
プロサッカー選手の輩出No.1、大学サッカーの名門・常勝軍団である明治大学。
そのサッカー部を率いる監督、栗田大輔氏をお迎えし、「勝利の哲学」、そして最後の教育機関として大学生世代の教育、さらに実践的に学ぶ金融教育について、株式会社ファーストパートナーズ代表取締役 中尾剛と語り合う。
明治大学サッカー部はプロの養成所ではなく、人間形成の場だ。
中尾:
今年の明治大学サッカー部はいかがでしょうか?
栗田:
今年は勢いがあるチームで、得点力が非常に魅力的で、前線に(フォワードに)点を取れる選手が多いので、「圧倒」という目標を立てています。 今は負けなしでリーグは来ているので、このまま走ってくれればいいかなと思い、頑張っています。
中尾:
明治大学サッカー部は「プロの養成所ではなく人間形成の場だ」と栗田監督は仰られます。 その考え方はどこから生まれたものでしょうか?
栗田:
まず明治大学体育会サッカー部は大学の機関なので、明治大学の「権利自由、独立自治」という建学の精神に沿って、部活動が行われています。 体育会は46部あって、その中の1つがサッカー部。 そこがまず前提にあります。
サッカー部は近年、非常に強く、サッカー界では一番多くプロを輩出しているのも事実なのですが、大学は”最後の教育機関”です。 プロになる人間もいれば、その先、社会に出て普通に働く人間もいます。
そういった意味合いもあり”プロの養成所ではなく人間形成の場”というのは明治大学サッカー部で代々受け継がれているポリシーです。
中尾:
毎年選手が入れ替わる中で、どのように指針を伝えていますか?
栗田:
部としての「勝つ」ことと教育的な要素としての「育てる」ことを並行してやっていかなければいけません。
企業であれば、年度替わりに今年度の目標や経営方針を示すと思いますが、私もそういうものをA3用紙にびっしりと4・5枚書いて、シーズン初日に部員全員と2時間ぐらいかけて読み合わせをします。
監督として譲れないものを書くのですが、そういった指針をベースに、学生が自分たちでどんどん作り上げていく。 そのようなやり方をしています。
中尾:
監督としての軸、哲学はございますか?
栗田:
明治大学には「運動量、球際、切り替え」という三原則があり、本当に基礎的な部分です。 これは先代の監督からずっと受け継がれています。 いいときは勝つし、負けているときはどれかが駄目なんですね。
そのためどんなトレンドになっても三原則は絶対、という指針です。また僕がポリシーとしているのは、大学を出て、Jリーガーになって、世界に出て、上を掴みに行く野心の塊みたいな学生が多いので、「自分で道を切り開け」という考え方です。
サッカーは創造性のスポーツなので、強い個人がクリエイティブに絡み合い、アイデアもとても重要なファクターなので、「個人」「アイデア」「チームが勝つ」ということを同時並行していくような、そういうサッカースタイルを標榜しています。
また、「勝ちに対して全力を尽くす」という哲学を大事にしています。「シンプルに毎日を100%出し切る」これが全てだと思っています。そして重要視しているのは、組織としての矢印を揃えるということです。
年度の初めに出した指針に対して、監督だけが突っ走って、選手が離れてしまっては仕方がないので。 一番いいのは、スタッフとも同じ方向を向き、矢印をしっかり揃える。 そして学生がその矢印の中でやるということが大事だと感じています。
その矢印が人によって「それ違うよな」と感じるものであったり、あまりに価値観を狭めるものだと反発してしまうと思います。 ですので、(価値観の)船を大きくしてしまう。
例えば「全力を尽くせ」や「フェアプレイ精神を貫け」「思い切って自分を100%出し切りなさい」など全ての人が納得できる価値観であれば、「いや俺は違う」とはならない。 その船をどのようにしっかり作るかが大事だと思います。
そして一人一人の個性を潰さないこと。 平等にしっかりと見て、個性を大事にしてあげる。
でもチームなので、自分勝手や自分の好きなことだけをやるのは個性ではありません。 チームの勝利のためにきちんと皆が進めるように、矢印を作ってあげることがポイントかなと思います。
中尾:
部員、学生たちのキャリアについてどのようにお考えですか?
栗田:
30年サラリーマンとして企業に勤めていたので、組織論は勿論ですが、実社会から見たスポーツ、そしてサッカーに対する捉え方は私なりに理解しています。
そして学生に対しては、「我々はプロの養成所ではないから」と言い、実社会に出ていくためのしっかりとした教育をする、という明治大学の前提を伝えています。
もちろん入部時には皆「プロになりたい」と、誰もがプロを目指して全力を尽くしているのですが、4年生には「就活もしっかりやれ」と伝えています。
面接で一般の学生の方が横に並んだ時に、いくら自分が「全国優勝しました」と言っても、聞き手からするとサークルで優勝した方と体育会で優勝した方は同じように見えてしまいます。
自分が4年間やってきたことをきちんと相手に伝えるという作業が如何に難しいことかを知って、自分がサッカーしかやってこなかったということを知る良い機会になりますし、就活をして初めて自分を棚卸して自分自身を知ることができます。
大学4年生の最大の権利は、就職活動だと思っているので、人生の岐路としっかり向き合って、色々な選択肢の中に「サッカー選手」があるということを教育しています。
中尾:
セカンドキャリアについてはどうお考えですか?
