
2024年の米大統領選でトランプ氏が再任されたことを受け、為替市場では再び「円安は加速するのか」という議論が強まりました。もっとも、ドル/円は単純に円安一辺倒で語れる局面ではなく、金利差、通商政策、地政学リスクなど複数の要因が交錯しています。
本記事では、前回トランプ政権(2017~2021年)の為替動向を検証したうえで、2026年初時点の環境を踏まえた円高・円安の分岐点と、投資家が取るべき視点を整理します。
1. 過去の検証:前回のトランプ政権で為替はどう動いたか
1-1. トランプ政権発足時(2017年)から離任(2021年)までのドル円推移を振り返る
トランプ氏の第1次政権(2017~2021年)におけるドル/円(USD/JPY)を振り返ってみましょう。
2017年は110円台を中心とした比較的落ち着いたレンジ相場で推移しました。
その後、2018年にはやや円高(ドル安)気味の動きもあり、2019年にはさらにドル安方向、そして 2020年は世界的なパンデミックもあり、一時101円台という顕著なドル安・円高となる場面もありました。
このように、トランプ政権期のドル/円は「常に円安だった」という単純な構図ではなく、「円安 ⇔ 円高」の揺り戻しを繰り返す、比較的レンジの狭い推移だったというのが実態です。
1-2. 「トランプ・ラリー」で円安が進んだ背景と貿易摩擦で円高に転じた要因
では、なぜ政権初期に「円安」が進んだのでしょうか。
いわゆる「トランプ・ラリー」の背景を整理します。
2016年の大統領選でトランプ氏が当選した直後、市場では「米国で大規模減税など成長重視の政策が進むだろう」「米国経済が加速するだろう」といった成長重視の政策が実行されるとの期待が高まりました。
これにより、リスクオンの流れが強まり、米株高・米長期金利上昇が起きたことで、ドル高(ドル買い)、円安が進行。ドル/円は一気に上昇しました。
さらに、2017年にはFRBによる複数回の利上げが実施され、日米金利差拡大への期待がドル買いを後押ししました。
しかし、 2018年以降は米国と中国の間における貿易摩擦が激化し、状況は複雑になります。
関税の応酬など不透明な通商政策が警戒され、一部の投資家がリスクオフに転じたことで、円高(ドル安)方向の動きが見られました。
さらに、2020年のコロナショックでは世界的な景気後退懸念が一気に高まり、安全資産とされる円が買われ、ドル安・円高の流れが強まる時期がありました。
このように、強気な経済・金融政策期待を要因とするドル高・円安と、通商摩擦・リスクオフ・景気不透明を要因とするドル安・円高が交錯し、相場は揺れ動いたのです。
1-3. SNS発言や「口先介入」はどこまで為替に影響を与えたのか
「政策期待」や「通商摩擦」といったファンダメンタルズ以外で、トランプ政権を語るうえで欠かせないのが、SNS発言や「口先介入」の影響です。
トランプ政権では、しばしば「強いドルは望まない」「貿易赤字を是正すべきだ」「関税を引き上げる」といった言葉がニュースで報じられ、市場心理への影響が懸念されました。
こうした発言が「ドルに対する警戒」となり、短期的にドル売り・円買いを引き起こす場面も見られました。
特に通商摩擦が表面化したときには、リスクオフ → 円高という流れが起きやすくなりました。
ただし、これら発言の影響はあくまで短期的・心理的であり、為替相場を大きく、そして持続的に動かすには、やはり 金利差、通商政策、経済成長見通し、世界のリスク状況 といったファンダメンタルズの積み重ねが必要でした。
過去のデータで見ても、トランプ政権期のドル/円は、「発言で大きく跳ねたあと、結局は元の水準に戻る」「ファンダメンタルズの流れに引きずられて戻る」という局面が少なくありません。
加えて、当時の日本側は本格的な為替介入には踏み切っていなかったため、「発言だけで恒常的な円安・円高が定着する」という構図にはなりづらかった、という点も重要です。
2. 2024年再任後:トランプ氏が招いた「円安加速」のメカニズム
2024年の米大統領選でトランプ氏が再選されて以降、為替市場には再び大きな変動が生じています。特に注目されたのが「ドル高/円安」の加速です。
本章では、トランプ再任後にドル高・円安が意識されやすくなったメカニズムを整理します。
2-1. 「関税引き上げ」で起きる米国景気の変化と円安圧力
トランプ政権復帰後、対外関税の引き上げや保護主義的な通商政策の再導入が示唆され、再選直後から、こうした政策方針がマーケットの注目を集めました。
