
株式は、インフレに強い資産の一つとされることがあります。
しかし、なぜ株式がインフレに強いとされるのか、どのような局面では当てはまらないのかを正しく理解している方は少ないかもしれません。
本記事では、インフレの仕組みから株式がインフレに強いとされる理由、資産クラスごとの特徴まで、中立的な立場で分かりやすく整理します。
1. インフレとは何か
インフレーション(インフレ)とは、モノやサービスの価格が継続的に上昇し、お金の価値が相対的に低下していく現象です。
消費者物価指数(CPI=Consumer Price Index)はその代表的な指標で、日本では総務省が毎月公表しています。
(総務省「消費者物価指数」https://www.stat.go.jp/data/cpi/)
インフレには大きく2つの種類があり、それぞれ性質が異なります。
1-1. 「良いインフレ」と呼ばれる需要牽引型インフレ(ディマンドプル)
需要牽引型インフレとは、経済の需要(ディマンド)が供給を上回ることで物価が上昇するタイプのインフレです。
経済が好調で雇用が増え、賃金が上がると消費者の購買意欲が高まり、モノやサービスへの需要が増加します。供給が需要に追いつかなくなると価格が上昇し、企業の売上や利益も増えやすくなります。
このタイプのインフレは景気拡大を伴う健全な物価上昇として捉えられることが多いです。日本銀行が目標として掲げてきた「2%程度の物価安定目標」も、こうした健全なインフレを念頭に置いたものです。
1-2. 「悪いインフレ」と呼ばれるコストプッシュ型インフレ
コストプッシュ型インフレとは、エネルギー価格や原材料費の上昇によって生産コストが増加し、企業がそのコストを価格に転嫁することで物価が上昇するタイプです。
需要の増加ではなく「コストの上昇(プッシュ)」が原因のため、企業の利益は必ずしも改善しません。
典型的な例として、石油価格の高騰が挙げられます。輸入エネルギーに依存する日本では、円安と原油高が重なるとエネルギーコストと輸入物価が同時に上昇し、食料品から光熱費まで幅広い品目の価格が押し上げられます。
賃金の上昇が物価上昇に追いつかない場合、実質的な生活水準の低下につながりやすい点が特徴です。
1-3. スタグフレーションとは何か
スタグフレーションとは、景気停滞(スタグネーション)と物価上昇(インフレーション)が同時に進行する最も厳しい経済状況です。
景気が悪化して失業が増えているにもかかわらず、物価が上昇し続けるため、金融政策による対応が難しくなります。景気対策と物価抑制の両立が難しくなることが特徴です。
歴史的な例としては、1970年代の石油危機(オイルショック)に伴う先進国でのスタグフレーションが知られています。
インフレは、その発生要因によって企業業績や資産価格への影響が異なります。こうした違いを踏まえ、次章では株式がインフレに強いとされる理由について見ていきます。
2. なぜ株式はインフレに強いとされるのか
株式が「インフレに強い資産」とされる背景には、株式という資産の性質と、企業の収益構造に関わる複数の理由があります。以下ではその理由を整理します。
2-1. 株式は「企業」という実物資産への持分である
株式とは、企業の所有権の一部(持分)を表す証券です。株式を保有するということは、その企業が保有する工場・土地・在庫・ブランド・特許など、あらゆる実物資産に間接的に関与することを意味します。
現金は物価が上昇すると実質的な購買力が低下します。一方、企業は価格転嫁や利益成長が期待できるほか、保有する実物資産の価値も維持・上昇しやすい場合があります。この点が、株式が一般的にインフレ耐性を持ちやすいとされる理由の一つです。
2-2. 物価上昇が売上・利益の成長につながりやすい理由
需要牽引型インフレ(第1章1-1参照)の局面では、企業は製品・サービスの価格を引き上げることで売上を増やせる可能性があります。
価格転嫁が十分に進むと、売上の伸びが仕入れコストの増加を上回る場合があり、企業利益(EPS=1株当たり利益)の増加につながることがあります。
