相続・事業承継

自社株3億円、貯蓄2,000万円「お金がなくて会社を継げない」を解決する5つの方法

自社株3億円、貯蓄2,000万円「お金がなくて会社を継げない」を解決する5つの方法

・自社株の評価額が高すぎて、後継者に引き継がせる現実的な方法が見えない
・貯蓄が少なく、会社を継ぎたくても資金面で踏み出せない
・贈与、相続、融資、事業承継税制のどれを使うべきか判断できない

このようなお悩みをお持ちではないでしょうか。

事業承継やM&A・資本政策に詳しいプロが、後継者の「お金がなくて会社を継げない」という悩みを解決する方法について解説します。

本記事を読むと、自社株の承継資金や事業承継税制に関する不安を解消でき、自社に合った承継方法を検討する際に役立つでしょう。

1. 自社株3億円、貯蓄2,000万円

 自社株の承継で大きな課題になりやすいのは、後継者の能力面以上に、資金負担が重くのしかかるケースがあります。

中小企業庁は、事業承継で必要になる資金として、先代からの株式の買取資金、相続で分散した株式の買取資金、相続税や贈与税の納税資金、承継後の投資資金などを挙げています。

つまり、後継者が「会社を継ぎたい」と考えていても、株式の取得と税負担が重なると、手元資金だけでは動けなくなる構造にあるのです。

1-1.なぜ自社株の承継が「最大の経営課題」になるのか

自社株の承継が最大の経営課題になりやすいのは、株式が単なる財産ではなく、経営権そのものだからです。後継者に株式が十分に集まらないと、代表者に就任できたとしても、重要な意思決定で不安定さが残るおそれがあります。

中小企業庁の金融支援マニュアルでも、後継者が自社株や事業用資産を買い取るための資金、ならびに相続や贈与で取得した場合の納税資金が支援対象として明示されており、この論点が実務上どれだけ重いかが分かります。

つまり、自社株の問題は名義変更だけで終わらず、経営支配、納税、資金調達を一体で考える必要があります。売上や利益が安定している会社ほど、株価が高くなりやすく、承継の負担も重くなりやすい点にも注意が必要です。

事業が順調な会社ほど承継が難しくなることは、珍しい話ではないでしょう。

 たとえば、後継者が議決権の過半数を確保できないケースが考えられます。この場合、形式上は社長でも、他の親族株主の意向に左右されやすく、将来の設備投資や組織再編といった重要な意思決定が遅れる可能性があります。

事業承継税制においても、後継者とその同族関係者で有する議決権が総株主等議決権数の50%以下になると認定取消しにつながり得ると示されています。裏を返せば、株式数の確保は税制面・経営面の双方において中核的な論点といえます。

だからこそ、自社株の承継は単なる節税対策だけでなく、経営の安定性を守る準備として考えるべきです。後継者の資金力が足りないなら、早い段階から他の手段を組み合わせる必要があります。 

1-2.自社株評価額3億円の内訳

 自社株3億円という評価額は、感覚で決まるものではなく、国税庁が示す評価方法に基づいて算定されます。取引相場のない株式は、会社規模に応じて「類似業種比準方式」「純資産価額方式」、またはその併用で評価されます。

大会社では配当金額・利益金額・純資産価額をもとに類似業種比準方式を使うのが原則で、小会社では純資産価額方式が原則です。つまり、利益が出ている会社でも、資産が厚い会社でも、株価が高くなる余地があります。

そのため、「非上場企業だから株価は高くないはず」と考えるのは危険です。まずは、利益と純資産のどちらが評価額を押し上げているのかを把握することが欠かせません。 

 たとえば、不動産や現預金を多く保有する会社では、純資産価額方式の影響が強く表れる傾向があります。一方で、安定した利益と配当を出している会社では、類似業種比準方式による評価が大きくなることがあります。

中会社はその中間で、両方式を併用して評価します。つまり、同じ年商でも、資産構成や利益の出方によって評価額の内訳は大きく変わります。

したがって、「3億円をどう下げるか」だけを見るのではなく、「3億円のうち何が評価の源になっているか」を見極めることが大切です。その理解がないまま贈与や相続を急ぐと、想定外の税負担につながる可能性があります。 

1-3.「先代が元気なうちに」が鉄則

 自社株承継は、先代が元気なうちに着手するのが原則です。中小企業庁は、現経営者の生前に後継者を確定し、自社株式や事業用資産を計画的に承継させる取組を前提に制度を整えています。

