特集

【第三回】決済の民主化を行うブロックチェーン

メディアは、どのように民主化されてきたのか

かつて「メディア」と呼ばれるものは、新聞社やテレビ局、出版社など、限られた組織によって運営されていました。

情報を発信するには、多額の資本や設備、編集権、そして場合によっては免許が必要で、個人は基本的に「情報の受け手」であることが前提だった時代です。

しかしインターネットの普及によって、この構造は大きく変わりました。ブログ、YouTube、SNSが登場し、誰でも特別な許可を得ることなく情報を発信できるようになりました。この変化は、単に便利になったという話ではありません。

「誰が発信者になれるのか」という、構造そのものが変わった点に本質があったように思います。

移動の世界でも起きた同じ変化 —— UBER や GRAB

同じような構造変化は、移動(モビリティ)の分野でも起きました。

GRABは「東南アジア版UBER」と呼ばれることもありますが、実際にはそれをさらに進化させた存在で、東南アジアでは移動だけでなく、食事や買い物、決済までを支える生活インフラになっています。

以前、都市の移動はタクシー会社や免許制度、配車センターといった中央集権的な仕組みで管理されていました。UBERやGRABは、個人が車を持ち、アプリを通じて直接サービスを提供するという形を提示しました。

これらの企業は、タクシー会社そのものになったというより、「移動の仲介」をインターネット上に移した存在だと考えると分かりやすいかもしれません。

その結果、サービスを提供する側の選択肢が広がり、利用者もより柔軟に移動手段を選べるようになりました。この流れもまた、「民主化」と呼べる側面を持っているように感じます。

では、「お金」はどうだったのか

情報や移動が民主化されてきた一方で、お金、つまり価値の移転や決済については、長い間、中央集権的な構造が維持されてきました。

銀行口座の開設には審査があり、送金には営業時間や制限があります。国境を越えれば時間や手数料が増え、場合によっては政策や規制によって資産が凍結されることもあります。

これは技術が遅れていたというより、「信用を中央の機関が管理する」という考え方が前提だったからだと考えられます。

ブロックチェーンがもたらした視点の転換

ブロックチェーンが提示した考え方は、メディアや移動の変化とよく似ています。

インターネットを基盤にすることで、銀行を必ずしも介さず、国家の許可を前提とせずに、個人同士が直接価値をやり取りできるようになりました。

このため、ブロックチェーンは「決済・送金の民主化」と表現されることがあります。

ここで一つ整理しておきたいのは、ビットコインが必ずしも日常の支払いを目的として作られた仕組みではない、という点です。処理速度や手数料、価格変動を考えると、クレジットカードやQR決済の方が便利な場面は多いでしょう。

一方でビットコインは、発行量が決まっており、中央の発行主体を持たず、国家の信用から独立しているという特徴があります。そのため、「価値を保存する手段」、いわゆるデジタルゴールドとして見られることが多いのも事実です。

実務で変化を起こしているのはステーブルコイン

実際に決済のあり方を変えつつあるのは、ステーブルコインだと考えられます。

USDCやUSDTといったステーブルコインは、米ドルなどの法定通貨と価値を連動させ、ブロックチェーン上で24時間365日、国境を越えて比較的低コストで送金することを可能にしています。

これは理論上の話ではなく、すでに国際送金や企業間取引で使われているケースも見られます。

銀行送金と比べると、中継機関が少なく、手続きがシンプルです。この点は、UBERやGRABが移動の仲介を簡素化した構造と重ねて考えることもできそうです。

国家はなぜ「禁止」ではなく「制度化」を選ぶのか

こうした流れを背景に、アメリカではジーニアス法(GENIUS Act)のような法整備が議論されています。

この法案は、ステーブルコインを排除するためのものではなく、発行体の登録制度や準備資産の明確化、監査、償還ルールを通じて、既存の金融制度の中に組み込もうとする動きと捉えられます。

