
金利が上がると、投資家は株式や債券を売ったほうがよいのでしょうか。金利上昇が資産に与える影響を考えるうえで、重要なのは「なぜ金利が上がっているのか」背景を分析することです。
景気や企業利益の成長を伴う上昇と、物価高や財政不安による金利上昇では、資産への影響が異なります。
この記事では、金利上昇の背景を考えるための参考指標と、日米の中央銀行が示す経済・物価情勢や政策判断を整理し、運用資産と借入の両面から確認したい点を解説します。
1. 「良い金利上昇」と「悪い金利上昇」は何が違う?
「良い金利上昇」と「悪い金利上昇」は、金利上昇の背景と経済への影響を整理するための呼び方です。公式な判定基準があるわけではなく、同じ局面で両方の要因が重なることもあります。
1-1. 良い金利上昇:景気と企業の成長を映した金利上昇
景気の回復や企業の利益拡大が見込まれると、設備投資などに使う資金の需要が増えます。将来、政策金利が引き上げられるとの予想も、長期金利の上昇につながります。
借入金利が上がっても、売上や所得の増加によって負担を補える状況かどうかが、「良い金利上昇」を考える際のポイントです。
金利と株価がともに上がることもありますが、企業への影響は、事業による利益の増加が利払い負担の増加をどの程度補えるかや、借入残高、金利条件などによって異なります。
1-2. 悪い金利上昇:財政不安やインフレの加速で起きる金利上昇
財政運営への不安から国債を保有する投資家がより高い利回りを求めたり、インフレの長期化が懸念されたりすると、景気の成長が弱くても金利が上がることがあります。
こうした局面では、企業や家計が収入を増やせないまま、利払いと物価高の二重の負担を受けることになり、株式などのリスク資産には下落圧力がかかります。
ただし、インフレを抑えるための利上げという政策対応そのものを、悪い政策とみなす意味ではありません。問題は、金利上昇速度に経済全体の稼ぐ力が追いつくかどうかです。
2. 今の金利上昇はどっち?見極めるための3つのチェックポイント
金利の水準だけで結論を出さず、成長・物価・企業利益の3つの指標と金利との関係を確認します。
ここでいう長期金利は、主に長期国債の市場での利回りです。中央銀行が誘導する短期の政策金利とは区別して分析を進めましょう。
2-1. 【成長率】名目GDP成長率と長期金利の関係を見る
GDP(国内総生産)は、国内で生み出された付加価値の合計です。
名目GDP成長率には物価の変動も含まれ、経済全体の所得が金額ベースでどれだけ増えたかを表します。
名目GDP成長率と長期金利の比較は、経済成長と金利水準の関係を考える一つの参考になります。ただし、名目GDP成長率が長期金利を上回っていても、それだけで「良い金利上昇」と判断することはできません。
物価上昇によって名目成長率が高まっていても、実質的な所得や購買力が改善しているとは限らないためです。実質GDPや企業利益の動向、金利が上昇している背景も併せて確認することが大切です。
確認するときは、次の順で見ます。
・同じ国について、名目成長率と長期金利を並べる
・成長率が前年比なのか、前期比を年率に換算したものなのかを確認し、途中で混ぜない
・物価変動の影響を除いた実質GDPや、消費・設備投資も伸びているかを見る
また、名目GDP成長率は過去の経済成長を示す一方、長期金利には将来の見通しが織り込まれています。政府の財政を考える場合も、実際の利払い負担は既存の借金を含む平均金利や借入残高によって変わるため、長期金利との比較だけで財政の安全性を判断することはできません。
成長率と長期金利のバランスを確認した後は、物価上昇に対して金利が十分に追いついているかを検証する必要があります。次節では、実質金利を用いた分析手法をみていきます。
2-2. 【実質金利】物価の上昇に金利が追いついているか
前節で見た名目成長率に続き、投資判断や資金繰りに直結するもう一つの重要指標が「実質金利」です。実質金利は、物価の影響を差し引いた金利です。先行きの金融環境を見る際には、おおむね「名目金利-予想物価上昇率」で考えます。
