
近年の金利上昇に伴い、不動産市場は大きな変化の時期を迎えています。住宅ローンや投資用ローンの金利が上昇する中で、価格や需給、投資判断にも影響が出はじめています。
本記事では、金利上昇が不動産価格に与える影響と、そのような経済環境下での「買い時」「売り時」の見極め方について解説します。
1. 金利上昇が不動産市場に与える影響とは?
近年、世界的なインフレ圧力や経済成長に伴い、各国の中央銀行は金融政策の正常化を進めています。
日本においても、2024年3月に日本銀行がマイナス金利政策を解除し、政策金利の引き上げを実施しました。これにより、住宅ローンや不動産投資ローンの金利が上昇し、資金調達コストが増加しています。
1-1. 借入コストの増加で購入需要が減少
住宅ローン金利が上昇すると、購入者の借入コストが増加し、次のような影響が想定されます。
1.購入意欲の低下
金利上昇により、住宅ローンの返済額が増加し、購入者の月々の負担が重くなります。その結果、住宅購入を控える動きが強まり、購入意欲が低下します。
2.購入可能者の減少
金融機関は、金利上昇局面では融資リスクを意識し、審査基準を厳しくする傾向があります。これにより、ローンの承認が難しくなり、実際に住宅を購入できる人の数が減少します。
これらの要因が重なることで、不動産市場の需要が減少し、エリアや物件タイプによっては価格の価格の調整圧力が強まる可能性があるのです。
1-2. 投資利回りの悪化で不動産の魅力が低下
不動産投資においても、金利の上昇は以下のような影響を及ぼします。
1.収益性の低下
借入金利の上昇により、ローンの返済負担が増加し、投資物件から得られる純収益が減少します。これにより、不動産投資の収益性が低下します。
2.相対的な魅力の減少
金利が上がると、国債や社債などの固定利付商品の利回りも上昇するため、不動産と比較した際の投資妙味が薄れることがあります。特にリスク許容度の低い投資家は、より安定的な資産クラスへ資金を移す傾向が見られます。
これらの影響により、不動産投資市場からの資金流出が起こり、不動産価格の下落要因となることが考えられます。金利の上昇は、住宅購入者や不動産投資家の行動に影響を与え、不動産市場全体の需給バランスを変化させる要因となります。今後の金利動向や経済情勢を注視し、適切な対応が求められます。
2. 金利上昇局面における不動産価格変動例
一般的に、金利と不動産価格は逆相関にあるとされています。政策金利が上がると住宅ローンや不動産投資ローンの金利も上昇し、借入余力が低下するため買い手は価格交渉力を強め、物件価格には下押し圧力がかかります。
ただし、都心や駅近など需要が集中する立地では依然として買い手が多く、価格調整は限定的にとどまるケースも少なくありません。ここでは価格帯・用途・地域という3つの観点から、金利上昇局面における価格変動の傾向について整理します。
2-1. 高価格帯物件ほど下落リスクが高くなる
いわゆる「億ション」や2億円を超える高価格帯の住宅は、購入層が富裕層や資産家、投資家などに限られるため、需要が限られる傾向にあります。
こうした層であっても、金利上昇により借入コストが増加すると取得を見送るケースがあるため、価格調整に入りやすく、物件価格下落のリスクが相対的に高まることがあります。
2-2. 実需物件は投資物件より価格が安定しやすい
収益不動産はキャップレート(期待利回り)で価値が決まるため、国債利回りや銀行貸出金利が上がると「利回りの上乗せ」が求められ、価格調整を余儀なくされます。
特に家賃の上昇が見込みづらいエリアや、築年数の経過したワンルーム・アパート物件では、期待利回りに見合う収益が確保できず、価格下落に直結するケースもあります。
一方、自己居住を目的とする住宅(実需物件)は「住むために必要」という動機が強く、金利負担の増加を踏まえつつも購入が続く傾向があります。そのため投資利回りだけを基準に価格が決まる収益物件と比べると、値下げ幅は相対的に小さく、成約価格も緩やかに推移する傾向があります。
2-3. 地方より都市部の価格下落は緩やかになりやすい
東京都心部や主要都市の駅近エリアなど、人口・雇用が集中する地域では、金利上昇局面でも強い実需とインバウンド需要が下支えとなり、価格調整は限定的に推移することが多いとされています。
一方で人口減少や住宅供給過多が進む地方や郊外エリアでは、金利上昇で需要がさらに細るため、価格の伸び悩みや早期の下落が起こりやすいと考えられます。
また、主要地方都市の商業地であっても、期待利回りの上昇を賃料改定で吸収できなければ価格下落圧力が残るため、エリア選別の重要性は金利上昇局面で一段と高まります。
3.「買い時」の見極め方
