
2026年6月8日、OpenAI(オープンAI)はIPO(新規株式公開)のための届出書をSEC(米国証券取引委員会)に機密申請したと公表しました。
ChatGPT(チャットGPT)を世界に普及させた同社の上場は、AI(人工知能)業界のみならず世界の金融市場が注目する一大イベントです。
本記事では会社の概要から財務の実態、投資家が押さえるべきリスクまでを客観的に整理します。
1. OpenAIとは?会社の基本情報と設立の経緯
1-1. 創業の背景とChatGPTの誕生
OpenAIは2015年12月、Sam Altman(サム・アルトマン)、Elon Musk(イーロン・マスク)、Greg Brockman(グレッグ・ブロックマン)らによって設立されました。
設立当初は非営利組織として「人類全体に利益をもたらす安全なAI開発」を使命に掲げ、外部からの圧力に左右されない研究を目指していました。その後Muskは2018年に取締役を退任し、現在は対立関係にあります。
2022年11月にリリースされた対話型AIサービス「ChatGPT」は、公開からわずか5日間で登録ユーザー100万人を突破。
その後約2ヶ月で1億ユーザーに到達し、サービス史上最速の記録を樹立しました。この爆発的な普及がOpenAIを世界的なAI企業の代名詞へと押し上げ、現在に至ります。
1-2. 会社の基本データ
【表1】OpenAI 会社基本データ(2026年6月時点)
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 正式名称 | OpenAI Group PBC(デラウェア州公益法人) |
| 設立 | 2015年12月(非営利法人として) |
| 法人転換 | 2025年10月(PBC:公益法人へ転換) |
| CEO | Sam Altman(サム・アルトマン) |
| 主力サービス | ChatGPT、OpenAI API、Sora(動画生成AI) |
| 評価額(2026年3月時点) | 8,520億ドル(1ドル=153円換算で約130兆円相当、参考値) |
| ARR(2026年2月時点) | 約250億ドル |
OpenAI公式発表、Fortune報道を基にファーストパートナーズ作成
出典:OpenAI「Confidential submission of draft S-1 to the SEC」、Fortune「OpenAI files confidential SEC paperwork for IPO」
2. IPO申請の概要——何が起きているか
2-1. 機密S-1申請から公表まで
OpenAIは2026年5月下旬、SECへ機密S-1申請書を提出しました。
S-1とは、米国でIPOを行う際にSECへ提出が義務づけられる登録届出書(財務情報・リスク要因・事業概要を開示する文書)のことです。機密申請は、一定条件を満たす「新興成長企業(EGC)」に認められた制度で、上場前の詳細情報を一定期間非公開にできます。
OpenAIはその後6月8日に公式ブログで申請を公表。「情報が漏れると思うので自分たちから発表する」と述べており、上場への意思を明確にしながらも「時期はまだ決めていない」と付け加えています。
主幹事証券会社はゴールドマン・サックス(Goldman Sachs)、モルガン・スタンレー(Morgan Stanley)、JPモルガン(JPMorgan)の3社。上場市場はNASDAQが有力視されており、2026年9月の公開を目標としているとも報じられています。
2-2. 同時期に動くAnthropicとSpaceX
OpenAIのIPO申請は、同時期に動きが表面化した他のAI・テック系大企業の上場準備と重なっています。
Anthropic(アンソロピック)は2026年6月1日に約9,650億ドルの評価額で機密S-1申請を行い、SpaceX(スペースX)は約1兆7,500億ドルの評価額でNASDAQへのIPOロードショーを実施し、同年6月12日に上場を果たしました。
AIとディープテックの巨大企業3社が相前後して公開市場へ向かうという異例の局面です。
【表2】主要AI・テック企業のIPO動向比較(2026年6月時点)
| 企業 | 申請時期 | 評価額(報道) | 主な事業 |
|---|---|---|---|
| OpenAI | 2026年5月下旬(機密) | 約8,520億ドル | ChatGPT・AI API |
| Anthropic | 2026年6月1日(機密) | 約9,650億ドル | Claude・AI研究 |
| SpaceX | 2026年6月12日上場 | 約1兆7,500億ドル | 宇宙開発・Starlink |
3. 財務の実態——急成長する売上と拡大する赤字
3-1. 売上高の推移
OpenAIの売上は急速に拡大しています。ARR(年間売上高換算)は2023年約20億ドル、2024年約60億ドル、2025年200億ドル超と推移し、2026年2月時点では約250億ドルに達しています。
約3年で10倍超という成長の速さが、8,520億ドルという高い評価額の主な根拠となっています。
3-2. 損失の構造と黒字化の見通し