足元の物価上昇率を引く方法もありますが、過去の購買力の変化を測る計算とは使い分けます。
| 確認する動き | 読み取る際のポイント |
|---|---|
| 金利より予想物価上昇率が速く上がる | 実質金利が下がり、お金の価値の目減りが意識されやすい |
| 実質金利が急に上がる | 借入や投資の負担が増し、経済活動を抑える可能性がある |
| 成長とともに実質金利が緩やかに上がる | 資金需要の拡大を映している可能性がある |
実質金利は高ければ良いという指標ではありません。
できるだけ同じ期間に対応する金利と予想物価上昇率を用い、変化の速さと景気の状態を一緒に確認します。預金者には受取利息、借り手には返済負担というように、立場によって受ける影響も異なります。
2-3. 【株価の割安感】株式益回りと長期金利を比較する
株式益回りは、企業の一株当たり利益を株価で割った指標です。株価が利益に対してどの程度の水準にあるかを見るもので、配当利回りや投資家が実際に得る収益率とは異なります。
仮に株価が2,000円、一株当たり利益が100円なら、株式益回りは5%です。利益と株価が変わらないまま比較対象の国債利回りが上がれば、両者の差は縮まり、株式の相対的な魅力をチェックするきっかけになります。
ただし、国債より株式益回りが高いだけで「割安」とは言えません。株式の利益には変動があり、将来の成長や損失のリスクも異なります。
同じ国・通貨で比較し、利益が実績値か予想値かもそろえましょう。市場全体の指標から、保有する個別銘柄の安全性まで判断しないことが大切です。
※上記の前提に基づくファーストパートナーズによる試算。将来の運用成果を示すものではありません。
ここまでの3つの指標(成長率・実質金利・株式益回り)は、金利上昇の背景や資産への影響を考える手がかりになります。ただし、これらだけで金利上昇の原因や良し悪しを判断することはできません。次章では、日米の中央銀行の公表資料などを基に、経済・物価情勢と政策判断を整理します。
3. 日米の経済・物価情勢と政策金利の引き上げ背景
中央銀行の声明や財政見通しを基に、日米の経済・物価情勢と政策金利の引き上げ背景を整理します。これらの資料は、長期金利を考えるうえでも参考になりますが、足元の長期金利の変動要因を直接分析したものではありません。
そのため、ここでは長期金利の上昇が「良い金利上昇」「悪い金利上昇」のどちらに当たるかを判定するものではありません。
3-1. 日本:景気回復と物価上振れリスクを踏まえた政策判断
日本銀行は、2026年9月18日の公表資料で、景気が緩やかに回復し、企業等の資金需要が増加していると説明しています。また、賃金上昇を販売価格に反映する動きが続く一方、原油高や円安を通じたコスト増や、基調的な物価上昇率の上振れリスクにも言及しています。
今回の政策金利の引き上げは、こうした経済・物価動向や金融環境を踏まえ、物価安定の目標の持続的・安定的な実現に向けて、金融緩和の度合いを調整する判断として説明されています。
今後は、賃金が増えるだけでなく、物価を考慮した購買力や消費が改善するかが焦点になります。長期金利が上がったという事実だけで、脱デフレの成功や財政への不信を断定することはできません。
※出典:日本銀行「金融市場調節方針の変更について」(2026年9月18日)。経済・物価情勢と政策金利の引き上げ理由に関する説明を参照(https://www.boj.or.jp/mopo/mpmdeci/mpr_2026/k260918a.pdf)
3-2. 米国:底堅い経済とインフレを踏まえた政策判断、財政見通しの留意点
2026年9月16日の政策判断では、経済活動の底堅い拡大や、生産性・設備投資の強さが示されました。同時に、インフレが高止まりしているとして、政策金利が引き上げられています。成長の強さがある一方、物価安定に向けた負担も残る状況です。
財政面では、2026年2月公表の見通しで、政府債務の経済規模に対する割合や利払い負担の増加が予測されています。これは一定の政策・経済前提に基づく見通しで、将来の結果を確定するものではありません。
