特集

FC東京・森重真人選手「これだけやってダメなら、仕方ない」キャリアと向き合う覚悟と成長の軌跡#1


「熱く、冷静に。そして、自分らしく。」
FC東京の守備を長年支え続けてきたセンターバック・森重真人選手

日本代表としての経験を持ち、FC東京のキャプテンとしてチームを引っ張ってきた彼は、今、どのような視点でサッカーと向き合っているのか。

今回は、そんな森重選手にインタビューを行いました。

プレースタイルの変化、試合中の感情のコントロール、若手との向き合い方、さらにはお金に対する価値観まで。ピッチ内外での「リアルな森重真人」の姿を深掘りしました。

「サッカー」について

━━年齢を重ねるごとにプレースタイルは変わってきますか

年齢と共にという感じでしょうか。できるプレーが変わってきます。

以前は10できていたことが、体力面も含めて絞られてくるので、その中で自分がどんなプレーをすべきか、何をしないといけないのかを考えて選択するようになりました。

━━経験の積み重ねで見えてくるものはありますか

ポジションがセンターバックなので常に一番後ろからチーム全体を見渡せるので、「こういうバランスの時はこうなるな」「なんでチームがうまくいっていないのだろう」という時にどこを修正するのかといった感覚ですね。

経験を重ねるうちに、肌感覚で分かるようになってきました。試合の見方やサッカーの見方も徐々に変わってきていて、それがまた楽しい部分です。

━━試合中は審判とのコミュニケーションも必要ですか

審判へのアピールは大事なことです。それがチームやチームメイトのためでもありますから。

昔は感情的になりがちでしたが、今は戦術の一部として、コントロールするようにしています。無駄に怒るのではなく、必要な場面や適切なタイミングで感情を出すようになりました。

━━キャリアを積むと感情を出すことにはパワーがいりますよね

基本的には僕自身が試合中も感情を出すタイプ。特にセンターバックなので、後ろに熱い選手がいたほうがチームに活気が出てくることもあるので。

そういう意味ではある程度感情を出すことは必要かなと思います。

━━自分自身のマネジメントも必要なのですね。ミスをした時の試合中の切り替えや、よくない結果だった時の次の試合への切り替えはどうしていますか

僕はある程度熱くプレーをするほうが集中力を保てるタイプです。相手に嫌がられるディフェンダーでいるために、気迫を出したり駆け引きをしてプレーをしていました。

若い頃は感情的になりすぎて空回りすることもありましたが、今はどこまで感情を上げれば良いゾーンに入るかは分かるようになっています。

━━プレースタイルが変化したのには、助言などもあったのでしょうか

小学校時代の恩師が、自分のプレーが荒い時に助言してくれました。小学校時代のサッカーの監督です。

最初は電話が来て、その後にわざわざ広島から東京に会いに来てくれました。それほどまでに伝えたいことがあったんでしょうね。

伝えるためだけに来てくださったのは大きかったです。そこまでしてくれる方はいませんし、自分のプレースタイルを見直すきっかけになりました。

━━いきなりプレーを変えるのは難しい面もあったと思います

1つずつプレーを頭の中で整理して、それを練習のピッチの中ですり合わせていきました。1つずつクリアしていった感じです。

当時はセンターバックに(当時日本代表の)今野泰幸選手がいました。彼はすごく正確なプレーをする選手だったので、それを見本にして良いところを盗むことで、どうしたらプレーが安定するのかなど、ディフェンスの基本を学びました。

━━試合後などにプレーの振り返りも一緒にしましたか

それはないですね(笑)。全然アドバイスはくれなくて、何も記憶にないくらいです(笑)。

でも彼のプレーを見ているだけで勉強になっていましたから。自分に持っていないものを持っている選手だったので、隣で一緒にプレーすることで多くのことを学ぶことができました。