ただし、この恩恵は業種・企業によって大きく異なります。
例えば、生活必需品やエネルギー、資源関連などは価格転嫁が比較的しやすい一方、小売業や人件費比率の高いサービス業では価格転嫁が難しいケースもあります。
コストプッシュ型インフレ(第1章1-2参照)の場合は、原材料費の上昇を価格転嫁できなければ企業利益が圧迫されることもあります。インフレの種類によって株式への影響は大きく異なる点に注意が必要です。
2-3. 配当の増加余地
配当とは、企業が利益の一部を株主に分配するものです。
企業利益が増加すると、配当が増える余地が生まれます。個別企業の業績や配当方針によって結果は異なり、配当が必ず増加するとは限りませんが、インフレ局面で企業が売上・利益を伸ばした結果、配当の増加がみられた事例は、過去にも確認されています。
現金の預金金利はインフレが進んでも短期的には変わりにくいのに対し、株式の配当はその企業の業績に連動して増える可能性がある点が特徴です。これをインカムゲイン(保有資産から生じる収益)のインフレ耐性と表現することがあります。
2-4. 長期で見ると実質リターンを維持しやすい
実質リターンとは、名目のリターン(数字上の収益率)からインフレ率を差し引いた「購買力ベースの収益率」のことです。
現金や固定利率の資産は、名目上の金額が減らなくても、物価が上昇すればこの実質リターンがマイナスになりえます。預金残高が同じでも、その金額で買えるモノの量が減っていくためです。
これに対して株式は、2-2・2-3で見たとおり、物価上昇局面で企業の売上・利益・配当が伸びる余地があります。名目のリターンが物価上昇に追随しうるという意味で、長期的には購買力を維持しやすいと説明されることがあります。
ただし、この「長期」は数十年単位の話であり、短期・中期では株式がインフレ率を大きく下回る局面も存在します。
3. 資産クラス別に見るインフレ耐性
インフレ局面では、保有する資産の種類によって購買力への影響が大きく異なります。本章では代表的な資産クラスごとの特徴を整理します。
3-1. 現金・普通預金——購買力が最も低下しやすい資産
現金や普通預金は元本が保全される安全な資産ですが、インフレ局面では実質的な価値が目減りしやすいとされています。
物価が上昇するにつれ、同じ金額で購入できるモノの量が減少するためです。預金金利がインフレ率を下回る状況では、預金残高は変わらなくても購買力は継続的に低下します。
3-2. 債券——固定利率がインフレ局面では弱点になる
債券とは、国や企業が資金調達のために発行する有価証券で、あらかじめ定められた利率(クーポン)と満期に元本が返還される仕組みの金融商品です。債券型の投資信託などを通じて保有されることも多い資産です。
固定利率の債券は、物価が安定している局面では安定した収益が得られる一方、インフレ局面では以下の弱点があります。
・物価が上昇しても受け取る利息は固定されているため、実質的な利回りが低下する
・インフレに対応するため中央銀行が政策金利を引き上げると、既発債の価格は下落しやすい
・満期まで保有すれば元本は戻るが、受け取った元本の購買力はインフレ分だけ目減りしている
なお、インフレ連動債(物価の上昇に連動して元本・利息が調整される債券)はこの弱点をある程度補う仕組みを持ちますが、日本では流通量が限られています。
3-3. 株式——長期では相対的に高いインフレ耐性
第2章で詳述したとおり、株式は企業という実物資産への持分であり、需要牽引型インフレ局面では企業の売上・利益・配当が伸びる余地があります。
長期的には実質リターン(インフレ調整後の収益率)が他の資産クラスと比較して高い傾向が観察されています。
ただし2章で確認したとおり、短期ではインフレに逆行する局面もあり、業種・銘柄によって影響は大きく異なります。
3-4. 不動産——賃料・資産価値の上昇が期待できるケース
不動産(土地・建物)は実物資産であり、インフレ局面では以下の点でインフレ耐性が期待されることがあります。