一般に、長期金利は、将来の政策金利や成長・物価の見通し、国債を長期保有するリスクへの対価など、複数の要因によって動きます。今回参照したFRB声明とCBOの財政見通しからは、米国の経済・物価情勢や中長期的な財政課題を確認できますが、足元の長期金利の変動要因や、それぞれの要因の影響の大きさまでは判断できません。
資産運用を考える際は、これらの情報に加え、投資先の利益見通しや財務状況、自分の資金計画も確認することが大切です。
※出典:米連邦準備制度理事会「FOMC statement」(2026年9月16日)。経済・物価の評価と利上げの決定を参照(https://www.federalreserve.gov/newsevents/pressreleases/monetary20260916a.htm)
※出典:米議会予算局「The Budget and Economic Outlook: 2026 to 2036」(2026年2月)。政府債務と利払い負担に関する財政見通しを参照(https://www.cbo.gov/publication/62105)
4. 「良い金利上昇」局面で考えたい資産運用
成長を伴う金利上昇では、企業の成長を取り込む資産と、利息を受け取る資産を組み合わせて考えます。資産を使う時期に応じて、役割を分けましょう。
4-1. 株式は慌てて売る必要がある?保有を続ける際の判断ポイント
企業の利益拡大が続くなら、金利が上がっても株式を保有する理由は残ります。将来の利益を現在の価値に換算する際、金利上昇は株価を押し下げる方向に働きますが、利益の増加がその影響を補うこともあるためです。
見直す対象は「金利が上がったか」だけでなく、投資先が利益を伸ばせるかです。たとえば、仕入れや人件費の上昇を価格に反映できるか、借入金利が上がっても利益が残るか、投資計画に無理がないかを確認します。
その一方で利益の見通しが崩れた銘柄まで、「良い金利上昇だから」という理由で持ち続ける必要はありません。
自社や保有銘柄の「価格転嫁力」と「財務余力」を今すぐチェックし、利益見通しが悪化した銘柄は、その要因や株価水準、財務状況、投資目的を確認し、必要に応じて売却や保有比率の見直しを検討しましょう。
4-2. 預金に置いたままの資金は、金利がつく先へ移す
まず、現在の預金にも利息がついているかを確認します。そのうえで、当面使わない資金について、税引後の受取額と引き出しやすさを比較しましょう。
| 資金の置き先 | 比較する点 | 確認したい制約 |
|---|---|---|
| 利息のつく普通預金 | 適用金利、優遇の条件 | 条件変更や振込手数料 |
| 円の定期預金 | 預入期間、満期までの受取額 | 途中解約時の金利、満期後の扱い |
| 個人向け国債の変動金利型 | 金利の見直し方法 | 原則として発行から1年は中途換金できない。中途換金時には、所定の調整額が差し引かれる。 |
高い表示金利だけで、生活費や納税資金まで動かさないことが大切です。固定金利で長期間預けると、その後に金利が上がっても受取利息が増えないため、資金の一部は満期の時期を分ける方法もあります。
まとまった円預金は、預金保険の範囲も確認します。制度の対象となる利息付き普通預金や定期預金は、預金者1人につき1金融機関ごとに合算して、元本1,000万円までと破綻日までの利息が保護されます。
外貨預金は対象外で、為替による損失も生じ得るため、円預金の単純な代わりにはできません。
※出典:上表の中途換金条件は、財務省「個人向け国債の中途換金についてのよくある質問」を基にファーストパートナーズ作成。原則的な条件を記載(https://www.mof.go.jp/jgbs/individual/kojinmuke/main/qa/answer_qd.html)
※出典:金融庁「預金保険制度」「金融サービス利用者相談室」。預金の保護範囲を参照(https://www.fsa.go.jp/policy/payoff/index.html、https://www.fsa.go.jp/receipt/soudansitu/advice01.html)
