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元祖ニュータンタンメン本舗 代表 五十嵐 正悟|「川崎から世界へ」3代目が解体した職人文化と、60年ブランド再構築の経営哲学

濃厚なスープに溶き卵、たっぷりのニンニクと唐辛子。「元祖ニュータンタンメン本舗」は、川崎を発祥とし、創業62年を迎える地域のソウルフードである。

メディアやSNSで「川崎のソウルフード」と紹介され、川崎フロンターレとのコラボレーションや、川崎市内の小中学校の給食採用、子ども食堂への食材提供など、地域に根差した取り組みでも注目を集めている。

そのブランドを率いるのが、3代目代表取締役・五十嵐正悟氏だ。中学生の時に祖父が創業者であると知り、高校生の頃から「この味を広めたい」と思い続けた五十嵐社長は、19歳で入社。皿洗いから始まる現場の下積みを経て、2016年に代表に就任した。

「見て覚えろという職人文化を、自ら解体する」――。

職人文化での下積みに耐えかねた自身の原体験から、職人育成のマニュアル化、最短数カ月での独立支援、人事評価制度の導入など、伝統と革新の両立に挑んできた五十嵐社長。「川崎から世界へ」というスローガンに込めた想いと、次なる100店舗、200店舗への構想を伺った。

1. 「中学生の衝撃」から始まった、3代目の原体験

――中学生の時に、祖父が創業者であると知ったというエピソードを伺いました。当時、どのような感覚だったのでしょうか。

五十嵐正悟(以下、五十嵐): もともと商品が美味しかったので、全国にあるブランドだとずっと勘違いしていたんです。中学生って、自転車で行ける範囲くらいしか世界がないじゃないですか。電車にもそんなに乗らない。だから普通にあちこちにあるものだと思っていました。

それが高校生くらいになって、「あ、20店舗くらいしかないんだ」と知って、衝撃を受けたと同時に、「これだけのポテンシャルがある商品なら、自分が会社をやればもっと大きく広げられるんじゃないか」と思ったんです。高校生の頃には、もう会社をやりたいという気持ちは固まっていましたね。

――2代目である現会長からは「好きなことをやっていい」と言われていたとも伺いました。それでも家業を継ぐ意志は強かったのでしょうか。

五十嵐: 現会長自身は継ぐという選択肢しか無く、苦労したため自由にしていいというスタンスでした。なので、居酒屋でアルバイトをしたり、建築の仕事をしたりもしました。19歳のときに入社したのですが、当時は22店舗ほどで「なぜこの商品がここで止まってしまっているのか」ということでした。

当時はカップラーメンも袋麺もなく、すべて店舗の手作りで提供する商品でした。それでも、商品そのものへの自信があったんです。「絶対にもっと上に上げられる」と。商品力に対する確信が、私の原動力でした。

2. 見て覚えろの解体。「最短数カ月で独立できる」組織への変革

――9年ほど前に代表に就任されてから、改革に取り組まれたと伺いました。最初に手をつけたのはどのような領域ですか。

五十嵐: 私が代表に就任したときは、店舗が22店舗ほどでした。当時はすべての商品が手作りで、職人育成も完全な徒弟制度。1年は洗い場、作り方は教えてくれない、見て覚えろ。そういう世界です。

私も現場に入っていましたが、正直、同族の自分でも「やってられない」と思うほどでした。同族の私がそう感じるなら、外から入ってくる人たちはなおさらだろう、と。これでは職人も育たないし、何より人材不足のいまの時代、とても続かない構造だと感じました。

――そこから、どのように組織を変えていったのでしょうか。

五十嵐: まずやったのは、マニュアル化でした。これによって、独立までのハードルを大きく下げることができます。

それまでは「2年は修行する。さらに自分で融資を受けてオーナーシェフになる」というのが独立のルールでした。創業者の方針で、「自分で借金しなければ店を大事にしない」という考え方だったんです。働きながら店のオーナーになって、自分で借金もする。これだと、独立まで2、3年、5年とかかってしまう。

私が考えたのは、「いかに早く独立できるか」と「仕事に楽しさと熱意を持ってもらえるか」の両立です。最短数カ月で独立できる仕組みをつくり、楽しさを知ってもらいながら一人前になり、店舗を展開してもらう。これが組織づくりの最初の起点でした。

――店舗によっての味の違いがお客様の楽しみになっていると伺いました。ブランドを作っていく上での統一感とのバランスはどのように考えていますか?