・物価上昇にともない、不動産の資産価値や賃料が上昇しやすいケースがある
・賃貸収入はインフレに合わせて見直せる可能性がある
ただし、以下の点にも留意が必要です。
・金利上昇局面では不動産ローンの負担が増え、不動産需要が冷え込む可能性がある
・立地・物件の種類によって影響は大きく異なる
・株式と比べると換金しにくい
3-5. 金(ゴールド)——インフレ・有事に強い資産
金(ゴールド)は国家や中央銀行の信用に依存しない実物資産として、インフレや地政学的リスク(地政学的リスク=戦争・紛争・政治不安など地理的・政治的要因による経済への影響)が高まる局面で注目されることがあります。
主な特徴は以下のとおりです。
・世界共通の実物資産であり、通貨の価値が下落するインフレ局面で相対的に価値が維持されやすいとされる
・利息・配当を生まないため、金利が低い局面では保有コスト(機会費用=他の運用に回した場合に得られたはずのリターンを手放すコスト)が小さくなる
・金利上昇局面では利息を生まない金の相対的な魅力が低下しやすい
・価格は市場の需給・地政学的リスク・ドル相場などに影響を受け、短期では変動が大きい
■ 資産クラス別インフレ耐性 比較表
本表はインフレ局面における一般的な傾向を整理したものです。特定の資産への投資を推奨するものではなく、個別の経済環境・保有期間・リスク許容度によって影響は大きく異なります。
| 資産クラス | インフレ耐性 | 主な強み | 主な弱点 |
|---|---|---|---|
| 現金・預金 | 低い | 元本保全・流動性が高い | 実質購買力が目減りしやすい |
| 債券(固定利率) | 低〜中 | 安定した利息収入 | 実質利回り低下・金利上昇で価格下落 |
| 株式 | 中〜高(長期) | 利益・配当の成長余地 | 短期は逆行する局面あり・業種格差大 |
| 不動産 | 中〜高 | 賃料・資産価値の上昇余地 | 流動性低・金利上昇の影響を受けやすい |
| 金(ゴールド) | 中〜高 | 実物資産・通貨リスク回避 | 利息・配当なし・短期変動大 |
本表は、各資産クラスの一般的な特性を踏まえてファーストパートナーズが独自に整理したものであり、特定の統計データや将来の運用成果を示すものではありません。
4. 「何もしないこと」がリスクになる時代
4-1. 日本家計に根強い「現金偏重」という課題
日本の家計金融資産の約半分は、依然として現金・預金で保有されています。日本銀行の資金循環統計によると、家計金融資産に占める現金・預金の割合は約5割となっており、近年は投資への資金シフトが進んでいるものの、米国では現金・預金の割合が1割台前半であることと比べると、日本では依然として現金・預金の比率が高い状況です。
この「現金偏重」の背景としては、以下の要因が挙げられます。
・長年のデフレ(物価下落)環境のもとでは、現金のまま保有していても購買力が維持・向上しやすかった
・バブル崩壊後の株式・不動産の大幅下落が「投資は怖い」という意識を根づかせた
・元本割れリスクを極力避けたいという保守的な資産観
しかしインフレが継続する局面では、この「安全策」が購買力の目減りというリスクにつながる可能性があります。
出典:日本銀行「資金循環統計」https://www.boj.or.jp/statistics/sj/index.htm
4-2. インフレが続くと購買力はどれだけ目減りするのか
インフレ率が継続した場合の購買力の変化を試算すると、以下のようになります。あくまで概算の試算であり、将来の物価上昇率を示すものではありません。
■ インフレ率別・購買力の目減り試算(100万円を現金保有した場合の実質価値)
| 経過年数 | インフレ率1%/年 | インフレ率2%/年 | インフレ率3%/年 |
|---|---|---|---|
| 10年後 | 約90万円 | 約82万円 | 約74万円 |
| 20年後 | 約82万円 | 約67万円 | 約55万円 |
