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投資信託のスイッチングとは?基本を解説

投資信託 スイッチング

投資信託のスイッチングとは、現在保有する投資信託を売却し、別の投資信託に乗り換える運用手法です。

市場変化やライフステージに応じて柔軟に資産配分を調整できる一方、コストや税金などの注意点もあります。この記事ではスイッチングの基本やタイミング、判断基準をわかりやすく解説します。

1.スイッチングとは?

投資信託のスイッチングとは、現在保有している投資信託を売却し、その代金で別の投資信託を購入する手法です。投資信託のスイッチングには主に2つのパターンがあります。

1つは「ファンド内スイッチング」で、同一投資信託の異なるコース間(為替ヘッジあり・なしなど)での乗り換えを指します。

もう1つは「投資信託間の乗り換え(スイッチング)」で、異なる投資信託間での資産の入れ替えを意味します。

スイッチングのメリットは、市場環境や投資方針の変化に応じてポートフォリオの柔軟な調整が可能な点です。

一方、デメリットは、売却時、利益に対して約20.315%(2037年末までの間に生じる所得については復興特別所得税が上乗せされています)の税金が課されること、信託財産留保額などの追加コストが生じる可能性があること、「投資信託間の乗り換え(スイッチング)」の場合は新たに購入時のコストが生じる可能性があることが挙げられます。

スイッチングは、市場環境の変化、ファンドの運用不振、さらにはライフステージの変化、などが起きた際に検討されることが多いですが、繰り返し行うことは手数料や税金の累積により全体の運用実績に悪影響を及ぼす可能性があります。また、NISA等の非課税口座では制限がある場合があり注意が必要です。

2.投資信託のスイッチングのベストタイミングとは?

この章では、スイッチングを行うべきタイミングとそれぞれのポイントについて解説します。

2-1. 市場環境が大きく変化したとき​

金融市場は常に変動しており、金融政策の転換や景気後退局面などの大きな変化が起きると、保有している投資信託のパフォーマンスに大きな影響を与えることがあります。

例えば、株式市場の下落が予想される場合、株式型の投資信託から分散型投資信託へスイッチングすることで、株価下落リスクを軽減することが期待できます。また、インフレ率の上昇が予想される場合は、物価連動債や金や不動産などの実物資産に投資する投資信託を検討するといいでしょう。

ただし、そのタイミングを正確に予測することは難しく、スイッチングの手続きに時間がかかる場合があるため、その間の市場変動リスクを考慮しなければなりません。

短期的な市場変動に過剰に反応してスイッチングを繰り返すと、結果として中長期的なリターンを得られない可能性があるため、慎重に判断することが重要です。

2-2. ポートフォリオのバランスが崩れたとき​

アセットアロケーションとは、投資資産を現金、株式、債券、不動産、商品(コモディティ)など複数の資産クラスにどのような割合で分散投資するかを決定することです。

長期投資において、適切なアセットアロケーションを維持することは非常に重要です。しかし、市場価格の変動により、当初設定した資産配分が時間とともに変化し、リスクとリターンのバランスが崩れることがあります。

例えば、株式市場が好調で資産ポートフォリオに占める株式型投資信託の割合が高まりすぎた場合、ポートフォリオ全体のリスクが当初の想定よりも高くなっている可能性があります。このような場合、株式型投資信託の一部を別の資産クラスの投資信託にスイッチングすることで、元の資産配分に戻す「リバランス」を行うことができます。

定期的なリバランスは、「安く買って高く売る」という投資の基本原則にも沿っており、長期的なリターンの向上にも寄与します。一般的に、年に1回程度のリバランスが推奨されていますが、資産配分が大きく崩れた場合は、適宜見直すことも検討しましょう。

2-3. 運用方針が変わったとき​

投資家自身のリスク許容度や投資目標が変化した場合、保有する投資信託の見直しが必要となることがあります。

例えばライフステージの変化により安定的な成果を望む場合、株式型投資信託から、分散型投資信託や債券型投資信託へスイッチングすることが選択肢として挙げられます。

また、新たな投資機会を模索する場合や、特定の投資テーマ(例:ESG投資、テクノロジーセクターなど)に注目する場合、それに合わせた投資信託へのスイッチングを検討します。

運用方針の変更は、市場環境の変化とは異なり、投資家自身のリスク許容度や運用目的、価値観の変化に左右されるものであり、より主体的な判断が求められます。

3.投資信託のスイッチングを判断するためのポイント

スイッチングを検討するタイミングで「今の投資信託をこのまま持ち続けるべきか」と実際の売却を悩むことも多いでしょう。スイッチングを判断する基準として、資産運用のパフォーマンスをより向上させるための以下4つのポイントを参考にしてみてください。

3-1. 運用成績

まずは保有している投資信託の運用成績を振り返ります。

  • 定期的な成績確認

運用報告書などを基に、基準価額の推移や過去1年、3年、5年の騰落率を定期的にチェックしましょう。

  • 市場との乖離

市場全体が好調であるにもかかわらず保有ファンドの運用成績が伸び悩んでいる場合は、その原因が何かを把握し改善策を検討する必要があります。

いずれも短期的な値動きだけで判断するのではなく、中長期的な視点で評価するようにしましょう。数か月間の成績だけでなく、少なくとも年単位で比較・判断するとよいでしょう。

3-2. 購入時手数料や信託報酬など時のコスト

投資信託は購入時手数料や保有期間中運用コスト(信託報酬)、解約(売却)時の信託財産留保額などの様々なコストがかかります。これらのコストはリターンにかかわらず投資家の負担となるため、事前に確認し理解しておくことが重要です。

