
長期投資と分散投資
今回のコラムでは、投資の基本であり最も重要な考え方の一つである「長期分散投資」についてお話しします。
「長期分散投資」という言葉を耳にしたことがある方も多いと思いますが、その効果や重要性をはっきりと説明するのは実は難しいです。まず、長期分散投資の重要性を理解するために、「長期投資」と「分散投資」に分けて解説していきます。
「長期投資」とは、将来の成長性を期待して長期間にわたって投資先資産を保有することです。長期がどのくらいの期間なのかは、人によって異なりますが、筆者としては10年以上を目安に考えています。
株式投資を例にすると、基本的に株価は企業利益が増加することで上昇しますので、今後10年、またそれ以降にわたって利益が大きく伸びそうな企業を見つけ出し、その企業の株式を持ち続けるということになります(もちろん、利益以外にも金融環境や経済状況、投資家心理などにも影響されます)。
次に、「分散投資」とは、資金を一つの資産に集中させず、さまざまな種類の資産に分けて保有することです。分散投資の大きな効果の一つは、資産全体のリスク(値動き)を低減させる点です。
投資の世界におけるリスクとは、主に「値動きの大きさ」のことを言います。「リスクが高い資産」とは「値動きが大きい資産」を指し、「リスクが低い資産」とは「値動きが小さい資産のこと」を指します(図表1)。したがって、株式、債券、金などといった様々な資産をバランス良く保有すると、それぞれの資産が別々に動き、どれか一つが下がっても別の資産がカバーしてくれる可能性があるため、ポートフォリオ全体で見ると値動きが安定するのです。
異なる動きをする資産を組み合わせることで、お互いの変動を打ち消し合い全体が安定する、というイメージです(図表2)。また、資産全体の値動きが安定する以外にも、それぞれの資産が持つ特有のリスク(カントリーリスクや企業破綻のリスクなど)の軽減が期待できます。
図表1:リスクの考え方

図表2:分散投資のイメージ

出所:FPメディア編集部作成
長期分散投資の重要性
では「長期投資」と「分散投資」の考え方を踏まえた上で、長期分散投資の重要性について説明します。
まず、図表3をご覧ください。このチャートは、全世界株式と分散投資のリターンの推移を示しています。この期間のリターンを見ると、長期分散投資よりも株式へ長期集中投資の方が良かったことが分かります。
したがって、投資家の中には、分散投資をするよりも集中投資をした方が良いと考える方が出てくると思います。もちろん投資に正解はありませんので、そのような考え方もあると思います。しかし、このチャートの重要なポイントは「この期間持ち続けることができたならば(長期投資を実践できたならば)」ということです。
図表3:全世界株式と分散投資の推移
(月次、期間:1998年12月末~2024年12月末、円換算、対数表示)

※分散投資は全世界株式に50%、世界国債(円ヘッジ)に50%投資し、月次でリバランスを行ったもの。リバランスに関わるコストや税金等は考慮していません。
出所:ブルームバーグのデータを基にFPメディア編集部作成
これまでの株式市場の歴史を紐解いてみると、ブーム(バブル)とバースト(崩壊)を繰り返してきました。1998年12月末以降で見ても、米国でITバブルが発生と崩壊(2002年)、同じく米国で住宅バブルが発生と崩壊、その後リーマンショック注1(2008年)が起こり金融危機へと繋がりました。
図表3では2002年と2008年をグレーシャドウで示していますが、その間の全世界株式はそれぞれ約-27%、約-53%となっています。一方で分散投資を行っていた場合は、それぞれ約-12%、約-28%です。
注1:アメリカ合衆国で住宅市場の悪化によるサブプライム住宅ローン危機がきっかけとなり投資銀行のリーマン・ブラザーズ・ホールディングスが2008年9月15日に経営破綻し、そこから連鎖的に世界金融危機が発生した事象
このような大きな下落の渦中にいると、多くの投資家は冷静さを失ってしまいます。投資家は含み損に耐え切れなくなり、市場が大きく下落している中で売却をしてしまうということがよくあります。
過去の株式市場を振り返ると、このような局面はむしろ絶好の投資チャンスになるケースが多いのですが、冷静に判断できなくなった投資家はとにかくこの状況から抜け出したいと思ってしまうのです。
また多額の損失を被った投資家のほとんどは、投資を「悪」と思うようになり、二度と投資をしなくなる傾向にあります。 このような局面において、もし分散投資を行っていれば、株式へ集中投資を行うよりも下落率を抑えることができたでしょう。
また、集中投資を行っていた投資家に比べて冷静な投資判断を行うことができ、ピンチをチャンスと捉えて、大きく割安になった資産の購入や追加投資の検討を行うことが可能となります。このように分散投資は、長期投資を実践するための有効なアプローチの一つと考えることができます。
過去の市場の動きを振り返ると、今後いつ何時大きな下落が起きても不思議ではありません。もしリーマンショック級の金融危機が再び発生した場合、集中投資を行っている投資家は市場から退場を余儀なくされ、投資を続けることが困難になるかもしれません。
こうしたリスクを避け長期にわたって安定した投資を実現するためには、「長期分散投資」が重要なアプローチであり、変動する市場環境において投資家を守り、長期的な資産形成を支える力強い戦略と言えるでしょう。