同じように通貨のブロックチェーン化を検討している国は他にもありますが、その進め方には違いがあります。中国では国家が主導し、完全に管理された形でブロックチェーン上に通貨を載せようとしています。

一方でアメリカでは、国家が前面に立つというより、民間主導で仕組みが発展している点が特徴的です。

どちらが正解かを断定することはできませんが、どの仕組みがより多くの利用者を惹きつけ、実際に浸透していくかという視点では、現時点ではアメリカ型のアプローチの方が柔軟で受け入れられやすい可能性があるようにも感じられます。

民主化が意味するもの —— 自由と責任のバランス

ここで改めて、「民主化」が意味するものについて触れておきたいと思います。

メディアの世界では、インターネットによって記者や編集者、放送局といった仲介者の役割が相対的に小さくなりました。その一方で、誤情報の拡散や炎上、発信責任の所在が分かりにくいといった課題も生まれています。

移動の分野でも、UBERやGRABの登場によって、従来の管理主体が弱まり、利便性は高まりましたが、サービス品質のばらつきや犯罪リスク、責任の所在が見えにくいといった問題が指摘されることもあります。

ブロックチェーンにも同じことが言えます。管理者が存在しないため、操作ミスは自己責任になり、秘密鍵の管理も個人に委ねられます。誰かが最終的に守ってくれる仕組みは、基本的にありません。

それでも、この流れが後戻りしにくいのは、利便性と引き換えに責任を個人が引き受ける構造が、社会として少しずつ受け入れられてきたからではないでしょうか。

民主化とは、「すべてが楽になる」ことではなく、「選択と責任が個人に戻る」ことでもあるように思います。

民主化の未来 —— 選択肢が増えるということ

メディアや移動の民主化は、今も進化を続けています。AIはインターネット上のメディア情報を活用して高度な対話や分析を可能にし、生成AIによって個人が画像や音楽を作ることも珍しくなくなりました。

UBERやGRABも、配車アプリという枠を超え、ショッピングや食事の配送、小口現金の決済など生活インフラとしての役割を広げています。

仮想通貨の世界でも、現時点では価値保存としてのビットコイン、決済手段としてのステーブルコインという役割分担が見えてきています。さらに、株式や不動産といった実物資産のトークン化、契約に基づく価値のやり取りなども、試験的に始まりつつあります。

ブロックチェーンは既存の金融を否定するものではなく、選択肢を増やす存在として捉える方が自然かもしれません。

おわりに

メディア、移動、そして価値。これらはいずれも、インターネットによって構造的な再編を経験しています。

その変化は、革命的というよりも、静かで段階的なものに見えます。

私たちは今、「お金とは誰のものなのか」という問いに対して、初めて複数の選択肢を持ち始めた段階にいるのかもしれません。

〈執筆者プロフィール〉

Kazutoshi Shidehara
Penguin Securities
シニアリレーションシップマネシャー

英国国立大学を卒業後、コカ・コーラやGEでデータサイエンティストとして活躍。その後、運用額1,500億円規模のファミリーオフィスや日本株ファンドにてCIO/COOを務め、約9年間にわたり本格的な資産運用業務に従事。「資産を守り、増やす」ことに本気で向き合ってきたプロフェッショナルとして、投資の現場と舞台裏を知り尽くす。

現在は自らの資金を運用しながら、ヨーロッパやアジアを飛び回り、現地のプロジェクト視察や経済の肌感覚を大切にした資産運用を実践中。

YouTubeチャンネル【シンガポール投資家KAZ | 資産運用する個人の味方】にて、市場動向や国際投資に関する知見も発信している。

Pacific Bays Capital

海外展開に挑戦したい国内のベンチャー企業に出資するベンチャーキャピタルファンド。日本のイノベーションとシリコンバレーの起業家精神を融合し、次世代のディープテックユニコーンの育成に取り組んでいます。AI、宇宙、防衛、バイオテクノロジー、クリーン テクノロジーへ戦略的な投資は業界の変革を起こし、世界にインパクトを与えています。

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