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【第四回】グローバル金融機関は暗号資産をどう扱い始めたのか

グローバル金融機関は暗号資産をどう扱い始めたのか

暗号資産は、長いあいだ既存の金融機関とは距離のある存在でした。
価格変動が大きく、規制も未整備で、「金融の外側」に置かれているという感覚が共有されていた時期が続いていたように思います。

とりわけ大手金融機関にとって、暗号資産に関わること自体がリスクと見なされてきました。 顧客保護、マネーロンダリング、レピュテーション。どれも軽視できない論点です。

ただ、ここ数年で、その前提が静かに揺らぎ始めています。
劇的な転換というより、「扱わない理由」よりも「どう扱うか」が意識され始めた、という変化に近いのかもしれません。

象徴的だった、年末のVanguardの変化

2025年末、Vanguardの姿勢の変化は、こうした流れを象徴する出来事でした。

同社はこれまで、ビットコインや暗号資産関連ETFに対して一貫して距離を取ってきました。 長期投資に適さない、投機的である。そうした理由から、顧客への提供を控えてきた経緯があります。

それでも、市場の成熟や制度化の進展を前に、「完全に関与しない」という判断は取らなかった。 これは方針転換というよりも、「無視できなくなった」という認識の変化と見る方が自然でしょう。

重要なのは、Vanguardが暗号資産の推進役に回ったわけではない点です。
慎重さは変わっていませんし、長期投資の哲学を捨てたわけでもありません。

それでもなお、「排除する」という選択肢が現実的でなくなった。
この一点だけでも、グローバル金融の現在地を示しているように感じられます。

「否定」ではなく「管理」へ —— グローバルの現在地

米国や欧州の金融機関の動きを見ると、共通する方向性が見えてきます。

暗号資産を否定するのではなく、既存の金融システムの中で、どこまで管理可能な形に落とし込めるか?
議論の重心は、すでにそこへ移っています。

現物型ビットコインETF、カストディ(保管)、機関投資家向けの取引・清算、そしてステーブルコインを用いた決済や送金の実証。いずれも、「触らない」でも「全面的に受け入れる」でもない、現実的な関与の仕方と言えるでしょう。

日本の金融機関は、どこに立っているのか

日本の金融機関も、暗号資産を無視しているわけではありません。

三菱UFJフィナンシャル・グループや三井住友フィナンシャルグループ、みずほフィナンシャルグループといったメガバンクは、ステーブルコインやブロックチェーン技術に関する検討や実証を継続しています。

また、野村ホールディングスは、海外拠点を通じて暗号資産関連の事業や投資に関与してきましたし、SBIホールディングスは、比較的早い段階から暗号資産分野に踏み込んできた存在です。

ただし全体として見ると、個人向けの商品提供は限定的で、機関投資家向けの本格的な展開もまだ一部に留まっています。

暗号資産は、依然として「特殊な投資対象」という位置づけから大きくは動いていない。
そうした印象を持つ人も少なくないでしょう。

慎重さの背景にあるもの

この違いは、日本の金融機関が保守的だから、という一言で片づけられる話ではありません。

・金融事故に対する社会的な反応の強さ
・規制当局との距離感
・個人投資家層のリスク許容度
・国内市場を前提とした収益構造。

こうした要因が重なり、「理解はしているが、前面には出ない」という姿勢が続いてきたように見えます。

ただ結果として、グローバルとの距離が少しずつ広がっているのも事実です。

この乖離が示す、5年後の風景

ここで重要なのは、どちらが正しいかを論じることではありません。

注目すべきなのは、グローバル金融機関が暗号資産を「例外」として扱う段階を越えつつある、という点です。

5年後を想像すると、暗号資産ETFは特別な商品ではなくなり、ステーブルコインは法人間送金や国際決済で自然に使われ、 カストディや清算は既存の金融機関が担う。

そうした風景は、決して突飛なものではありません。そのとき、日本の投資家が「初めて知る」立場にいるのか、 それとも「前提として理解したうえで選択できる」立場にいるのか。

この差は、想像以上に大きくなる可能性があります。

暗号資産は、金融を壊しているわけではない

グローバル金融機関の動きを見ていると、暗号資産は既存の金融を壊す存在というより、金融の枠組みを拡張する存在として扱われ始めているように見えます。

インターネットが銀行を消し去らなかったように、ブロックチェーンも銀行を不要にするとは限りません。

むしろ、
・誰が管理するのか?
・誰が信用を与えるのか?
・誰が責任を負うのか?

その役割分担が、静かに組み替えられている段階にあるように感じられます。

おわりに

Vanguardの姿勢の変化は、単なる海外ニュースではありません。世界最大級の長期投資家が、暗号資産を無視できない存在として認識し始めた、というサインでもあります。

日本とグローバルの取り組みの差を知ることは、どこに投資すべきかを決めるためだけの材料ではありません。

金融がどの方向へ進もうとしているのかを理解するための、一つの座標軸になります。

暗号資産を持つかどうかは、あくまで個人の選択です。

ただ、その背後で何が起きているのかを知っているかどうかは、これからの投資判断において、静かに効いてくる前提条件になりつつあるのではないでしょうか。

〈執筆者プロフィール〉

Kazutoshi Shidehara
Penguin Securities
シニアリレーションシップマネシャー

英国国立大学を卒業後、コカ・コーラやGEでデータサイエンティストとして活躍。その後、運用額1,500億円規模のファミリーオフィスや日本株ファンドにてCIO/COOを務め、約9年間にわたり本格的な資産運用業務に従事。「資産を守り、増やす」ことに本気で向き合ってきたプロフェッショナルとして、投資の現場と舞台裏を知り尽くす。

現在は自らの資金を運用しながら、ヨーロッパやアジアを飛び回り、現地のプロジェクト視察や経済の肌感覚を大切にした資産運用を実践中。

YouTubeチャンネル【シンガポール投資家KAZ | 資産運用する個人の味方】にて、市場動向や国際投資に関する知見も発信している。

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