税金

ミニマムタックス税制、知らなかったでは済まされない|2027年改正で急拡大する「増税の射程圏」

「株を売ったときの税金は約20%」

多くの経営者が、そう認識しているのではないでしょうか。

しかし、2027年からその常識が大きく変わります。2026年度の税制改正により、高額所得者への追加課税制度「ミニマムタックス」が大幅に強化。控除額は半減、税率は引き上げられ、これまで対象外だったM&A売却額3.5億円超の経営者も増税の射程圏内に入ります。

たとえば、株式譲渡益10億円のケースでは、売却が2026年か2027年かで手取りが約1億円変わる計算です。

本記事では、ミニマムタックスの仕組みから2027年改正のインパクト、そして経営者が2026年中に検討すべき5つの具体策までを、シミュレーションを交えてわかりやすく解説します。

1. ミニマムタックスとは?——30秒で掴む制度の本質

2025年から始まった「ミニマムタックス」。

正式名称は「極めて高い水準の所得に対する負担の適正化措置」です。一定以上の高額所得者に対して、最低限の所得税負担を求める制度で、日本の税制が長年抱えてきた「1億円の壁」問題を是正する目的で導入されました。

 1-1. 「1億円の壁」と制度導入の背景

日本の所得税は、所得が増えるほど税率が上がる累進課税を採用しています。所得税の最高税率は45%(復興特別所得税を含め45.945%)で、これに住民税10%を加えた合計の最高税率は約55%となります。

しかし財務省のデータでは、所得税の負担率は所得1億円付近をピークに、それを超えると逆に低下していきます。

この逆転が起きる原因はシンプルです。

・給与・事業所得 → 累進課税で最高約55%(所得税45.945% + 住民税10%)

・株式譲渡益・配当 → 分離課税で一律20.315%(所得税15.315% + 住民税5%)

高額所得者ほど金融所得の割合が大きくなるため、全体の実効税率が下がるのです。

【所得1億円超の納税者の所得内訳(財務省データ)】

所得の種類構成比
非上場株式の譲渡所得27.4%
土地・建物の長期譲渡所得21.3%
上場株式の譲渡所得14.4%

金融・資産所得が全体の6割以上を占めており、「稼ぐほど税率が上がる」はずの累進課税が、資産所得の多い富裕層には十分に機能していませんでした。

ミニマムタックスは、この不公平を是正するために導入された制度です。

※参照:財務省「説明資料〔個人所得課税〕」(令和4年10月)
https://www.mof.go.jp/tax_policy/tax_reform/outline/fy2023/explanation/PDF/p0234-0267.pdf

 1-2. 現行制度の仕組み(計算式と対象者)

現行の仕組みは、以下の計算式で差額がプラスになった場合に、その分を追加納税するというものです。

追加納税額 =(基準所得金額 − 3.3億円)× 22.5% − 基準所得税額

【用語の整理】

用語意味
基準所得金額総所得金額及び分離課税の各種所得金額を合計したもの(確定申告不要制度を適用することができる上場株式等に係る配当所得の金額及び上場株式等に係る譲渡所得等の金額を含みます。)
基準所得税額通常の方法で(確定申告不要制度を適用する所得を除いて)計算した場合の申告書上の所得税の額及び確定申告不要制度を適用した所得に係る源泉徴収税額を合計したもの(復興特別所得税を含みます。)

【現行制度のポイント】

・計算結果がマイナス → 追加納税なし

・金融所得のみの場合 → 約10億円超から追加納税が発生

・対象者は全国で数百人程度(財務省試算)

「数百人なら自分には関係ない」

そう思った方こそ、次章をお読みください。2027年の改正で、この前提は大きく崩れます。

※参照:経営革新等支援機関推進協議会「金融所得課税の引き上げ『ミニマムタックス』とは?」
https://fm-suishinkyogikai.jp/media/17583/