生前に準備を進めることができれば、贈与、買い取り、自己株式取得、税制活用など複数の選択肢を比較できます。反対に、相続が先に起きると、分割協議、納税期限、他の相続人との調整が一気に押し寄せ、意思決定の自由度は大きく制限されます。

相続税の申告は遺産分割が未了でも期限内に必要であり、分割が遅れたこと自体では申告期限は延びません。だからこそ、時間を味方につけられる生前対策が重要になります。 

 たとえば、先代が元気なうちなら、数年かけて後継者に役員報酬や配当で資金を持たせることも、特例承継計画を整えて税制の適用を検討することもできます。さらに、金融機関と事業承継計画を共有し、必要なら融資枠を準備することも可能です。

これに対し、急な相続では、株を誰が持つか決まらないまま納税や協議が進み、経営に集中しにくくなります。承継は制度選びの問題であると同時に、準備期間の問題でもあります。早く動くこと自体が、最も効果の高い対策の一つといえるでしょう。

2.自社株を承継する選択肢

ここからは、自社株を後継者へ移す主な方法について、解説します。

2-1.贈与(暦年贈与・相続時精算課税)

 贈与は、生前に計画的に株を移せる点が大きな強みです。暦年課税では、1年間に贈与で受けた財産の合計額から基礎控除額110万円を差し引いた残額に対して課税されます。

これに対し、相続時精算課税は、原則として60歳以上の父母または祖父母などから、18歳以上の子または孫などへの贈与で選択でき、一度選ぶとその贈与者からの贈与は暦年課税へ戻せません。

制度選択によって将来の税負担の出方が変わるため、単に「足元の贈与税が安いか」だけで判断するのは適切ではありません。特に自社株は評価額が大きくなりやすいため、贈与のタイミングが結果を大きく左右します。生前に移せる利点は大きいものの、設計なしで進めると逆効果になる可能性もあります。 

 たとえば、株価が比較的低い段階で相続時精算課税を使って後継者へ集中的に移すケースが考えられます。この方法は、後継者に早めに議決権を集約できる点で有効ですが、相続時には相続時精算課税適用財産を相続財産に加算して相続税計算を行う点も理解しておく必要があります。

また、令和6年1月1日以後の贈与では、相続時精算課税にも年110万円の基礎控除が創設されています。逆に、毎年少しずつ移したいなら、暦年課税の枠を使いながら時間をかける考え方もあります。

どちらが適しているかは、株価の水準、承継時期、他の相続財産の状況によって変わります。贈与は使いやすい手段ですが、制度の違いを理解した上で選ぶことが大切です。 

2-2.買い取り(自己資金・金融機関融資)

 買い取りは、後継者が対価を払って株を取得するため、権利関係を整理しやすい方法です。贈与や相続と比べると、財産移転の公平性を説明しやすく、他の相続人がいる家庭では有力な選択肢になります。

ただし、問題はやはり資金です。中小企業庁の金融支援では、後継者が自社株や事業用資産を買い取るための資金や、相続税・贈与税の納税資金が支援対象として整理されています。

つまり、自己資金だけで足りないことは制度上も想定済みであり、融資を前提としたスキーム構築が必要です。買い取りは現実的な方法ですが、資金調達まで含めて初めて成立します。

 たとえば、後継者個人が2,000万円を自己資金で出し、不足分を制度融資や民間金融機関からの借入で補うケースが考えられます。この場合、買い取り価格だけでなく、返済原資をどこから確保するかも重要です。

役員報酬、配当、将来の会社収益の見通しが弱いと、借入は可能であっても、返済が持続しないリスクを抱えることになります。さらに、経営交代の時期は金融機関との関係が変わりやすいため、早い段階で事業承継計画を共有しておくことが有効です。

買い取りは筋の通った承継手法ですが、過度な借入れは承継後の経営を圧迫します。資金調達の可否だけでなく、返済の持続性まで踏まえて判断すべきです。 

2-3.相続

 相続は、最も自然に見える承継方法ですが、準備不足だと最も混乱しやすい方法でもあります。

相続税は、相続や遺贈によって取得した財産の合計額が基礎控除額を超える場合に申告と納税が必要で、基礎控除額は「3,000万円+600万円×法定相続人の数」で計算します。

また、相続財産が分割されていない場合でも、申告期限までに申告しなければならず、遺産分割が済んでいないことを理由に期限が延長されることはありません。自社株が相続財産に入ると、誰が何株を持つか決まる前に税務対応が必要になる局面が生じます。

