資産運用

金の暴落は過去5回|最大6割安から高値を回復するまでにかかった年数を解説

金の暴落は過去5回|最大6割安から高値を回復するまでにかかった年数を解説

金は「有事に強い」「価値が下がりにくい」と語られることが多くあります。しかし、過去のデータを追うと、金価格が高値から半値以下になった局面は何度もありました。最も大きい下落では、高値から6割以上下落しています。

この記事では、田中貴金属工業が公表している1973年以降の年次価格をもとに、金価格が大きく下落した5つの局面と、その後どれくらいの期間で高値を回復したのかを整理して解説します。

目次

1.「金暴落」は過去に何度起きた?5つの歴史をおさらい

1-1. そもそもどこからを「暴落」とみるか?

「暴落」という言葉に法律や統計上の明確な定義はありません。そこでこの記事では、金価格が年間最高値から、その後の年間最安値までに3割以上下落した局面を「暴落」として扱います。

一般的な株式市場では高値から2割の下落を弱気相場と呼びますが、金市場においてはリスクを厳しく見積もるため、3割以上という厳密な基準を採用しました。 

比較基準は国際的な標準指標であるドル建て価格(ドル/トロイオンス。1トロイオンス=約31.1グラム)を使用します。金は国際的にドルで取引されるため、市場本来の価値の落ち込みを見るにはドル建てで見るのが正確だからです。

なお、日本の投資家が購入する円建て価格は為替の影響を受けるため、第4章で詳しく解説します。

分析対象期間は1973年以降のデータとしました。日本では1973年3月まで金の輸入が自由化されておらず、それ以前の価格は自由な市場原理で形成されたものではないためです。

1-2. 金相場を襲った「過去5大暴落」

1973年以降のデータを検証した結果、3割以上の下落を記録した「暴落局面」は過去に5回ありました。

局面高値安値下落率
1974年→1976年197.50ドル103.05ドル−47.8%
1980年→1982年850.00ドル296.75ドル−65.1%
1983年→1985年511.50ドル284.25ドル−44.4%
2008年(同年内)1,023.50ドル692.50ドル−32.3%
2011年→2015年1,896.50ドル1,049.40ドル−44.7%

出典:田中貴金属工業「年次金価格推移」(https://gold.tanaka.co.jp/commodity/souba/y-gold.php)を基にファーストパートナーズ作成

1980年と1983年は期間が近接していますが、1980年の安値から1983年の高値まで価格は大幅に回復し、そこから再度下落しているため、独立した別の暴落局面としてカウントしています。

全5回のうち4回は4割以上の暴落が発生しています。「金は値動きの幅(ボラティリティ)が小さい資産だ」というイメージを持つ方も多いかもしれませんが、少なくとも過去のドル建て価格を見る限り、そうとは言えません。

次節では、これら5回の暴落の中でも、投資家が最も甚大な被害を受けた「過去最大の下落局面」の詳細について深く掘り下げます。 

1-3. 過去最大の下落率は高値から6割超

過去最大の下落率を記録したのは1980年の高値850.00ドルから1982年の安値296.75ドルにかけての65.1%下落です。この局面のピークで金を購入した投資家は、わずか2年で資産価値が3分の1近くまで激減しました。

さらに厳しいことに、この暴落は1982年で止まっていません。下落トレンドは長期化し、ドル建て金価格は1999年に252.80ドルの底値を記録したため、1980年の最高値からの実質的な下落率は70.3%にまで達しました。

このように、過去には金相場が19年かけて7割下落した局面が実際にありました。この「最悪のシナリオ」の存在を理解しておくことが、今後の金投資のシナリオを描く上での不可欠な前提となります。 

2. 金価格はなぜ暴落したのか

前章では金が過去に5度の大暴落を起こした事実を確認しました。ここからは、直前までの上昇相場から一転して「なぜ金価格が暴落に転じたのか」、その背景にあるマクロ経済と金融政策のメカニズムを解き明かします。 

2-1. 1980年(バブル崩壊):史上最高値の後に6割超下落した背景

1980年に記録した1オンス=850.00ドルという高値は、1970年代を通じて加速した猛烈なインフレ相場の終着点でした。1973年の高値である127.00ドルから、わずか7年で6.7倍にまで高騰した計算になります。