関税の引き上げは、米国経済に複数の経路で影響を与えます。
まず、輸入品コストの上昇は消費者物価を押し上げ、インフレ圧力の高まりにつながります。
一方、米国内での生産や雇用を重視する政策は、短期的には景気刺激として働く可能性があります。
こうした状況では、米国の物価上昇や長期金利上昇期待が高まりやすく、結果としてドルが相対的に買われやすい環境が生まれます。
実際、再選直後には米長期金利の上昇とともにドル高、円安の流れが強まるとの見方が市場で広がりました。
さらに、保護主義による世界貿易の縮小懸念は金融市場全体にリスクオフムードをもたらし、安全資産としてのドル需要、あるいは円安・ドル高といった動きに振れやすくなる可能性も指摘されています。
このように、関税政策という通商環境の変化は、米国のインフレ・金利動向やリスク認識を通じて、ドル買い・円売り(円安)への圧力となり得る構造が浮上しました。
2-2. FRB(米連邦準備制度理事会)への金融緩和圧力とドル安誘導の可能性
一方で、トランプ政権はこれまで「ドル安歓迎」や「為替は介入で抑える」といったスタンスを示してきました。
再任後も、こうしたスタンスが再び市場で意識され、「ドル安誘導」への期待を生む要因となっています。具体的には、
・関税引き上げによって物価が上がれば、消費者物価指数 (CPI) の上振れおよびインフレ率の上昇が起きる
・インフレ抑制のため、通常なら利上げが優先だが、政権側からは金融緩和やドル安を促す圧力が強まる
もし実際に利上げが見送られたり、将来的な利下げ観測が浮上した場合には、米金利の相対的優位性低下 → ドル売り/円買い圧力が強まる可能性があります。
こうしたジレンマが市場にとって不透明要素となるため、ドル高・ドル安のどちらにも振れやすい、揺らぎのある相場になりやすい点が特徴です。
実際、再選後の市場でも、「ドル高一辺倒ではない」とする慎重な見方が並存していました。
なお、金融政策がドル安方向へ傾いた場合、長期的にはドルの信認や為替プレミアムにも影響を与えかねず、米国債の安全資産としての魅力や国際資本の流れにも波及するリスクがあります。
2-3. 大規模な財政出動とインフレ再燃が為替に与える影響
トランプ氏は以前から大規模な減税および財政拡大を政策として掲げており、再任後もその継続が市場で意識されていました。
大規模な財政出動は、経済成長や消費を刺激する一方で、為替市場には以下のような影響を及ぼします。
財政赤字の拡大 → 国債発行の増加 → 長期金利の上昇 → 米金利優勢 → ドル高・円安圧力
インフレ再燃 → 実質金利低下の懸念 → 通貨の実質価値維持のためドル高圧力
実際、専門機関の分析では、トランプ政権が掲げる減税と財政支出の拡大は、短中期的にはドル高要因として評価されています。
ただし、その反面、保護主義政策による貿易縮小、及びそれに伴う経済の減速リスクも指摘されており、必ずしも「財政拡大=ドル高が続く」という単純な構図ではない点に注意が必要です。
2-4. 「強いドルは望まない」発言が市場心理をどう動かすか
トランプ氏は過去から、「強すぎるドルは米国の輸出競争力を損なう」との趣旨で「ドル安歓迎」といった発言を行ってきました。
再任後も、こうした発言が市場心理に与えるインパクトは無視できません。
為替市場は基本的に期待の変化に敏感です。
たとえ実際の金融政策や財政政策がドル高を支持していたとしても、政治リーダーの「ドル安志向」が市場の心理バイアスを作ることで、短期的または中長期的にドル売り、あるいはドル買いの抑制につながる可能性があります。
また、こうした発言が「為替介入」の示唆と受け取られた場合、投機筋による先回りのドル売りが起き、一時的な円高圧力を生むこともあり得ます。
市場過熱を嫌うグローバルマネーの流れが、「ドル安を見込んだ円買い」を誘発する構図です。
ただし、繰り返しになりますが、こうした発言で相場の長期トレンドが決まることはありません。
最終的には、金利差、経済成長、政策の実行内容といったファンダメンタルズと整合的かどうかが、相場の方向性を左右します。
3. 「円高回帰」する可能性と為替変動リスクの要因
近年のドル/円相場は、円安基調が続く局面にあっても、円高回帰の可能性を意識させる場面が増加しています。
為替は単にトレンドだけで語れるものではなく、世界の政治・経済環境や金融政策の変化が絡み合いながら動きます。
本章では、地政学リスクに伴う「有事の円買い」、日米の金利差縮小、そして相場のボラティリティ上昇 といった視点から、円高回帰リスクを整理します。