しかし財務の全体像をみると、売上成長と並行して損失も急拡大しています。
2026年6月に一部メディアに流出した財務データによれば、2025年のOpenAIの損失は約210億ドル、売上は約130億ドルとされています。2026年第1四半期(Q1)の売上高は約57億ドルでしたが、オペレーティングマージン(営業利益率)は-122%と報告されており、1ドルの売上に対して約2.2ドルの費用が発生している計算になります。
主な費用項目は、AI推論に必要な計算資源(GPU)の調達コスト、研究者・エンジニアへの高額報酬、安全研究への投資です。
OpenAIが黒字転換を見込む時期は2030年頃とされています。それまでの少なくとも4年間は大規模な損失が続く見込みであり、継続的な資金調達が必要です。
Fortune誌の報道によれば、同社は2029年に収益1,000億ドルを目標としており、スケール拡大によるコスト効率改善を通じた収益化シナリオを描いています。
4. 投資家が押さえるべきリスクと論点
第3章までに確認した財務・ガバナンスの実態を踏まえ、この局面で投資家が押さえるべき論点を4点に整理します。
4-1. 長期赤字と評価額の妥当性
第3章で確認した通り、2030年の黒字転換まで少なくとも4年間にわたり大規模な損失が見込まれています。
現在の評価額8,520億ドルは将来の利益に対する期待を大きく織り込んでいます。成長シナリオが崩れた場合——たとえばARRの伸びが鈍化したり、競合との価格競争でマージンが一段と悪化したりした場合——評価額の大幅な修正リスクが伴います。
4-2. 競合激化とシェアの変化
生成AI(Generative AI=テキスト・画像・音声などを自動生成するAI技術)市場では、GoogleのGemini(ジェミニ)、AnthropicのClaude(クロード)、xAIのGrok(グロック)など強力な競合が台頭しています。
ChatGPTのウェブ版利用シェアは一部報道によれば2025年1月の86.7%から2026年1月には64.5%に低下したとされており、競争環境は急速に厳しさを増しています。
また、価格競争によってAPI(アプリケーション・プログラミング・インターフェース=外部サービスとの連携窓口)の単価が下落しており、売上成長が鈍化するリスクもあります。
4-3. ガバナンスの特異性(PBC構造と株主構成)
OpenAIは2025年10月、非営利・営利ハイブリッド構造からデラウェア州の公益法人(PBC: Public Benefit Corporation=株主利益だけでなく公益目的も定款に定める法人形態)へ転換しました。
旧非営利部門の継承組織であるOpenAI Foundation(オープンAI財団)が株式の26%を保有し続けており、「安全なAI開発」という使命の継続が制度的に担保されています。
主要株主はMicrosoft(マイクロソフト)が希薄化後ベースで約27%、従業員・一般投資家が約47%です。
PBCという法人形態は、株主還元よりも公益目的を優先する判断が経営に影響を与える可能性があり、通常の株式会社と異なる点として留意が必要です。上場時に公開されるS-1の詳細内容を精査することが不可欠です。
5. まとめ
OpenAI は 2026 年 6 月 8 日に IPO に向けてS-1(新規公開株の登録届出書)を非公開で提出したと発表し、時価総額は1兆ドル(約160兆円)規模でNASDAQ への上場を目指しています。
直近の資金調達ラウンド後のOpenAIの評価額は8520億ドル(約137兆円)となると同社が3月に発表しています。同社はアマゾンやソフトバンクグループを含む「戦略的パートナー」から約1220億ドル(約19兆6000億円)を調達したと述べていて、元OpenAI社員が設立したアンソロピックは最近、資金調達で先行しており、5月の資金調達ラウンド後に9000億ドル(約144兆円)超の評価額に達しました。
ARR は 2023 年の約 20 億ドルから約 250 億ドル(2026 年 2 月時点)へ急拡大した一方、2025 年の損失は売上(130 億ドル)を大幅に上回る 210 億ドルに達しており、黒字転換は 2030 年頃の見通しです。PBC(公益法人)という特異なガバナンス構造と、非上場ゆえに日本の一般投資家が参加困難という点も、現時点で押さえておくべき論点です。
投資判断に関する注意
※本記事は、公開情報および各種報道・アナリストレポート等(2026年3月16日時点)を基に作成した情報提供を目的としたものです。特定の企業・金融商品への投資を推奨または勧誘するものではありません。
※SpaceXは非上場企業であり、本記事に記載されている売上・企業価値・加入者数等のデータは、各種報道や推計に基づくものであり、正確性・完全性を保証するものではありません。
※IPO計画、事業戦略、将来予測等は現時点の公開情報に基づく見通しであり、実際の結果と大きく異なる可能性があります。
※投資に関する最終的な判断は、ご自身の責任において行っていただきますようお願いいたします。
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