プライベートバンクは一般的な目安として、1億円以上の資産保有者を対象とする専門サービスです。ただし日本では3,000万円から5,000万円を対象とした、比較的ハードルの低いプライベートバンクのサービスも存在しています。本記事ではプライベートバンクを活用すべき対象とともに、賢い利用方法やメリットとデメリットについて解説します。
1.プライベートバンクとは?
プライベートバンクとは一定額以上の資産を有する方を対象にした、総合的な資産管理を行う金融サービスです。
「バンク」と名前がつくため一般的な都市銀行・地方銀行によるサービスのイメージが大きいですが、少し異なります。例えるなら、富裕層を対象とした「お金とライフプランまわりのなんでも屋」という定義が近いでしょう。
1-1.プライベートバンクで受けられるサービス
プライベートバンクでは、主に以下のサービスが受けられます。
(プライベートバンクの主なサービス) ・金融機関を横断した資産運用 ・税務面のアドバイス ・海外生活のサポート ・資産承継や事業承継、相続などのサポート ・不動産の管理や売却 |
プライベートバンクの特徴として、銀行や証券会社のような
サービスを受けられるほか、クレジットカードの管理なども対応している場合も多いです。
またプライベートバンクを通して金融や法律などの専門家に個別の相談ができるため、投資に最適な商品の紹介だけでなく、税金面も相談をすることができます。
1-2.一般的な金融機関との違いは「一括サービス」
一般の金融機関は希望する手続きごとに対象の会社が異なります。
預金なら銀行、株式の購入なら証券会社といった具合です。銀行に赴いて「クレジットカードの限度額を上げたい」と相談しても、難しいでしょう。
実際は銀行でも運用商品を購入したり、生命保険を申し込んだりすることができますが、あくまで銀行窓口の多様化によるものです。
対するプライベートバンクは資産の管理にあたって、顧客ごとに担当のプライベートバンカーがつきます。多種多様な相談に対応できる金融のプロがアテンドしてくれますが、万一、専門外の相談をされたときには「グループ会社内の専門人材をつなぐ」という役目も担っています。
また税理士や弁護士など、業務独占資格を有する者しか受けられない相談内容の場合は、税理士事務所や弁護士事務所を紹介することができます。
2.プライベートバンクはいくらから利用できるか
プライベートバンクで口座を開設するための最低預金額は明示されていないところが多いです。ただ、一般的な目安としては、1億円の総資産額が必要になるといわれています。
2-1.日本では3,000万円から5,000万円の資産で利用可能な会社もある
日本国内には、3,000万円から5,000万円前後の資産で利用可能な、比較的ハードルの低いプライベートバンクもあります。一概にプライベートバンクといっても、所有している資産額により受けられるサービスは大きく異なるでしょう。
一方海外では、5,000万円前後で受けられるプライベートバンクはほとんどありません。最低でも1億円以上の資産が必要といわれています。銀行によっては5億円以上の預金額が最低ラインといわれているところもあります。
預金額の低い場合は、一般的な銀行とプライベートバンクの「中間に位置するサービス」も提供されています。プライベートバンクのような「すべてお任せ」とはならないものの、専門知識を持った人材に限定的に相談できるという立ち位置です。
2-2.プライベートバンクを利用する前に注意すべきこと
注意したいのは、資産額が基準額に到達したからといって、必ずしもプライベートバンクの利用ができるわけではない点です。
さらに、残高に比例して手数料がかかることにも注意しましょう。運用に充てる金額によっては、手数料分以上の利益が得られないリスクも存在します。
プライベートバンクの利用にあたっては、自分の資産額と要望を鑑みて、十分なリターンが得られるかを確認することが大切です。
2-3.サービスの利用には審査がある
プライベートバンクの口座開設は、誰に対しても無条件に提供されているものではありません。資産残高のチェックに加え、KYC(Know Your Customer、本人確認)も厳重に行われます。
当然のことですが、反社会的勢力と繋がりのある場合は口座開設ができません。さらには、既存顧客や信頼できる人からの紹介がなければ開設できない場合もあります。
3.プライベートバンクの想定利回り
プライベートバンクの資産運用で期待できる利回り(目標とする年間リターン)は、顧客のニーズや運用スタイルにより異なるものの一般的な金融機関より高い傾向にあります。
プライベートバンクでの取扱商品による運用期待利回り | 一般的な金融機関での取扱商品による運用期待利回り |
日系証券:年5%~10%前後 日系銀行:年5%~10%前後 欧州系銀行:年3%~10%前後 | 年2~8%前後(投資信託の場合) |
※自社調べ
プライベートバンクの場合、一般的な金融機関では購入できない金融商品を取り扱っていることもあります。「その分損をする可能性が高いのでは」と訝る見方もありますが、5,000万円や1億円を投資する場合は投資金額が大きいため、理想的な分散投資をすることが可能です。
4.プライベートバンクのコストについて
次にプライベートバンクを利用した場合のコストを見ていきましょう。
・手数料の種類
プライベートバンクによって採用している手数料形態は異なりますが、大きく分けて以下の4つが挙げられます。
プライベートバンク | 一般的な金融機関 | |
