
働かずに、毎月の分配金で暮らす。ある程度まとまった資産を持つ人であれば、「投資信託の分配金だけで生活する」ということを一度は検討したことがあるかもしれません。
ただし、実現できるかどうかは、受け取れる分配金の金額だけでは判断できません。同じ金額の分配金を受け取っていても、その原資や運用状況によって、資産を維持しながら受け取れているのか、元本の一部を取り崩しているのかが異なるためです。
この記事では、必要な元本の計算と制度上の制約を確認したうえで、判断の分かれ目がどこにあるのかを整理します。なお、投資信託は預貯金と異なり、市場価格や金利・為替等の変動により基準価額が変動し、投資した金額を下回るおそれがある商品であることを踏まえたうえで、本記事の試算はあくまで一定の分配金利回りが継続した場合の目安としてご参考いただければと思います。
1. 投資信託の分配金だけで暮らしている人は本当にいるのか
1-1. 分配金だけで生活することは可能※だが、仕組みの理解が重要
まず「分配金だけで暮らす」とはどのような状態を指すのか整理しておきましょう。分配金だけで暮らしている人が何人いるかを示す統計は、公的機関にも自主規制機関にも見当たりません。そのため、ここでは人数ではなく、分配金を生活費に充てる際に理解しておきたい仕組みから考えます。
重要なのは、受け取った分配金のすべてが、必ずしも運用によって新たに生み出された利益とは限らないことです。投資信託の分配金は、ファンドの純資産から支払われるため、分配金が支払われると、その金額相当分だけ基準価額は下落します。
また、投資家が受け取る分配金には、課税対象となる「普通分配金」と、実質的に元本の一部払い戻しに相当する「元本払戻金(特別分配金)」があります。元本払戻金(特別分配金)が含まれている場合、投資家自身が投じた元本の一部が戻ってきていることになります。
毎月一定額の分配金が口座に振り込まれていたとしても、それだけを見て「運用収益だけで生活できている」と判断することはできません。そのため、分配金を生活費として活用する場合は、受取額だけでなく、分配金の内訳や基準価額の推移、保有資産全体の増減まで確認することが重要です。
※分配金の額は保証されておらず、運用状況によって変動しうるという前提のもと、十分な元本と分配の仕組みへの理解があれば、生活費の一部を分配金でまかなうことは理論上可能と考えられます。
1-2. なぜ「分配金生活」を実現できる人は少ないのか
分配金で生活を続けるには、複数の条件を満たす必要があります。1つ目は、必要な生活費に見合う元本があること。これは第2章で計算します。2つ目は、その元本から生まれる収益が、生活費を上回り続けること。ここが難しい部分です。
分配金は、事前に支払額が保証されているものではありません。運用環境が変われば分配金は減ることも、支払われなくなることもあります。生活費として一定額が必要であっても、分配金による収入は変動する可能性があるため、その差に備える必要があります。
3つ目は、分配金の金額だけでなく、資産全体の損益を確認することです。分配金は投資信託の純資産から支払われるため、受け取った金額だけを見ても、運用が順調かどうかは判断できません。
日本証券業協会の資料では、分配金の受取額が同じ100円でも、基準価額が動かなかったケース、50円下がったケース、200円下がったケースで、投資家の損益がそれぞれ100円、50円、▲100円と異なる例が示されています。受け取る金額が同じでも、資産の状態はまったく違います。そして最後に、税金を考慮することです。課税口座で受け取る分配金には税金がかかるため、必要な元本は税引前で考えたときより増えます。ここも第2章で解説します。
このように、分配金を生活費として継続的に活用するには、必要元本、分配金の変動、資産全体の損益、税金などをあわせて考える必要があります。分配金の利回りが高いファンドを選べば実現できる、という話ではありません。むしろ利回りが高いほど、収益を超えて分配している可能性を確認する必要が出てきます。この見極め方は第4章で扱います。
出典:日本証券業協会「毎月分配型の投資信託とは?」(https://www.jsda.or.jp/about/hatten/risk/bunpai/index.html)
2. 分配金だけで暮らすには、いくらの資産が必要?