2. 2027年改正で何が変わるのか

2026年度の税制改正により、2027年分の所得税からミニマムタックスが大幅に強化されます。一言で言えば、「対象者を広げ、税負担を引き上げる」改正です。

これまで「超富裕層だけの話」だった制度が、M&Aや事業売却を検討する中堅企業のオーナー経営者にも直接影響する範囲まで拡大します。

 2-1. 控除額半減×税率引き上げ——改正の全体像

改正のポイントは、たった2つです。

・控除額の引き下げ:3.3億円 → 1.65億円(半減)

・適用税率の引き上げ:22.5% → 30.0%(+7.5pt)

この2つが同時に変更されることで、追加納税額は従来の想定を大きく上回ります。

【改正後の計算式(2027年〜)】

追加納税額 =(基準所得金額 − 1.65億円)× 30.0% − 基準所得税額

 2-2. 新旧比較表

項目改正前(〜2026年)改正後(2027年〜)
控除額3.3億円1.65億円(▲1.65億円)
適用税率22.5%30.0%(+7.5pt)
追加納税の目安約10億円超約3.4億円超

 2-3. 対象者の拡大——「自分には関係ない」が通用しなくなる

改正前後で、追加納税が発生する所得水準は以下のように変わります。

・改正前:株式譲渡益が約10億円超で追加納税が発生

・改正後:株式譲渡益が約3.4億円超で追加納税が発生

つまり、これまでは「年間数十億円規模の超富裕層だけの制度」だったものが、改正後はM&Aで3.5億円以上の売却益が出るオーナー経営者も射程圏内に入ります。

たとえば以下のようなケースでは、2027年以降に初めてミニマムタックスの対象となる可能性があります。

・自社株の評価額が5億〜20億円規模のオーナー経営者

・事業承継やM&Aによるイグジットを検討している方

・不動産の大規模売却を予定している方

「一部の超富裕層向けの制度」という認識は、もう過去のものです。次章では、具体的な所得水準ごとに「いくら税負担が増えるのか」をシミュレーションで見ていきます。

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※参照:マクサス・コーポレートアドバイザリー「2026年度税制改正速報 ミニマムタックスの見直し」
https://maxus.co.jp/columns/10678

※参照:よくわかるM&A「2027年M&A増税:会社売却額3.5億円超で手取り減少⁉」
https://co-ad.jp/blog/ma_value/7907/

3. あなたの手取りはいくら減るのか——シミュレーション

「制度の仕組みはわかった。で、結局いくら増えるの?」ここからが本題です。

株式譲渡益のみのケースを前提に、3つの所得水準で改正前後の税負担を比較します。

 3-1. 改正前後の追加納税額・実効税率の比較

以下の試算は、個人の所得が株式譲渡益(キャピタルゲイン)のみで、その他の所得がゼロの場合を前提としています。

基準所得税額は「譲渡益 × 15.315%(所得税のみ)」で算出しています。

【株式譲渡益5億円の場合】

項目改正前(〜2026年)改正後(2027年〜)
通常の所得税額約7,658万円約7,658万円
ミニマムタックス追加額0円(発生しない)約2,393万円
合計税負担約7,658万円約1億51万円
実効税率約15.3%約20.1%

→ 改正前は対象外だった5億円の譲渡益でも、改正後は約2,393万円の追加納税が発生します。

【株式譲渡益10億円の場合】

項目改正前(〜2026年)改正後(2027年〜)
通常の所得税額約1億5,315万円約1億5,315万円
ミニマムタックス追加額0円(発生しない)約9,735万円
合計税負担約1億5,315万円約2億5,050万円
実効税率約15.3%約25.1%

→ 改正前は発生していない追加納税額ですが、改正後は約9,735万円の追加納税が生じます。

【株式譲渡益20億円の場合】

項目改正前(〜2026年)改正後(2027年〜)
通常の所得税額約3億630万円約3億630万円
ミニマムタックス追加額約6,950万円約2億4,420万円
合計税負担約3億7,580万円約5億5,050万円
実効税率約18.8%約27.5%

