
「年末は株が上がりやすい」「5月に売れ(Sell in May)」など、株式市場には季節的な傾向を表す格言や経験則が多く存在します。
こうした過去の統計データから観察される相場の傾向や経験則を「アノマリー(anomaly=例外・変則)」と呼びます。
本記事では、年間を通した主なアノマリーを整理し、資産運用を考えるうえでの参考情報として中立的に解説します。
1. アノマリーとは何か——相場に季節性が生まれる理由
1-1. なぜ季節性が生まれるのか
株式市場に季節性が生まれる背景には、投資家の行動パターンや制度的な要因が関係しています。
例えば、年末は決算に向けた税金対策の売りが出やすく、年明けには新たな資金が流入しやすいといった需給の変化が周期的に繰り返されるとされています。
また、機関投資家のポートフォリオ(保有資産の組み合わせ)の定期的な組み替えや、年度末・中間決算期に合わせた売買も一定のリズムを生み出すとされています。
こうした行動が毎年繰り返されることによって統計的な傾向が現れ、「アノマリー」として認識されるようになります。
1-2. アノマリーを読む際の3つの注意点
アノマリーは過去の統計的な傾向であり、必ず再現されるとは限りません。参考にする際には以下の3点を念頭に置くことが重要です。
1. 過去の傾向が将来も続くとは限らない
アノマリーは、過去の統計データから観察された傾向にすぎず、例外的な年が生じることも少なくありません。
2. 広く認知されることで傾向が弱まる場合がある
アノマリーが広く認知されると、先回りした行動が増え、傾向が弱まる場合があります。セル・イン・メイ(第2章参照)がその典型例です。
3. アノマリーだけで投資判断を行わない
アノマリーはあくまで補助的な情報の一つです。経済環境・企業業績・金融政策といった他の要因と合わせて考えることが求められます。
2. 上半期の主なアノマリー
2-1. 1月効果——年明けの株高傾向
「1月効果」とは、1月の株価リターンが他の月と比べて高くなりやすいとされるアノマリーです。英語では「January Effect」と呼ばれ、米国市場を中心に研究されてきました。
背景としては、税負担の軽減を目的とした損益通算のために行われる年末の「損出し売り(そんだしうり=年間の譲渡益との損益通算を目的として含み損のある銘柄を売却すること)」が一巡し、新年に入ると買い戻しや新たな資金流入が起きやすいことなどが挙げられます。
また、年初に機関投資家が資産配分を見直すことも株高要因の1つとされます。
ただし、この傾向は近年では弱まっているとの指摘もあります。1月効果が広く知られるにつれ、先回りした行動が増えたことが一因と考えられています。
2-2. 節分天井・彼岸底——日本市場特有の相場格言
「節分天井・彼岸底(せつぶんてんじょう・ひがんぞこ)」とは、2月初旬の節分頃に株価が天井(高値)をつけ、その後3月中旬の春のお彼岸頃に底(安値)をつけやすいという日本市場特有の相場格言です。
背景には、2〜3月にかけての需給要因があると考えられています。国内機関投資家が3月の年度末決算に向けて保有株を売却しやすい時期であることや、外国人投資家の売買動向が重なることで相場が軟調になりやすいとされます。
ただしこれも経験則であり、毎年同じパターンが繰り返されるわけではありません。
2-3. セル・イン・メイと夏枯れ相場——5〜9月の軟調になりやすい季節
「セル・イン・メイ(Sell in May)」は、「5月に株を売って秋まで相場から離れよ」という意味で知られる欧米発祥の相場格言です。
正式には “Sell in May, and go away, don’t come back until St Leger day.”(英国の競馬レース「セント・レジャーステークス」が開催される9月中旬頃まで相場を離れよ)という言い回しに由来します。
背景としては、欧米の機関投資家が夏季休暇を取る時期に売買が減少し、相場が軟調になりやすいことが挙げられます。また日本では、5月の連休明けに持ち高調整の売りが出やすいといわれます。
一方で、日本株式市場では、この実態は変化しています。近年のデータでは5月に上昇した年が下落した年を上回るケースも見られ、アノマリーの効果は弱まっているとの見方もあります。
さらに5〜9月の「夏枯れ相場(なつがれそうば=夏季に取引が閑散になり株価が動きにくくなる傾向)」も同様に、近年は当てはまらないという見方が増えています。
