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「賃上げ5%」は幻想?実際は2%止まりで生活が苦しいカラクリ

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  • 給料が上がったはずなのに家計が一向に楽にならない
  • 「賃上げ5%」と報じられているのに、実感がまったく伴わない
  • 物価の上昇に追いつかず、生活水準がむしろ下がっている気がする

このようなお悩みを抱えられている方は多いのではないでしょうか。経済や家計管理に精通したプロが、「賃上げ率の数字のカラクリ」と「生活が苦しい現実」について解説します。

この記事を通じて、「なぜ賃上げを実感できないのか」という不安や違和感が整理され、これからの家計管理にも役立つはずです。

1.本当に上がった?「賃上げ5%」の数字の実態

ここでは、報じられる「賃上げ5%」がどのように算出されているか、整理します。

1-1. 政府・経団連が示す”平均賃上げ率”の根拠

賃上げのニュースの見出しに出る「5%台」は、主要企業の春闘妥結結果を集計した平均値に基づく数字です。

根拠となるのは、厚労省や経団連が発表する春闘集計で、2025年は主要企業で賃上げ率5%台が続いたという結果が示されています。背景には名目賃金の押し上げと、前年から続く高水準の回答が並んでいることがあります。

例えば、労働政策研究・研修機構の整理では、厚労省の「民間主要企業春季賃上げ要求・妥結状況」平均賃上げ率5.52%、経団連最終集計でも大手139社で5.39%と紹介されています。

ここで重要なことは、これらは「春闘に参加した主要企業」を母集団にした平均値という点です。つまり、見出しの「5%」は“誰を平均したか”で印象が大きく変わる数字と言えるでしょう。

1-2. 大企業中心のデータであることの問題点

“賃上げ5%”はあくまで大企業が中心の平均値です。大企業は業績や交渉力の点で賃上げ余力が相対的に大きく、同じ「平均」でも中小企業を多く含む母集団とは結果が異なりやすいからです。

実際、同じ春闘集計でも大手企業は5%台の一方、経団連の中小企業集計は4.35%という紹介があり、規模で差が見られます。

また、賃金構造基本統計では企業規模別の賃金水準が大企業>中企業>小企業の順で明確な差が出ています。

こうした偏りが、見出しの「5%」と自分の給与実感の距離を生みやすくします。結局、表に出てくる数字が“どの層の平均なのか”を確かめる視点が欠かせません。

1-3. 中小企業や非正規雇用ではどうなっているか

日本の雇用を支えているのは中小企業や非正規雇用ですが、取引条件や価格転嫁力、人材確保競争力の差が賃金原資を左右するため大手企業や正社員と比べると賃金水準や伸びの面で弱さが残ります。

例えば、賃金構造基本統計では、正社員・正職員の所定内給与(男女計348.6千円)に対し、正社員・正職員以外は233.1千円で、雇用形態間格差(=100換算)は男女計66.9と示されています。

企業規模別でも「大企業391.9千円」「中企業342.0円」「小企業309.1千円」と階段状の差が明記され、非正規の比率や高齢層比率の高まりについても別資料で指摘されています。

結論、中小企業や非正規雇用が多い就業構造では、見出しの「賃上げ5%」を実感しにくいのが現実です。 

2.実態は「2%止まり」 データで見る現実

本章では、実際の家計が感じる伸びがなぜ「2%程度」なのか、解説します。

2-1. 賃金統計と家計調査のデータ比較

多くの人が「賃上げした実感がない」と感じる背景には、個人ベースの所定内給与や世帯収入の伸びが見出しにある「5%」と一致していないためです。

賃金の伸びの主要部分は所定内給与ですが、近年の伸びは2〜3%台にとどまる局面が続いています。また、家計調査によると、実収入は物価調整後で伸び悩む月が目立っています。

例えば、第一生命経済研究所の2025年6月の毎勤(毎月勤労統計調査)では、「現金給与総額+ 3.0%、実質▲0.8%」、一般労働者の所定内給与は+ 2.3%と解説しています。