━━プロとしての覚悟は自分の中であったのでしょうか

プロになって終わりではなく、どうやって試合に絡んでいくかというマインドを持ってプレーをしていました。

練習をしてみて「やれるな」という自信はあったのですが、1年目はなかなか試合に出られなくてもがきました。

それでも、やり続けることによって道は切り開けると思っていました。覚悟というより、常に熱い思いを持ってプレーをしていた気がします。

━━理想の選手像はありましたか

憧れの選手って、実はいなかったですね。小学生の頃から、特定の誰かを目標にするというより、とにかく自分がサッカーをするのが好きで、色々な選手のプレーを真似していました。

でも、センターバックをやるようになってから、「攻撃的なセンターバック」という選手は当時ほとんどいませんでした。だからこそ、自分の特長であった攻撃的なプレーを活かして、当時所属していた大分の監督もそれを尊重してくれました。

自分が唯一無二だと思ってプレーをしていましたね。

━━上がりすぎるのは周囲から止められたこともありましたか

いやいや、むしろ「もっと上がっていけ」と言われることもありましたね。でも、昔は上がってもすぐに戻れましたが、年齢を重なるにつれて「戻ってこられなくなるな」と思うので、最近は控えめにしています(笑)。

チームメイトやクラブとのマネジメント

━━ベテランとしての役割と周囲や若い選手との接し方は難しいですか

若い選手との接し方は、正直そこまで気にしていないですね。チームプレーをみんなで意識しすぎるあまり、埋もれてしまって自分のプレーができなくなるケースもあります。

そのバランスが大事だということは、若手にも伝えるようにしています。自分のプレーを優先しすぎてもいけないし、チームを意識しすぎてもいけない。その絶妙なバランスを見つけることの大切さは話しています。

━━日本代表に選出されてご自身が変わった面もありますか

日本代表とクラブチームはまったく別物ですね。最初はそこの違いに難しさを感じていました。

代表の場合は1から10まで細かく説明しなくても、8、9、10の部分をすり合わせて、それぞれのクオリティをどう発揮するかが勝負。

逆にクラブチームの場合、1年目や2年目、高卒・大卒すぐの選手もいます。彼らには8、9、10だけじゃ伝わらないこともあるので、3、4、5から説明しなければならないケースもあります。そこが大きく違います。

━━モチベーションの維持や日々の過ごし方で注意していることはありますか

自分が「試合に出続けたい」「うまくなりたい」、その気持ちが全てです。あとは単純にサッカーをするのが好きなんです。

グラウンドでボールを蹴っているだけでやる気も出るし楽しいし、うまい選手がいれば「なんでこんなキックができるんだろう?」と観察して真似してみるとかが楽しいんです。なので、モチベーションを上げるというより、やるべきことをルーティン化してこなしていく感じです。

一方で、ルーティン化しすぎると考えることが減るので、うまく変化を取り入れながらやり続けています。その中で代表(日本代表への招集)があったり、アジアチャンピオンズリーグなどで、足りない面が見つかれば持ち帰って取り組んでみたり。

そうすると、自然と自分がやるべきことが増えていきます。

━━日々、もしくは週のテーマ設定のような感じでしょうか

自分で分析してみて、自分の能力で足りないものや、強みが何かを考えて落とし込んでいくという作業は、日々必要かなと思っています。

━━試合のVTRは見ますか

ほぼ見ないですね。気になったプレーや失点シーンだけチェックすることはありますが、90分通して振り返ることはないです。

━━FC東京でキャプテンに指名された時はどう感じましたか

「まさか自分が?」と思いました。小・中・高とキャプテンをやったことがなかったし、どちらかというと自分は好き勝手プレーするタイプでした。だからこそ、指名された時は「大丈夫かな」と少し不安もありましたね。