相続は手続きをしなくても発生する承継手段だからこそ、事前準備の差が大きく影響します。生前に設計していない相続は、後継者にとって重い負担になりやすいのが実情です。 

 たとえば、先代に配偶者と複数の子がいるケースでは、自社株を後継者に集中させたい一方で、他の相続人の理解も必要になります。協議が長引けば、経営判断の遅れに繋がるだけでなく、納税資金の確保も急ぐ必要が出てきます。

さらに、分割未了の申告では使えない特例があることも国税庁が案内しています。相続は、株式の集約と納税の問題が同時に来るため、実務上の負担が大きくなりやすい方法です。

相続を選ぶにしても、生前から遺言や株式の整理を進めておく重要性は大きいといえます。結果として、相続は準備した人ほど使いやすく、準備しない人ほど苦しくなる手法です。 

3.「お金がない」を解決する5つの方法

ここからは、後継者の手元資金が不足していても承継を前に進める方法について、解説します。 

3-1.経営承継円滑化法に基づく融資制度

 後継者の資金不足を埋める代表的な制度が、経営承継円滑化法に基づく金融支援です。中小企業庁は、事業承継時の融資は民間金融機関では対応が難しい場合もあるとして、この法律に基づく金融支援を整備しています。

支援対象には、後継者が自社株や事業用資産を買い取るための資金、相続税や贈与税の納税資金などが含まれます。つまり、この制度は「会社を継ぎたいが、今すぐ用意できる資金が足りない」という課題に正面から対応する仕組みです。

承継時の資金需要を制度として認めている点に、大きな意義があります。民間融資で難しいと感じたときこそ、まず検討すべき選択肢といえます。

たとえば、先代から株式を買い取る資金に加え、取得後の納税資金も必要になるケースが考えられます。このような場合、自己資金だけで無理に進めると、承継直後から資金繰りが逼迫するおそれがあります。

制度融資を使えば、承継に必要な資金を一体で考えやすくなります。もっとも、認定取得や要件確認は必要なので、経済産業局、金融機関、税理士などと早めに相談することが重要です。

制度があるだけでは資金は動きませんが、計画と組み合わせれば現実的な道になります。「資金が足りないから難しい」と決めつける前に、活用可能な制度を確認すべきでしょう。

3-2.日本政策金融公庫の事業承継向けローン

 日本政策金融公庫の「事業承継・集約・活性化支援資金」も、有力な資金調達手段の一つです。同公庫は、この融資を通じて事業承継やM&Aに取り組む事業者を支援すると案内しています。

利用対象には、中期的な事業承継を計画し、現経営者と後継者が事業承継計画を策定している者や、経営承継円滑化法の認定を受けた者などが含まれます。

ここで重要なのは、計画がある承継に対して公的金融が後押しする構造になっている点です。後継者個人の貯蓄が乏しくても、実現可能性の高い承継計画なら検討余地があります。資金不足を個人の問題だけで終わらせないことが大切です。 

 たとえば、5年後を目安に承継したい会社が、現経営者と後継者で事業承継計画を作り、公庫へ相談するケースが考えられます。この場合、単なる株式の取得ではなく、承継後の第二創業やPMIの取組みまで見据えて相談できる点が強みです。

公庫の案内では、承継を契機に新たな取組みを図る場合も対象に含めています。つまり、会社を受け継ぐだけでなく、承継後にどう伸ばすかまで示せると、資金調達の説得力が増します。

後継者の貯蓄額が少なくても、計画の質で補える余地はあります。公庫融資は、承継と成長を同時に実現したい場合に適した選択肢でしょう。 

3-3.会社からの役員報酬・配当を計画的に積み立てる

 後継者の自己資金を増やすには、承継前から役員報酬や配当を計画的に積み立てる方法も有効です。官公庁資料でも、事業承継には株式の買取資金や納税資金が必要になることが示されており、外部からの資金調達だけでなく内部での資金準備も欠かせません。

制度融資に頼るにしても、一定の自己資金があった方が計画の安定感は高まります。また、後継者が日常的に会社経営へ関わり、報酬を得ながら資金を蓄える流れは、経営者育成の面でも合理的です。

時間はかかりますが、最も安全性が高い方法の一つといえます。早く着手した人ほど使いやすい王道の対策でしょう。 

 たとえば、今すぐ3億円を用意できなくても、5年から10年かけて自己資金を厚くするケースが考えられます。その過程で、贈与と買い取りを組み合わせることもできますし、融資の必要額を圧縮することもできます。