家計調査の読み方資料でも、賃金統計と家計調査は概念が異なるため単純比較ができないとされながらも、世帯実収入の伸びに弱さが見られる月次解説もあります。

結果として、家計の実感は名目では2%前後、実質ではマイナス圏に寄りやすい構図といえるでしょう。

2-2. 非正規労働者を含めると平均が大きく変わる

「賃上げ5%」が実感に結びつかない要因として、非正規の比率が高い就業構造では水準も伸びも抑え込まれやすいといえます。

理由は、非正規の賃金水準が正規より低いことに加え、就業者構成に占める比率が約4割に上るため、全体平均を押し下げるからです。

例えば、生活設計の統計解説は、2024年の非正規比率が雇用者の36.8%であると示し、賃金構造基本統計によると、雇用形態別賃金は「正規=100に対し非正規は66.9(男女計)」であることが確認できます。

こうした構成効果を踏まえると、“5%の波及”が実感として生まれない現実が想定されます。
結局、世帯レベルで見れば平均上昇率は小さく映るでしょう。

2-3. 物価上昇率を考慮した”実質賃金のマイナス“

生活が楽にならない最大の理由は、物価上昇に賃金が追いついていないことです。

理由として、CPI(生鮮除く)では2〜3%台の上昇が続くなか、実質賃金がマイナス月を重ねている点が挙げられます。

例えば、総務省CPIでは2025年3月の生鮮除く総合が+3.2%、8月分でも品目別では「生鮮除く食料」が前年同月比+8.0%と高い伸びが示され、補助により電気・ガスの寄与は一部抑制されています。

一方、毎勤ベースの実質賃金は2025年6月時点で▲0.8%(6カ月連続減少)とされ、名目が伸びても実質が目減りする構図です。
家計は“実質の上昇<物価の上昇”局面に置かれていると言えるでしょう。 

3.なぜ生活は一向に楽にならないのか

本章では、「賃上げがあったはずなのに、家計はむしろ苦しくなっている」とされる背景について、解説します。

3-1. 値上がりが止まらない食料・光熱費

家計の負担を感じる要因は、日々の買い物で直撃する食料、エネルギー関連が挙げられます。理由は、食料が高い伸びを続け、エネルギーは補助で上昇が抑えられつつも負担感が残るためです。

例えば、CPI(消費者物価指数)8月分の品目寄与で「生鮮を除く食料」が+ 8.0%と示され、電気・ガスには補助による押し下げ効果(合計▲0.26ポイント)が記載されています。

こうした中、総合やコアの上昇率は月により鈍化しても、食料の伸びが家計体感を強く押し上げます。
毎日の支出項目の上昇が“楽にならない”感覚を生みます。

3-2. 住宅費・教育費など固定費の負担増

固定費は金額が大きく、見直ししにくい性質があるため、賃上げがあっても圧迫感が残りやすいです。
理由は、住居費・通信費・保険・ローンなどの固定支出は一度決まると月々の負担が継続し、家計全体の可処分を圧迫しやすい構造になりやすいからです。

例えば、金融庁の消費者向け資料は「まずは固定費から圧縮」を明示し、住居費・通信費・保険・ローンの見直しが効果的と指摘しています。

政府広報でも固定費見直しの有効性が紹介されています。
固定費の構造を変えない限り、賃上げ効果が家計に残りにくいでしょう。

3-3. 社会保険料や税負担の拡大

賃金の上昇を相殺する要因として、国全体の税・社会保険料の負担感も挙げられます。理由は、国民所得に対する租税+社会保障負担の比率(国民負担率)が高水準で推移しているためです。

財務省は2025年度の国民負担率は46.2%と公表しており、見通しとしても高い水準が続くことを示しています。

また、租税と社会保障の合算比率が高く推移することも確認できます。
所得が増えても、可処分所得面の圧迫によって、手取りが増えづらい構造になっています。

4.表向きの数字と実態が乖離するカラクリ

ここでは、報道される「賃上げ率」と、私たちが実際に感じる給与水準が一致しない理由を解説します。

4-1. 大企業と中小企業の給与格差

同じ「平均賃金」でも、企業規模によって給与水準は大きく異なります。理由は、利益率や生産性、価格交渉力といった企業力の差が賃金原資に直結するためです。

例えば、賃金構造基本統計の企業規模別では、所定内給与が大企業>中企業>小企業と段階的に低下し、その差が明確に示されています。

春闘集計の「賃上げ5%」は大企業が中心のため、この構造差が数字の“見栄え”を押し上げている面があります。
つまり、「平均5%賃上げ」と聞いても、企業規模ごとの階段構造が、実感とのギャップを生んでいるということです。