必要な元本を試算する際は、生活費と分配金利回り、そして税金の3つを考慮する必要があります。順に見ていきます。
なお、以下の利回りはすべて仮に置いた数字です。毎月の分配や分配金額が保証されているものではないため、特定の利回りが継続的に得られる前提での試算ではない点にご留意ください。
2-1.「月20万円」を受け取るには、どの程度の元本が必要か
月20万円は年間240万円です。まずは税金を考慮せずに、この金額を分配金で受け取るために必要な元本を計算します。計算式は単純で、必要な年間分配金を分配金利回りで割るだけです。年240万円を利回り4.8%で割ると5,000万円になります。
| 分配金利回り | 必要な元本(税引前) |
|---|---|
| 3.0% | 8,000万円 |
| 4.0% | 6,000万円 |
| 4.8% | 5,000万円 |
| 6.0% | 4,000万円 |
これらの計算は「5,000万円あれば月20万円の分配金を受け取り続けられる」という意味ではなく、あくまで年4.8%の分配金利回りを仮定した場合の単純計算として捉える必要があります。
2-2. 税引後で考えると必要元本はどう変わる?
ここまでは税金を考慮していません。課税口座で受け取る分配金のうち、運用収益から支払われる普通分配金には20.315%の税金がかかります(分配金の種類は第4章で詳しく扱います)。
手取りで月20万円を確保するには、税引前でそれ以上の分配金が必要です。240万円を0.79685で割ると、301.2万円。年間で60万円ほど多く受け取らないと、手取りが240万円になりません。
| 分配金利回り | 必要な元本(税引後で月20万円) |
|---|---|
| 3.0% | 約1億40万円 |
| 4.0% | 約7,530万円 |
| 4.8% | 約6,275万円 |
| 6.0% | 約5,020万円 |
利回り4.8%なら6,275万円。税引前の5,000万円から1,275万円増えます。25%以上の上乗せです。税金の分だけ必要な元本が増える。これは避けようのない構造で、次章で扱うNISA(少額投資非課税制度)が関わってくるのもこの部分です。
2-3. 生活費の水準によって、必要な元本は変わる
生活費が変われば、必要な元本も比例して変わります。利回り4.8%、税引後で計算すると次のようになります。
| 手取りの月額 | 必要な元本 |
|---|---|
| 15万円 | 約4,706万円 |
| 20万円 | 約6,275万円 |
| 25万円 | 約7,843万円 |
| 30万円 | 約9,412万円 |
この条件では、手取りの生活費が月5万円増えるごとに、必要元本は約1,570万円増える計算になります。ここで押さえておきたいのは、この計算がすべて「その利回りが続く」という前提の上に成り立っていることです。
分配金は運用状況に応じて決まり、減ることも支払われなくなることもあります。生活費は分配金の増減にかかわらず継続的に発生するため、分配金だけを生活費の原資とする場合には、この収入と支出の性質の違いを考慮する必要があります。
そして、これらの数字はいずれも「分配金が運用収益から出ている場合」の話です。分配金の一部が元本の払い戻しであれば、元本そのものが減っていくため、翌年以降に受け取れる金額も減ります。同じ利回りが続くという前提が、そもそも成り立たなくなります。
分配金額や分配金利回りだけでなく、基準価額や個別元本、トータルリターンなどもあわせて確認することが重要です。分配金の中身をどのように確認すればよいのかについては、第4章で詳しく解説します。
3. NISA枠だけで「分配金生活」は実現できる?
第2章で見たとおり、課税口座で普通分配金を受け取る場合は税金がかかるため、その分だけ手取り額は少なくなります。 そこで考えられるのが、運用益が非課税となるNISAの活用です。ここではその可否を確認します。
3-1. 新NISAの非課税保有限度額は1,800万円
NISAを保有できる金額には上限があります。非課税保有限度額は1,800万円で、このうち成長投資枠として使えるのは1,200万円までです。なお、非課税保有限度額は時価ではなく、購入時の金額(簿価残高)をもとに管理されます。
年間に投資できる金額にも上限があり、つみたて投資枠が120万円、成長投資枠が240万円で、合わせて年360万円です。1,800万円を埋めるには、最速でも5年かかります。
そして、この記事のテーマにとって重要な制約があります。NISAでは毎月分配型の投資信託を買えません。つみたて投資枠では毎月分配型の株式投資信託を受け入れることができず、成長投資枠でも毎月分配型の投資信託は対象から除外されています。
年2回や年4回決算の分配型であれば成長投資枠で購入できるため、NISA口座で分配金を受け取ること自体は可能です。ただし「毎月の生活費を毎月の分配金でまかなう」という設計は、制度上NISA口座だけでは成り立ちません。
3-2. NISA満額運用で得られる分配金はどれくらい?