五十嵐: 職人気質な文化の時には作り手によって微妙に変わっていましたが、マニュアル化したことによってある程度同じ味を作れるようになりました。

ただ、このばらつきがあったからこそ進化して今の結果に繋がったと考えています。厳格にルールを決めていなかったからこそ、お客様の声を受けて味を濃くしてニンニクを強くしてこれが今の新しい味付けになったと思います。統一化も大事かもしれませんが、人間の手作りの味ということで強みになっていると思います。

3. 数と結果でしか認められない。先輩オーナーたちとの距離

――徒弟制度を解体する改革には、創業以来の関係者からの反発もあったのではないでしょうか。

五十嵐: ありました。フランチャイズオーナーさんの多くは、創業者の弟子筋なんです。いわゆる暖簾分けですね。だから、私が改革を進めようとすると、ちょっと違った目で見られたところはありました。

「そんな簡単に作れるものじゃないよ」「そんな簡単に独立できるものじゃないよ」――カップラーメンを開発するときも、同じことを言われました。手作りの味を、工場で再現する。それは創業者の弟子たちにとっては、自分たちが守ってきた価値観への挑戦に映ったのだと思います。

――そうした関係性のなかで、改革をどのように浸透させていったのでしょうか。

五十嵐: 結論から言えば、圧倒的に数と結果を出すしかない、と腹を括っていました。議論で説得しても限界があるので、まず店舗を作る、結果を出す。誰が見てもわかる結果を積み上げていけば、必ず認めてもらえると信じて続けた結果46店舗まで増やすことができました。

カップラーメンも、最初は懐疑的に見られていましたが、市場で実績が出るにつれて、先輩方からも前向きに受け止めていただけるようになりました。いまでは会議の場でも、こちらが提案する方向性を二つ返事で聞いていただけるようになっています。少しずつですが、結果が信頼を作ってくれたのだと思います。

4. 従業員満足度こそが経営の核。人事評価制度と「やりがい」の設計

――店舗を増やしながら、味とサービスのクオリティを保っていくのは難しいことだと思います。そのなかで「従業員満足度を上げることが課題」と仰っていますね。

五十嵐: 私は、従業員がやりがいを持って楽しく仕事に取り組めなければ、いい仕事もいい接客もできないと考えています。これはどの業種にも通じることですが、特に飲食店ではわかりやすく現れます。

「いらっしゃいませ」と迎えるあの数秒、お客様が「ここに来てよかった」と感じる瞬間は、スタッフのお客様への気持ちがそのまま表に出るんです。だから、スタッフ自身が「この仕事はやりがいがある」「ここに入ってよかった」と思える環境を作ることが、私の最大の仕事だと思っています。

――具体的にはどのような取り組みをされていますか。

五十嵐: 一つは、人事評価制度の導入です。同じ商品を作っていても、「店長がいるから自分にはチャンスがない」ではなく、誰にでもチャンスがある仕組みを整えています。

覆面調査を外部に依頼して、各スタッフがどれだけいい仕事をしているかを点数化する。その点数をもとに、年に1回、期末で報酬に反映する仕組みを進めています。年功序列ではなく、平のスタッフからでも管理職になれる。そうした制度をいま、ミーティングを重ねながら設計しているところです。

もう一つ、根本にあるのは「商品への愛」です。これはどの飲食ブランドにも言えることだと思いますが、自分たちが作る商品に愛がなければ、本当に美味しいものは作れない。

ブランドを好きになってもらえるか、会社を好きになってもらえるか。それが、目標を持って仕事に向き合えるかどうかを左右しますし、結果として売上にも返ってきます。制度設計と、ブランドへの愛着づくり。この両方が必要だと考えています。

――フランチャイズオーナーの方にも、同じような考えを求めていらっしゃいますか。

五十嵐: そうですね。「儲かるからやる」というスタンスのオーナーさんは、結局うまくいかないことが多かったんです。別で本業をしている方が、副業的に飲食をやってみようというケースですね。

外部から従業員を雇ってきても、その人が飲食寄りのセンスを持っているかどうかでお店の出来は大きく変わってしまう。結果として、利益目的で始めたお店は閉店していくケースが多かったんです。

私がオーナー候補の方にお伝えしているのは、シンプルです。「ニュータンタンメンが、すごく好きですか」と。「昔から食べていた」「この味が一番大好きなんだ」――そういう熱い想いを持っている方は、失敗しません。利益はもちろん大事ですが、その前に商品への愛がある。そういう方に、店舗を任せたいと思っています。

5. 川崎への恩返し。子ども食堂・給食・川崎フロンターレ

――メディアでは「川崎のソウルフード」として紹介されることが増えました。地元から愛されていると実感する瞬間はありますか。

五十嵐: 一番はやはり、創業62年という年数の重みですね。これだけ長くやらせていただいて、いまだに川崎のお客様に来ていただいている。これに勝る実感はありません。

「川崎のソウルフード」という呼び方も、私たちが自分でつけたわけではないんです。テレビなどのメディアが川崎のソウルフードと紹介してくださって、それが定着していった。お客様や周囲の方々が育ててくださった呼び名だと思っています。

