも高い ・負け犬 :市場成長率、市場占有率のどちらも低い ・金のなる木 :市場成長率は低いが、市場占有率は高い ・アンゾフの成長マトリクス 成長戦略を「製品」と「市場」の2軸におき、それをさらに「既存」と「新規」に分類して分析する手法。アンゾフのマトリクスは、以下の4つのグループから構成されています。 ・市場浸透戦略 :既存製品×既存市場による成長 ・新製品開発戦略:新規製品×既存市場による成長 ・新市場開拓戦略:既存製品×新規市場による成長 ・多角化戦略 :新規製品×新規市場による成長 |
例えば、技術力に強みがあるが営業力に課題がある場合、営業力強化を狙うターゲット企業を選ぶことが有効です。
M&Aに必要な資料の作成
売り手側と買い手側で用意する資料は異なり、それぞれの目的に合わせて精度を高める必要があります。
売り手側は、会社案内資料、経営計画書、貸借対照表や損益計算書などの財務諸表、決算所および確定申告書、事業内訳、登記簿謄本、定款、株主名簿、組織図、従業員名簿、雇用契約書、就業規則等の各規定類、取引先との契約書一式などを整備します。これにより、買い手側は取引対象企業の実態を正確に理解しやすくなります。
一方、買い手側は、買収資金の調達計画や買収後の統合計画などを準備し、取引の実行可能性を示します。両者が準備した資料は、取引を円滑に進めるための基盤となります。
スケジュールの策定
準備から交渉、契約締結、そして統合プロセスまで、各ステップに適切な時間を確保することが重要です。
スケジュールを早期に設定し、各タスクの期限を決めることで、途中での遅延や混乱を防げます。
相手企業探し・絞り込み
M&Aの準備段階で重要なプロセスの1つが、M&Aの対象候補となる企業の選定と絞り込みです。市場調査を通じて、ターゲットとなる企業のリスト(ロングリスト)を作成します。
「ロングリスト」とは、M&Aの初期段階においてターゲット候補となる企業を一定の条件で絞り込みを行い、作成された候補企業リストです。
そのロングリストの中から、より検討可能性が高く、自社のニーズや目的に合致した企業を絞り込み、取引先としての適合性を評価したリストを「ショートリスト」と言います。ロングリストからさらに精度を上げて絞り込み、具体的な検討資料として使われます。
M&Aの候補となる企業の条件をできるだけ明確にすることで、一定以上の精度でスクリーニングを行うことができます。そこから深堀りして相手先企業の財務状況、事業内容、企業文化などを考慮し、自社とのシナジー効果を最大化できる相手先企業を選ぶこと、そこから実際の交渉に入ります。
M&Aの準備を成功させるポイント
M&Aは単なる買収ではなく、両社が協力しあって新たな価値の創造を考慮することが重要です。
M&Aの準備を成功させるポイントは、主に以下の4つです。
- 十分な準備期間の確保
- 動機の整理と知識の習得
- M&Aのリスクの把握
- M&Aの専門家への相談
●十分な準備期間の確保
M&Aの成功には、十分な準備期間を確保することが不可欠です。業界特性や経済動向にも影響を受けやすく、候補先が見つかりやすいタイミングもあるため相談は早めに行いましょう。ただし、準備段階では焦らず計画的に進めることが重要です。
準備を急ぐあまりに計画や自社分析、把握などの過程を省略してしまうと、最終的にM&Aの目的が達成できなかったり、最後の交渉で問題が発生するリスクが高まります。
各ステップに必要な時間を確保し、慎重に進めることがM&A成功のための重要なポイントです。
●動機の整理と知識の習得
M&Aを進める前に、自社の動機を整理することが重要です。
なぜM&Aを行うのか、どのような企業と統合したいのかを明確にすると、戦略をぶれさせずにM&Aを進められます。
<自社への動機と理解>
・売り手側
・自社の強み・課題は?
・条件の優先順位は?
・譲渡希望価格は?
・買い手側
・買収の目的は?
・希望する事業は?
・自社とのシナジー効果は?
自社情報を整理することで改善するべき点が見つかった場合は、早めにできる限り改善しておくようにしましょう。
また、M&Aに関する知識を習得することで、取引の進行中に生じる問題に冷静に対応できるようになるでしょう。適切な知識と動機整理が、M&Aを円滑に進めるための基盤を作ります。
●M&Aのリスクの把握
M&Aには、さまざまなリスクがともないます。財務、法務、労務など、リスクを事前に把握しておくことがM&Aを成功させるポイントの1つです。
〈財務リスク〉
買収後に予想以上の負債が発覚したり、期待していた収益が得られなかったりした場合に、企業の財務状態に影響を与えるリスクです。
財務リスクを減らすためには、事前に詳細な財務調査を行い、リスクを最小限に抑える方法を見つけることが必要です。
〈法務リスク〉
法務リスクは、契約書や法的手続きを適切に処理しないことによって後々法的トラブルが発生するリスクです。
法務リスクを減らすためには、M&Aに関する契約内容の詳細を精査し、法的な問題点を洗い出して対策を講じることが大切です。また、従業員との契約や知的財産権に関する法的リスクも事前に把握し、適切に対応することが重要です。
〈労務リスク〉
労務リスクは、M&A後の企業統合時に最も多く発生する問題の1つです。従業員の雇用契約や福利厚生、労働条件が変わることで、従業員の反発や離職を招くリスクです。
このリスクを避けるためには、事前に従業員の意向や現行の制度を把握し、統合後の労務方針を適切に設計することが求められます。
●M&Aの専門家への相談
M&Aを進める際、専門家への相談は非常に重要です。
M&Aに関する法務、財務、税務などの知識や経験を持った専門家に相談することで、取引がスムーズに進み、リスクを最小限に抑えることが可能です。
特に複雑な案件では、専門家のアドバイスやサポートを受けることで、最適な判断に繋がるでしょう。
まとめ
M&Aの準備は、企業の未来を左右する重要なプロセスです。事前にしっかりと計画を立て、目的や戦略を明確にすることが成功への第一歩となります。
自社分析や必要書類の作成、リスクの把握など、細部にわたる事前準備が最終的な結果に大きく影響します。
また、専門家のアドバイスを受けることでM&A実行前にプロセスの見落としや調査不足などの防げるリスクを洗い出し、策を練ることで、円滑な取引を進めることができるでしょう。
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