
老後の生活資金を少しでも安定させたい──そんな高齢者のニーズに応える新制度「プラチナNISA」が注目されています。
2026年の導入が検討されるこの制度は、65歳以上のシニア世代を対象に、毎月分配型投資信託の非課税運用を可能にする仕組みです。本記事ではその特徴を解説します。
1. プラチナNISAとは?制度の概要と背景
「プラチナNISA」は、65歳以上のシニア世代を対象とした新たな少額投資非課税制度であり、2026年度の税制改正に向けて創設が検討されています。この制度は、高齢者の資産運用を支援し、老後の生活の安定化を図ることを目的としています。
1-1. プラチナNISAは2026年導入が検討されている新制度
プラチナNISAの主なポイントは以下の通りです。
<概要>
プラチナNISAの導入は、2025年4月23日に岸田文雄前首相が会長を務める自民党の資産運用立国議員連盟がまとめた提言に含まれており、高齢者のライフステージに沿った金融支援策として制度設計の議論が進んでいます。
この制度は、現行NISA制度の延長ではなく、高齢者に特化した設計がなされている点が大きな特徴です。現行制度の目的が「長期・積立・分散投資」といった資産形成期のニーズに重点を置くのに対し、プラチナNISAは安定した分配収入を重視する高齢者層のニーズに対応することを目的としています。
<対象者>
対象は65歳以上に限定される見込みです。現行のNISAは、18歳以上を対象としており、上限制限がないため、すでに高齢者の方も利用可能ですが、プラチナNISAは高齢者に特化した制度として新設される予定です。
<非課税対象商品>
現行のNISAでは「長期の資産形成を目的としているNISAの趣旨に合わない」として対象外とされている「毎月分配型投資信託」を非課税対象商品に含める案が検討されています。
1-2. 65歳以上のシニア世代の“運用と生活”を支援
65歳以上の高齢者層では、現役世代とは異なる運用ニーズがあります。なぜなら、高齢者の方には「年金と合わせて投資信託の分配金を月々の生活費に充てたい」という希望が背景にあるからです。
日本証券業協会の調査によると、65歳以上の投資信託購入理由として「定期的に分配金が受け取れること」の割合が高く、特に70~74歳層以上は約40%がこの理由で投資信託を購入していることが報告されています。
また、高齢者の金融資産の多くが預貯金に偏っていることも課題とされており、プラチナNISAの活用で500兆円を超える高齢者層の預貯金を投資へ誘導し、国全体の資産運用を促進する狙いもあります。
1-3. 「資産運用立国2.0」構想とは
自由民主党 資産運用立国議員連盟による「資産運用立国2.0に向けた提言」(2025年4月23日)では、日本を「貯蓄から投資へ」と進化させ、経済を活性化させるための新たな方針を示しています。
この中で、「貯蓄から投資へ」を全世代に拡大し、NISAやiDeCoの利便性向上、若年層・高齢者層への制度適用などが提言されています。
この提言では、国民が安心して資産形成できる環境を整えること、スタートアップや中小企業への投資を促進すること、そして資産運用を国の成長戦略の柱とすることなどが重要とされています。
高齢者に限定して対象商品の拡大・スイッチング解禁を図る「プラチナNISA」の導入や、若年層の資産形成推進のため、早期からの投資を可能とする「こども支援NISA」の導入などは、この政策の一環に位置付けられています。
2. プラチナNISAと現行NISAの違い
本章では、現行のNISAと構想中とされるプラチナNISAとの違いについて解説します。
2-1. 対象者の違い
現行NISAは、日本国内に居住する18歳以上の個人であれば誰でも利用可能な、非常に間口の広い制度です。
「つみたて投資枠」と「成長投資枠」の二本立てで構成されており、あわせて年間最大360万円、通算で1,800万円までの投資に対して非課税の恩恵を受けることができます。資産形成を支援することを主眼に置いた制度設計で、若年層からシニア層まで幅広く活用されています。

出典:金融庁
一方で、現在創設が検討されている「プラチナNISA」は、2026年の導入を目指す、65歳以上の高齢者を対象とした新たな非課税制度です。この制度の最大の特徴は、これまで現行NISAで対象外とされてきた「毎月分配型投資信託」が非課税対象商品に含まれる可能性がある点です。
現行NISAが「資産形成期の長期運用」を支援する制度であるのに対し、プラチナNISAは「資産取り崩し期における生活安定」を目的としており、人生のフェーズごとに異なるニーズに応じた制度といえるでしょう。
2-2. 投資対象商品の違い
<現行NISA>
現行NISAは、長期的な資産形成を支援する目的で設計されており、投資対象商品にも一定の制限があります。
例えば、2024年以前のNISAでは取り扱っていた「毎月分配型投資信託」は、分配金の一部が元本の払い戻しとみなされるケースがあり、複利効果が得られにくいなどの理由から、現行NISAでは対象外とされました。
■つみたて投資枠