| 30年後 | 約74万円 | 約55万円 | 約41万円 |
総務省「消費者物価指数」(https://www.stat.go.jp/data/cpi/)のインフレ率概念を基に複利計算でファーストパートナーズ作成。
たとえば年率2%のインフレが30年続いた場合、試算上は現金100万円の購買力が約55万円相当まで低下します。これはあくまで試算ですが、「現金なら安全」という考え方が、インフレ局面では必ずしも当てはまらない可能性があることを示しています。
4-3. リスクを「取らなさすぎる」課題
一般的に「リスク」とは資産価値が変動する可能性として認識されますが、インフレ局面では「何もしないこと」自体が購買力喪失というリスクになりえます。
・価格が変動するリスク :株式・不動産など価格が変動するリスク
・購買力リスク(インフレリスク):現金・固定利率の資産を保有し続けることで購買力が目減りするリスク
リスクを取らなさすぎることで生じる「機会損失」と購買力の目減りは、特に長期にわたる資産形成においては重要な論点です。金融庁も資産形成のリスク・リターンの考え方について情報を公開しています。(金融庁「NISAを知る」https://www.fsa.go.jp/policy/nisa2/know/)
4-4. インフレ時代に見直したい資産配分の考え方
インフレ局面における資産配分の考え方を整理します。特定の商品を推奨するものではなく、考え方の枠組みとして参照してください。
・現金・預金は生活費の一定期間分を確保する目的で保有するという考え方
・実物資産や実物資産に連動する資産を資産配分に組み込む視点を持つ:株式・不動産・金など、インフレ耐性が期待される資産クラスを分散して保有する考え方
・分散投資の原則を踏まえる:資産クラス・地域・時間を分散させることで特定のリスクへの集中を避ける
・短期の価格変動に過度に反応しない:株式など価格変動のある資産は短期的にインフレと逆行することもあるため、長期視点で考えることが重要
・自身のリスク許容度・投資目的・時間軸を起点に考える:同じ「インフレに強い資産」でも、リスク許容度・保有期間・資金の用途によって適切な配分は異なる
なお、資産配分は家計や資産状況によって異なるため、必要に応じて専門家へ相談することも有効です。
5. まとめ
本記事では、インフレと株式の関係性を中心に、資産クラス別のインフレ耐性と資産配分の考え方を整理しました。
インフレには需要牽引型とコストプッシュ型という2つの種類があり、株式への影響はその種類によって大きく異なります。スタグフレーションの局面では株式も苦戦しやすく、一律に「株式はインフレに強い」とは言い切れません。
株式がインフレ耐性を持ちやすい理由は、企業という実物資産への持分であること、需要牽引型インフレ局面では売上・利益・配当が伸びる余地があることにありますが、短期的には金利上昇局面でインフレに逆行することもあります。
資産クラスで見ると、現金・固定利率債券はインフレ耐性が低く、株式・不動産・金はそれぞれ異なる特性でインフレ耐性を持ちやすい傾向があります。
日本では依然として現金・預金の比率が高い傾向があります。インフレが続く局面では、価格変動リスクだけでなく、現金の購買力が目減りするリスクにも目を向けることが重要です。
近年は、日本でも物価上昇が続き、日本銀行の金融政策や日米金利差の変化によって市場環境も大きく変化しています。インフレへの備えは、単に「株式を持つかどうか」ではなく、資産全体をどのように組み合わせるかという視点で考えることが、これまで以上に重要になっています。
本記事はあくまで中立的な情報整理を目的としており、特定の投資行動を推奨・勧誘するものではありません。
ファーストパートナーズでは、富裕層・資産形成層の方々に対して、ニーズに寄り添ったさまざまなサービスのご提案を行っております。
※ご相談は無料で承っておりますが、その内容により、個別の商品・銘柄・売買の方法・時期等に言及する場合があります。
記事のお問い合わせはこちら