融資額が減れば、承継後の返済負担軽減にも繋がります。さらに、配当や報酬の積み立ては、後継者本人が承継コストを当事者として捉えるきっかけにもなります。

即効性はありませんが、資金不足の根本解決に近い方法です。短期決着だけを狙わず、時間を味方につける発想が重要になります。 

3-4.会社による自社株買い(金庫株)を活用する

 会社による自社株買いは、株式の集約に役立つ実務的な手段です。中小企業庁は、株式や事業用資産の集約方法として後継者や会社による買取りが一般的としたうえで、自社株買いに関するみなし配当課税の特例を案内しています。

また、国税庁も、一定の要件のもとで、相続で取得した非上場株式を発行会社に譲渡した場合には、みなし配当課税ではなく譲渡所得として扱う特例制度があると示しています。

これは、後継者以外の相続人が会社へ株式を売却しやすくし、株式の分散を整理することを目的としています。自社株買いは、後継者本人が全部買えないときの受け皿として機能します。資金不足の解決策として、個人だけで抱え込まない発想が大切です。

 たとえば、相続後に兄弟姉妹へ株式が分散したケースが考えられます。このとき、会社が一定の条件のもとで自己株式を取得できれば、後継者以外の株主を整理しやすくなります。

後継者本人がすべての株式を買う資金がない場合でも、会社側が一部を引き受けることで、議決権の集中を進めやすくなります。ただし、会社に十分な資金余力が必要であり、税務上の取扱いや手続き面の要件についても確認が欠かせません。

自社株買いは便利ですが、万能ではありません。会社の財務体力と税務条件を見ながら使うべき手段と考えるのが妥当です。

3-5.MBOスキーム(PEファンドとの連携)

 後継者個人や会社だけで資金を賄いきれない場合、MBO(マネジメント・バイアウト)やPEファンドとの連携は有力な選択肢となります。中小企業庁は、事業承継を目的とするPEファンドの存在を明示し、ハンズオン支援を通じて企業価値向上を目指す枠組みを紹介しています。

また、中小企業基盤整備機構も、ファンド出資を通じて事業承継を支援し、投資会社が中小企業への資金調達の円滑化と踏み込んだ経営支援を行う仕組みを案内しています。つまり、外部資本は「会社を手放すだけ」の話ではなく、承継資金と成長支援を組み合わせる選択肢でもあります。

特に株価が高く、後継者単独では引き受けきれない場合に、現実的な手段になりやすいです。資金不足を一気に解消しつつ、承継後の成長も狙いたいなら、視野に入れる価値があります。

 たとえば、後継者が経営を担い続けたい一方で、株式取得資金を全額は出せないケースが考えられます。この場合、ファンドが株式取得資金の一部を支え、後継者と連携して経営改善や成長支援を進める形が想定されます。

中小企業基盤整備機構の案内でも、ファンドから投資を受ける際には経営計画・資金計画が求められ、審査を経て育成支援を受ける流れが示されています。裏を返せば、MBOは単に資金を調達する手段ではなく、将来の経営計画を説明できる会社に適した手法です。

経営の自由度とのバランスも見極める必要がありますが、資金不足に悩む後継者にとっては有力な解決策になり得ます。単独で無理な承継を目指すより、外部の力を使って守る選択も合理的といえるでしょう。 

4.事業承継税制の特例措置

ここからは、承継時の税負担を軽くする事業承継税制の特例措置について、解説します。 

4-1.特例措置の適用要件を整理する

 事業承継税制の特例措置は、自社株承継に伴う税負担を大きく軽減できる制度です。国税庁の案内では、一般措置と特例措置があり、特例措置では対象株式数の上限撤廃や納税猶予割合の100%への引上げなどが認められています。

中小企業庁の公表情報では、特例承継計画の提出期限は令和9年9月30日までとされています。つまり、使える制度であっても、事前計画の提出を含めた手続きを踏まなければ使えません。

税負担を軽くできる反面、準備が要る制度だと理解することが重要です。「必要になったら検討する」と後回しにしないことが、活用の第一条件になります。

 たとえば、後継者が先代から株式を贈与または相続で取得し、会社や後継者の要件を満たしたうえで、経営承継円滑化法の認定を受けて申告するケースが考えられます。

この制度では、後継者の死亡等により、猶予されている贈与税・相続税の納付が免除される仕組みも示されています。また、特例措置では、雇用維持要件を満たせなかった場合でも、直ちに猶予が打ち切られないよう見直しがされています。

したがって、制度自体は従来より使いやすくなっている面はありますが、要件確認を省けるわけではありません。制度のメリットだけでなく、手続と継続管理まで含めて検討することが必要です。活用するなら、税理士や認定支援機関と並走して準備を進めるのが安全でしょう。 