実際に印象的だったのが、川崎市の小学校・中学校で給食に採用していただいたときのことです。私自身も小学校に足を運んで、子どもたちと一緒に給食を食べたんですが、中学3年生くらいの子に「知っている?」と聞いたら、「いつも家族で食べに行ってる」「私は大辛が好き」って答えてくれたんですよ。家族で食べに来てくださっているんだ、と。あの感覚は、本当に嬉しかったですね。

――川崎フロンターレと連携した「かわさきこども食堂ネットワーク」への食材提供や、保育園への給食提供も始められていますね。

五十嵐: 川崎市や地域の行政からお声がけいただけるのは、本当にありがたいことだと思っています。私たちは、川崎に育てていただいて、いまがある。だから、川崎が盛り上がることなら、何でも取り組んでいきたいと思っているんです。

子ども食堂への食材提供は、寄付するだけではなく、実際に自分で食材を運んで、ボランティアの方々と一緒に子どもたちと食事をするようにしています。子どもには未来があるので、できることはやりたい。それだけです。

――こうした取り組みは、社内外でどのような反響がありましたか。

五十嵐: 大きいのは、従業員のモチベーションの変化ですね。最近、カップラーメンに川崎市のマークが入ったのですが、それを見たスタッフから「こんなふうに行政とタッグを組んでいる会社で働けているのが、誇らしいです」という声をもらったんです。

もう一つは、ニッチな商品ながらメディアに取り上げていただく機会が増え、それが川崎という街への興味の入り口になっていることです。あの真っ赤な見た目とニンニクのインパクト、そしてカップラーメンも含めた多面的な接点があることで、「川崎ってどんな街だろう」と検索してもらえる。少しでも川崎に興味を持っていただける入り口になればと思っています。

6. 「川崎から世界へ」――200店舗、その先のフェーズへ

――創業60周年で掲げられたスローガン「川崎から世界へ」には、どのような想いが込められているのでしょうか。

五十嵐: このスローガンは、3、4年前に私自身が作ったものなんです。「とりあえず、でかく言ったほうがいい」という気持ちもありました(笑)。

ただ、根っこにあるのは、川崎からも世界に通じるものは生まれる、というメッセージです。これはうちだけの話ではなく、川崎には住みやすさや、いろいろな魅力がある。他のブランドや事業者の方々も含めて、「川崎発で世界に出ていけるんだ」という空気を作りたかったんです。

実際、海外展開も視野に入れています。シンガポールでは、パートナー企業さんと提携して期間限定で出店させていただきました。今後も、現地のパートナー企業さんとうまくタッグを組みながら、海外展開を進めていきたいです。特にアジア市場には可能性を感じています。

――カップ麺・袋麺などへの派生商品化も進んでいますね。今後、ブランドをどう進化させていきたいですか。

五十嵐: 商品にはまだまだポテンシャルがあると考えています。店舗のない地域の方にも、まずカップラーメンで味を知っていただく。「こういう店舗があるんだ」と興味を持っていただいて、その地域に店舗を作ったときに足を運んでもらう。そういう流れを作っていきたいですね。

――最後に、これから会社としての目標を教えてください。

五十嵐: 数字としては、200店舗を視野に入れています。ただ、そこに到達するには、本部単独では資金面でも時間面でも限界がある。いろいろな資金調達の手段も含めて検討しなければならないフェーズに来ています。

まずは100店舗を達成して、自分たちにそれだけの力があると示す。そこから先の200店舗、300店舗は、また違ったフェーズの話になると思います。同族企業のままではない、別の形での成長を考えていかなければならないかもしれません。

「川崎から世界へ」というスローガンは、店舗数という器の話だけではなく、ニュータンタンメンというブランドが、どこまで広く・深く愛される存在になれるかという挑戦そのものです。創業62年で築いていただいた信頼の上に、次の時代の仕組みを重ねていく。それが、3代目としての私の役割だと思っています。

〈プロフィール〉

五十嵐 正悟(いがらし しょうご)

元祖ニュータンタンメン本舗 代表

1984年生まれ、神奈川県川崎市出身。
居酒屋などで飲食業につき、20年程前に「元祖ニュータンタンメン本舗」に運営する株式会社みなもとに入社。2016年代表に就任。
地域密着の店舗運営を軸に、近年ではブランドの全国区化を推進。手作りの個性を活かした「唯一無二の味」を武器に、組織の近代化と多角化経営を実現しながらこれからも「スタミナと活力」を届ける食文化を伝え続け地域社会の発展に貢献し続ける事を目標にしている。

FPメディア編集部

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