なお、TOPIX(東証株価指数=東京証券取引所に上場する全銘柄を対象とした株価指数)でも同様の傾向が研究されてきましたが、いずれも過去の統計であることに留意が必要です。
3. 下半期の主なアノマリー
3-1. 10月効果——歴史的な急落が集中してきた月
「10月効果」とは、10月に株価が急落しやすいとされるアノマリーです。過去に歴史的な急落が10月に集中してきた背景から、投資家の間で広く語り継がれてきました。
代表的な事例として、1929年の世界恐慌の引き金となった「暗黒の木曜日(1929年10月24日)」や、1987年の「ブラックマンデー(1987年10月19日)」などが挙げられます。いずれも10月に大規模な株価の急落が発生した出来事です。
ただし、10月が統計的に他の月よりもリターンが低いかどうかは、データによって結論が異なります。心理的なアノマリーの側面が強く、「10月は怖い月」という認識が投資家行動に影響を与えているとも指摘されています。
10月効果は歴史的な文脈として知っておく情報であり、必ず急落が起きる月として捉えることは適切ではありません。
3-2. 掉尾の一振——年末の株高傾向
「掉尾の一振(とうびのいっしん)」とは、年末にかけて株価が上昇しやすいとされる日本市場の相場格言です。「掉尾」とは魚が力強く尾を振る様子を表す言葉で、年末に向けて株価が勢いよく上昇する様子に例えられています。
背景として、年末に向けた投資家の資産配分の見直しや需給の変化、翌年の相場への期待感などが挙げられます。また、年末年始の休暇ムードによる楽観的な心理も株価を押し上げる要因とされます。
こちらも毎年必ず起きる現象ではなく、その年の経済環境や市場の地合いによって大きく異なります。年末に株価が下落した年も少なくありません。
4. データを読むときの3つの視点
4-1. 集計期間によって結果が変わる
同じ「月別の傾向」でも、過去30年を集計した場合と過去10年を集計した場合とでは結果が異なることがあります。
どの期間を参照するかによって結論が変わりうる以上、「この月は上がりやすい」という表現には常に前提となる期間が伴っている点に注意が必要です。
4-2. 平均値だけでは分からないばらつきがある
月別の平均騰落率は、その月の値動きを代表する一つの指標にすぎません。
同じ月でも大きく上昇した年と大きく下落した年が混在しており、平均値が高い月であっても、特定の年には大幅に下落することがあります。平均が示すのは傾向であって、個々の年の結果ではありません。
4-3. 知られるほど効果が薄れる可能性がある
アノマリーが広く認知されると、先回りした売買が増え、傾向そのものが弱まることがあります。
セル・イン・メイはその代表例です。過去に観察された傾向が、それが知られた後も同じように続くとは限りません。
月別の傾向は、相場の季節性を大まかに把握するための参考情報として活用するにとどめ、単独で投資判断の根拠とすることは適切ではないといえるでしょう。
5. まとめ
株式市場のアノマリーとは、過去のデータから観察される季節的な傾向や経験則のことです。「1月効果」「節分天井・彼岸底」「セル・イン・メイ」「10月効果」「掉尾の一振」など、さまざまなアノマリーが長年語り継がれてきました。
こうしたアノマリーが生まれる背景には、投資家の行動パターンや税務上の対応、機関投資家による資産配分の見直しなど特定の時期に繰り返されやすい需給の変化が挙げられます。
一方で、近年はアノマリーが広く知られることで、投資家による先回りした売買が増え、傾向が弱まっているものも多く、セル・イン・メイのように実際のデータと乖離が生じているケースも見られます。
月別騰落率のデータは、相場の季節性を大まかに把握するための参考情報として有用ですが、集計期間によって傾向が変わること、年ごとのばらつきが大きいことに留意が必要です。
アノマリーはあくまで補助的な情報として位置づけ、経済環境・企業業績・金融政策といった本質的な要因と合わせて考えることが求められます。
過去の傾向を知ることは、市場の動きを俯瞰するうえで一つの参考になりますが、それをそのまま投資判断の根拠とすることは適切ではありません。アノマリーを「知識の一つ」として位置づけることが、中長期的な資産運用を考えるうえでの基本的な姿勢と言えるでしょう。
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