4-2.最大のリスクは「取消事由」

 事業承継税制で最も怖いのは、制度を使えないことより、適用後に要件を満たさなくなることです。中小企業庁の取消しに関する資料では、後継者とその同族関係者の議決権が総株主等議決権数の50%以下になった場合など、認定取消しにつながる事由が示されています。

さらに、国税庁は、継続届出書の提出がない場合には、猶予されている贈与税・相続税の全額に加え、利子税を納付する必要があると案内しています。

つまり、税制は申請して終わりではなく、継続的な管理が前提です。承継後の株式移動や書類提出を軽視すると、あとで大きな負担が戻ってくるおそれがあります。制度の入口より、使い続ける運用こそ重要だと考えるべきです。 

 たとえば、承継後に株を一部売却して議決権割合が下がったり、年次報告書や継続届出書の提出を失念したりするケースが想定されます。このようなミスは、日々の経営が忙しい会社ほど起きやすいものです。

しかも、取消しの影響は小さくなく、猶予されていた税額と利子税の納付につながる可能性があります。だからこそ、税制活用と同時に、株主構成の管理表や提出期限の管理体制も整えておく必要があります。制度を使う会社ほど、事務管理の仕組みが重要になります。「使えるかどうか」だけでなく、「継続して守り切れるかどうか」で判断することが重要です。 

4-3.使うべきケースと避けるべきケース

 事業承継税制の特例措置は、後継者に株式を集中的に承継したいが、承継時に大きな納税負担を負えない会社に適した制度です。とくに、自社株の評価額が高く、納税資金を現金で用意すると会社経営まで苦しくなる場合には、有力な選択肢です。

特例措置では、対象株式数の上限撤廃や100%猶予があるため、親族内承継の資金問題を大きく和らげる余地があります。一方で、将来的に株式の売却可能性が高い、株主構成が安定しない、継続的な書類管理に不安がある会社では慎重に考えるべきです。

制度は強力である反面、経営の自由度を下げる側面もあります。使うかどうかは、節税効果の大きさだけで決めないことが大切です。 

 たとえば、後継者が明確で、先代も承継に協力的で、今後しばらく株式を安定保有する予定の会社なら、特例措置は使いやすいでしょう。反対に、数年以内に第三者承継やファンド活用の可能性が高い会社では、後の柔軟性をどのように確保するかまで考える必要があります。

中小企業庁は、将来の売却や廃業の際に株価下落を基に再計算できる仕組みも案内していますが、それでも継続管理の負担がなくなるわけではありません。

制度の活用自体が目的ではなく、承継後の経営を安定させることが本来の目的です。その目的に合うなら使うべきですし、合わないなら別の方法を選ぶ判断も正しいです。自社株承継では、制度の強さより、自社との相性を基準に意思決定を行うことが重要です。 

まとめ

 自社株3億円、貯蓄2,000万円という状況でも、会社を継ぐ道が完全に閉ざされるわけではありません。重要なのは、贈与、買い取り、相続、制度融資、公庫融資、自己株式取得、ファンド活用、事業承継税制を別々に見るのではなく、組み合わせて設計することです。

官公庁の資料を見ても、事業承継は株式取得資金、納税資金、承継後の投資資金まで含めた総合的な取り組みが必要なテーマだと整理されています。

だからこそ、「お金がないから無理」ではなく、「どの資金を、どの制度で、いつ用意するか」に問いを変えるべきです。先代が元気なうちに動き出せば、選択できる手段は確実に増えます。自社に合う承継ルートを早めに描くことが、後継者の不安を最も小さくする近道になるでしょう。

ファーストパートナーズ・グループでは、お客様の状況に応じて、ニーズに寄り添ったさまざまなサービスのご提案を行っております。

※ご相談は無料で承っておりますが、その内容により、個別の商品・銘柄・売買の方法・時期等に言及する場合があります。

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長竹 祐樹

大学卒業後、新卒で銀行へ入行。支店業務(担当地域の個人・法人のお客様へ資産運用や融資の提案を主に実施)を経験後、本部へ異動し富裕層や相続・事業承継業務及び支店管理、提携先との連携や折衝を経験。頭取表彰や本部長表彰等受賞。銀行の求めるものとお客様の求めるものとのずれを感じ、株式会社ファーストパートナーズへ転職。現在は幅広いサービスや金融商品をお客様に案内できる環境にあり、お客様のニーズから真に求めるものを提案できるよう日々行動している。

保有資格:証券外務員一種、内部管理責任者、生命保険協会認定保険募集人、FP二級技能検定資格

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