→ 追加納税額の差は約1億7,470万円。実効税率は8.7ポイント上昇します。

 3-2. 2026年内と2027年以降で手取りが億単位で変わる

上記のシミュレーションが示す最大のポイントは、売却タイミングの重要性です。

たとえば、株式譲渡益10億円のケースでは、

・2026年12月に売却 → 合計税負担 約1億5,315万円

・2027年1月に売却 → 合計税負担 約2億5,050万円

・差額 → 約9,735万円

わずか1ヶ月の違いで、手取りが約1億円変わる計算です。

なお、株式譲渡の所得認識時期は、原則として株式の引渡し(クロージング)時点となります(所得税基本通達36-12)。ただし、契約効力発生日を選択できる場合もあります。

M&Aや事業売却を検討中の方は、このデッドラインを強く意識する必要があります。

※参照:マクサス・コーポレートアドバイザリー「2026年度税制改正速報 ミニマムタックスの見直し」
https://maxus.co.jp/columns/10678

 3-3. 見落としがちな「申告不要所得の合算」

もう一つ、経営者が見落としやすい重要なポイントがあります。

ミニマムタックスの「基準所得金額」には、申告不要制度を選択した配当所得や株式譲渡所得も含まれます。

つまり、

・上場株式の配当を「申告不要」で受け取っている → 基準所得金額には合算される

・特定口座(源泉徴収あり)で株式を売却している → 基準所得金額には合算される

「確定申告していないから自分は対象外」という認識は誤りです。まずは顧問税理士と一緒に、申告不要所得を含めた「真の基準所得金額」を把握することが第一歩です。

※参照:ZEIKEN PRESS「超富裕層に対するミニマムタックス」
https://www.zeiken.co.jp/zeikenpress/press/0004pp20241111b/

4. 今すぐやるべきこと——5つのアクションプラン

ここまでで、2027年改正の影響の大きさはご理解いただけたかと思います。

重要なのは「知って終わり」ではなく、2026年中に具体的なアクションを起こすことです。ここでは、経営者・オーナーが今すぐ検討すべき5つの対応策を整理します。

 4-1. 売却タイミングの検討(2026年12月末がデッドライン)

前章のシミュレーションで見た通り、売却が2026年か2027年かで税負担が億単位で変わります。

【押さえるべきポイント】

・改正後の適用は2027年分の所得税から(2027年1月1日以降の所得が対象)

・株式譲渡の所得認識時期は、原則として株式の引渡し(クロージング)時点(所得税基本通達36-12)。ただし、契約効力発生日を選択できる場合もある

・実質的なデッドラインは2026年12月末

M&Aや事業売却を「いつかやりたい」と漠然と考えている方は、2026年中の実行を本格的に検討する価値があります。

ただし、税負担だけで売却時期を決めるべきではありません。事業の状況、買い手との交渉、従業員への影響なども含めた総合的な判断が必要です。

※参照:マクサス・コーポレートアドバイザリー「2026年度税制改正速報 ミニマムタックスの見直し」
https://maxus.co.jp/columns/10678

 4-2. 役員退職金の設計

M&Aによる株式売却と組み合わせて検討したいのが、役員退職金の活用です。退職所得は以下の計算で課税されるため、ミニマムタックスの税率30%と比較して有利になるケースがあります。

退職所得 =(退職金総額 − 退職所得控除)× 1/2

【役員退職金のメリット】

ポイント内容
1/2課税退職所得控除後の金額をさらに半分にして課税
分離課税他の所得と合算されない
基準所得金額に含まれないミニマムタックスの計算対象外

M&Aの売却対価の一部を譲渡代金ではなく役員退職金として受け取ることで、基準所得金額そのものを引き下げることができます。

ただし、退職金の金額は「最終報酬月額 × 在任年数 × 功績倍率」で算出する合理的な根拠が必要です。

※参照:よくわかるM&A「2027年M&A増税:会社売却額3.5億円超で手取り減少⁉」
https://co-ad.jp/blog/ma_value/7907/

 4-3. エンジェル税制の活用(最大20億円の非課税枠)