4-2. 正規雇用と非正規雇用の賃金格差

雇用形態の違いも平均値の“押し上げ/押し下げ”を作ります。理由は、正規と非正規の所定内給与に大きな水準差があるからです。

例えば、同統計では、「正規=348.6千円」「非正規=233.1千円」、雇用形態間格差指数は66.9(男女計)と明示され、年齢が上がるほど差が広がる傾向の記述も掲載されています。

非正規比率が約4割という就業構造も合わせると、全体平均が正規中心の数字より低く出やすくなります。
これが「賃上げ実感がわかない」大きな理由のひとつです。

4-3. 平均値と中央値の違いによる錯覚

平均だけを見ると、実際の多数派の水準を高く見積もってしまうことがあります。

理由は、所得分布の上位が平均を引き上げる一方で、中央値は“真ん中の人”の水準を表すためです。

例えば、国税庁の民間給与実態統計では、2023年の平均年収は460万円と示されますが、外部の分析では中央値が平均を下回る水準とされ、平均だけでは分布の偏りを把握しにくいことが繰り返し説明されています。

つまり、平均だけを見ると生活実感よりも高い水準に見えてしまうため、中央値の視点を併せることで理解しやすくなります。

5.個人ができる生活防衛の工夫

賃上げが実感につながりにくい環境でも、個人ができる家計を守るためにできる対策について、解説します。

5-1. 家計の固定費を見直す(通信費・保険・住宅ローンなど)

実感を改善する近道は、まず固定費から手を付けることです。理由は、固定費は一度見直すと削減効果が毎月積み上がるからです。

金融庁資料は「まずは固定費(住居費・通信費・保険料・ローン返済)から圧縮」と明記し、先取り貯蓄の仕組み化まで含めて解説しています。

政府広報も固定費見直しの実践例を示しています。
毎月の固定費が下がると、賃上げが小さくても家計にゆとりが生まれます。

5-2. 副業・スキルアップによる収入源の多様化

収入を増やすには、スキルの底上げと働き方の多様化が最も確実です。副業・兼業やスキル形成は、実務経験と所得機会を広げ、本業の生産性向上にもつながります。

経団連や内閣府でも、副業・兼業の推進とキャリア形成の意義が明確に示されています。

5-3. 投資・資産運用でインフレに備える

中長期では、貯蓄だけでなく“長期・積立・分散”の考え方でインフレ耐性を高める必要性がでてくるでしょう。

理由は、預貯金だけでは物価上昇に購買力が削られる一方、NISA等の制度を活用した分散投資は将来の選択肢を増やす可能性があるためです。

例えば、金融庁のNISA特設サイトは「長期・積立・分散」の基本や制度の仕組みを丁寧に解説しています。つみたて投資枠の対象情報も公開され、少額からの分散が想定されます。

貯蓄とは違い損失が発生する可能性への留意は必要ですが、無理のない範囲で“仕組み化”しながら、家計全体の余力を作ることが現実的でしょう(元本割れ、価格変動の可能性には留意)。

6.まとめ

「賃上げ5%」は、主要大手企業の平均という“見栄えの良い数字”であり、就業構造や物価、負担の実相を踏まえると家計の体感は2%前後、または実質でマイナスに傾きやすい局面が続きます。

大企業・正規中心の平均と、中小企業・非正規を多く含む現実の就業構造の平均に差があることが、“楽にならない”感覚の正体です。


家計を守るには、固定費の最適化、人的資本投資、NISA等制度を用いた長期・積立・分散の活用で、「名目賃上げに依存しない家計改善」の道筋を持つことが重要でしょう。 

ファーストパートナーズでは、お客様のニーズに寄り添った今後のライフプラン・資産運用のご提案を行っております。

収入や支出、将来のライフプランについて、お客様の状況を鑑みながら、的確にアドバイスいたします。

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流石 一弘

みずほ証券入社・所沢支店、自由が丘支店に在籍後、ファーストパートナーズに転職。みずほ証券では、社長賞受賞・コンテスト多数受賞し海外研修に参加、みずほ証券従業員組合中央執行委員に選出。
お客様に寄り添った資産運用のアドバイスを心掛け、商品ありきの提案ではなく真のニーズを把握することに努め仕事に取り組んできました。今後はワンストップで様々なサービスを提供できるファーストパートナーズでより幅広いお客様の運用以外のニーズにも応えられるように取り組んでいきたいと思います。

保有資格:証券外務員一種、内部管理責任者、生命保険協会認定保険募集人、FP二級技能検定資格

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