2024年12月現在、相続税は金額に応じて10%~55%の税率で課されており、多くの人にとって大きな負担となります。
しかし、適切な対策を講じることで、相続税を軽減できる可能性があります。その有効な方法の一つが、不動産を活用した相続税対策です。
この記事では、不動産による相続税対策の基本からメリット・デメリット、注意点まで、わかりやすく解説します。
1.不動産が相続税対策になる3つの理由
不動産は、現金や預貯金と比べて相続税評価額が低くなる傾向があります。
そのため、相続税対策として有効な手段となります。評価額が低くなる理由として以下の3つの理由が挙げられます。
1-1.不動産は現金と比較し相続税評価額が低い
不動産の相続税評価額は、路線価方式や倍率方式によって算出されます。一般的に、路線価は市場価格(時価)の約80%程度に設定されています。
そのため、現金や預貯金(評価額が時価の100%)と比較すると、不動産の相続税評価額が低くなる傾向があります。
ただし、地域や土地の状況によっては、路線価が時価を上回る場合もあります。特に地方では、路線価が実際の取引価格より高く設定されているケースも見られます。
そのため、路線価と時価の関係は一律ではなく、個々の土地の状況に応じて異なります。
また、建物の評価額は、固定資産税評価額に基づきます。固定資産税評価額は市場価格の約70%程度とされていますが、これも地域や建物の状況によって異なる場合があります。
したがって、不動産の相続税評価額が必ずしも市場価格より低くなるとは限らず、地域や個々の不動産の状況によって異なることを考慮する必要があります。
1-2.賃貸物件として活用すると相続税評価額が低くなる
相続する不動産を賃貸物件として活用すると、相続税評価額を低く抑えることができます。
これは、賃貸物件には借地権や借家権といった権利が設定されるため、その分所有者の権利が制限され、評価額が下がるからです。
例えば、アパート経営を行うと、土地の評価額は更地の時よりも減額されます。
具体的には、借家権割合は全国一律で30%と定められており、
この割合を基に計算すると、建物の評価額は自己所有と比べて約20%減額される可能性があります。
ただし、土地の減額率は借地権割合や賃貸割合などの要素によって異なるため、
詳細な評価や節税対策については、相続税に詳しい税理士などの専門家に相談することをおすすめします。
1-3.小規模宅地等の特例が使える
小規模宅地等の特例は、相続税対策として有効です。
小規模宅地等の特例とは、相続などにより取得した土地について、一定の条件を満たす場合にその土地の相続税評価額を大幅に減額できる制度のことです。
この特例を利用すると、一定の条件を満たす居住用地や事業用地の相続税評価額を最大80%減額できます。
例えば、330平方メートル以下の居住用地を相続する場合、評価額の80%が減額されるため、相続税の負担を大幅に軽減できます。
2.不動産を活用した相続税対策3選
不動産を活用した相続税対策には、様々な方法があります。ここでは代表的な3つの方法を紹介します。
2-1.自宅を利用して対策する
自宅を相続税対策に活用する最も一般的な方法は、小規模宅地等の特例を利用することです。
前述の通り、この特例を活用することで、一定の条件を満たす自宅の敷地について相続税評価額を大幅に減額できます。
特例の適用を受けるためには、被相続人が居住していたことや、相続人が引き続き居住することなどの要件を満たす必要があります。
なお、パターンにより要件が異なる場合があるため、詳しくは税務署や専門家に相談することをおすすめします。
2-2.賃貸物件を経営する
更地や、自宅以外の不動産を相続する場合、賃貸経営を行うことで相続税対策に繋げられます。
これは、借家権割合や賃貸割合を考慮することで評価額が圧縮されるためです。
賃貸経営には、相続税対策だけでなく、安定した家賃収入を得られるというメリットもあります。
ただし、空室リスクや管理の手間なども考慮する必要があるでしょう。
なお、賃貸不動産においても小規模宅地等の特例が適用されるケースがあります。
※事業承継要件や保有継続要件など適用条件は厳しいため、詳しくは税務署や専門家に相談しましょう
2-3.不動産を借入金で購入してマイナス資産を作る
借入金を利用して不動産を購入すると、相続財産から借入金の残高を控除できるため、相続税の課税対象となる財産を減らすことができます。
これを「債務控除」といいます。
例えば5,000万円の自己資金に加え、5,000万円を借入して1億円の物件を購入したとしましょう。
借入の残高が3,000万円の時点で相続になり、不動産の相続税評価額が4,000万円になったとすると、相続税の課税対象金額は1000万円になります。
このように、借入をうまく活用することで相続税の課税対象金額を減らすことが可能です。ただし、借入金が過大になると返済負担が大きくなるため、無理のない範囲で借入金を利用することが重要です。
3.不動産による相続税対策のメリット
不動産による相続税の対策には、大きく分けて2つのメリットがあります。
3-1.相続税評価額を大きく減らせる可能性がある
前述の通り、不動産の相続税評価額は現金や預貯金と比べて低く評価されるため、相続税の負担を軽減できることが大きなメリットです。
また、小規模宅地等の特例や賃貸不動産ならではの控除を活用することで、評価額の大幅減額につながる可能性があります。
〈相続税の計算における現金や預貯金と不動産の差分〉
相続財産 | 評価額の算出方法 | |
---|---|---|
現金や預金 | そのまま | |
不動産(土地) | 路線価方式 | 路線価図に記載されている路線価を基に評価額を算出路線価は市場価格の70~80%程度 |
倍率方式 | 固定資産税評価額に一定の倍率を掛けて評価額を算出固定資産税評価額は市場価格より低い | |