株式譲渡益が大きい場合に有効なのが、エンジェル税制です。

【エンジェル税制の概要】

項目内容
対象株式譲渡益をスタートアップ企業へ再投資した個人投資家
非課税枠プレシード・シード期の企業への出資は最大20億円まで非課税(プレシード特例)
20億円超の部分株式取得価額から控除(将来の譲渡時まで課税繰延べ)
対象企業設立5年未満の未上場ベンチャー企業 など

なお、最大20億円の非課税枠(プレシード特例)の適用は、一定の要件を満たす場合に限られ、適用可否や控除方法は投資形態により異なります。具体的には、設立3年未満かつ営業キャッシュ・フローが赤字であるなどの要件を満たすプレシード・シード期の企業への出資が対象となります。

エンジェル税制を活用すれば、株式譲渡益から再投資分を控除できるため、基準所得金額を大幅に圧縮できます。

ただし、再投資先の企業が要件を満たしている必要がある点、また20億円超の部分は非課税ではなく「課税の繰延べ」にすぎない点には注意が必要です。

※参照:経済産業省「エンジェル税制」
https://www.meti.go.jp/policy/newbusiness/angel/index.html

 4-4. 株式の事前分散(相続時精算課税制度)

ミニマムタックスは個人単位で計算されます。そのため、M&Aの前に家族へ株式を分散しておけば、一人あたりの基準所得金額を引き下げることが可能です。

【株式分散の方法】

方法概要
相続時精算課税制度2,500万円までの贈与が非課税(相続時に精算)
暦年贈与年間110万円の基礎控除を活用して段階的に移転
資産管理会社への移転個人ではなく法人が株式を保有する形に組み替え

ただし、株式の分散には贈与税・相続税の負担が別途発生する可能性や、会社の意思決定権が分散するリスクもあります。

事前に専門家と十分にシミュレーションした上で判断してください。

 4-5. 税務専門家との連携体制の構築

最後に、最も重要なアクションをお伝えします。それは、ミニマムタックスに精通した税務専門家との連携体制を早期に構築することです。

ここまで紹介した対策は、いずれも個人の所得構成・資産状況・事業計画によって最適解が異なります。「ネットの記事を読んで自分で判断する」にはリスクが大きすぎるテーマです。

【専門家に相談すべきチェックリスト】

・自社株の評価額が3億円を超えている

・M&A・事業売却を2〜3年以内に検討している

・申告不要で受け取っている配当や譲渡益がある

・ストックオプションや株式報酬の付与を行っている

・海外移住による節税を検討している

一つでも該当する方は、2026年中に税理士やIFA(独立系ファイナンシャルアドバイザー)への相談を始めることをお勧めします。税制改正は毎年行われます。一度きりの相談ではなく、継続的に情報共有できる体制を整えることが、長期的な資産防衛につながります。

ファーストパートナーズでは、富裕層・資産形成層の方々に対して、ニーズに寄り添ったさまざまなサービスのご提案を行っております。

※ご相談は無料で承っておりますが、その内容により、個別の商品・銘柄・売買の方法・時期等に言及する場合があります。

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窪田 博行

何社かの税理士法人で法人税務を中心に、決算・申告業務、税務顧問業務に従事。中小企業から上場企業グループまで幅広いクライアントを担当し、着実に経験を積む中で、組織再編やM&A、グループ通算制度などの高度な税務案件にも関与する。その後、資産税分野にも領域を広げ、相続税申告や事業承継対策、オーナー企業の資産管理支援など、法人・個人を横断した総合的な税務コンサルティングに従事。単なる申告業務にとどまらず、経営者や資産家の意思決定に寄り添う支援を行ってきた。

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