住宅購入のタイミングは、不動産価格や金利の動きだけでなく、家計やライフプランとも深く関わります。ここでは、市場環境と生活ニーズの両面から不動産購入の最適なタイミングを見極めるための視点を整理します。
3-1. 金利が上がる前の固定金利ローンが有利
固定金利型の住宅ローンは、借入時に返済額が確定するため、家計管理がしやすいという利点があります。金利が上昇トレンドに入ると、変動金利型よりも総返済額を抑えられる可能性が高まるからです。
ただし「固定型が必ず有利」というわけではありません。たとえば将来大幅な金利低下が起これば、変動金利型のほうが利息負担を軽減できるケースも生じます。
したがって、固定か変動かを選択する際は、
・金利が上昇・横ばい・下落する3つのシナリオを想定して総支払額を試算する
・ローン残高に対する頭金の割合や繰上げ返済の余地を確認し、金利変動によるリスク許容度を把握する
・返済比率を年収の25%〜35%程度に抑える
といった検討をすることで、将来的な金利変動にも柔軟に対応しやすくなります。
3-2. 価格調整後のタイミング
物件価格の底値をピンポイントで見極めるのは専門家でも困難です。しかし、価格調整の局面で需要と供給のバランスが崩れ、売り手優位から買い手優位に転じる局面では価格交渉がしやすくなります。具体的には、
・急速な金利上昇で購入希望者が減退したエリア
・開発ラッシュなどで新規供給が一時的に過多となっているエリア
・中古物件の在庫が積み上がり成約までの期間が長期化しているエリア
が狙い目です。
こうした局地的な調整を見極める鍵は、月次の成約単価や在庫期間の推移をチェックしながら、希望条件を満たす物件が出たら迅速に動くことです。
ただし、価格だけに注目せず、金利上昇によるローンコストの増加を加味し、「物件価格+支払利息」の合計コストで判断するようにしましょう。
3-3. 必要性が明確なら待たずに決断する
家族構成の変化や子どもの進学など、ライフイベントが明確になっている場合は、市場の動向にこだわりすぎず、「今必要かどうか」を基準に判断することも重要です。
購入を見送っている間にも家賃はかかり続け、引っ越しや学区の変更などで生活上の負担が増えることもあります。完璧なタイミングを待つよりも、現実的な計画を立てて行動することが大切です。
無理のない資金計画のポイントとしては、
・頭金をしっかり準備して借入額を減らす
・変動金利を選ぶ場合は、返済額が増えても対応できるよう、家計の余裕を確保する・将来的に住み替えの可能性がある場合は、売ったり貸したりしやすい駅近など、流動性の高い物件を選ぶ
などが挙げられます。
ご自身の家計や将来設計に合った物件が見つかれば、それがあなたにとって一番良い「買い時」かもしれません。市場の状況は常に変わりますが、自分自身の考えをしっかり持っていれば、多少の金利や価格の変動は長い目で見れば乗り越えられるでしょう。
4.「売り時」の見極め方
これまで長く続いた低金利環境の影響で不動産価格が上昇傾向にありましたが、2025年に入ってからは長期金利の上昇が意識され始め、住宅ローンの固定金利もじわじわと上昇しています。
今後の金融政策の変更によって借入コストがさらに増加すれば、買い手の資金繰りが厳しくなり、需要が減少することで価格調整が起こるリスクも高まります。ここでは「金利上昇が本格化する前」「相場が下落基調へ転じる前」の2つの局面を想定し、それぞれの売却判断のポイントを解説します。
4-1. 金利上昇が本格化する前に売却を検討する
金利上昇局面では、住宅ローンの返済負担が増すため、購入意欲が鈍り、価格が軟化しやすくなります。実際に、過去の金利上昇期には、都市部の中古マンション価格が横ばいからやや下落する動きが見られました。
このような局面では「長期金利と不動産利回り(キャップレート)のスプレッド」に注目することが重要です。スプレッドが縮小することは、不動産の投資利回りが相対的に低下していることを意味し、投資対象としての魅力が薄れるサインといえます。
不動産価格が下落するリスクが高まる場面では、スプレッドの動きを一つの判断材料として早めの売却を検討することが有効です。
また、住宅ローン金利の先行きを判断する際は、10年国債利回りの動きにも注目しましょう。住宅ローン金利は10年国債利回りに連動する傾向があるため、債券市場で利回りが上昇し始めたら、住宅ローン金利も後追いで上がる可能性が高まります。この兆しが見えた段階で売却活動を開始することで、有利な条件で取引しやすくなります。
また、日銀が発表する金融政策の方針(フォワードガイダンス)も重要です。マイナス金利の解除や国債買い入れの縮小が示された場合、長期金利の上昇が加速し、市場全体の雰囲気も冷え込む可能性があるため、その前に売却を進める判断ができます。