代表的な手数料 | 〇売買手数料:購入時。金融商品の売買金額に対して0.1-1.5%程度。 〇資産基準手数料:預託資産残高による。預かり資産額に対して1.5%前後が相場。 〇固定報酬:定額 〇成功報酬:運用成果にもとづく。資産の増加額に対して15-20%前後。 | 〇株式売買手数料:株購入時、売却時 〇販売手数料:投資信託購入時 〇信託報酬:投資信託の運用期間中に継続的に発生する費用 〇信託財産留保額:投資信託解約時 |
プライベートバンクを利用する際は、資産を預け入れる前に、どれだけの維持費用がかかるのか確認しておきましょう。
担当者との信頼関係を維持するためにも、利用コストの把握が大切です。
5.非金融サービス
プライベートバンクでは、さまざまな「非金融サービス」を受けることができます。
・ステータス系サービス
上質な暮らしを実現するためのサービスを受けられます。クレジットカード(ブラックカード)やゴルフ会員権、高級バーなどです。
・教育サービス
プライベートバンクでは受験、海外留学の支援を受けることができます。またプライベートバンクの顧客には会社経営者も多いため、子どもや後継者など次世代に向けた経営者教育を依頼することもできます。
・オーダーメイド旅行や出張の斡旋
旅行や出張の手配は煩雑です。プライベートバンクでは、顧客からの希望を最大限に適えたオーダーメイド旅行を斡旋しています。交通機関や旅行代理店、宿泊施設の交渉など多岐に渡ります。
・高度医療サービスや高級介護施設の紹介
プライベートバンクの顧客は、世代別に見ると高齢者が多いです。そのため医療サービスや介護施設には高い関心があります。在宅診療のサービスや介護施設の情報をやり取りすることで、プライベートバンクの担当者も顧客の信頼を得ることができるでしょう。
このように、プライベートバンクは「富裕層向けのなんでも屋」といえます。
6.世界と日本 ランキング
日本と世界に分けて、預かり資産残高の上位ランキングを見ていきましょう。
順位 | 会社名 | 本社所在地 | 預かり資産(USD) |
① | UBSグローバルウェルスマネジメント | スイス | 2兆5,900億ドル |
② | エドワード・ジョーンズ | アメリカ | 1兆3,050億ドル |
③ | クレディ・スイス | スイス | 1兆2,500億ドル |
④ | モルガン・スタンレー・ウェルスマネジメント | アメリカ | 1兆2,350億ドル |
⑤ | バンク・オブ・アメリカGWIM | アメリカ | 1兆2,200億ドル |
⑥ | J.P.モルガン・プライベートバンク | アメリカ | 6,770億ドル |
⑦ | ゴールドマン・サックス・ウェルスマネジメント | アメリカ | 5,580億ドル |
⑧ | チャールズ・シュワブ | アメリカ | 5,063億ドル |
⑨ | シティ・プライベートバンク | アメリカ | 5,000億ドル |
⑩ | BNPパリバ・プライベートバンク | フランス | 4,240億ドル |
引用:ADV RATINGS https://www.advratings.com/
順位 | 銀行名 |
① | 三菱UFJアセットマネジメント |
② | 野村アセットマネジメント |
③ | アセットマネジメマネジメントOne |
④ | 大和アセットマネジメント |
⑤ | 三井住友DSアセットマネジメント |
引用:Quick money world https://moneyworld.jp/news/05_00058702_news
世界におけるプライベートバンクの預かり残高上位を見ると、経済大国であるアメリカのほかに、スイスがプライベートバンク大国であることがわかります。
国際的にスイスは中立国の立場を確立しています。1934年のスイス銀行法により、口座名義人の情報を第三者に開示することを禁止する法律が制定されました。これにより、スイスの銀行は「秘密銀行」としての側面を強化しました。
他国からの情報開示を拒否できるスイスの仕組みは、プライベートバンクの利用者にとって安心できるものでしたが、時代の趨勢とともにマネーロンダリング防止や、資産隠ぺい・租税回避の防止の観点から、現在では秘密保持は難しくなりつつあります。
それでも、これまでの歴史で世界中の富裕層とコネクションのあるスイスの銀行には、いまだに多くの富裕層の口座が残っています。
7.まとめ
今回の記事をまとめます。
プライベートバンクは、富裕層を対象とした金融機関のサービスです。金融機関が従来の運用相談以外に展開している場合と、プライベートバンクの専門業者が事業展開している場合があります。
日本では総資産3,000万円以上、海外では1億円以上の資産がプライベートバンクを開設できる目安です。場合によっては、5億円以上の資産が必要な場合もあります。
もちろん資産があればいいというものではありません。反社との関わりがないかなど、厳しい本人確認が求められます。そもそも、既存顧客からの紹介が無ければ、新規口座開設ができないプライベートバンクもあります。
無事、口座開設された際は、資産運用・資産管理に限らず、教育や医療サービス、オーダーメイドの旅行など、さまざまな非金融サービスを受けることが期待できます。まさに「富裕層のためのなんでも屋」です。
また、プライベートバンクは現時点の資産所有者のみならず、家族全体で相談することも可能です。家族内でもそれぞれの立場から相談することによって、資産承継に伴う適切な相続・贈与の対策を検討することができます。ご自身の資産額によっては、プライベートバンクの利用を検討してみてもいいのではないでしょうか。