
4%ルールは、取り崩しを始めるときの資産額の4%を初年度に引き出し、翌年以降はその金額を物価の変化に合わせて調整する考え方です。毎年の資産残高に4%を掛け直す方法とは異なります。
米国の過去データに基づく研究が出発点であり、将来の運用成果や、どの家庭でも30年間生活費を確保できることを保証するものではありません。円で暮らす場合には、収入と支出の差額、為替、税金、費用なども計算に関わります。
この記事では、4%ルールの仕組みと計算例を確認したうえで、定額・定率の違い、取り崩し中の値動きの影響、生活費と資産残高を点検する項目を整理します。
1. 4%ルールとは?初年度の金額と翌年以降の計算方法
1-1. 初年度は開始時資産の4%、翌年以降は物価で調整する
例えば、取り崩し開始時の資産が3,000万円なら、初年度の取り崩し額は120万円です。翌年以降は、その時点の残高の4%を計算するのではなく、前年の取り崩し額を物価の変化に応じて調整します。
| 年 | 取り崩し額の計算 | 年間の取り崩し額 |
|---|---|---|
| 1年目 | 3,000万円×4% | 120万円 |
| 2年目 | 120万円×1.02 | 122万4,000円 |
| 3年目 | 122万4,000円×1.02 | 124万8,480円 |
表は毎年2%ずつ物価が上昇する仮定の例です。2%は将来の物価の予測ではありません。運用成績に関係なくこの調整を続ける場合、資産残高に対する取り崩し額の割合は年ごとに変わります。
1-2. 米国の過去データを検証した研究が出発点
4%ルールの出発点として知られるのが、ウィリアム・ベンゲンによる1994年の研究です。米国株式と米国債の組み合わせについて、過去のリターンと物価変動を使い、資産がどのくらいの期間持つかを検証しました。
研究では、初年度に4%を引き出し、その後に物価調整を行う条件で、検証した過去のケースでは30年を超えて資産が持続した結果が示されています。ただし、一定の資産構成と過去の市場環境での結果です。取り崩し期間や運用する資産が異なるケースに、そのまま適用できるわけではありません。
出典:William P. Bengen(1994)“Determining Withdrawal Rates Using Historical Data”(原論文・PDF)
1-3. 「年利4%」や「毎年の残高の4%」とは別の数字
4%は、初年度の取り崩し額を決める割合です。運用によって毎年4%の利益が得られるという意味ではありません。また、取り崩すお金は利益だけとは限らず、元本部分を含む場合もあります。
開始時の資産が3,000万円でも、後に残高が2,000万円になったとき、残高の4%なら80万円です。一方、初年度120万円を基準に物価調整する方法では、残高が減っても取り崩し額が自動的に80万円へ下がることはありません。
2. 定額・定率・物価調整付きの取り崩しはどう違う?
2-1. 資産残高だけでなく、受け取れる金額も比較する
| 方法 | 金額の決め方 | 生活費への影響 | 確認したい点 |
|---|---|---|---|
| 名目の定額取り崩し | 毎年同じ金額を引き出す | 金額は一定だが、物価上昇時には買えるものが減る | 残高が減っても同額を取り崩す負担が続く |
| 定率取り崩し | 確認時点の残高に一定割合を掛ける | 残高に応じて受取額が増減する | 残高が減った年に必要な生活費を確保できるか |
| 物価調整付き取り崩し | 初年度の金額を決め、以後は物価で調整する | 物価に合わせた購買力の維持を目指す | 資産が減っても、物価上昇によって引出額が増えることがある |
どの方法でも、資産残高だけを見て良し悪しを決めることはできません。取り崩す金額を減らせば資産への負担は小さくなりますが、その分の生活費をどう賄うかという問題が残ります。
2-2. 定率なら、資産が残っていても生活費が不足することがある
残高が常にプラスで、運用損益・費用・税金がなく、毎年その4%だけを引き出す単純な計算では、残高は毎年96%ずつ残ります。この数学的な性質と、生活に必要なお金が足りることは別です。
例えば残高3,000万円の4%は120万円ですが、1,000万円の4%は40万円です。どちらも4%でも、受け取れる金額には80万円の差があります。「残高がゼロにならない」という条件だけでは、取り崩し計画が成り立っているかは判断できません。
