
「投資の成果はアセットアロケーション(資産配分)で9割決まる」これは、資産運用について調べたことのある方なら、一度は目にしたことのあるフレーズではないでしょうか。しかし、この「9割」という数字が何を意味するのか、正確に説明されている場面は多くありません。実はこの説には元となった研究があり、その内容は世間で語られるイメージとは少し異なります。
本記事では、「9割」説の出どころと研究が実際に示したことを確認したうえで、資産配分を考える前に整理すべきこと、配分比率だけでは見えないリスク、そして見直しのタイミングまでを解説します。なお、本記事は特定の金融商品の売買や特定の資産配分を推奨・勧誘するものではなく、ご自身で判断するための材料を中立的に整理することを目的としています。
1. アセットアロケーションとは?資産配分の基本
1-1. 株式・債券・現金など「資産クラス」の割合を決めること
アセットアロケーション(Asset Allocation=資産配分)とは、運用する資金を、性質の異なる資産の種類(資産クラス)にどのような割合で振り分けるかを決めることです。代表的な資産クラスには、株式、債券、現金・預貯金のほか、不動産や金などの実物資産があります。
また、株式の中でも国内株式と外国株式、債券の中でも国内債券と外国債券は、値動きの性質が異なるため、別の資産クラスとして扱われるのが一般的です。資産クラスごとに、期待される収益の大きさと、価格変動の幅(リスク)は異なります。
値動きの異なる資産を組み合わせることで、どれか1つの資産が大きく下落しても、資産全体への影響を和らげることができる——これがアセットアロケーションの基本的な考え方です。「どの銘柄を買うか」を決める前に、「そもそもどの資産クラスに、どれだけ配分するか」という運用の大枠を決める作業となります。
1-2.「ポートフォリオ」との違い
アセットアロケーションとしばしば混同される言葉に「ポートフォリオ」があります。両者は重なる部分もありますが、指している階層が異なります。アセットアロケーションが「株式に◯%、債券に◯%」という資産クラス単位の配分方針を指すのに対し、ポートフォリオは、その方針に基づいて投資家が実際に保有する金融商品の具体例や組み合わせ全体を指します。
| 用語 | 指しているもの | 例 |
|---|---|---|
| アセットアロケーション | 資産クラス単位の配分方針(大枠) | 外国株式に40%配分する |
| ポートフォリオ | 方針に基づく保有商品の組み合わせ(中身) | その40%をどの投資信託・銘柄で構成するか |
資産配分(大枠)が定まらないまま個別の投資信託や株式(中身)を選んでしまうと、運用の軸がぶれ、想定外のリスクを抱えやすくなります。
まずは「全体の設計図を描いてから、具体的な商品を選ぶ」という手順を意識することが大切です。運用の順序としては、まず資産クラスの配分(アセットアロケーション)を決め、次にそれを実現する具体的な商品(ポートフォリオ)を選ぶ、という流れになります。
冒頭の「9割」説は、まさにこの前者、大枠である「資産クラスの配分」の重要性を語る文脈で使われてきました。では、その有名な説の根拠となった論文は実際に何を示したのでしょうか。次章で確認します。
2.「投資成果の9割が決まる」という説の真相
「9割」説は根拠のない俗説ではなく、実在する学術研究に基づいています。ただし、研究が実際に示したことと、世間で流通しているイメージの間には無視できないズレがあります。この章では、その出どころと論文の中身を読み解きます。
2-1. 1986年の米国の研究が元になっている
この説の元になったのは、1986年に米国の学術誌Financial Analysts Journalに掲載された論文「Determinants of Portfolio Performance(ポートフォリオ・パフォーマンスの決定要因)」です。著者のブリンソン、フッド、ビーバウアーの3氏(頭文字からBHBと呼ばれます)は、米国の大手年金基金91プランの1974年からの10年間の四半期リターンを分析しました。
同論文では、資産配分の方針・マーケットタイミング(売買時期の判断)・銘柄選択の3要素が、年金基金の運用成績にそれぞれどう寄与したかを検証しています。その結果、各年金基金の長期的な資産配分方針に基づくリターンが、実際のリターンの変動の平均93.6%を説明することが示されました。
この「93.6%」という数値が、現在語られる「投資成果の9割は資産配分で決まる」という説の出どころです。この論文は、「銘柄選択や売買タイミングよりも、配分方針という土台が運用に影響を与える」という理解が広がる契機となりました。
しかし、この「93.6%」という数字は、「リターンの高さ」を示したものではありません。次節でその数値の本来の意味を解説します。
出典:Gary P. Brinson, L. Randolph Hood, Gilbert L. Beebower「Determinants of Portfolio Performance」Financial Analysts Journal, Vol.42, No.4(1986年)(https://www.tandfonline.com/doi/abs/10.2469/faj.v42.n4.39)