また投資信託のスイッチングを行う際、「ファンド内スイッチング」の場合、手数料は無料または低く抑えられていることがありますが、「投資信託間の乗り換え(スイッチング)」の場合は、新たに購入時の手数料がかかるケースもあるため、改めてコストを含めて検討することが大切です。

ここでは代表的なものをご紹介します。

  • 購入時手数料

多くの投資信託では、購入時手数料が発生します。一般的な手数料率は、1%~3%程度ですがファンドによって異なります。インデックスファンドに比べてアクティブファンドの方が手数料率が高くなる傾向にあり、スイッチングを検討する場合は、手数料負担が高くなるケースがあるため、手数料の上昇に見合った運用リターンが期待できるかを検討する必要があります。

  • 信託報酬

信託報酬(しんたくほうしゅう)とは、投資信託の保有期間中にかかるコストです。投資信託の運用・管理にかかる費用として、日々のファンドの純資産総額に信託報酬率を乗じて、ファンドの基準価額に反映されます。つまり、投資家の信託財産から毎日差し引かれている、ということです。例えば、同一指数をベンチマークにするインデックス型投資信託の中でも、信託報酬が異なるものが数多く存在します。

  • 信託財産留保額 

信託財産留保額とは、投資信託を途中で解約(売却)する際に、解約代金から差し引かれる費用のひとつです。基準価額に対してそれぞれのファンドで決められた乗率で差し引かれます。(差し引かれないファンドもあります。)

投資期間が長くなればなるほど、コストの差はリターンに大きな影響を与えます。いずれも「交付目論見書」に記載の事項ですので、確認してみましょう。

3-3. 分配金の分配方針

投資信託の特徴のひとつに「分配金」がありますが、運用成績と共に定期的な確認が必要です。

投資信託毎、決算日に決算を行い、分配方針に従って分配金を支払います(分配金を支払わない場合もあります)。その分配方針は、投資信託によってそれぞれ異なります。「分配金が出ている=ファンドの収益(運用成績)が良い」とは限りません。

  • 元本取り崩しのリスク

分配金は、「普通分配金」と「特別分配金(元本払戻金)」に分けられます。投資家の個別元本※に対して、分配後の基準価額が同額または上回る場合は「普通分配金」、下回る部分は「特別分配金(元本払戻金)」となります。

「普通分配金」は投資の利益から分配されるため課税対象となる一方で、「特別分配金(元本払戻金)」は投資元本の取り崩しであり利益ではないため非課税となります。例えば、ファンドの運用成績があまり良くないにもかかわらず、高い分配水準を維持している場合など、受け取り済みの分配金を含めた運用実績を再確認する必要があります。

※個別元本:投資信託を購入した際の基準価額のこと(購入時手数料や消費税は含まない)

  • 分配金受け取り方法

長期的な資産形成を目指す投資家は、資産の複利効果を得たいと考えるかもしれません。その場合は「分配金なし」の銘柄を選び、分配金を受け取らずに運用資産に再投資することで複利効果を期待できます。

または「分配金あり」の銘柄を選んだ場合でも、分配金を受け取るのではなく、「再投資」することで複利効果を期待することができます。

ただし、「分配金あり」の再投資の場合、分配された分配金は課税対象となるため、再投資できるのは税引き後の金額となる点に注意が必要です。

4.投資信託のスイッチングを成功させるためには

ここまでの章で、スイッチングを成功させるためには、運用成績や市場環境を踏まえ、そのタイミングやスイッチング先の選択、また、自身の投資目的やリスク許容度も考慮することが重要であることを解説しました。

最後に、スイッチングを効果的に行うためのポイントを解説します。

4-1. 長期的な視点で判断する​

まず意識するべきなのは、「長期的な視点」です。金融市場は日々変動しており、短期的には予測不能な値動きが頻繁に起こります。

しかし、各資産クラスの過去の年間リターン推移を長期的に見ると、必ずしも一度下落した資産が回復しないとは言えません。毎年最も高いリターンを出す資産を探し当てることができれば理想的ですが、現実には難しいです。

したがって、短期的な下落に不安を感じてスイッチングをしてしまうと、将来的な回復の機会を逃してしまう可能性があります。

スイッチングを検討する際には、一時的な相場変動に惑わされずに、「市場環境・見通しに変化があったか」「ポートフォリオのバランスを修正したい」「運用方針に変化があったか」といった観点で考えるようにしましょう。

4-2. 専門家のアドバイスを活用する​

もうひとつの重要なポイントは、専門家の意見を活用することです。投資信託は商品数も多く、仕組みも複雑である場合があります。特にスイッチングの場合は、検討事項も多く運用戦略や税制の理解も必要です。

相談先として、銀行、証券会社、IFA(独立系ファイナンシャルアドバイザー)が挙げられます。投資のプロフェッショナルに相談することで、スイッチングに限らず自分に合った最適な資産運用プランを見つけることができるかもしれません。

〈参考記事〉

IFAは銀行や証券会社と比べてどんな違い・特徴がある?

5.まとめ

投資信託のスイッチングは、今後の運用成果を左右する重要な選択となります。スイッチングのメリットとデメリットを理解し、そのタイミングや新たな投資先の決定など慎重な判断をしましょう。

杉江 勇馬

青山学院大学国際政治経済学部を卒業。専攻は証券市場分析。
新卒で、大和証券に入社。京都支店にて、個人富裕層や上場企業オーナー、事業法人、宗教法人等の資産コンサルタントとして多数のお客様を担当。
国際分散ポートフォリオの提案を得意としており、大和証券にて、外貨建債券部門1位、外国株式部門3位の表彰実績があり、海外研修生にも選抜。
ファーストパートナーズ入社後は、「より長期的な視点での資産運用」を意識して、お客様と一緒に海外視察をした上で、資産ポートフォリオを提案するなど、独立系金融アドバイザーならではの提案を行っています。