━━監督に理由を聞きに行ったりしましたか

それはなかったです。ただ、「やるだろうな」という雰囲気は感じていたので、本を読んでみたり、キャプテン像について考えたりしました。

でも結局、あまり考えすぎても良くないと思って、自分なりのキャプテン像でいこうと決めました。自分のプレーで示す、それが一番大事だと思いましたね。

重圧との向き合い方

━━日本代表などでのプレッシャーとは常に背中合わせだと思いますが、その向き合い方は

プレッシャーはとことん受け止めて、感じて、開き直るまで考えて、開き直るまで練習しました。

「これだけやってダメなら仕方ない」と思えるところまで自分を追い込んで、トレーニングして自信をつけましたし、もちろん気持ち的に不安になることはありますが、考え続けることで開き直れる時が来るんです。

━━ちゃんと受け止めていたのですね

そうですね。考え方だと思うので、やり方を覚えれば問題ないと思います。ある程度プレッシャーは必要だと、この歳になって思います。

ただ、どうやってプレッシャーを作るかが難しくなります。どう緊張感を持つのかという悩みも出てきます。 

━━ある程度のキャリアを積むと周囲に忠告してくれる人も減ってしまいますよね

怒られていたほうがまだ楽というのはありますね(笑)。でもキャリアを積むと、後輩もなかなか言いづらくなるし、周囲からの指摘も減ってきますから。

その環境に甘えず、自分でしっかりダメなところを見つけて修正しないといけない。そういうプレーをしないと示しがつかないというのも、モチベーションになりますね。 

厳しいことが言いづらい時代ですが、指導の際にはどんなことを意識していますか

「自分がどこまでいきたいか」で日々の取り組みは変わります。その選手の人生を僕が背負っているわけではないけれど、モチベーションはあるのに何をすればいいか分からないとか、どこにパワーを使ったらいいか分からないという選手は、見ていたら分かります。

そういう選手には声をかけて、目指すレベルに到達するための必要な基準を示してあげることは意識しています。 

━━ご自身のベストゲームは

2020年(決勝戦は2021年1月4日)のルヴァンカップですね。一番近い時期の優勝ということもありますが(笑)。自分の役割も全うできてチームとしてもいい結果が出せましたからね。  

━━現在の目標は

リーグタイトルです。僕自身もFC東京も、リーグタイトルは取れていませんので。サッカー人生の全てをそこにフルコミットしたいです。チームの目標も同じだと思います。

お金に対する考え方

━━お金の使い方や考え方は年齢を重ねるごとに変わってきましたか

若い頃は全部使っていましたね(笑)。コンビニで好きなだけ買い物して、レシートの長さに喜んでみたり(笑)。結婚する時、貯金はなかったです。

━━管理はご自身でされていましたか

そうですね、自分で管理していました。でも結婚すると、もう自分だけじゃないですからね。

━━若い選手にお金のマネジメントも話すケースはありますか

大事なのは「何に使うか」です。「自分に投資すること」は、すごく大事なキーワードだと思っています。経験が価値のあるものかどうかを意識するだけで、お金の使い方は変わってくると思います。

何が無駄なのかとか、何に価値があるのかどうかを整理していくことで、お金の使い方の精度は上がっていくと思います。まずは考えることから始めるのが大事ですね。 

━━若い頃はどうでしたか

僕も若い頃に、お金のことを誰かに相談する機会はありませんでした。今になって思うのは、そういうアドバイスをくれたり、相談に乗ってくれる人がいたら良かったな、と思いますね。

━━もしサッカー選手になっていなかったら、今頃何をしていましたか

なんだろう。パン屋さんかな(笑)。父親がパン屋さんをやっていたことがあるんです。大変ですけどね。

今度、クラブ主催のイベントの時にやってみるのも面白いかもしれませんね(笑)。父も喜ぶと思います。

〈プロフィール〉

森重 真人(MORISHIGE MASATO)

2006 年から大分トリニータ、2010 年からFC 東京に所属。2009 年から日本代表に選出され、2014 年ブラジルW杯や2015 年アジア杯に出場。

J リーグのベストイレブンを4 回、優秀選手賞を1 回受賞。1 対1 の強さ、打点の高いヘディング、ビルドアップ能力をあわせ持ち、セットプレーから高い得点能力も発揮する日本屈指のセンターバック。

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FPメディア編集部

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