この金バブルを崩壊させた主因はFRB(米連邦準備制度理事会)による超タカ派的な金融引き締め策(利上げ)です。

当時、米国の物価上昇率は11%を超えており、1979年10月に就任したボルカーFRB議長は強烈なインフレ退治(ボルカー・ショック)を断行し、米国の政策金利(FF金利)は1981年半ばに史上最高の19%台へ引き上げられました。 

金は、預金や債券と異なり「金利や利息を生まない資産」です。預金や国債で二桁の利回りが得られる環境では、利息のつかない金を持つメリットが少なくなります。

その結果、投資資金が一斉に金から金利付き資産へと流出し、金価格は1981年に599.25ドル、1982年には296.75ドルまで下落しました。

2-2. 2008年(リーマンショック):安全資産の金も売られた理由

2008年のリーマンショック時、金価格は高値1,023.50ドルから安値692.50ドルまで、わずか1年以内で32.3%下落しました。

金は一般的に「有事の金」と称されます。ただし、2008年のリーマンショック時において、金は安全資産として機能せず、株価と同様大きく下落しました。

これは、市場が混乱すると、株式などの損失(追証)を補填するため、投資家が手元の現金(キャッシュ)を確保しようとします。その際、市場で換金しやすい「含み益の出ていた金」が優先的に 売却されたためだと解釈されています。

 2-3. 2013年:FRBの量的緩和の終了観測で記録的な大暴落

2012年に1,791.75ドルまであった金価格は、2013年には1,192.00ドルまで、33.5%の大幅下落を記録しました。

この暴落を引き起こしたのは、FRBがリーマンショック後に実施してきた「量的緩和政策(中央銀行が国債などを大量に買い入れて金利を押し下げる政策)」が終了するのではないかという観測が広まったからです。

2013年5月22日、バーナンキFRB議長が議会証言で「今後数回の会合で買い入れペースを引き下げる可能性がある」と示唆したことから、米国の長期金利が上昇し、ドル高・金安のトレンドが一気に加速しました。

ここで押さえておきたいのは順序です。FRBが実際に買い入れの減額を決定したのは2013年12月18日でしたが、金価格が2013年の安値をつけたのは、それより半年以上前の6月でした。

このように、金融市場は「政策が実際に変更された瞬間」ではなく、「政策が変わりそうだという予測(思惑)」に反応して動きます。 これは相場を考えるうえで重要な点です。

2-4. 過去の暴落局面に共通していたこと

3つの歴史的暴落を比較分析すると、2つの共通点が見えてきます。

第一に、「金利上昇や金融緩和の終了といった、中央銀行の政策方向の転換点と合致していること」です。1980年は利上げ、2013年は量的緩和の縮小観測。金利を生まない金にとって、金利が上がる方向の変化は逆風になります。

第二に 、「暴落の直前に、数年間にわたる急激な価格高騰が存在していたこと」 です。1980年の暴落直前は7年で6.7倍、2011年の直前は2001年の安値から7.4倍になっていました。

相場が高騰して買われすぎた状態(過熱感)があったからこそ、きっかけ一つで激しい反落が起きたといえます。 

3. 暴落した金価格は何年で復活したのか?

価格が暴落した際、投資家にとって最大の関心事は「元の高値に戻るまで何年耐えればいいのか」という回復のタイムスケジュールです。本章では、過去5回の暴落から高値奪還までに要した年数を分析し、長期保有の現実を検証します。

 3-1. 暴落から前の高値を回復するまでの期間

過去5回の暴落局面について、暴落前の高値を再び上回るまでの所要年数は、以下の通りです。

局面高値下落率高値を回復した年所要期間
1974年197.50ドル−47.8%1978年4年
1980年850.00ドル−65.1%2008年28年
1983年511.50ドル−44.4%2005年22年
2008年1,023.50ドル−32.3%2009年1年
2011年1,896.50ドル−44.7%2020年9年

出典:田中貴金属工業「年次金価格推移」(https://gold.tanaka.co.jp/commodity/souba/y-gold.php)を基にファーストパートナーズ作成

回復までの期間は最短で「1年(2008年)」、最長で「28年(1980年)」と、実に28倍もの格差が存在します。同じ「暴落からの回復」であっても、買った時期によって投資家が強いられる忍耐の期間は大きく異なります。 