栗田:
すごく難しい話で、現役の時は次のこと(セカンドキャリア)はあまり考えてないと思います。 しかし、引退した時にどれだけ今の自分と向き合って、次の人生をしっかりと考えられるか。
僕はよく「今までの経歴(出身校、出身チーム、日本代表などの実績)を並べて、そこからサッカーの部分を取れ」と言います。 サッカーの部分を取った時、自分の名前があって、他に何が残るのか。 それが「社会にどう通用するか」だと思います。
そこで足りない部分を知識として勉強しないとセカンドキャリアという意味ではしんどくなると思います。
中尾:
サッカー部を応援してくれている企業様やスポンサーへの向き合い方を指導されているとお聞きしました。
栗田:
将来的に、プロフットボーラーになっていくと「自分がサッカーをやることが恩返しだ」と考えます。
確かにその通りなのですが、自分のクラブがどういう収益源で、どういう企業がサポートしていて、ファンの人が1枚のチケットを3,000円で買うのにどのような苦労があるか、「その価値をしっかりと知りなさい」とよく言います。
そこを知らずに「僕はサッカーだけやっていればいい」となると、自分勝手なプレーになったり、ファンのことを思わなかったりスポンサーさんが悲しむプレーをしてしまう、というようなことが起きてしまいます。
その責任をアスリートとして背負うので、そのようなことは常日頃言っています。 また、どのような企業に支援してもらっているのか、なぜ支援してくれているのか、その企業を皆で企業分析して、寮の掲示板に全部貼ってあります。
ステークホルダーの皆さんとの向き合い方や、「なぜ?」というところを徹底的に教育しています。
考えるということはすごく大事だし、サッカー以外に興味を持ってもらうことはすごくいいことだと感じています。
実践で学ぶ金融教育とは?
中尾:
学生に対しての金融教育についてはどのようにお考えですか?
栗田:
例えば授業1つとってもそうですが、授業料を授業数で割ると、1授業単位が何円か分かります。 それを1個さぼることはそのお金を捨てることになるので、お金の価値をきちんと伝えていくことが大事です。
あとは明治大学サッカー部では、一般社団法人明大サッカーマネジメントという組織があり、そこで事業活動を行っています。 活動のひとつに「アカデミー講座」というのがあり、学生が主体となって、地域の子供たちにサッカー教室を開いて、お金を得ています。
月に1回、学生たちに収支報告をして「君たちが頑張ったお金はこれぐらいだよや、「このお金はこういうふうに部に入れて、こう使おうね」など、お金の回転や価値をきちんと伝えています。
中尾:
プロチームの監督就任に興味はありますか?
栗田:
色々な経歴を持った人が、サッカー界の中でヨーロッパのように、監督をやって結果を出していくというのはすごくいいことだと思います。
黒田剛監督は青森山田高校で実績を出して、現在FC町田ゼルビアで監督をされていますが、扱う選手やステージは違えど「勝つ」ことに対する執着やサッカーに対する思想などはきっとあるんだろうなと思っているので、そういった方が入ったり、逆にビジネス界の人がJリーグの監督をやるのも面白いのかなと、すごく思います。
ただ、どちらかというと僕の夢は、プロの世界に行くのであれば、クラブの経営側に入って、ひとつのクラブビジョンを掲げて、そのクラブが大きくなっていったり、突出したような存在になっていくこと。
現場もビジネスサイドも知っている経営者の方はスポーツ界にはまだ少ないので、少し興味はありますが、今は目の前にいる学生を何とかしてあげたいと日々過ごしているので、現実的には考えてないですね。
中尾:
今年のチームとして、個人としての目標を教えてください。
栗田:
まずは今、リーグ戦首位(2024/8/1時点)ではありますが、リーグ戦は長丁場なので、とにかく関東大学サッカーリーグで1位を獲るというのは年間を通じての活動の証明になるので、まずリーグで優勝したいです。
皆さんが想像する「圧倒」に見合うサッカーがやりたい。 そこが一番です。個人的な目標です。
今年とにかく学生が「圧倒」できるようにしたいというのが自分の目標でもあり、将来はなるようにしかならないので、目の前に何か来た時に考えればいいかと思っています。
本資料は金融とスポーツに関する対談であり、特定の金融商品の購入を推奨するものではございません。 |