3-1. 米中対立・地政学リスクによる「有事の円買い」再燃
為替市場では、リスクオフの局面において安全資産とされる円が買われやすい傾向があります。いわゆる「有事の円買い」です。
米中対立や地域紛争など、地政学的不透明性の高まりは、投資家心理をリスク回避へと傾けやすく、短期的な円高現象につながる可能性があります。
たとえば、米中関係が戦略的に緊張する局面では、リスクオフの動きが強まり、資金が「相対的に安全」とされる円や米ドルへと流れる傾向が見られています。
この結果、株式や新興国通貨が売られ、為替市場では円高方向への圧力が強まります。
このような地政学的な緊張は事前の予測が難しく、値動きそのものを誘発するような突発的ショックに弱いため、短期的には円高リスクが高まる要素と言えます。
また、こうしたリスクが連続して発生すれば、中長期的にも円高圧力が積み重なる可能性がある点は注意が必要です。
3-2. 日銀の政策転換と日米金利差縮小がもたらす円高圧力
為替の中長期的な方向性を左右する重要な要素のひとつが金利差です。特にドル/円は、日米金利差が縮小すれば円が買われやすくなる構図が知られています。
近年、日銀(BOJ)の金融政策が大きく変わりつつあります。
日本銀行は長らく超低金利政策を維持してきましたが、2025年以降は利上げ観測が強まり、政策金利が段階的に引き上げられる可能性が意識されています。
一方で米国では、FRBが景気動向やインフレ見通しを踏まえ、利下げに転じる局面も想定されます。
こうしたシナリオでは、日米金利差は縮小しやすくなり、ドル売り・円買いの流れが強まる可能性があります。
特に短期金利差が縮小すると、これまでのような「高金利通貨としてのドル買い・円売り」を弱める要因となります。
さらに、金融機関や投資家が金利差を利用した「円キャリー取引」を縮小する動きが強まると、円高に拍車がかかる可能性があります。
これは、日米金利差が縮まれば利ザヤ目的の円売りポジションが巻き戻されやすくなるためです。過去の相場でも、円キャリー取引の巻き戻しが円高を促した局面がありました。
こうした金利差要因は、政策が実際に変わるタイミングと市場の期待が一致しないことでもボラティリティを高めます。市場が予想するよりも早めに金利差が縮小すれば、為替は急激に反応する可能性がある点にも留意する必要があります。
3-3. 市場のボラティリティ(変動率)上昇による為替の乱高下リスク
為替のボラティリティ(変動率)は、リスク要因が重なるほど高まる傾向があります。
最近の世界的な金融市場をみると、中長期金利動向、中央銀行の政策判断の不透明さ、さらには米国債市場の巨大化といった背景から、突然の方向転換や予想外の値動きが起こりやすい環境になっています。
こうした環境下では、投機筋やヘッジファンドが短期的な変動を利用しやすく、急な円高・円安の変動を誘発する材料にもなり得ます。
特に、リスクオフ局面での急激なリスク回避の動き、もしくは予想外の政策発表直後の調整局面においては、為替が大きく動くことがあります。
為替市場は24時間稼働しており、世界中の市場参加者のポジション調整がリアルタイムで反映され、予想以上のスピードで進行することがあります。
こうした瞬間的な変動は、特定の通貨の強さ・弱さというファンダメンタルズでは説明しきれず、センチメント(市場心理)や流動性の変化によって増幅されるリスクがある点は留意する必要があります。
4. 投資家が取るべきトランプリスクを踏まえた為替戦略
トランプ政権再任以降、米国の政策動向や市場心理の変化によって、為替が不安定になりやすい環境が続いています。
円安・ドル高が進む局面でも、円高リスクやボラティリティの高まりを念頭に置いた戦略が重要となります。
本章では、為替リスクを適切に管理するための代表的な投資戦略を整理します。
4-1. 米ドル資産を活用した為替リスクヘッジ
為替リスク管理の基本は、外貨建て資産の分散保有です。特に米ドルは世界の基軸通貨であり、国際的に取引量が多く、流動性が高い点でリスクヘッジの中心となる通貨です。
米ドル資産の保有方法には以下のような代表的な手法があります。
・外貨預金/外貨建てMMF
証券会社や銀行で利用できる外貨建て商品を活用し、為替変動の影響を受けるものの、急激な円高局面でも資産価値を維持しやすい形となります。
・ドル建て債券・ETF
ドル建てで発行される債券やETF(上場投資信託)は、金利収入と為替のポジションヘッジ効果を併せ持つ資産として活用できます。