仮に、毎月分配金を受け取ることができるように、NISA口座で1,800万円満額を分配型投資信託を複数組み合わせて購入した場合に受け取れる分配金を計算します。
| 分配金利回り | 年間の分配金 | 月あたり |
|---|---|---|
| 3.0% | 54.0万円 | 4.5万円 |
| 4.0% | 72.0万円 | 6.0万円 |
| 4.8% | 86.4万円 | 7.2万円 |
| 6.0% | 108.0万円 | 9.0万円 |
第2章で置いた目標は手取り月20万円でした。利回り4.8%でも月7.2万円で、3分の1程度にとどまります。利回り6%まで引き上げても月9万円です。
非課税である分、税引前と税引後の区別はありません。しかし枠が1,800万円で頭打ちになる以上、そこから生まれる金額にも上限があります。
3-3. 分配金生活を目指すなら「課税口座」の活用も必要
第2章の試算では、手取り月20万円に必要な元本は利回り4.8%で約6,275万円でした。NISAで埋められるのは1,800万円までなので、残4,475万円は課税口座で持つことになります。このとき資産は2つに分かれます。NISA口座の分は非課税、課税口座の分は20.315%が差し引かれる。全体の手取りは合算して考える必要があります。
さらに前節のとおり、NISA口座では毎月分配型を選べません。毎月の受け取りを重視するなら、その部分は課税口座で持つことになります。したがって、NISAだけで分配金生活を組み立てることはできません。NISAは負担を軽くする手段のひとつではありますが、それだけで完結する設計にはなっていません。
そして、ここまでの計算はすべて「その利回りの分配金が続く」という前提で成り立っています。実際に受け取る分配金がどこから出ているのかを確認しないと、この前提そのものが崩れます。次章でその見分け方を扱います。
出典:日本証券業協会「2024年以降のNISAに関するQ&A」(https://www.jsda.or.jp/shijyo/seido/tax/files/202509_nisa_qa.pdf)
4. その高配当は大丈夫?分配金が高すぎるファンドの「見極め方」
ここまでの試算では、一定の分配金利回りが継続することを前提にしていました。この前提が崩れると、必要元本の計算そのものが意味を失います。判断の分かれ目はここにあります。
4-1. 「普通分配金」と「元本払戻金」の違い
投資信託の分配金は、投資家毎に性質が変わります。同じファンドの同じ決算でも、いつ買ったかによって扱いが違います。判定の基準になるのが個別元本です。これは自分がその投資信託を買ったときの価格で、買い増すたびに計算し直されます。
分配落ち後の基準価額が個別元本と同額かそれを上回っている場合、その分配金は全額が普通分配金になります。値上がりした部分から支払われている、つまり運用で生まれた収益を受け取っている状態です。
第2章と第3章の試算は、すべてこの状態を前提にしていました。元本は維持されたまま、生まれた収益だけを使う。これが成立していれば、分配金生活は理屈のうえで続きます。なお普通分配金は課税対象です。課税口座なら20.315%が差し引かれます。第2章で必要元本が2割以上増えたのは、この部分の話でした。
4-2. 元本を取り崩す「元本払戻金(特別分配金)」
一方、分配落ち後の基準価額が個別元本を下回っている場合、その下回る部分は元本払戻金(特別分配金)になります。
例えば、10,500円で購入した投資信託の基準価額が10,800円になり、決算で700円が分配されたとします。分配落ち後の基準価額は10,100円。値上がり分の300円は普通分配金ですが、個別元本を下回る400円に相当する部分が元本払戻金となります。
元本払戻金は、投資家にとって投資した元本の一部払い戻しに相当するため、課税されません。また、元本払戻金を受け取ると、その金額相当分だけ個別元本が引き下げられます。
4-3. 利回りだけで選ぶと失敗する理由
分配金利回りは、一定期間に支払われた分配金と基準価額などを基に算出されます。しかし、この数字だけでは、投資信託の運用成果を判断することはできません。