不動産(建物) | 固定資産税評価額 | 固定資産税評価額をそのまま相続税評価額として評価固定資産税評価額は建設コストなどに基づいて算定され、市場価格の50~70%程度になることが多い |
小規模宅地等の特例を活用した減額
不動産の種類 | 特例の内容 |
居住用宅地 | 評価額が80%減額(限度面積330㎡) |
事業用宅地 | 評価額が80%減額(限度面積400㎡) |
貸付事業用宅地 | 評価額が50%減額(限度面積200㎡) |
詳細については国税庁が定める内容をご確認ください。
国税庁|相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)
賃貸不動産の場合の控除・減額
評価額の算出方法 | |
借家権割合の控除 | 評価額=固定資産税評価額×(1−借家権割合)※借家権割合は一般的に30% |
貸家建付地としての土地評価減額 | 評価額=自用地評価額×(1−借地権割合×借家権割合) |
3-2.賃貸物件にすることで家賃収入を得られる
不動産を賃貸物件として活用することで、安定した家賃収入を得ることができます。家賃収入は相続税の納税資金に充てるだけでなく、生活費の補填や老後資金としても活用できます。
また、賃貸物件にすることで、以下のメリットも得られるでしょう。
- 不動産の価値向上による資産形成
- 資産の分散効果
- 資金の有効活用 など
4.不動産による相続税対策のデメリット
不動産による節税には、メリットだけでなくデメリットも存在します。事前にデメリットを理解し、適切な対策を講じられるようにしましょう。
4-1.不動産の購入や維持に費用がかかる
不動産を購入するには、多額の資金が必要となる場合があります。また、不動産を維持するには固定資産税や管理費、修繕費などの費用が発生します。
これらの費用を考慮せずに不動産を購入すると、資金計画に影響を及ぼす可能性があるため注意しましょう。
4-2.分割が難しくトラブルになる可能性がある
不動産は、現金のように簡単に分割することが難しいため、相続時に相続人間でトラブルが発生する可能性があります。
例えば、兄弟間で不動産の分割をめぐって争いが生じるケースも少なくありません。
このようなトラブルを避けるためには、遺言書を作成したり、生前に家族間で話し合いをしておくことが重要です。
5.相続税対策に有効な不動産3選
相続税対策として有効な不動産にはいくつかの特徴があります。ここでは、以下の3つを例に挙げて紹介します。
それぞれの特性を理解し、自身の状況や目的に合った不動産を選択することが重要です。
5-1.賃貸用不動産
賃貸用不動産は、家賃収入を得ながら相続税対策を行うことができるため、非常に有効な手段です。また、前述の通り、賃貸不動産の場合に限り、借家権割合などを考慮して評価額が減額されます。
アパートやマンション、ガレージハウスなど、様々な種類の賃貸用不動産があるので、自身の知識、経験、資金力や状況に適したものを選択しましょう。
なお、メリットがある一方で、空室リスクや管理コストがかかるなどのデメリットもあります。
5-2.収益性の高い立地の不動産
収益性の高い立地の不動産は、将来的に売却することで大きな利益を得られる可能性があるため、相続税対策として有効です。
都心部や駅近の物件などは需要が高いため、高値で売却できる可能性が高いでしょう。
ただし、人気が高い立地の場合は評価額も高くなる傾向があり、購入時には慎重な計画と判断が必要になります。
5-3.小規模宅地等の特例が適用できる土地
小規模宅地等の特例が適用できる土地は、相続税評価額を大幅に減額できるため、相続税対策として非常に有効です。
特例の適用を受けるためには、一定の要件を満たす必要があります。
詳細は「小規模宅地等の特例を活用した減額」の見出しをご確認ください。
6.不動産を活用して相続税対策する際のポイント・注意点
不動産を活用した相続税対策を行う際には、いくつかの注意点があります。
これらのポイントを守らないと思わぬ損失を被る可能性があるので、事前に確認しておきましょう。
6-1.相続税対策だけを理由に不動産を購入しない
不動産は、購入費用や維持費用がかかるため、相続税対策だけを目的として購入すると、かえって損をする可能性があります。
不動産を購入する際には、収益性や立地なども考慮し、総合的に判断することが重要です。
また、あきらかに節税目的での不動産購入だと判断された場合、税務署から否認される恐れもあります。
税務署から否認されると、時価で相続税評価額を算出することになるため、相続税の負担が増えてしまいます。
相続税対策だと判断される基準として、相続後の不動産の保有期間が注目されるケースがあります。短期間での売却は節税目的と見なされる可能性があるため、一定期間の保有を検討することが望ましいでしょう。
6-2.利回りが低いと保有するのが負担になる
賃貸用不動産を購入する場合、不動産の購入代金のほか、管理費や修繕費、固定資産税などのランニングコストがかかります。そのため、利回りが低いと家賃収入で維持費用を賄えず、保有するのが負担になる可能性があります。
不動産を購入する際には、利回りやランニングコストを確認し、慎重に検討することが重要になります。
6-3.場合により生前贈与のほうが相続税を減らせる可能性がある
相続税対策には、不動産を活用する方法以外にも、生前贈与を利用する方法があります。
相続税の計算には贈与時の価額が用いられるため、所有している不動産の価格上昇が見込まれるなど、場合によっては生前贈与のほうが相続税を減らせる可能性もあります。
また、結婚・子育て資金贈与や教育資金贈与など、目的に応じた非課税制度を活用することも可能です。
7.まとめ
不動産は、適切に活用することで、相続税対策として非常に有効な手段となります。
しかし、不動産にはメリットだけでなくデメリットも存在するため、事前に理解しておくことが重要です。
この記事で紹介した内容を参考に、ご自身の状況に合った不動産活用方法を選択し、賢く相続税対策を行いましょう。