※出典:全国銀行協会「外貨預金の特徴を知る」(https://www.zenginkyo.or.jp/article/tag-c/5204/)
5. 「悪い金利上昇」がきたら危ない?資産と借入を守る方法
物価高や資金調達の負担が強まる局面では、資産価格の下落と支出の増加が重なることがあります。相場の予測が外れても資金繰りが続くように、次のポイントを確認しましょう。
5-1. 株式の比率が高すぎないか見直す
株式比率の目安は、年齢や資産額だけでは決まりません。保有株が値下がりしたとき、予定する支出や返済のために売らずに済むかを確認します。
証券口座に加え、経営者なら自社株や事業収入も点検対象です。本業が不調になる局面で保有株も下がる組み合わせなら、金融資産だけで見た比率以上に負担が大きくなります。
比率を下げる必要があるときは、全額売却だけが方法ではありません。新たな買付額を減らす、受取配当を現預金に残す、一部を段階的に売る、といった方法があります。売却に伴う税金・費用も確認しながら、使途が決まった資金を確保しましょう。
5-2. 債券は満期までの期間と金利変動リスクを確認する
固定金利の債券は、市場金利が上がると、すでに発行された低い利率の債券の価格が下がりやすくなります。他の条件が近ければ、満期までの期間が短い債券ほど、この影響を抑えやすくなります。
ただし、短い年限でも元本割れや発行体の破綻、外貨建てなら為替のリスクは残ります。高い利回りの短期社債が、信用力の高い長期国債よりも安全とは限りません。
| 見直す項目 | 確認する内容 |
|---|---|
| 金利変動への弱さ | 満期までの期間に加え、金利変動に対する価格の感応度である「デュレーション」を見る |
| 満期後の運用 | 金利が下がると、再投資時の受取利息が減る可能性がある |
| 債券型の投資信託 | 個別債券と違い、保有を続ければ一定額が満期に戻る商品とは限らない |
保有中の長期債も、すぐに売るべきとは限りません。途中で換金する必要性や発行体の信用力を踏まえ、売却損を受け入れて短期の債券に切り替える方法と、満期まで保有する方法を比較します。
5-3. 変動金利の借入は大丈夫?返済負担の増加に備える
住宅ローンや事業融資は、契約ごとに適用金利や返済額が見直される時期・方法が異なります。長期金利の上昇が、そのまま同じ幅で適用金利に反映されるとは限りません。
まずは契約書と返済予定表で、基準金利、見直し時期、残高を確認しましょう。
金利が上がった場合の返済予定表を金融機関に作成してもらい、生活費や事業経費を払った後に資金が残るかを確認します。月々の返済額の増加を抑える仕組みがある契約でも、利息の増加によって元金の返済が遅れることがあります。その仕組みがない商品もあるため、名称だけで判断しないことが大切です。
負担が重いと分かったら、次の選択肢を総額で比べます。
・固定金利への変更や借り換え:変更後の金利に加え、手数料や保証料も含めて比較する
・一部繰上返済:返済を減らした後も、生活・事業の予備資金が残るかを確認する
・返済条件の相談:返済負担が増す前に、金融機関へ相談する
資産運用の期待収益をそのまま返済原資に見込むと、相場の下落時に計画が崩れる恐れがあります。返済は、収入と手元資金で無理なく継続できる範囲を基準にしましょう。
6. まとめ
金利上昇の良し悪しを言い当てることより、自分の資産と借入が金利変動にどこまで耐えられるかを把握することが大切です。まずは保有資産の現金化できる時期と、借入金利の見直し時期を並べてみましょう。
資金が必要になる時期を見える形にすると、運用を続ける部分と備えを厚くする部分を決めやすくなります。
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※ご相談は無料で承っておりますが、その内容により、個別の商品・銘柄・売買の方法・時期等に言及する場合があります。
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