M&A(企業の合併・買収)は、売り手にとって多くのメリットとリスクがあります。
売り手のメリット | 自社株式の売却による現金または買収企業の株式や現金の獲得、後継者問題の解決、従業員の雇用維持 等 |
売り手のリスク | 買い手が見つからない、経営権の縮小、取引先との関係悪化の可能性 等 |
本記事では、M&A売り手としての基本知識から、その目的、メリット、リスクまでを詳しく解説します。
基本知識と流れを理解することで、M&Aをスムーズに進められるようになります。
1.売り手がM&Aを選ぶ目的とは?
売り手がM&Aを選択する目的は多岐にわたりますが、共通しているのは企業の持続可能性を高めるための選択であるということです。
特に中小企業においては、事業承継が難しいケースや、経営資源が豊富な企業のグループとして事業を拡大させたいケースにM&Aを選択する場合が多いです。
1-1.会社の存続
売り手がM&Aを選ぶ目的のひとつが、会社を存続させることです。
経営資源の不足や市場競争の激化、後継者不足など、さまざまな理由で経営危機に陥ることがあります。こうした場合、M&Aを通じて他社との統合や提携を図ることで、資本力や技術力の補完、後継者不足の解消が可能です。
特に中小企業では、M&Aを活用することで新たな成長機会を得られることがあります。
1-2.事業整理
事業整理を目的としたM&Aは、企業の経営戦略の中で重要な役割を果たします。
複数の事業を抱える企業において、経営資源を効率的に配分するために不要な事業を売却(事業譲渡)することがあります。
事業環境の変化に伴い、特定の事業が将来的に利益を生み出すことが難しいと判断された場合、早期に事業を整理することで、ほかの成長分野にリソースを集中させることが可能です。
1-3.事業継承
後継者不足問題の解決策として、M&Aを選択する経営者が増えています。
この場合、企業のビジョンや価値観に共感してもらえる買い手を見つけることが重要です。経営者の意志を引き継ぎつつ、企業の成長を継続させることが可能となります。
M&Aを通じて新たな経営資源やノウハウを導入することで、事業の競争力を高めることもできます。
2.売り手としてのメリット
M&Aの売り手としてのメリットは、従業員の雇用維持や譲渡対価の獲得など多岐にわたります。
2-1.事業継続と成長の実現
技術革新や市場競争が激化するなかで、現状の体制に限界を感じるオーナー様も多くいます。
資金や技術、人材などの経営資源が豊富な買い手と合併することで、事業拡大が可能になります。
新たな市場への進出や製品開発の加速が期待でき、結果として企業価値の向上につながります。
2-2.従業員の雇用維持
経営が困難な状況に陥った企業でも、適切な買い手を見つけることで、事業の継続が見込まれます。
結果として、従業員が職を失うリスクを大幅に軽減できます。
地元に根ざした中小企業では、地域社会における雇用の維持が重要視されます。
M&Aによって新たな経営者が参入することで、企業の新たなビジョンが示され、従業員のモチベーション向上にもつながる可能性があります。
さらに、買い手企業が持つノウハウやネットワークを活用することで、従業員自身のスキルアップやキャリアパスの多様化が期待できます。
2-3.譲渡対価の獲得
企業を売却することにより、経営者は得た売却資金をもとに新たな事業への投資や個人的な資産形成をすることが可能です。
譲渡対価は、企業の資産価値、将来の収益性、そして市場の動向に基づいて評価されます。
特に、成長性のある事業や独自の技術を持つ企業は、高い評価を受けることが多く、結果として高額な譲渡対価を得られることもあります。
譲渡対価を受け取ることで、経営者自身のライフスタイルやキャリアにおける選択肢が広がります。
3.売り手のリスクと課題
M&Aにはメリットだけでなくリスクもあります。適切に把握することで譲渡後のトラブルを最小限に抑えることができます。
3-1.経営方針の変更による従業員のモチベーション低下
M&Aによる経営方針の変更リスクは、売り手にとって避けて通れない課題です。
企業のビジョンや戦略が大幅に変わる可能性があります。これにより、従来の業務プロセスや企業文化が変わることもあります。
長年培ってきた企業の独自性や強みが損なわれるリスクがあるため、売り手は交渉段階で慎重に条件を決める必要があります。
また、M&Aによる組織変更に従業員が戸惑い、モチベーション低下や業務効率が低下するリスクもあります。従業員が将来の不確実性を感じると、企業への不信感が募り、離職につながる可能性もあります。
そのため、売り手は、従業員への情報提供やコミュニケーションを強化し、従業員の不安を軽減するための施策を講じることが重要です。
3-2.取引先や顧客との関係悪化
M&Aによる変化は、取引先や顧客にも影響を与えることがあります。
企業の経営方針や提供するサービスが変更される場合、取引先や顧客が不安を抱くことも少なからずあるでしょう。
長年築いてきた信頼関係が損なわれ、取引の減少や契約の解除といったリスクが生じることがあります。
売り手は、M&Aのプロセスにおいて、取引先や顧客に対し、十分な説明と情報提供を行う準備をしておくが重要です。
4.M&Aを行う際の法務・税務の注意点
法務面では、契約書の内容を細部にわたり確認し、法的リスクを最小限に抑えることが求められます。また、税務面においては、譲渡所得税や法人税の影響を予測し、適切な税金対策を講じることが不可欠です。
4-1.契約書の注意事項
M&Aの契約書は、売却条件や取引の詳細を明確に記載する重要な文書です。
売却価格や支払い条件については、双方が納得のいく形で合意することが大切です。契約書には、売却後の責任範囲や保証事項についても明記しなければなりません。
特に、売却後に発生するかもしれないトラブルに対する免責事項を明確にしておくことで、後々の法的リスクを軽減できます。
さらに、競業避止義務や秘密保持義務など、取引後の利害関係を保護する条項も重要です。これらの事項をしっかりと確認し、契約書が双方の利益を守るものであることを確認するために、法務の専門家の意見を取り入れることをおすすめします。
4-2.税金対策と費用の把握
売却益に対する譲渡所得税が発生することを考慮し、その負担を最小限に抑えましょう。
譲渡スキームによって税率は異なるためプロに相談することをお勧めします。
また、M&Aには仲介手数料やデューデリジェンス費用などのコストが発生します。これらの費用を事前に把握し総合的な資金計画を立てることが、予算オーバーを防ぐポイントです。
契約における注意事項を理解し、税金対策とコスト把握を徹底することで、M&Aのプロセスをスムーズに進め、企業の財務的な健全性を保つことが可能です。
5.まとめ
M&Aは、後継者不足の解決や事業の拡大など多くの目的で活用される手法です。この記事では、M&Aのメリットとして従業員の雇用維持、譲渡対価の獲得、リスクとして経営方針の変更による従業員や取引先との関係悪化について触れました。
売り手は適切な計画と準備をしなければなりません。中小企業においても、事業承継や経営戦略の一環としてM&Aが広く利用されていますが、成功するためには慎重な調査と専門家の助言が重要です。このような情報を基に、M&Aを検討する際の注意点や成功のためのポイントを把握し、戦略的な判断を行うことが求められます。