3. 取り崩し中は、リターンが生じる順序で残高が変わる
3-1. 同じ3年間のリターンでも、年末残高が異なる例
収益率配列リスクとは、取り崩しなどの資金の出入りがあるとき、運用リターンが生じる順序によって残高が変わるリスクです。日本だけに特有のものではありません。
次の例では開始時資産を3,000万円とし、各年の運用損益を反映した後、年末に120万円を取り崩します。税金・費用・物価調整・追加投資はなく、リターンは説明のための仮定です。残高は「前年末残高×(1+その年のリターン)−120万円」で計算します。
| 年 | A:リターン | A:取り崩し後残高 | B:リターン | B:取り崩し後残高 |
|---|---|---|---|---|
| 開始時 | ― | 3,000万円 | ― | 3,000万円 |
| 1年目 | +20% | 3,480万円 | −20% | 2,280万円 |
| 2年目 | −20% | 2,664万円 | +20% | 2,616万円 |
| 3年目 | +10% | 2,810.4万円 | +10% | 2,757.6万円 |
AとBは、同じリターンの組み合わせで、3年間に取り崩した合計額も360万円で同じです。それでも、最後の残高には52.8万円の差が生じます。取り崩しがなければ、どちらも3,000万円×1.2×0.8×1.1=3,168万円です。
この例は順序による違いを示すもので、資産が何年持つかを推定する試算ではありません。将来のリターンが一定だと仮定した計算だけでは、こうした差を把握できません。
3-2. 価格が低いときは、同じ金額を得るための売却数量が増える
例えば投資信託の基準価額が1万口あたり1万円なら、10万円分の売却に必要な口数は10万口です。基準価額が5,000円なら、同じ10万円分の売却に必要な口数は20万口になります。ここでは売却費用や税金を考慮していません。
同じ額を取り崩しても、価格によって残る口数が変わります。後に基準価額が戻ったとしても、保有口数が減っていれば、資産額が元に戻るとは限りません。一方、売却額を減らす場合には、その年の生活費を補えるかという確認が必要です。
出典:Fidelity「What is sequence of return risk?」
4. 日本で取り崩しを考える際に確認したい条件
4-1. 円の生活費と、保有資産の為替の影響
外貨建て資産から円の生活費を確保する場合、資産自体の値動きに加え、為替が円換算額に影響します。例えば30万円を確保するのに必要な米ドルは、1ドル150円なら2,000ドル、1ドル100円なら3,000ドルです。為替手数料等は含めていません。
この例では、ドルでの資産価格が変わらない場合でも、円高になると必要なドル額が増えます。円建てで購入できる投資信託でも、投資対象が海外資産であれば為替の影響を受ける場合があります。影響の程度は、投資対象や為替ヘッジの有無などによって異なります。
4-2. 物価上昇と、家計ごとの支出の変化
物価調整は本来の4%ルールに含まれる考え方です。ただし、研究で使われた米国の物価と、日本で暮らす家計の支出が同じように変わるわけではありません。医療・介護、住居修繕など、物価とは別に増える支出もあります。
物価が毎年3%ずつ上昇すると仮定した場合、現在80万円で買えるものと同じ量を10年後に買うには、80万円×1.03の10乗で約107.5万円が必要です。逆に10年後の80万円の購買力は、現在の価値に換算すると約59.5万円になります。
4-3. 税金・費用を差し引いた後の手取り額
生活費として必要な金額と、資産を売却する金額は一致しない場合があります。課税口座で譲渡益が生じれば課税の対象となり、売却費用なども手取りに影響します。税金は売却代金の全額に一律にかかるものではなく、取得費等を差し引いた利益などを基に計算します。
NISA口座では制度の対象となる売却益等が非課税ですが、どの口座から取り崩すかは、保有商品の内容、含み損益、資産配分、必要な現金額にも関わります。「課税口座を必ず先に」「NISAを必ず最後に」と順序だけを固定すると、こうした違いを見落とす可能性があります。
出典:金融庁「NISAを知る」
5. 取り崩し計画を整理する4つの確認項目
5-1. 生活費全額ではなく、収入で足りない分を求める
資産から補う金額を把握するには、支出と、年金・就労収入などの手取り収入を並べます。年金額を額面で見積もり、生活費を手取りベースで比較すると、税金や社会保険料の分だけ不足額を小さく見積もることがあります。