では、なぜ1980年や1983年の暴落では、20年以上もの長期にわたって価格が低迷し続けたのでしょうか。その背景を詳しく見ていきます。 

3-2. 最長で「20年以上」?回復が長引いたケースの背景

回復までに20年以上かかったのは、1980年(28年)と1983年(22年)の暴落です。いずれも1980年代前半の高値でした。

極端に回復が長引いた理由は、「下落率の大きさ」だけではありません。1986年から1996年までの11年間、金価格は343ドル~447ドルの範囲で停滞しています。下げたあと10年以上ほとんど動かなかったことが、回復を遠ざけました。

この背景のひとつが、米国の物価上昇率の低下です。1979年に11%を超えていた上昇率はその後のFRBによる金融引き締めによって下がり、「物価上昇への備えとして金を持つ」という動機が働きにくい環境が長く続きました。

3-3. 下落率が大きいほど回復に時間がかかるとは限らない

データを見ると、「下落率の大きさと回復期間の長さは比例しない」という明確な事実が浮かび上がります。 下落率が44〜48%と同水準だった3つの局面を比較すると、以下のようになります。 

・1974年(47.8%下落)回復まで「4年」

・1983年(44.4%下落)回復まで「22年」

・2011年(44.7%下落)回復まで「9年」

下げ幅はほぼ同じでも、回復にかかった期間は4倍から5倍の開きが生じています。

回復期間を決定づけるのは、「下落率の大きさ」ではなく、「底を打ったあとどのようなマクロ経済環境が訪れたか」です。

1974年や2008年のように底打ち後にすぐ新たな強気相場(インフレや量的緩和)が到来すれば急速に回復していますが、1983年のように構造的な金利高・安定インフレ期に入ると低迷が長期化していることが分かります。 

4. 日本人投資家が知っておくべき「円建て価格」の罠

前章までは国際標準である「ドル建て価格」で金の歴史を見てきました。しかし、日本の個人投資家や事業会社が国内で金を売買する場合、取引されるのは「円建て価格」です。ドル建て相場だけを見ていると、思わぬ損失を被る「円建ての罠」が存在します。 

4-1. なぜドル建てと円建てで下落率にズレが生まれるのか?

日本人投資家が目にする 円建て金価格は、おおよそ次の計算式で決まります。

「円建て金価格(円/グラム)」

=「 ドル建て金価格(ドル/トロイオンス)」×「 為替レート(円/ドル) 」 ÷ 31.1035

ここで重要なのは、円建て金価格が「ドル建て金価格」と「為替レート」の掛け算で決まる点です。したがって、ドル建て金価格が下がっても、同時に円安が進めば、円建て金価格の下落は小さくなります。

逆にドル建て金価格が下がるときに円高が重なれば、円建て金価格の下落は増幅されます。

日本の投資家にとっての金の損益は、金そのものの値動きと、為替の値動きの両方で決まる。ここが「罠」と呼ばれる理由です。

4-2. ドル建てが下落しても円建てではほとんど下がらなかった局面

「為替のクッション効果」が働いた典型が2011年からの暴落局面です。

この時、ドル建て金価格が2011年の高値1,896.50ドルから2015年の安値1,049.40ドルまで44.7%下げた一方、円建て価格は、2011年の高値4,745円から2015年の安値4,184円まで、11.8%の下落にとどまりました。

この差を生んだのは為替です。当時、アベノミクスによる異次元の金融緩和で年平均の為替レートは2011年の1ドル80.79円から2015年の122.11円へ、51.1%の円安が進みました。ドル建てで4割超下げた分の大半を、円安が打ち消したことになります。

回復期間においても、ドル建てで2011年の高値を回復したのは2020年で9年かかったのに対し、円建ては2015年中には高値を更新しました。同じ資産を同じ期間持っていても、ドルで見るか円で見るかで経験する内容が大きく異なっていたことが分かります。

4-3. ドル建て以上に円建てが下げた局面

為替が最悪の足枷となったのが、 1980年からの暴落局面です。

ドル建て金価格 は1980年の850.00ドルから1999年の252.80ドルまで70.3%下落しましたが、円建て金価格は1980年の6,495円から1999年の917円まで、85.9%下落しました。

為替が1ドル227円台から114円台へ、約49%の急激な「円高」が進んだことで、ドル建て以上の大暴落となったのです。

さらに極端な例が1986年です。この年、ドル建ての金価格は前年の317.32ドルから367.59ドルへ15.8%上昇しました。ところが円建ての年平均は2,490円から2,044円へ17.9%下落しています。