4-2.相場が下落し始める前に売却してリスク回避する
価格の下落リスクに備えるには、いくつかの市場指標に注目し、早期のサインを見逃さないことが重要です。
まず、取引量と在庫数の推移に注目しましょう。たとえば、成約価格が横ばいでも、新規売出し件数が前年同月比で2桁増加しているような状況では、数か月後に価格が下落に転じる可能性があります。供給が増え需要が伸び悩めば、市場は調整に向かいやすくなります。
供給面では、「建築着工件数」や「住宅着工許可件数」が重要な先行指標となります。これらの指標が前年を下回る月が続くと、将来的な供給減が見込まれるからです。供給が減る一方で中古住宅の在庫が積み上がっていけば、需給のバランスが崩れ、価格が急落する懸念も生じます。
また、景気の先行きを示す企業の設備投資動向や、金融機関の貸出態度にも注意が必要です。貸出態度が厳しくなると、不動産投資への資金供給が滞り、投資マインドが冷え込みます。これにより取引額が減少し、市場の活気が失われていきます。
さらに、海外投資家の動向も見逃せません。景気後退局面では、資金の回収スピードが遅くなることへの懸念から、海外投資家が資金を引き上げる動きが見られることもあります。これにより、不動産市場全体の流動性が低下し、価格が下落するリスクが高まります。
最後に、売却タイミングを考えるうえで重要なのがマクロ経済イベントの集中時期です。たとえば、日米の金融政策会合が連続する週などは、金利や為替のボラティリティが高まるため、買い手の様子見姿勢が強まります。
こうしたタイミングを避けるか、交渉余地を織り込んだ価格設定を行うことが、安定した資産売却につながります。
5. 投資用不動産における金利上昇リスクとその対策
近年、日本でも金融緩和の出口が現実味を帯びてきたことで、政策金利や長期金利の上昇が意識されるようになっています。
投資用不動産においては、一般的にローンを活用したレバレッジ投資が主流であるため、金利上昇はキャッシュフローの圧迫や資産価値の目減りといった複数のリスクにつながりかねません。本章では、金利上昇に伴う代表的な3つのリスクと、予防・対応策について解説します。
5-1. 借入金利の上昇で利回りが低下しやすい
変動金利型の投資用ローンを利用している場合、金利は日銀の金融政策や金融機関の資金調達コストに応じて数か月単位で調整されます。
このような局面で有効な対策としては、まず固定金利型ローンへの借り換えや一定期間の固定金利型商品を選択することが挙げられます。また、LTV(Loan to Value:資産価値に対する借入比率)を引き下げることで金融機関との金利交渉を有利に進めることも一つの手段です。
5-2. 空室リスク・修繕費などを踏まえた資金計画が必要
金利が上昇する局面では、不動産市場全体の利回りが低下傾向にある中で、空室率の上昇や家賃の下落といったリスクが一層際立ちます。
たとえば、オフィスビル市場では空室率が高止まりしており、築年数の古いビルや競争力のない物件では、長期空室が常態化しています。住宅系の物件でも、地方や築古物件では空室期間の長期化や家賃の下落が目立ち、金利上昇と同時に収益悪化が進行するおそれがあります。
さらに長期保有に伴う修繕コストも無視できません。こうした背景を踏まえ、オーナーは保守的な空室率を設定した収支計画、突発的な修繕費をカバーする予備費(年間賃料の10〜15%を目安)、そして修繕積立金が段階的に増加することを前提にした資金繰りシナリオを立てる必要があります。
物件選びの段階で、修繕履歴や管理体制の確認、専門家による長期修繕計画のレビューを受けることで、リスクへの備えを強化できます。
5-3. 資産価値が維持されやすい物件選びが重要
金利上昇局面では、利回り調整によりキャップレート(不動産の純収益÷価格)が上昇し、保有物件の評価額が相対的に低下しやすくなります。
こうした中でも、立地条件が良く需要が安定している物件や、建物品質・管理体制が優れている物件は、資産価値の下落リスクが比較的限定的です。とくに以下のような条件を満たす物件は、将来的な売却時にも有利に働くとされています。
- 駅から徒歩10分以内のアクセス性
- 人口・雇用が増加する都市圏に立地している
- 築年数や設備仕様が同エリアの平均より優れている
- 管理体制や修繕履歴の情報が明示されている
特に、70㎡前後のファミリー向け物件や、ワンルーム規制のある地域における単身者向け物件などは、需要の安定性から資産価値が下支えされやすい傾向にあります。
また、今後の市場動向としては、ESGの観点から、省エネ性能やカーボンオフセット対応を評価するグリーン認証付き物件への関心が高まり、それらの物件がプレミアム価格で取引される場面も増えていくでしょう。