日本証券業協会の資料に、分かりやすい比較があります。分配金の受取額がいずれも100円だった3つのケースで、前期決算日から当期決算日までの基準価額の差が0円、▲50円、▲200円だった場合、投資家の損益はそれぞれ100円、50円、▲100円になります。受け取った金額は同じでも、資産の状態はまったく違います。3つ目のケースでは、100円を受け取りながら資産は100円減っています。利回りだけを見れば3つとも同じ数字です。したがって、確認すべきは分配金の額ではなく、次の3つになります。
・1つ目は、受け取った分配金のうち普通分配金と元本払戻金がそれぞれいくらだったか。
これは取引報告書などの取引記録で確認できます。元本払戻金の割合が高い状態が続いていれば、実質的には資産を取り崩しています。
・2つ目は、基準価額の推移です。
分配金を受け取りながら基準価額が下がり続けているなら、分配金が収益を上回っている可能性があります。分配金の受取額と基準価額の増減を合わせて見る必要があります。
・3つ目は、その分配金が続く前提を置けるかどうかです。
毎月の分配や分配金額は、保証されているものではありません。過去に高い分配を続けてきた実績は、今後も同じ水準が続くことを示すものではありません。
第2章では、利回りが1ポイント違うだけで必要元本が数千万円動くことを見ました。その利回りが実は元本の払い戻しを含んだ数字だったとすれば、計算の土台そのものが崩れます。高い利回りは、それだけで有利な条件を意味しません。
出典:日本証券業協会「毎月分配型の投資信託とは?」(https://www.jsda.or.jp/about/hatten/risk/bunpai/index.html)、資産運用業協会「元本払戻金(特別分配金)」(https://www.imaj.or.jp/glossary/detail/58.html)
5. まとめ
投資信託の分配金だけで暮らせるかどうかは、必要な元本を用意できるかという問題に見えます。しかし実際には元本の金額だけで判断できるものではありません。
必要な元本は、生活費と分配金利回りと税金によって大きく異なります。手取りで月20万円を確保する場合、利回り4.8%なら約6,275万円。4.0%に下がれば約7,530万円、3.0%なら約1億40万円です。利回りが1ポイント変わるだけで数千万円動くため、「いくら必要か」という問いに単一の答えはありません。
課税口座では普通分配金に20.315%がかかるため、税引前で計算した5,000万円が手取りベースでは約6,275万円になります。25%以上の上乗せです。ならばNISAを、と考えても、こちらには2つの制約があります。
非課税保有限度額は1,800万円で、利回り4.8%でも年86.4万円、月あたり7.2万円にとどまります。加えて、つみたて投資枠・成長投資枠のいずれも毎月分配型の投資信託は対象外です。毎月の生活費を毎月の分配金でまかなうという設計は、NISAの中では成り立ちません。
そして、分配金を生活費として活用するうえで特に重要なのが、分配金の金額や利回りだけで運用成果を判断しないことです。ここまでの計算はすべて、受け取る分配金が運用収益から出ていることを前提にしていました。
分配落ち後の基準価額が個別元本を下回れば、その部分は元本払戻金として自分の元本が戻ってきているだけになります。元本が減れば、翌年以降に受け取れる金額も減ります。
日本証券業協会の資料では、分配金を100円受け取った3つのケースで、基準価額の差が0円・▲50円・▲200円だった場合、投資家の損益が100円・50円・▲100円と異なる例が示されています。「分配金利回り」としてだけを考えると、この違いが表れません。
そのため、タイトルに掲げた「実現できる人の特徴」を整理するなら、生活費に見合う十分な資産を持っていること、税引後で計算していること、そして、受け取っている分配金が運用収益の範囲に収まっているかを取引記録と基準価額の推移で確認できていること、主なポイントとして挙げられます。
毎月一定額の分配金を受け取っていても、基準価額がそれ以上に下落していれば、資産全体では減少している可能性があります。反対に、分配金額だけでは投資信託の運用成果を正確に把握することはできません。分配金だけで暮らせるかを考えるとき、最初に確認すべきは利回りではなく、その分配金がどこから出ているかです。
※ その他、NISA に関するご注意事項、並びに2023年までの一般NISA ・つみたてNISA等に関するご注意事項の詳細は金融商品取引業者等のWEBサイトにてご確認ください。
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