| 項目 | 仮定の金額 |
|---|---|
| 月の生活費 | 30万円 |
| 月の手取り収入 | 20万円 |
| 資産等で補う月額 | 10万円 |
| 年間の不足額 | 120万円 |
この例の年間不足額120万円を4%で割ると3,000万円です。ただし、この逆算は必要資産の目安を計算しただけで、3,000万円あれば将来の支出をすべて賄えると確認したことにはなりません。税金・費用、臨時支出、必要な期間は別に織り込みます。
5-2. 近い時期に使うお金と、運用するお金の役割を分ける
使う時期や目的ごとに資産を分ける考え方は「バケツ戦略」と呼ばれます。近い時期の支出を預貯金等で賄う仕組みには、生活費のために投資資産を売る時期を調整できる余地があります。
一方、その資金を使い切れば補充が必要です。数年分を確保しても、その間に市場が回復するとは限りません。また、手元資金にも物価上昇で購買力が下がる側面があります。
例えば年間不足額120万円に対して2年分を別に確保する仮定なら240万円です。生活費全額の2年分とは金額が異なります。この2年という期間は計算例であり、必要な年数を一律に示すものではありません。
5-3. 支出を調整できる範囲を具体的にする
住居費や医療費など減らしにくい支出と、時期・金額を調整できる支出を分けると、取り崩し額が変わった場合の影響が分かります。残高に応じて取り崩し額を調整する方法も、家計で実行できる範囲がなければ機能しません。
相場が一定割合下落したら支出を一律に減らす、と決めるだけでは、必要な生活費を確保できるかが抜け落ちます。どの支出を、いくら、いつまで調整できるかを具体的にしたうえで、残高の変化と照らし合わせます。
5-4. 自動売却の条件と、資産配分を点検する
定期売却サービスを利用する場合には、定額・定率のどちらに対応するか、売却日、入金日、対象商品、費用、残高不足時の扱いなどを確認します。自動化は手続の負担を減らす仕組みであり、必要な生活費や運用成果を保証するものではありません。
また、取り崩しや値動きによって、株式・債券・現金等の割合は変わります。定期的に実際の配分と計画を照合し、収入や支出、取り崩し期間の変化も合わせて確認することで、前提がどこで変わったかを把握できます。
6. 4%ルールでよくある疑問
6-1. 年間生活費の25倍があれば十分?
25倍は、4%の逆数である「1÷0.04」から出る数字です。例えば年間の不足額120万円の25倍は3,000万円になります。ただし、計算に使うのは生活費全額なのか、年金等を差し引いた不足額なのかを区別する必要があります。
資産を使う期間が30年を超える場合や、臨時支出が大きい場合もあります。25倍という計算結果だけで、必要な資金が十分かどうかは判断できません。
6-2. 毎月取り崩すなら、4%を12で割ればよい?
初年度120万円を12か月に分けるなら、月額は10万円です。一方、毎月の残高に「4%÷12」を掛ける方法では、残高が動くたびに受取額も変わります。年間額を12回に分けることと、毎月残高に一定割合を掛けることは別の計算です。
同じ年間額でも、年初・毎月・年末など取り崩すタイミングが変われば、運用される残高も変わります。シミュレーションの条件と、実際の受取り方を揃えて確認します。
6-3. 4%より低い割合なら、必ず安全?
ほかの条件が同じなら、取り崩し額が小さいほど残高への負担は小さくなります。しかし、生活費が足りなければ別の資金が必要です。割合を下げることだけで、長寿、物価、運用損失などの不確実性がなくなるわけではありません。
7. まとめ:4%という数字より、計算の前提を確認する
4%ルールは、初年度の取り崩し額を開始時資産の4%で決め、その後は物価調整する考え方です。定率取り崩しや、物価調整のない定額取り崩しと分けて理解する必要があります。
実際の計画では、手取り収入で足りない金額、資産を使う期間、税金・費用、為替、臨時支出を整理します。そのうえで、残高が減った場合にも必要な生活費を賄えるかを確認すると、資産残高と暮らしの両方から計画を点検できます。
ファーストパートナーズでは、富裕層・資産形成層の方々に対して、ニーズに寄り添ったさまざまなサービスのご提案を行っております。
※ご相談は無料で承っておりますが、その内容により、個別の商品・銘柄・売買の方法・時期等に言及する場合があります。
記事のお問い合わせはこちら