6. 金利上昇局面で不動産を売買するときの注目ポイント
金利が上昇する局面では、ローン返済額の増加や買い手の資金調達力の低下などを通じて、不動産市場にさまざまな影響が現れます。
たとえば、日本銀行が政策金利を引き上げると、金融機関の住宅ローンや不動産投資ローンの実行金利も上昇する傾向があります。
2025年には短期政策金利が0.50%まで引き上げられ、10年物国債利回りも1%台前半に上昇しました。都市銀行の住宅ローン金利も1%台半ばが主流となり、変動型の金利も約0.25%程度引き上げられています。
このような金利環境下において、不動産を「売る側」「買う側」それぞれが意識すべきポイントを3つに分けて整理します。
6-1. 市場全体の金利動向を常にチェック
金利の動きは、日銀の政策金利を起点に、金融機関の資金調達コストを経て、住宅ローンや不動産投資ローンの金利に波及します。そのため、以下の3点を確認しておくことが重要です。
- 日銀の金融政策決定会合や総裁発言
- 米国の長期金利やドル円相場の推移
- 主要都市銀行の毎月初に発表される住宅ローン金利
追加利上げが見込まれる場合、売却側は金利上昇が価格に本格的に反映される前に、早期売却を検討することが大切です。一方、購入側は将来の金利上昇リスクを織り込んだローン選びが重要です。固定金利型であれば金利上昇局面でも返済額を安定させることができます。
反対に、インフレ鈍化や景気減速などにより「利上げ打ち止め観測」が強まれば、変動型金利を選択することで返済額を抑えられる可能性もあります。金利の先行きに対する見方と自身の家計状況を照らし合わせながら判断することが欠かせません。
6-2. 不動産価格と借入金利から総支払額を計算
住宅ローンでは、わずかな金利差が長期的に大きな返済額の違いを生むため、物件価格そのものだけではなく、以下の要素を総合的に比較することが不可欠です。
・ローン金利・期間・借入額を反映した総返済額
・税引後キャッシュフローの収支
・将来の売却時に想定される残債と売却価格の差額
こうした試算には、住宅ローンシミュレーターや不動産会社が提供するキャッシュフロー分析シートを活用し、「金利が0.5%上下した場合のシナリオ」なども用意すると、より実践的な判断が可能になります。
6-3. ライフプランと不動産投資の整合性を確認する
金利は経済情勢によって変動するものですが、不動産の購入や売却の判断には個人のライフプランが大きく関わってきます。特に住宅取得の場合、教育費のピークや老後資金、転勤・転職といったライフイベントを見越した返済計画が重要です。
たとえば、共働き家庭で子どもがいる場合、教育費と住宅ローンの返済額が重なるタイミングには、家計が圧迫されやすくなります。このような局面では、返済額が変動しにくい固定金利型ローンを選択するほうが安心です。
ファイナンシャルプランナーが一般的に提案する基準としては、以下のようなものがあります。
・住宅ローンの完済時年齢は70歳未満を目安とする
・教育費のかかる時期には、返済額が安定するローン形態を選択
・退職金や資産を利用した繰上返済の計画を立てておく
また、投資用不動産の場合でも、「子どもの大学進学前に売却して教育資金に充当」「定年退職時に売却して年金の補完にあてる」といった戦略を立てておくと、投資効率だけでなく精神的な安心感も得られます。
さらに、金利上昇局面では、預金金利や債券利回りなど他の運用手段も魅力を増します。不動産に偏らず金融資産とのバランスを見直す良い機会になるでしょう。。
7. まとめ
金利上昇は借入コスト増加による需要減少と投資利回りの低下をもたらし、不動産価格に調整圧力をかける要因になります。
とはいえ、不動産価格の変動は一律ではなく、物件タイプや立地、需給状況によって異なる動きを見せます。例えば高価格帯や投資用物件ほど下落リスクが高く、実需物件や都市部の物件は比較的安定します。
買い時の見極めには、金利上昇前の固定金利ローン活用、価格調整後のタイミング把握、そして自身の必要性の明確化が大切です。売り時としては、金利上昇本格化前や相場下落前の早期判断が必要になるでしょう。
投資用不動産では、借入金利上昇による利回り低下対策や、空室リスク・修繕費を考慮した資金計画、資産価値が維持される物件選びが欠かせません。
また、不動産取引時には、市場全体の金利動向チェック、総支払額の計算、そして自身のライフプランとの整合性確認が重要なポイントとなります。こうした複合的視点に基づく判断が、金利上昇局面における不動産売買の成功につながるのです。
市場環境に左右されすぎず、自らの状況と目的に沿った“確かな選択”をすることが、不動産戦略において最も重要な鍵となるでしょう。