為替が239円台から169円台へ約29%の「円高」となり、ドル建ての上昇分を打ち消したためです。

金価格が上がった年に、日本の投資家の資産は減っていた。円建てで持つ以上、こうした事態も起こり得るのです。

局面ドル建て円建て為替(年平均)
2011年→2015年−44.7%−11.8%80.79円→122.11円
1980年→1999年−70.3%−85.9%227.83円→114.95円
1985年→1986年+15.8%−17.9%239.62円→169.60円

出典:田中貴金属工業「年次金価格推移」(https://gold.tanaka.co.jp/commodity/souba/y-gold.php)を基にファーストパートナーズ作成

4-4. 価格を左右する「為替」と「国内消費税・取引手数料」

円建て金価格を動かす要素は、為替の他にも以下の2つが挙げられます。

第一に、「消費税」です。田中貴金属工業が公表する参考小売価格は税抜きですが、実際に地金を買うときには消費税がかかります。税率は1989年4月に3%で導入され、1997年4月に5%、2014年4月に8%、2019年10月に10%と変わってきました。

購入時には消費税(現行10%)が課税され、売却時は逆に消費税分が上乗せされて支払われます。 第二に「売買手数料(スプレッド)」です。

店頭取引等では小売価格(買う価格)と買取価格(売る価格)の間に差額が存在するため、購入した瞬間から実質的にマイナススタートとなります。

国内での金投資においては、ドル建て相場や為替だけでなく「消費税率の変更」や「売買スプレッド」まで計算に入れたうえで実質リターン(手取り額)を算出する必要があります。 

5. 過去の暴落から読み取れること・読み取れないこと

金相場の過去半世紀のデータの分析から、将来の資産運用において「活用できる洞察(読み取れること)」と「過信してはならない限界(読み取れないこと)」を整理していきます。

5-1. 読み取れること①:暴落の規模も回復までの期間も毎回異なる

過去5回の暴落局面を通して最も明確なのは、「金相場の暴落に共通の型はない」ということです。

下落率は32.3%から65.1%、回復までの期間は1年から28年と極めて多様です。第3章で見たとおり、ほぼ同じ幅で下げた3つの局面でも、回復期間は4年・9年・22年とばらつきがありました。

「過去の平均では◯年だから、今回も〇年待てば戻る」という見方は、この幅を見る限り実態を表さないため危険かもしれません。

5-2. 読み取れること②:「有事の金」でも短期的には大きく下落することがある

もうひとつ確認できるのは、危機の局面で金も暴落することがあるという ことです。

2008年のリーマンショック時には、金融危機の渦中でありながら金価格は年内で3割以上暴落しました。 「戦争や金融危機が起きたから金を買い足せば安心だ」という短期的な逆張り投資は、一時的な追証や含み損を拡大させる可能性もあります。 

5-3. 読み取れないこと:次の暴落時期や下落幅は予測できない

一方で、過去のデータから「次にいつ暴落が起き、どこまで下がるか」を事前に予測することは不可能です。 

第2章で見たように、2013年の下落は政策が実施される前に起きていました。相場を動かすのは常に「不確定な将来の市場参加者の予測」だからです。 

6. まとめ

本記事の検証を通じて、金は「永久に値下がりしない無傷の安全資産」ではなく、マクロ経済や金融政策の転換期において「3割〜7割の大暴落を起こすリスク資産」であることが実証されました。

過去の暴落の分析結果を要約すると、以下の4点に集約されます。

1.歴史的暴落:1973年以降で3割以上の暴落は過去5回存在し、最大下落率は70.3%(1980年〜1999年)に達した。

2.暴落のトリガー:米国の利上げ、FRBの緩和縮小観測、パニック時の現金化売りが暴落を引き起こす。

3.回復年数:高値奪還まで最短1年、最長28年と状況によって極端な差がある。

4.円建ての罠:国内価格は「ドル建て×為替」で決まるため、ドル安・円高の局面では海外以上の大暴落となる。

金の歴史的振れ幅や、回復までに要した期間をリスクとして正しく理解し現実的な保有戦略を立てること。この冷静なリスク認識こそが、有事の際に資産の致命傷を防ぐ最大の武器となります。 

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宗野 元

新卒で大手証券会社に入社し、15年間個人富裕層、未上場企業等の資産運用コンサルタント業務に従事。
その後IFAとして独立。
お客様と目標を共有し、より長期的な視点での資産運用のご提案を心がけております。

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