「つみたて投資枠」においては、金融庁が定めた厳格な基準を満たす低コストかつ長期・積立・分散投資に適した投資信託、いわゆる「つみたてNISA対象ファンド」のみが選定されています。
■成長投資枠
一方、「成長投資枠」では、国内株式、米国株式、投資信託等が対象となりますが、ハイリスクな金融商品、たとえばレバレッジ型投信やデリバティブを活用した複雑な商品などは制度の対象外とされています。
これは、制度全体が「安定的な資産形成支援」を軸に構築されているためです。
<プラチナNISA>
一方、プラチナNISAでは、高齢者のニーズに即した運用を可能にするため、現行NISAでは対象外だった一部の商品が解禁される方向で議論が進んでいます。中でも注目されているのが、「毎月分配型投資信託」の非課税枠への復活です。
これは単なる制度の「復活」ではなく、高齢者のライフスタイルに寄り添い、資産の取り崩し期における安定したキャッシュフローの確保という実務的な観点を重視した対応です。
このように、運用目的に応じて制度の中身が調整されている点が大きな違いといえるでしょう。商品ラインナップの自由度が高まることで、従来の制度では満たされにくかった高齢者のニーズに柔軟に対応できる可能性があります。
3. 毎月分配型投資信託のリスクと注意点
毎月分配型の投資信託は、安定的に分配金が得られるというメリットがある一方で、注意すべき点やリスクも存在します。
投資家の中には「毎月お小遣いのように受け取れて便利」と感じる方も多いかもしれませんが、仕組みをよく理解せずに購入すると、思わぬ損失や運用効率の悪化を招くことがあるかもしれません。ここでは、毎月分配型投信に潜む主なリスクとその注意点を解説します。
3-1. 元本払戻金(特別分配金)=元本取り崩しのリスク
毎月分配型投資信託では、受け取る分配金の種類に注意が必要です。
分配金の一部またはすべてが「元本払戻金(特別分配金)」となっている場合、それは運用による利益ではなく、税法上、投資家自身が拠出した元本の一部が戻ってきているだけに過ぎません。
つまり、表面的には収益を受け取っているように思えても、実際には自分のお金を自分に返しているという構図になることがあります。
元本払戻金は、実態としては投資信託の運用資産を削って分配しているため、ファンドの基準価額は徐々に下がっていく傾向があります。このような分配が長期間続けば、資産全体の減少、すなわち元本割れのリスクが高まってしまいます。
高齢者の方にとって、毎月の分配金は生活資金の一部として重要な役割を果たすものだと思いますが、見かけ上の「利回り」が高い商品ほど、実際には元本の取り崩しによって成り立っている可能性もあります。
したがって、利回りや分配額の数字だけにとらわれず、「普通分配金」と「元本払戻金」の内訳をしっかりと確認することが、資産を守るうえで非常に大切です。ファンドの運用報告書や取引明細をチェックする習慣をつけておきましょう。
3-2. 複利効果が得られにくい
投資において重要な考え方のひとつが「複利効果」です。
これは、運用で得た利益を再び投資に回すことで、元本と利益の両方に利回りがかかり、資産が加速度的に増えていく仕組みを指します。特に長期運用ではこの複利の力が非常に大きく働くため、資産形成における中核的な戦略となっています。
しかし、毎月分配型投資信託では、定期的に分配金が支払われるため、その都度ファンドの資産が取り崩されます。そうなると再投資に回せる資金が減少するため、結果として複利効果が十分に発揮できない可能性があります。
したがって、長期的な資産形成を目的とする場合は、複利効果を活かせる商品を選ぶことが望ましく、毎月分配型投資信託はその点では慎重に検討すべき選択肢といえるでしょう。
3-3. 高コスト・高リスク商品の存在
毎月分配型投資信託には、他のファンドに比べて信託報酬や売買手数料が高めに設定されている場合があり、特に「毎月分配」を特徴にする商品では、ハイイールド債や新興国債券、為替リスクの高い外貨建て資産が組み込まれるケースも見受けられます。
こうした商品は、市場が安定している局面では高い分配金を維持しやすい一方で、金利上昇や信用不安などの影響により、基準価額が大きく下落するリスクを抱えています。
分配金の減額を避けるために、運用資産をよりリスクの高いものへシフトする「リスクの先送り」が行われることもあり、長期的には資産の毀損につながる懸念もあります。
加えて、毎月分配型投資信託は商品構造が複雑なものも多く、分配原資の内訳や運用方針を理解するのが難しい場合もあります。
分配金だけで判断するのではなく、購入前には必ず「目論見書」や「運用報告書」に目を通し、自分の投資目的・資産状況・リスク許容度と合致しているかを丁寧に確認することが大切です。慎重な選定こそが、資産を守る第一歩となります。
4. プラチナNISAで毎月分配型投資信託を活用する際のチェックポイント
前述の通り、毎月分配型のファンドには、特有のリスクや注意点が存在します。ここでは、プラチナNISAで毎月分配型投資信託を検討する際に押さえておきたい3つのチェックポイントをご紹介します。
4-1. 分配金が普通分配金か元本払戻金(特別分配金)かを確認