利回りが期待できる資産と為替リスクを同時に管理することが可能です。
こうしたポートフォリオの分散は、米ドルに偏り過ぎないことも同時に検討する必要があり、複数通貨や資産クラスの組み合わせを行うことがリスク管理のポイントです。
また、海外資産をヘッジする場合には、ヘッジ付きの投資信託やETFを活用することで、為替変動を固定化する選択肢もあります。
これにより、投資対象の収益だけに集中しやすくなる反面、ヘッジコストが発生するため、長期保有とのバランスを考慮する必要があります。
4-2. 為替の急変動に備える「指値注文」「逆指値注文」の活用
為替は短期間で大きく変動することがあり、特に地政学的リスクや政策発表時には急な値動きが発生します。
これに備えるための基本戦術として、指値注文(リミットオーダー)と逆指値注文(ストップオーダー) の活用が有効です。
・指値注文
投資家が「このレートまで円高(あるいは円安)が進んだら売買する」と予め指定しておく注文です。
たとえばドル高・円安が進む局面で「1ドル=160円」まで上昇した場合に利益確定の売りを出す、といった使い方ができます。
・逆指値注文
主に損失を限定するための注文で、例えば「1ドル=130円を割ったら自動的に売り注文を出す」と設定することで、急激な円高局面の損失を限定することができます。
これらはチャートやテクニカル指標と併せて利用され、投資判断の自動化・感情排除に役立ちます。
特に為替市場は24時間動いているため、手動で常にモニタリングすることが難しい側面があります。
注文執行の仕組みを活用して、事前にリスク水準を明確化しておくことが、急変動時の損失リスクを抑えるうえで有効です。
また、中長期的なヘッジ手法としてはフォワード契約やオプションを利用した手法もあります。
たとえば、一定期間後の為替を固定するフォワード契約は、商品の輸入・輸出や海外投資における為替確定の役割を果たします。
これにより、将来の為替リスクを事前に排除することが可能になります。
4-3. AI相場・地政学・金利サイクルを同時に読む「マルチシナリオ運用」の考え方
近年、市場の構造は単一の要因だけでは説明できないようになってきています。
特に為替は、AIによる高速取引・機械学習を用いたリスク管理・地政学的イベント・金利サイクルの変化 といった多様な要素が影響します。
AIを活用した為替リスク管理は、従来の静的なモデルよりも大量データの処理やパターン認識に強みがあります。
AIは過去の価格変動や経済指標、中央銀行の発言、ニュースセンチメントなどを統合的に分析し、為替変動を予測・ヘッジ戦略に活用することが可能です。
実際、多くの企業・金融機関がこの方向に取り組んでおり、為替リスク管理の高度化が進んでいます。
ただし、AIは万能ではなく、「未来を確実に予測するもの」ではありません。AI予測にはブラックボックス性や予測モデルの限界もあり、モデル依存や過信はリスクになります。
そのため、AI活用と伝統的分析を併用するハイブリッド戦略が推奨されます。
マルチシナリオ運用とは、複数の市場環境(例:ドル高/円高両方のシナリオ、景気加速/景気後退局面、地政学リスクの急騰など)を想定し、それぞれのケースごとに資産配分やヘッジ戦略を準備することです。
これにより、単一シナリオに依存したポジション取りのリスクを抑え、動的な環境変化に対応した運用が可能となります。
この戦略は、投資家が個々のリスク要因を分析するだけでなく、どのような「場合分け」で対応するかを前もって設定しておくことで、リスク回避から収益機会の捕捉まで幅広く対応できるというメリットがあります。
5. まとめ
トランプ政権下での為替は「常に円安」という単純な構図ではなく、景気期待や金利差で円安が進む局面と、貿易摩擦やリスクオフで円高に振れる局面が繰り返されてきました。
再任後も、関税政策や財政拡大は円安圧力となり得る一方、FRBの金融政策転換や日銀の政策修正、地政学リスクは円高回帰の要因となります。
投資家にとって重要なのは、一方向の予測に依存せず、複数のシナリオを想定し、分散・ヘッジを通じた柔軟な対応です。為替変動をリスクとして捉えるだけでなく、戦略次第では機会として活用する視点が重要と言えるでしょう。
ファーストパートナーズでは、富裕層・資産形成層の方々に対して、ニーズに寄り添ったさまざまなサービスのご提案を行っております。
※ご相談は無料で承っておりますが、その内容により、個別の商品・銘柄・売買の方法・時期等に言及する場合があります。
記事のお問い合わせはこちら