最初に確認すべきなのは、「分配金の種類」です。これを理解せずに受け取っていると、本来の投資成果を正しく把握できなくなってしまいます。
分配金には大きく分けて2つの種類があります。それが「普通分配金」と「元本払戻金(特別分配金)」です。この2つは名前こそ似ていますが、その性質や意味合いは大きく異なります。
まず「普通分配金」は、ファンドが運用によって得た利益(利子や配当、売却益など)から支払われるものです。いわば、ファンドの運用成績がプラスであった結果として生じた「利益の分け前」であり、健全な分配といえます。この普通分配金は課税対象となりますが、投資の成果が反映されているため、収益性のある運用が行われていると判断する一つの目安になります。
一方で「元本払戻金(特別分配金)」は、ファンドの基準価額が購入時より下回っている場合に、税法上元本の一部を取り崩して支払われる分配金です。つまり、運用益ではなく、自分自身が投資した資金の一部を払い戻しているに過ぎません。そのため、特別分配金が多いファンドは、見かけ上の利回りは高くても、実際には資産が減少している可能性があり、注意が必要です。
「運用報告書」を確認すれば、毎回の分配金が、収益から出た部分であるか、そうでない部分(源泉)から出た部分であるかの割合を確認することが出来ます。投資判断を行う際は、必ずこれらの情報をチェックするようにしましょう。
特に、長期で資産形成を目指す方にとっては、目先の分配金に惑わされず、運用実績が堅調かどうかをしっかりと見極めることが、健全な運用の第一歩といえます。
4-2. 基準価額が長期的に安定しているか
次に確認しておきたいのが、「基準価額の推移」です。
基準価額とは、投資信託の1口あたりの時価を示す指標で、ファンドの運用成績を把握するための重要な情報源です。
特に、長期的に基準価額が大きく下落しているファンドには、注意が必要です。たとえ分配金を毎月受け取っていたとしても、資産そのものが目減りしているようでは、将来的な運用効果が期待できません。
特に毎月分配型投資信託の場合は、安定的に分配金を支払うために、運用している資産の一部を定期的に売却して分配原資に充てるケースがあります。これはファンドの仕組み上ある程度避けがたい側面もありますが、その結果として、分配金が支払われるたびに基準価額が少しずつ下がっていく傾向が見られます。
この基準価額の下落が継続している場合は要注意です。なぜなら、それは「表面的には高利回りでも、実際には元本が削られ、資産全体としての価値が減少している」という可能性を示しているからです。つまり、分配金が投資家にとって利益ではなく、「自分の資産の切り崩し」になっていることも少なくありません。
そのため、投資を検討する際には、最低でも直近3年、さらに余裕があれば、5年~10年といった中長期の基準価格の推移を確認すると、ファンドの安定性を把握しやすくなります。
長期間にわたって基準価額が安定しているファンドは、運用の安定性が高く、分配金を継続的に支払う体力も備えていると考えられます。逆に、基準価額が右肩下がりで推移しているファンドは、分配金の持続性や将来的な元本の維持に疑問が残るため、慎重な検討が求められるでしょう。
また、分配金込みの価格の推移を見ることでトータルして商品自体の運用実績が上がっているのかを確認することが望ましいといえるでしょう。
4-3. 基準価額に対して高すぎる分配金のファンドに注意
最後に見るべきは、分配金の水準が適切かどうかです。とくに「高利回り」をうたう毎月分配型投資信託の中には、基準価額に対して過剰な分配を行っているものがあります。
例えば、基準価額1万円のファンドが、年間1,200円(毎月100円)の分配金を出しているとすれば、単純計算で利回りは12%になります。しかし、このように高すぎる分配は、運用益だけではまかないきれず、結果的に元本の取り崩し(=元本払戻金)が増える傾向にあります。
このようなファンドは、一見魅力的に見えても、長期投資には不向きです。分配金の継続性や資産価値の保全といった視点から見ると、過剰な分配を行わず、運用実績とバランスが取れているファンドを選ぶことが重要です。
証券会社の提供するファンドの「分配金利回り」「分配方針」「過去の分配履歴」などを比較検討することで、より健全なファンドを見極めるヒントになります。
5. まとめ
プラチナNISAを活用して毎月分配型投資信託を組み入れる際は、分配金の種類・基準価額の推移・分配金の水準という3つの視点から慎重にチェックすることが重要です。
表面的な利回りや分配額に惑わされることなく、中長期で資産を守り育てる視点を持ちましょう。老後資金としての安定運用を目指すなら、より「持続可能なファンド選び」が求められます。
ご自身で判断が難しい場合は、IFA(独立系ファイナンシャルアドバイザー)や信頼できる金融機関の担当者に相談するのもひとつの方法です。プラチナNISAの特性を活かし、安定した資産運用を実現していきましょう。
※プラチナNISAについては、2025年6月時点の情報によるもので、内容等は今後訂正されることがあります。